29.ネックレス
僕は、小さい頃、今よりも少し田舎に住んでいた。
山や川で遊んだり、バスに揺られて街へ出かけたり――そんな日々のそばには、いつも一人の男の子がいた。
彼は僕よりも明るくて、運動神経も良かった。僕が勝てるのは勉強くらいで、よく夏休みの課題を手伝ってあげていた。
毎日が、本当に楽しかった。けれど、その日々は突然終わってしまう。
彼の親の転勤で、遠くへ引っ越してしまったのだ。
別れの日、彼は小さな箱を僕に差し出した。
「開けてみて」
中には、銀色に輝くネックレスが入っていた。街に出かけたとき、雑貨屋のショーウィンドウ越しに僕が「かっこいいな」とつぶやいた、あのネックレスだ。
「お揃いだ!」
そう言って、彼は自分の首元を指差した。シャツの上で、同じネックレスが揺れている。
視界が滲む。それでも、僕は精一杯の笑顔を浮かべた。
「ありがとう。ずっと大切にするよ」
それから何年かが経ち、僕は大学生になった。
進学先を決めるとき、ほんの少しだけ、彼にまた会えるかもしれないという期待が胸の奥にあった。だから、昔よく一緒に遊んでいた街にある大学を選んだ。
ネックレスは今も肌身離さず身につけている。高校までは校則があって学校ではつけられなかったけれど、休日はいつも首にかけていた。大学に入った今では、毎日でも身につけられる。
初めての授業の日。
教室に入ると、窓際の席に綺麗な女の子が座っていた。どこか懐かしい雰囲気を感じる。理由は分からないのに、気づけば彼女の近くの席に座っていた。
鞄を下ろした僕に、彼女が声をかけてくる。
「同じ学部の人か? よろしくな!」
外見の可愛らしさとは裏腹に、男勝りな口調。その明るい笑顔に、思わず頬が緩んだ。
「うん、よろしく」
そのとき、彼女の視線が僕の首元で止まった。
「それ……」
彼女が僕のネックレスを指差す。
「懐かしいな、それ」
声がわずかに震えていた。そして、ゆっくりと語り出す――田舎で過ごした幼い日々のこと。いつも一緒に遊んでいた友達のこと。引っ越す前に、お揃いのネックレスを渡したこと。
それは、僕の記憶とまったく同じだった。
心臓が早鐘を打つ。まさか、と思いながらも、僕は恐る恐る尋ねる。
「もしかして……△△、か?」
彼女の目が大きく見開かれ、驚きが困惑へ、そして確信へと変わっていく。
「本当に……○○なのか?」
彼女の声は、今にも泣き出しそうだった。
その瞬間、僕は気づく。彼女のシャツの上で、銀色のネックレスが揺れている。
あの日、あの子とお揃いでつけたネックレスだ。
僕たちは、ずっと同じものを身につけていたのだ。
彼女の目に涙が浮かぶ。僕は少しおかしくなって、ふっと笑った。
「いつの間にか、お前の方が泣き虫になってたな」
△△は涙を拭おうともせず、涙混じりの笑みを浮かべながら言った。
「うるせえ」
昔と変わらないその口調に、僕は笑みをさらに深くしたのだった。
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