第15話 断罪の舞台と予期せぬ「弁護」 -2
「国王陛下!どうか、アメリア様をお許しください!」
その声に、謁見の間中の視線が一斉に、前に進み出た少女に向けられた。柔らかな栗色の髪、優しげな緑の瞳。そこに立っていたのは、アメリアが育成したはずのヒロイン、リリアナ・エヴァンスだった。
(リリアナ!?な、なんで貴女がここに!?
まさか、私を貶めるために出てきたの!?
いや、それがゲームのシナリオだったけど、もうそんな展開じゃないはずなのに!)
アメリアは内心でパニックに陥った。まさか、ヒロインまでが断罪の場に現れるとは想定外だ。
国王が怪訝な顔でリリアナを見つめる。
「リリアナ嬢。貴様はあの悪行を知らぬのか?
貴様も、オルテンシア公爵令嬢に操られているとでもいうのか!?」
リリアナは国王の言葉に、毅然とした態度で首を横に振った。その瞳には、アメリアへの純粋な敬愛が宿っている。
「いいえ!アメリア様は、私に多くの試練を与え、私を強くしてくださいました!
あれは、私を成長させるための愛だったのです!
アメリア様は、私にとって、最高の先生であり、人生の師です!」
リリアナの言葉が、謁見の間に響き渡る。貴族たちはどよめき、国王は驚きに目を見開いた。
(リリアナ……!まさか私を庇うなんて!
嘘でしょ!?ゲームでは私を断罪する側だったじゃない!
何で私を擁護してるの!?
私の善意が、”愛ある試練”として伝わってる!?
ちょっと嬉しいけど、これで処刑ルートから遠ざかるじゃないのぉぉお!)
アメリアは顔面蒼白になりながらも、内心で絶叫した。ヒロインの言葉は、確かに彼女の善意の結果だ。しかし、それが今、アメリアを処刑から遠ざけ、悪役令嬢としての地位を盤石にする方向に作用している。
(でも、その愛は……私の処刑を遠ざける愛じゃない!?
いや、処刑回避はいいことだけど、こんな形で!?
私のイメージが「愛のムチでヒロインを育てる冷徹な悪役令嬢」に固定されちゃうじゃない!やめてぇ!)
アメリアの希望は、粉々に打ち砕かれようとしていた。
リリアナの後ろに控えていたメアリーが、静かに前に進み出た。彼女の瞳は一点の曇りもなくアメリアを見つめており、その表情には揺るぎない忠誠が宿っている。
「陛下。アメリア様は、この国の腐敗を憎んでおられました。
民が苦しむ姿を、決して看過なさいませんでした」
メアリーの言葉に、謁見の間が再び静まり返る。アメリアは、メアリーが何を言うのか、恐怖と好奇心がない交ぜになって見守っていた。
「全ては、この国をアメリア様の理想郷にするため。
そのためならば、どんな汚れ仕事も厭わぬと。貧民を鍛え上げ、市場を掌握し、不正貴族を排除なされたのは、腐敗を一掃し、殿下を真の王とするための…
…深遠なる御心でございます!」
(メアリー!私がそんなこと言った!?
言ってないし、そもそもそんな思想ないわよ!
理想郷とか深遠なる御心とか、勝手に壮大な悪役設定付け加えないでぇぇぇええええ!)
アメリアは内心で悲鳴を上げた。メアリーの言葉は、アメリアの善行を完璧に「悪役としての策略」へと変換している。国王は、メアリーの言葉に驚きを隠せない。
「なんと……そこまで見据えていたと……」
メアリーは、アメリアに一瞥をくれた。その琥珀色の瞳の奥に、微かな満足の色が浮かんでいるようにも見えた。
「アメリア様は、全てを操る真の悪役……それが、私の主。
このメアリー、アメリア様の御為ならば、この命、喜んで捧げましょう」
(真の悪役って言われてるし!
私、そんなつもりじゃないし!
ていうか、メアリー、私を擁護するつもりでさらに悪役度を上げてるじゃない!
いや、忠誠心は嬉しいんだけど、状況がぁぁあああ!)
アメリアは絶句した。もう誰も、彼女の真意を理解していない。目の前で繰り広げられる「弁護」は、アメリアを処刑から遠ざけるどころか、悪役令嬢としての地位を確固たるものにしていた。
メアリーの証言に続き、第一師団長アーサー・ペンドラゴンが威厳を持って前に進み出た。彼の金髪が、王宮の燭台の光を反射し、まるで輝く英雄のようだった。
「陛下!アメリア様の行いは、この国の腐敗を一掃する正義の剣でした!」
アーサーの声は、謁見の間に響き渡り、貴族たちの心を揺さぶった。
(アーサーまで!?
あなたもゲームでは私を断罪する側だったじゃない!
なんで私の”悪行”を”正義の剣”とか言ってるのよぉぉおお!)
アメリアは、もはや混乱の極みにあった。
「貧民を鍛え上げたのは、外敵から国を守るため。
市場を掌握し、経済を安定させたのは、飢えから民を救うため。
貴族を裁いたのは、国の秩序を保つため!
これこそ、真の王が取るべき道でございます!」
(アーサー!私、そんな大義名分でやってないから!
全部、処刑されないために善行しただけだから!
なんでこんなにも勝手に話が壮大になってるの!?
私の平穏な死を邪魔しないでぇぇええ!)
アメリアは、内心で激しく叫んだ。国王は、アーサーの熱弁に深く頷いている。
「そうであったか……我らが見誤っていたのか……」
国王の言葉に、アメリアは絶望した。もう、国王までもが完全に誤解している。
「彼女こそが、この国に必要な、冷徹なる英雄なのです!
陛下!どうか、アメリア様に正当な評価を!」
(冷徹なる英雄!?英雄って言われるのは嬉しいけど、冷徹じゃないし!
なんで私の行動が全部「冷徹」って形容されるのよ!
私の人生、完全に狂ってるぅぅうう!)
アーサーの歪んだ忠誠心は、アメリアの悪役としての評価を、公の場で「国を救う英雄」という矛盾した形で拡大させていくのだった。アメリアは、もはや自分の置かれた状況が理解できなかった。
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