41.傘
私には、後輩がいる。
文芸部に所属してから早くも三年が経過したが、彼は私にとって初めての後輩だった。
私の背が低いのもあるが、彼の背が高いせいで、よく私の方が後輩と間違われることがある。誠に遺憾である。
その体格に似合わず、彼はひどく内気な男の子だった。慣れない会話を続けること三か月。今では、なんとか普通に話せる程度にはなった。
だが、作品の評価を求めると、今でもその内気さが顔を出す。
改善点はないかと何度も聞くのだが、返ってくるのは「そんなものは無い」という言葉ばかりだ。
創作に関わる者として、改善点を示してもらえることほど助かるものはない。それがないとなると、不安になる。
たまに壊れた機械かのように、良いところだけをいくつも挙げてくれる日がある。作品を認めてもらえるのは嬉しいが、やはり改善点がないと落ち着かない。
本当に困った後輩である。
……なに? 頬が緩んでいる? そんなわけがないだろう。
ある日、授業を終え、部活もなかった私は、早く帰って小説を書こうと帰り支度をしていた。
靴を履き、校舎を出た瞬間、目の前に広がっていたのは土砂降りの雨だった。
さて、どうするものか。顎に手を当て、ひとり考える。
防水機能など期待できないカバンの中には、一週間前から書き始めた原稿用紙が何枚も入っている。
……なに? パソコンで書けばバックアップが取れる?
紙に書いた方が、かっこいいだろう。
そうやって考え込んでいると、背後から声がした。
「先輩?」
振り返ると、後輩君が立っていた。
ちょうどいい。後輩君、傘を貸してくれないか?
「傘ですか? 一応ありますけど……一本しかないので、一緒に入ることになりますが、大丈夫ですか?」
大丈夫だ、問題ない。相合傘を気にするとは、まだまだ子供だな。
じゃあ、行こうか。
「はい」
そして、私たちは並んで歩き出した。
しばらくして、ふと横を見る。
後輩君の方が明らかに濡れているではないか。もう少し寄ったらどうだ?
「そうしたら、先輩の大事な原稿が濡れてしまいます」
それで後輩君が風邪を引いてしまったら、申し訳ないのだが。
「いいえ、ダメです。先輩の作品を読むの、結構楽しみにしてるんですよ? 原稿を濡らしてしまったら、それこそ体調を崩してしまいます」
彼にしては珍しく覇気のある言葉だった。
私は一瞬目を見開いたが、すぐに分かったと返事をし、前を向く。
……顔が赤い?
気のせいだろう。
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