31.旅館
今回は、初の百合作品に挑戦してみました
私には、一人の親友がいる。
彼女と出会ったのは、小学生の頃だった。
あの頃の私は、典型的な根暗オタクだった。
同級生とは趣味が合わず、たまに話が合っても、私の陰気さが邪魔をして会話が続かない。
そのせいで、クラスの中で浮いていた。
そんなある日、一人の転校生がやってきた。
それが、のちに親友となる少女だった。
担任に連れられて教室に入ってきた彼女は、人懐っこい笑顔を浮かべながら自己紹介をした。
名前は△△。趣味は読書とアニメ鑑賞。
「アニメ好きなんだ」
「どんなの見るの?」
クラスの皆が興味津々で質問を浴びせる中、私は心の中で思った。
――どうせ人気作しか知らないんだろう。すぐに陽キャグループに入って、私のことなんて眼中にもないはず。
ところが、昼休み。
一人で教室の隅でライトノベルを読んでいた私のもとに、△△がやってきた。
「ねえ、それ『魔導士レイラの冒険』でしょ? 私も読んでるの!」
彼女の瞳は、本気で輝いていた。
「三巻のラスト、泣いちゃったよね。レイラが師匠と別れるところ」
思わず顔を上げた。
この作品はマイナーだ。まさか、この明るい転校生が読んでいるなんて。
「う、うん……あそこは本当に……」
「だよね! 四巻は読んだ? 新キャラのアルフレッドがさぁ!」
気づけば、私たちは夢中で語り合っていた。
周囲の視線なんて、どうでもよかった。
△△は誰にどう思われても気にしない。そんな子だった。
「ねえ、放課後いっしょに帰らない? 駅前の本屋、行ってみたいんだ!」
そう言って笑う彼女に、私は初めて“友達”という存在を感じた。
月日は流れ、私たちは大学生になった。
△△は相変わらず明るく、誰とでも仲良くなれる。
私は多少社交的になったけれど、やっぱり根暗なオタク気質は抜けない。
それでも、△△がいてくれれば十分だった。
……ただ、一つだけ、変わってしまったことがある。
いつからか、私は△△を“親友”ではなく、“好きな人”として見ていた。
彼女の笑顔を見るたびに胸が苦しくなり、誰かと楽しそうに話す姿を見ると、心がざわついた。
でも、この気持ちを伝えたら、きっと壊れてしまう。
だから、黙っていた。
ある休日。
商店街で買い物をしていた私たちは、ガラポン抽選会の前で足を止めた。
「見て見て! ガラポンやってる!」
△△が指を差す。
勧められるまま、私はハンドルを回した。
カラカラカラ……コトン。
出てきたのは――金色。
「一等です! おめでとうございます!」
景品は、一泊二日のペア旅行券。
行き先を見た瞬間、私たちは同時に息をのんだ。
そこは、今まさに二人でハマっているアニメの聖地だった。
「行こう! 絶対行こう!」
彼女の瞳は、あの頃と同じように輝いていた。
フェリーの甲板。
海風に吹かれて、△△の金髪が夕陽に透けて揺れる。
私は、ただその横顔を見つめていた。
「ねえ、写真撮ろ!」
「え、あ、うん」
「ほら、一緒に!」
彼女がスマホを掲げて、肩が触れる。
柔らかな感触と、シャンプーの甘い香り。
心臓がうるさい。
「はい、チーズ!」
シャッター音が、潮風に溶けていく。
聖地巡礼の後、私たちは旅館に泊まった。
木造の古い建物。
温泉は貸切で、湯気の中に月光が差し込んでいた。
部屋に戻ると、△△が冷蔵庫から小瓶を取り出した。
「たまには、いいよね」
普段飲まないお酒を少しずつ口にして、彼女の頬が赤く染まっていく。
その時、私は決意した。
「△△」
「ん?」
「私、ずっと……あなたのことが好きだった。親友としてじゃなくて」
沈黙。
そして、彼女の目から涙がこぼれた。
「ご、ごめん……忘れて――」
「バカ……」
△△が震える声で言った。
「なんで今まで言ってくれなかったの……」
「え……?」
「私も……ずっと、○○のことが好きだった……」
涙が止まらない。
彼女は泣きながら笑った。
「私、転校する前、ずっと孤独だったの。明るくしてたけど、誰とも本音で話せなかった。でも、あなたと出会って、初めて“無理しなくていい”って思えたの」
その言葉に、胸の奥が温かく満たされていく。
「よかった……よかった……」
声にならない声で呟いた。
△△が、そっと私を抱きしめる。彼女の手が、私の髪を優しく撫でた。
お互いの涙が乾いたころ、目と目が合う。
「△△……」
「うん……」
ゆっくりと、顔が近づいていく。
障子に映る二つの影。
それはまるでルビンの壺のように、向かい合う横顔が一つの形を作り出していた。
壺の形が細くなり――
月明かりが、静かに障子を照らしていた。
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