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アレックスは道々、手にした魔法の短剣を眺めた。
薄く長く輝く刃は水銀の塗り込められた美しいもので、これは武器としてではなく風を切るためのもの。
この「エアーナイフ」で空中に切った徴はその場に魔力を持って留まり呪文の訴えを天地の間に満ちた霊に届きやすくするという。
つまりこれはペンなのだ。
風の精シルクが何か用があって願いを込めるさまは池や水たまりによく映っている、風の静かな時に、彼らが飛び回るのを控えている時に水面をよく見てみるがいい、スッ、スッ、と、常に何かがそこを切りつけているから。
大地にも百万年も掛けて描かれた紋が地下に幾つも走っているという。
大地のそれは巨大で、人間にはとても見えない程だ。
山師はその線のことを知っているし、跨ぎ踏み越えるとそれを感じるという。
世界のどこもかしこも何かを書いてあるので、それを読む人は知らぬことがない。
だから世間に石と皮と紐ぐらいしか無かった頃から、賢い人は賢かったのだ。
アレックスは風に湿り気を感じながら山の勾配が少しづつ足に重みを加えるのを味わっていた、峰はまだ遠くにあり、麓も近くはないが、山の気配は足から少しづつ少しづつ身に感じて来る。
また水も風もそこのところは正直に伝えて来る、何処にも同じ顔をした自然はない。
冷たく冷えた風が湿り気を帯びて吹き下ろしてくる時、辺りの植生もまたそれに準じたものであるのを見るだろう、そこへ這い忍ぶ虫も虫を食う鳥もそれによって違う。
それらの行動が見せる、草原や林や森に息づく心も違う。
古い時代の人間や、今でもまじないを売り歩く人々が心得ているもの、石畳の道が延びるごとに高みや淵に隠れてしまったもの。
短剣はその代わりだ。
数百年前に魔法のための言葉を教わった人も、その影が薄らぎ、今では遠くなった。




