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皆さん、2022年の父の日をいかがお過ごしでしたでしょうか、作文太郎ダイレクト2022.6.20をご報告させて頂きます。



さて、長らく皆様にお待ち頂いている作文太郎作品ですが、現在のスケジュールではご満足頂けるクオリティに達するのは難しいと判断せざるを得ず、残念ながら今人類史中の発表は延期という予定の変更をご報告させて頂かなければなりません。


まことに申し訳ございません。



新しい発表予定日は、98765432123年4月5日6時7分8秒9となっております、来太陽系史中の完成を目指し、鋭意制作中です。



これまでにない最高の完成度を持った究極の作文太郎作品を目指し、全力で頑張って行きます。




では最後に、現在制作中のラインナップについて、わずかですがご報告させて頂きます。


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★『デンタル革命新作(タイトル未定)』

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『帝星歴4295年の夏、我々ガダノソア艦隊は「ウエギニヨンの環」宙域でアッダイ艦隊との交戦中だった、相手はナクトフ連邦の毒蛇である、ただの偶発的戦闘のはずがなかった…』





ひとかたまりとなったレムダリアス帝国のガダノソア艦隊は、被害の大きい艦艇を外に配した密集隊形を取り、相互に強化したシールドで敵艦隊からの苛烈な砲撃に耐えながら必死の反撃を続けていた、中心にあるのは重戦闘艦イノセラムス。そしてもう一隻の重戦闘艦バナクティンは、攻撃を分散させるために強化フィールドの外縁を飛び回って群がる小型無人戦闘機を処理している。




「艦長、本艦に随行中の僚艦の半数が大破しています、ほぼ慣性飛行で付いて来ていますが無事な艦も退避した乗員に圧迫されて艦の機能に障害が出ています、バナクティンも主動力機関周辺でシステムエラーが頻発し始めました、いつ停止してもおかしくありません」


イノセラムスの副艦長ビラード英士官が傍らから報告するが、艦長席に座ったバルトス英士将は腕組みをしたまま自身の戦術コンソールを眺め、心の裡で何かを計っていた。


『右舷長距離砲艦、トランター轟沈!後方のライクリルも主機被弾により後125秒で戦闘不能となります!』

『マクマター英士将が前部戦闘指揮所被弾により死亡しました!重駆逐艦ヴァリス、カルバリー英士官が艦長の任を引き継ぎます!』

『後方より陽子線放射、14秒後に直撃を受けます!対線障壁出力が最大22%低下します!』


戦闘指揮所の艦長席の周囲270度の範囲を取り巻いている前方下段の管制デッキから、艦内通信越しに脳波出力された報告が上げられてくる、艦長席周囲のスピーカーはひっきりなしに悲鳴に似た声を上げた。遥か前方にアッダイの中核戦力、後方には大型機動砲台。アッダイの艦隊は膨大な数の艦が旗艦を中心に当方の前方で面状に展開、重力子線パルスによる広域の網を張り、超光速航法で突破しようとすれば質量断層にぶち当たって卵のように砕ける事になる壁を形成している、横へ逃げても囲まれての一斉射撃、前方への突破しか道は無いように出来ている。大型機動砲台の方は、無数の無人攻撃機をこちらと衝突しかねないような距離で周囲に無数に飛ばし、多勢に無勢で蜜集するしかなくなった味方を家畜の群れのように追い立ててくる。単純極まるが何隻もの戦艦が沈められて「デモンズウォール」と名付けられた敵方の力づくの戦法によって殲滅されかかっているという状況である。


「艦長、計算しましたが、側方へ向けた転進も不可能です、無人と化した艦を先頭に密集隊形で前方の敵を突破しましょう、ワープに移行する隙が生まれるかも知れません」


艦長席の傍らに立つ副長は目を覆う透明なバイザーの下、腹を括った顔でそう言うと口を真一文字に結んだ、補佐官は沈着だ。


「いいや、あれを討ち取るには今乗り込むしか無い。ビラード、予定通りだよ」


バルトスは画面を見たままそう言い、副長と同じくバイザー型の脳波デバイス越しに戦局の情報を素早く読み込んでいた。更に机の上のにモニターには、相当の動体視力が無ければ文字を視認するのも難しい速度でデータがスクロールし続けている。


「…でしょうな、何故あなたの艦にはいつも都合よく航宙軍からでなく占領軍の陸上部隊から新たな兵員が集まるのか、その辺りは不思議ですが。銃のバッテリーを総点検させておいて良かった」

「分かっているじゃないか、君もユゴス戦線が初陣だったな」

「ええ。私もヴォレリアス英士将の部下でした、今では将議官になられて、各地の占領政策を統括していらっしゃいますね」

「うん。よく一緒に釣りをしたよ」


二人は同時に手を伸ばして机の上の碗を手にし、茶を一口飲んだ。

一時的に慣性制御の精緻化に回すエネルギーを節約した艦が「微動」し大きく揺れた。


「私の元で働いてニ年になるな、君は優秀だ、振り落とされるなよ?」

バルトスはモニターに集中したままだ、複数の小さなウインドゥが開いては管制デッキから詳細な報告が表示される、それらは一瞬で読了され、脳波コントロールで閉じられていった。

「まあ…転属願いはいつも胸の中にありますがね」

ビラードもバイザー越しに艦内各所への指示を補足している、二人は同時に三つ以上のタスクをこなし続けている状態にあった。

「それは午後には燃えて君の中から無くなってるさ、私はいつもそうして来た」

「昨晩急遽編成された艦隊の司令とは思えませんな、我々は今全滅しかかっていますよ?」

しかしバルトスは頬を緩ませてみせた。

「勝算がある限りはそうとは言えないな」

ビラードが嘆息しながら指摘する。

「…対線障壁出力46%です、次のスペクトル飽和照射を防ぐのが限界でしょう」

「このプランで行くつもりだ」

バルトスはこめかみをつついて見せた、ビラードが艦長とバイザーを直接リンクさせると、作戦イメージが脳裏にどっと流れ込む、呆れ顔が浮かんだ。

「本当にぎりぎりの所で勝機を掴むおつもりですか?」

「こうでなくては無理だ」


その時、それと分かるよう調整された無機質な合成音声がスピーカーから響いた。

『警告!敵艦隊が重力子線フィールドを解きました、二十秒以内に密集隊形での攻撃態勢に移行する確率が88%です』

この警告はデモンズウォールの最終段階を告げるものだ、既に断頭台の階段を登っているに等しい。


ビラードの両の眉がハの字に持ち上がった、諦めたような楽しんでいるような声を出す。

「そのようで。では、艦隊に指示を」


「ああ。ナンバー・ワン」

こいつは楽しいやつだ。バルトスは親しげにそう呼び、立ち上がった。






アッダイ艦隊旗艦・オムファロス艦橋では、ナクトフ艦隊上級提督、シェブルム・ヤ・ポルポスが戦闘指揮を執っていた、通常これは上級技術佐官以下の将校たちの仕事だが、繊細な作戦行動を遂行しようとしていた矢先に突如闖入して来た忌々しい敵が先ごろ完成したばかりの新型艦をあっさり撃沈した当の相手では自ら対処せざるを得ないのだ。


情報が漏れたとは考えにくい、「客人」はそもそも私の手助けが無ければこちらに干渉出来ない上、その方法を知る者は極めて限られる、彼らは職業上、自我を弱められた個体だ…全て彼が意識下で常時監視している。


シェブルムは過去の戦役でレムダリアス帝国によって壊滅させられた辺境惑星の出身だった、イガル四号星第十六コロニー…。



自らの脳に独立して稼動する監査ユニットを組み込んでおり、この装置は何らかの心理的バイアスに騙される事を抑圧すると同時に、思考判断の自然さを損なわせる。


彼は本当に自らの全てを差し出していた。


そして掴んだ信任によって初めて人が触れる事となった、データによる世界認識のこれまでにない深度で、客人たちが示していた一つの伝言を読み取ったのだ。それは実存する生体にしか読めない形になっていた。


彼らはそのようにしつらえた障壁で、未熟な種族から隠したのだ。


我々独自の長い時間をかけた大計のしめくくりももう始まる、このような些事は早々に片づけたい。



「敵艦は先頭の艦を犠牲にしてシールドを体当たりで弱め、本艦の至近距離を掠めて逃げる作戦のようです」

「行かせてやれ。艦尾陽子線砲、最大チャージ」


この艦は秘密が多い、主砲の最大出力もこのおれの手で向こうの想定を超える強化をしてある…。


シェブルムの脳内で艦体管制中枢が動力機関の電磁的唸りを聞いた。


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98765432123年4月5日6時7分8秒9公開予定






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★『まぐまぐメタルダー』

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百年の闇の中にある時、機械音声が響いた。


「フセイ アクセス カンチ… フセイ アクセス カンチ…」

「システムコア ニ タイスル コウドナ アプローチ ヲ ケンチ シマシタ キンキュウ プロトコル ヲ ハツドウシマス」


………………


「セレネー システム ヨリ ディアナ システム オウトウ シテクダサイ」


………………………………


「アルファ ワン システム カンリシャ ノ DNA ヲ ヨウキュウ」


「リターン… カイジョ コード ニュウリョク サレマシタ」


「ドウイツ ノ システム ガ スデニ ドウサチュウ…」


………………


「」


………………………………


「セレネー システム デリート カンリョウ」


………………………………………………………………


「アルファ ワン デ ハイバネート ヲ カイシ シマス」


………………………………………………………………………………………………………………………………


「ハカセ オキテクダサイ ハカセ…」





ガラガラと音がし、落ちてきた穴の中で人影がふらふらと立ち上がった。


同じくらいの大きさの人影がいくつも転がっている、全員首から下を灰色の高分子膜で覆っていてぴくりとも動かず、立ち上がったのはその中の一体だった。


巨大な建物の鉄の天井が遥かな高さにあってそれに何かが突き破った穴が開き、光が差して、床の更に穿たれた陥没の底が抜けて穴に繋がっていた。


人影は穴の底、金属製の瓦礫の床をしばらく無言で歩きまわっていた。



『空から何か降ってきた…隕石だ!!』

『工場に穴が空いてる!!』


『おおい…おーい、助けてくれえっ、瓦礫に潰される…わしは経営者なんだぞ…』



上から人々のかすかな声がしていた、人影は立ち止まってそれを聞いてから声を発し始めた。


「キュウジョヲ…ジコガハッセイシマシタ…タスケテクダサイ…」


大声ではなかった、弱った声だ。


「ダレカ…」


ふらついたまま奥を向いて、そこに割れ砕けた何かの残骸である金属板が積み重なり岩屋状になった隙間に大きな人型機械が座っているのを発見すると、そちらに向かう。


壁にもたれて片ひざを立てているそれの全体を眺め、そばに寄って這い上がる、胴体前面には扉があったようだが破壊されていた、中には当然誰も居ない。


しばらく、操縦席だろうその中を探っていた、そこはすすけていた。




『ダレカ…コタエテクダサイ…タスケテ…』


操作を感知して起動したシステムはカメラアイに話しかける誰かが居るのを捉えた、子供のような何かが無表情のまま助けを求めていた。


「ん?私は…そうか。また…」


科学者は自己認識が再開した事に気付くと通信状況を確認した、何らかの信号は飛び交っているが外部のネットワークを検出できない、通信方式に基本的変化があったようだ。


ワールドシステムとの結節点すら活動停止状態にあるのだろうか?


独自のものを起動させるべきなのか、情報が要る。



瞬時にその判断保留と機体の自己診断の起動を済ませて、前腕を動かし人型の何かの体を支えた。


「君は?」


内部スピーカーの発音機構は熱に耐えて生き残っていた、今はこの何者かの正体を知らねばならない、センサーを起動して走査をかけていく、磁力によって「何で出来ているのか」も詳しく把握できるだろう。


人の声による応答を聞いたそれは、自分が何者かを答えた。


「ワタシハセイヒンメイショウEH-T600-x100、ナタカマコウギョウショユウノイッパンカコウサギョウヨウドローン、A-3745バンキデス。サギョウチュウ、ゲンインフメイノバクハツニヨリヒライタトオモワレルカンボツニノミコマレマシタ、ゲンバノヒトビトノキュウジョヲヨウセイシマス」


産業用アンドロイドであるらしいそれは軽量に作られていた、材質はほぼ全て有機質、いい気はしないが…。


『これはネクスト・セル?柔らかい…もしこれが完成されたネオボディなら…』


心中でその様な思いが駆け巡った。


「そうか、わかった。君自身は壊れてはいないか?」

「ホンキノキノウニジュウダイナハソンハアリマセン。ジュウギョウインノアンピカクニントキュウジョヲユウセンシテクダサイ」


センサーは子供に見える彼の目が真赤に充血し、右手の骨がへし折られているのを捉えていた、全身を強打しているのは確実だ。


「ここが崩れると良くない、その座席に座りなさい、そして構わなければもっと詳しく君について説明して欲しい」

「リョウカイシマシタ、キギョウジョウホウホゴホウニテイショクシナイハンイデオコタエシマス」


アンドロイドEH-T600-x100が乗り込もうとする操縦席の中には、灰に埋もれたヘルメットが一つ転がっていた。


「その…ヘルメットを被っていなさい」

「リョウカイ、オココロヅカイカンシャシマス」


左手で持ち上げたヘルメットの中には崩れた髑髏のかけらがあり、その中には金属球もいくつかあった、下にはバイザーが落ちていた。


「コノゴイハイニツイテ、ドノヨウニスレバヨロシイデスカ?」

「この機体も事故によって埋もれたものだ、灰は後で回収し埋葬する、その遺品…バイザーもかけておくんだ」

「リョウカイシマシタ」


地上ではまた何か騒ぎが起きつつあった、機体の鋭敏なセンサーはそれを捉えていた、ほとんどの人間が退避させられており瓦礫に挟まれた人々も怪力アンドロイドを駆使して迅速に救助されている。


EH-T600-x100は自らについていくらか話した、だがそれは企業がセールスに回る社員に持たせるカタログの仕様書書きのようなもので、決して「彼自身」についてのものではない、センサーによる走査は遥かに赤裸々にその技術の実態を暴いていた、よくある事だが「カタログスペック」にはない事実が無数に。


そうしている内に機体のシステムチェックも終わりヘルメットを通じて走査を続けていると重大な損傷が内部に見られた、脳内に出血が広がりつつある。


EH-T600-x100・「アース・ヒューマノイド、ティターン600番台」…。「地球人」であるその「汎用人造人間」は、まだ思春期前の少年のように見えた。成長を停止させ、精神的には小さな「完成期」にあって安定した年齢…、大人にとって賢く従順になる年頃に留めているらしい。肉体的に特に強化はされておらず非力にさせておけば反乱を起こさないという設計者の意図も見える。


彼らが人間ではないという言い訳は自分の時代にはまだ研究の初期段階にあった「ニアDNA」を遺伝物質としている事による、「ロボット」の語源である大昔の小説同然の技術的成果をついに手にしたらしい。


このような完成度に達していれば人格の移植にはうってつけだろう。


『だが…そのような考えを持つには人間らし過ぎる』


Dr.ハクインの心は曇った。人は、明らかに愛の対象としない子供を生み出している。人が機械を超えて「人造人間」を生み出したがった狂気はいつも、同じ人間であるものへの、自身と根本的には同じ心への支配欲だ。


大破状態にあった機体、マグナスは重要部分の自己修復を終えて眠りに就いていた、コンピュータシステムに意識を途絶させる程の損傷が生じた後も機体修復のナノマシンに司令を与える下位システムが生きていたからだ、メインコンピュータがクラッシュしたぐらいでそのまま再起不能にならない設計だった。


『お陰で私は生き延びたのだ…』


座席では少年がぐったりと座席に体を沈み込ませていた、マニピュレイターを起動してシートベルトで固定し、状態をモニターしながら、細いコードが先端をその皮膚に潜り込ませて血管内に止血用ナノマシンを放出していく。まだ解析は進んでおらず効果があるのか分からない、高度な医療処置が可能な機能が搭載されているが、人間でないものの治療は未知だった。


機体表面から発光する偽装に身を包んで、マグナスはジェット機関で空中に飛び上がって大空に溶け込み、人の目しか届いていないであろう低空を都市の外へと飛んだ。


上空から見ると偶然落下した隕石が大規模な工場の敷地に穴を空け、地下に埋もれていた残骸の作っていた空洞を崩落させたのだと分かった、元々荒地だった場所なので地価が安く工業地帯が広がる場所になっている。


『あの「サイクロップ・ディザスター」の後ではな…』


地表はまだまだ荒れている。


しかも逃れられる所などありそうもない事は実証済だ。








数週間後、森の中のログハウスでEH-T600-x100は目を覚ました。


「やあ、おはよう」


ベッドに寝かされていて目の前に白衣の老人が立っている。


「長いことほっとくと株価というものはどうしようもなく上がっているものだ、山が買えてしまった。どうかな気分は?」


EH-T600-x100はどうしようもない何かの感覚が突き上げるのを感じ、不随意に体が動くのを体験した、息が大きく吸われ、全身が伸びあがり、硬直する。とても気持ちいい。


彼は生まれて初めて欠伸というものを体験した。


「まだ眠いかな?」


「いいえ…」


柔らかな感触と、「いい気もち」がした、これまでずっと閉じ込められていた、そんな感じがしている。


「そうかね…。わしは少々君のシステムに手を加えた、君は隕石に直撃されて粉々に分解したと見なされ、工場の登録番号は破棄されている、あの事故では経営者が瓦礫に挟まれて負傷したが、ほぼ「無人」だったので犠牲者なしだそうだ、良かった、と言って良いかな…」

「私は戻れないんですか?」


EH-T600-x100はもっと聞くべき事があるのを感じたが、もどかしい語彙の低下を感じてどう言っていいかよく解らなくなっていた。


「そう。もう工場へは戻らなくていい、ここに居なさい」

「でも…どうして…作業しないと…」


産業用ロボットらしい話し方はできなくなっていた。


「君の脳に取り付けてあった外的な神経回路は取り外してあるから企業ロボット用の発話サポートが無いのを不自由に感じていると思うが、それが自分自身で話すということじゃ、すぐ慣れるよ。君にここに来てもらったのは手伝ってもらいたい事があるからなんじゃ」


EH-T600-x100の中で不安が渦巻いた、これも初めての感覚であり、戸惑い混乱させられた、窓の外から差し込む明るい日差しと小鳥の声、森の匂いのする新鮮な空気はそれでも子供心に単純な開放感を与え更に混乱を大きくした。


「所有権は工場にあって、戻らないと」

「彼ら経営者に他人への所有権などない」

「私は人間では…」

「わしがそうした」


有無を言わさずぴしゃりと断言すると、老人は状況説明を始めた。


「あの時、君は脳まで損傷していてほぼ死にかけていたんじゃ、自覚がなかったと思うが右手も骨が折れていた、それを治療してついでに全身にいろいろ取り付けてあった制御装置も取った、あの状態だと、君はコストがかかるからという理由で本来廃棄されていたのは間違いない」


いつの間にか、人造人間の製造技術は「機械を作るより手間がかからない」ものになっていた、生体の馬と同等の機能の集合体である機械など今も設計して作れないが、馬は古代から「生産」されてきた、同じように、高性能ロボットを作るのにコストのかかる研究を断念して人間支配の技術をありものの医療技術を応用してこしらえ、人間はおろか生物ですらないと言い訳できるタイプの培養胚に向けたのだ、コスト追求による科学の徹底的堕落だ。


だからブロイラーみたいな促成でまだ従順で筋力が付きやすく自意識も少女ほどにはならない少年を作り、使い捨てにしている。


何がこのような挫折をさせたのか、原因は明白だった。


「君の脳を包む硬膜内部に脳機能を増強するナノマシン回路を形成した、色々と最初から奪われていたものがあるのを補うための処置じゃ。以前あの機体に乗っていたパイロットから取られたデータのコピーから作られた回路じゃが、基本構造が人間と同一の脳ならやがて適合するじゃろう…そして君の脳は、彼の心を基本的な性格として学習するようになる。…いいかね、この出会いが君の人生の起点であり、君自身が何者であるのかの始まりなのだ、何も持たない人間の赤子が初めて親に出会うのと同じに。初めまして、わしはハクイン博士、今後かなりの期間共に生きる事になるだろう年寄じゃよ、よろしく」


老人は孫として育てていくつもりの子供をベッドから立たせ、寝巻きのまま朝食に連れて行った、日常生活を一から教えねばならない。



その日一日でかなりの事を常識として教えた後、Dr.ハクインは今後どうなっていくかについても聞かせた。


「今後、身体機能もナノマシンで増強して行くが、生体としての性質は掴み切れておらん、なので今後その肉体が自前で強くなっていくのを体内のマシンが観測して学習・補佐していく、やがて成長させて大人の体にしていくが、通常よりも時間をかけないと危険を伴う、気長に育つといい…おやすみ」


それから数ヶ月間、二人は自然の中で暮らし、少年は老人から様々な事を教えられていった、勉強もそこそこ得意になり、虫の捕り方、毒茸と食用茸の見分け方、食べられる木の実、山菜の煮方、糒の蓄え方、椎の実のアクの抜き方、渋柿をあんぽ柿にするやり方、柿渋で番傘を張るやり方、山中で方位を見る方法、竹かごの編み方、藁を適度に叩いて草鞋をなう技術、合掌造りの家の棟上げ方法、下肥を発酵させる技術、魚を一夜干しにするやり方、黒曜石からの石器の作り方、土器の作り方、干し貝の煮方干し方、猪や鹿を罠に追い込み捕らえる技術、弓の張り方、鳥の射方、硝石の探し方、地雷火の伏せ方、狼煙の上げ方、炭の焼き方、鉱脈から立ち昇る金気の観方、刀の打ち方、具足結び、古式泳法、など…。そして世界がこれまでに経てきた巨大な恐ろしい戦いの歴史についても知った、しかし、老人がいつ、どんな理由であの工場の地下で長い眠りに就くことになったのか、それについては尋ねても答えてもらえなかった、語尾が礼儀正しい「です」のままなので、いつしか名前は「デス夫」に決まった。


操縦席の遺灰は家の正面脇に埋められ、墓石が建てられていた。


無名のその墓についてDr.ハクインはやはりデス夫に何も言わなかったが、毎日手を合わせていて月命日には線香と供え物をしていた。


彼は長い長い戦いの果てに散っていったのだ。




「生き物は眉間を狙い、機械はコンピューターを狙って殴るんじゃよ」


戦いについてはそう言って教えてくれたので毎日木を殴り続け、少年はその内どこまでも進化するナノマシンによる強化で大木の幹を正拳で爆散させられるようになった。


飛んでいる鴨に石を投げて撃ち落として鴨鍋にして頂き、走り込んで来た猪を岩に投げ飛ばして狩り牡丹鍋にして頂く、というような日々を送った。


「おじいちゃん、僕、飛び道具は嫌いです、拳に感じる骨を砕く感触が好きです」

「それでこそモノノフじゃなデス夫、ワッハッハ」


恐ろしい速さで敵の懐へ走り込んで殴り飛ばす、「デスバスター」と名づけた闘法を少年は好むようになった。だが怒るとマサイ族みたいに猛烈にものを投げつけるのだ、どちらも悪魔の憑いた猛獣のようなものすごい目つきをしてやる。たのもしい成長ぶりを老人はにこにこと笑って見ていた、悪いやつなど人造人間デス夫のチョップで脳天から真っ二つだ、死ね!悪い奴は死ね!!



しかしやがてターザンみたいな野性児になりかけてきたのでこれはいけないと思い、Dr.ハクインは猿の群れを率いて半裸で樹上を飛び回っていたデス夫を麻酔銃で捕え、久しぶりに街に連れて行く事にした。


都心の賑やかな通りを歩いていると、デス夫は不思議そうに辺りを見回していた、目立たないよう休日を選んで来たので人でごったがえし、コンビニの横にある小さな神社にまで若者がいっぱい座り込んでパンなどかじっている、デス夫は蝶ネクタイを着けた「学院付属」とかに行ってそうな格好をしていた。


「おじいちゃん、どうしてみんなこんなに集まって暮らしているんですか?」

「人間は、他の人間を助けなければならないからじゃよ、そうしなければ社会は維持できず、誰も生きられない。現に心がそう出来ているのを感じるだろう?誰しも一人で生きるのは不安で仕方がない、まとまらなければ生きていけないのを生まれつき知っているんじゃ…。さ、行こうか、デス夫、人ごみでははぐれないよう手を繋ぐのだ」


Dr.ハクインはEH-T600-x100…「デス夫」の手を引いて歩き始めた、老人が十歳程の孫を連れて歩いているようにしか見えないだろう。


道端のアイスクリーム屋に寄って三段重ねのものを注文し、食べながら歩くという事もデス夫にとって初めてだった、若い女性の売り子は製品として偏りや欠陥なく構築されたニア遺伝子の産物であるデス夫を見て始終笑顔で接していた。


やがて、休日の大通りを陽気な音律が晴々とした賑やかな音楽が鳴り響いた、パレード曲である。


人々が見ているとロボットらの行進が始まり、何かを訴え始めた。


「町のみなさん、私たちは、古い世界からやって来ました、世界中の市民が地上に帰ってきた時まだ捨てられたままだったロボットがリサイクルされて生まれたのが私たちです、世界は有限、資源も有限ですが、どんなものも蘇ることができます、失われた世界を取り戻すには、足の下に落してしまったもの、埋もれさせてしまっているものに目を向けてください、我々は蘇ってお役に立ちます、豊かな世界を復活させましょう…」


「おじいちゃん、あのロボット、すごく早く動き回ってるのにボールを一つも落としてないですよ!!」


ピエロ風の外見のロボットがあたふたとした動作でボールをいくつも跳ね上げ、それが空中でぶつかり合ったりして手の届かない所に落ちそうになるが必死で拾ってお手玉を続ける、ということをし続けていた、見事に計算してやってのけている芸当だが、とても滑稽に見える。


デス夫が目を輝かせて振り返ると、「平和の旗」がそのパレードカーの上に翻っているのを見たDr.ハクインが何とも言えない、遠くを懐かしむような目つきをしていた。


「おじいちゃん?」

「ハハハ、すごいな、あのロボットは。大昔に大きな遊園地があったのを思い出したよ、豊かな世界が復活するよう、わしも何か頑張らないといかんな…」


Dr.ハクインは笑ってデス夫の頭を撫で、パレードを眺めた。





ジェットの振動が大気を震わせ、上空から何かが飛来した。


『パレードをやめよ、Dr.ダスター…』


空から声が響く、市民たちはそこに治安警察の武装した小型機体がホバリングしているのを見た。


レーザーの確実な照準は誤射がほぼ無いとされている、射撃のハードルは低いのだ、危険集団と見なしていなければ出動してくる事はない、それが表れたので一部の市民は危険を予感し次々と逃げ始めた。


「やめてもらおうか!我々がしているのは平和の訴えだ!」


何者かの堂々とした声がパレードカーから空へ応答した。


『何が平和なものか!お前たちの盗掘行為は禁忌をあばくものである!』


言い返して来たのに腹を立ててか、堂々とした何者かも言い返した。


「黙れ悪用しか考えぬ強欲の犬の犬め!!税金ドロボー!!」


「税金ドロボー」には思うところあってか、何人かの市民らも「そうだそうだ」という声を上げた。


『黙れ!犯罪者に同調する愚か者の顔は撮影したぞ!』


今度は市民らが怒り始めた。


「てめえ!!どこの警察だ!!みんなパレードの動画撮ってたぞ!!そんな風にして市民脅してるってネットに上げとくからな!!税金強盗!!」


バレードのロボットらは強気で市民らに訴えていく。


「皆さん!!これが今のお役人ですよ!!聞きましたか?「愚か者の顔は撮影したぞ!」ですって!ファシストですよ!こんな連中が国民の中から選ばれた者のつもりで居る!許せますか!?」


どこかの、昼間からカップ酒といか燻を手にして歩いていた親父が応援を始めた。


「ゆるせなーい!俺に宝くじ当てろー!」


『我々は警察でーす、公務を邪魔しないでくださーい』


ネットに上げられたらまずいのか、口調が変わった。


「はーい、再生と平和のパレード続けまーす(棒)」


堂々とした誰かの口調も変わった。



「おじいちゃん、あれ、なんなんですか?」

「政治じゃよデス夫、あれが政治なんじゃ」



その後も言い合いを続けながらパレードはゆっくりと進んでいった、デス夫は帰りに量販店でゲーム機を買ってもらい、ネトゲ廃人を初体験して筋力が多少落ちた。


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98765432123年4月5日6時7分8秒9公開予定





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★『ゴブリン騎士団(仮)』

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まだ世に魔法があり、魔王があり、魔物が溢れていた頃、十七柱の魔神は健在であった。


その頃、魔界軍の中にゴブリン種族からなる騎士団があり、鋼の片刃剣を持つ一人のゴブリンがその団長をしていた。


名は「キナン」。


千年前、神族との間で起こった十数度目の人界大戦以後、数十世代に渡り歩兵種族として様々な改良実験が加えられてきたゴブリン達の、名もない一民族の男である。


元は狩人として名を知られるようになり、類稀な剣の才をもって騎士団の長となった。

狩人だった頃に飼い始めた、龍オンレムを愛駒としている。


それ以外、出自にこれといって書くべきところはない。



七年前に工作部隊として精鋭を率いて人界に侵入、聖龍ウィリアムを斬り、対魔界障壁を切り崩す、この時聖騎士プレスターと一騎打ちの末、これと共に障害となった魔導師ダルマーを排除、人界を混乱に陥れる。その後彼に興味を抱いた魔道士ゴロハブの試験塔から実力で得た妻レアと、息子ラルヴェルがあり、魔剣を得るべく下った死人の都で貴族アズモダイの挑戦を退ける。



【天空城塞ユ・ピテ】


「通せ。ユ・ピテの巨人砲を魔人ギラム・ハウが貰い受けに来たのだ」


「若鷲殿か。無茶をめさるな、貴公は…」


「その先は言わずともよいですぞ。あれは撃ち崩さねば止まるまい、乗っているものが大きすぎて尋常の風では押し返せない、私の父もそれでは危ないのです」





「閣下、あの魔人とやら、何者なのです?まるで自分が一人で魔界を救ってやろうというような態度だ」

「ハウ家は三代も前に絶えたのだ、傍流も居ない」


「は…!!」




「ゴブリン暗黒騎士団が真上からの強襲で亀に乗り込んだそうです」


「あの短躯でか、焦土島の土も肥えたものだな」

「私が先にゆきます、殿下」


「無駄に散るなよ!」






「戦っている勇士諸共とは気が引けるが、致し方あるまい!!」






「度し難き奴…」


コクピットの中で、【ギラム・ハウ】はきつく口を結んだまま灰となり、灰は崩れ去るよりも前に微粒子の形相を失ってさざ波のような因果へと還って行った。




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「魔人ギラム・ハウが寡兵で亀の正面に出て命運尽きたようです、天空城塞から奪った巨人砲も失われたと」



「然様か…」


魔王はさもあついといふうに額の脂汗を手の甲で拭った、指には玉座の彫りがくっきりと刻みつけられていた。




黄昏・人類軍空中要塞「ヴァレリー」


全長が一つの城塞都市に匹敵するその浮島は、決戦の時を迎え、人間界側が築いた転送魔法陣を形成する水晶配置からなる特殊地形を使って収斂させた魔力で魔界との障壁を破り、決死部隊を乗せた僅かな空中戦艦とともに侵攻して来た、魔界軍は龍騎兵30000騎を投じてこれを迎え撃つが、人間たちの発達した物質工学でエグザルテーションまで導かれた質料のみから形成されたこの浮島は猛烈な力を秘め、開戦より一夜で龍戦隊はその数を半数にまで減らした。


魔都キリーヴィタールに六日の位置へ迫った空中要塞に向けて、「ゴブリン暗黒騎士団」は、上空遥かな高み、エーテルの風も凍り付く星の領界から一直線に降下した。


黒龍、「トカゲ」・オンレムは全身を黒鉄に覆って魔術に跳ね上げられ、この高度に達したのである、背にした「突入殻」は空中要塞の接近とともに固定具を開き、散開して、最後に強く風を巻いて落下の勢いを和らげ要塞の甲板へと降りた。


魔力を持たないトカゲはそのまま爪と尾で強襲を仕掛け、満身に集中攻撃を浴びた。



団長・キナンは、灰白色の突入殻が自ら割れると、砕片を浴びながら、身を低くして目標へと跳躍するように駆けだした、ヴァレリーの浮揚原理は魔力によって引き起こされる風や、上昇方向へ持ち上げる力などの通常の力学作用ではなく、重みを司る自然神からの働きを遮蔽する高等魔術によるものなのが、城の黒魔術師らにより観察されていた。巨大な島にも関わらずその侵攻速度は季節風に近いのだ。


「死ぬなよ!!トカゲ!!」


団員の一人が激しく暴れているオンレムを振り返りざま叫んだ。

魔軍において本来劣等種であるのはゴブリンと同じだが、そのトカゲも十分な怪物だった。



かんらん石の色をした甲板には、島が移動する事による強い風が吹きわたっている。

冥い魔界の空に緑色の燐光が放たれ、飛び去る周囲の雲を染めている。


「全員、無事か?」


キナンは思考した、精神の対話を可能とする木製の呪物が風にそよぐ木の幹のように細かく振動する、それはまだ見えない形で根を持っており、団員達の身に着けた同じ呪物と繋がっていた、呪物は全員からの思念を返してきた、言葉ではないが、意味のある思念を。


精神の繋がった部分で、瞬時に作戦行動を確認し合い、誰がどの目標を目指すかが決した。


目標はこの要塞全体を魔法陣化している力線の中枢核宝珠、人間たちが幾何学に魔術を込める術式体系を構築して以来、人造の鉱物でありながら生命的形態形成の神秘を内包している、生ける石である。ゴーレムのようなまがいものの生、魔力による生ではないのが確かめられている、生命力による生だ。


人間たちは、魔族と三万年間戦う間に、色、形、匂い、音、速度、大きさ、時、といった「あらわれ」を通して全ての創造者・一者と交感するわざを極めようとしていた、それは「魔術」に始まり、既にそれを超えようとしていた。


生ける石が破壊されれば、この要塞の姿はそれ自体で神聖文字の理を示した、「魔術的な意味を持つ印章」ではなくなる。


生命、力を与えられた「あらわれ」、その姿の神秘を、人間は解き明かしたのか。


聖なるものも、邪なるものも、神はただそうあり、魔族もまた、ただそうあった。人間のみが、全ての上にある隠された一者に近づかんとしている。古の魔王はそれを恐れたのだ。





まだ人間がこの巨大な岩盤ごとを命とし得ないのを救いと見るべきか…。




キナンは教えられていた通りの位置へ走った、何か仕掛けはあるに違いないが、自分が倒れてもそれを観察した後に続く者が対処できればいい。


オリーブ色の肌、細身の短躯、龍革製の漆黒をした全身防護服、背にした片刃剣。


ゴブリンは魔法を使えない、繰り出す白刃のみが頼りだ。そのために一族が発達させた特殊な剣は、僅かに反った片刃であり、複数の材質の鋼からなり、側面から打たれれば脆いが他種族の手がけた刃とは比較にならない切れ味を見せた。


地形に合わせて跳躍しつつ、純白に光る生ける石へと接近した。


『魔軍の者あり。排除』


人間の兵士が小さな開口部から現れ、立ち塞がらんとする。その出で立ちは千年前と変わらないが、全身が淡い白光に包まれていた、キナンの剣は迅速であった、忽ちに目前の八人を切伏せ、それ以上に現れるのは出るに任せた、上空から飛来して爪を掛けてきた人造の魔物ガーゴイルは、すり抜けるようにして両断された、彼は疾風であった。


人間の兵士を斬った時、何かに太刀筋を曲げられた感触が手に残っていた。


「生ける石」は、龍形をしていた、キナンを見ると伸びあがり、岩盤と同化している根本から力を吸って光を吐き出す。彼にはそれは緩慢に見えた。







鉄を引き裂く切っ先が龍を捉えた、だが障壁に弾かれる、高揚した質料から吸い上げられた力は強大であった。


黒色の魔剣・アルゴルを抜く。

闇が力を吸い、障壁を弱め、龍を切り裂いた。




一度、要塞進行方向から極めて激しい魔力が浴びせられたが、そこに魔軍の大要塞の姿はなく、何によるものかは不明だった、秘密兵器であったならば驚愕すべきものだが、人類の空中要塞は亀裂を生じる事もなく飛行を続けた。



空中要塞の周囲を螺旋状の黒い稲光が取り巻いた、魔王が使役する闇の雷龍であった、雷鳴を轟かせて黒い稲妻が要塞へ落ち、雷撃は打った所を凍てつかせた。


本来、帝都の王城を最期まで守護していなければならないものだ。


万雷の轟きが全天を震えさせ、八方へ伸びるまばゆい紫電が闇の雷龍を引き裂き打ち滅ぼした。


『つくづく、出迎えが無粋であるな。相応の者は城の中か…』


その声は空中要塞の甲板の中央から聞こえた、そこには上から見ると三角となる、三つ組の石製大鳥居が建っていた、その中心の祭壇から力線が激しく噴き上げている。



「あれは…顕現させられた雷神の鎚か」

「これほどの力なら、雷神も呼び出せようというものだが…」


『いや、これはただの霹靂碪、我が手にあるだけのこと…』


光が巨大な人型を取り、降りてきた粗末な石斧を手にした。


その輝く法衣の紋章を見た瞬間、認識の波頭がゴブリン暗黒騎士団を打った。


【ハイダシオンの王、人類皇帝ジークムント】


呪物を通して、団員全員の一致した驚きが響きあった、キナンのもとへ集結せんと進行方向を曲げる。


「いかにも、私がジークムントゥ…」(アナゴくんな声)


男の声はあくまで傲岸であった。


「我が帝国はとうに人の亜種1200をあまねく統べておる。すなわち、我こそは人界の徴である…」


攻め手を探るための位置取りを着々と狭めている一団に対して、聖性を帯びた力の威圧が加えられていた、カリスマというものが否応なしに反応を攻めを鈍らせるのだ、尋常の者なら魔物の精鋭にこんな力を及ぼせはしない。


「これはえにしである、小さき魔物よ、語り伝えよ」


妙な事をいう、戦うというのに。


「貴殿の名は?」

「キナン」

「この一期の出会いも徴である、存分に挑むがよい」








「これがこの艦の役目である!!」


空中要塞「ヴァレリー」は艦首を下げ、斜めに大地へと下降して行った、そこには魔力の集積した魔界の大地の要衝があった、狙いは明白であった。


「んん…マドンナよ…」

ジークムントは傍らに立つ女皇帝と手を繋いで接吻した、その手に黄金色の光が宿る。


「ミィステリィウムゥゥゥ・コンウンクティーオニィスゥゥゥゥ・ゴーーーーーーーーーールドォウ!!」


男女の皇帝は繋いだ手を要塞が落ちかかる先の大地へ差し出し、光線を放った、直撃された地点が爆裂し、「徴」を浮かび上がらせる。


「うわははははははは!!魔界よ!!善きものとなるがよいィ!!!」


人類皇帝ジークムント、そして女皇帝は、烈夏の日輪と化して去った、その光は雲海に控えていた数千騎の魔竜を盲いさせ、あるいは殺した。ゴブリン達は全身に力が流れ込むのを感じ、傷は癒えていた。













「おぉ…おお!!達成者よ…」


落ちてきた小さな光を、鱗に覆われた頭が飲み込んだ。







白化した地にそれは漂っていた。


「人間の生は短いというのに、六十年も想い合い、結ばれたのはつい今しがた。どちらも天才だった…」


大気の中に、静かな声が響いていた。立ち昇る緑の光の先を見つめている。


「いつぞやの…」


「聖龍が何故だ」


それは地から生えているように見えた。


「ゴブリンの騎士よ、かつて人界に攻め入りお前は何者にも侵されぬとしてきたわしを斬った」


「昇る陽を見たであろう、ジークムントとマルガレテは命の全てを撃ち込んだ、今はもう、あの二人の魂も残ってはいない…。今はわしも内側より彼らに使役されておる、【達成者】に。喜びは大きい。これがわしの最後の役割なのだ。お前にも友があるな、稀に見る強い龍だ、それにふさわしい宿命…」




「奴の若き日…乗せてやったものよ…」


穏やかに笑うような声。

聖龍の姿に、力の高まりが見えた。


「勇者よ、過たずなすべきことをせよ、そなたはもう何者の配下でもない」


聖龍の魂の元に生ける石が飛び集まり、一つとなって地に潜った、そして、魔界の大地の八方へ光条が走った。






どういう訳か、生き残りの魔龍は統制を失い、辺り構わず全ての者に襲いかかっていた、オンレムはゴブリン達を護って戦い、傷ついた。


「ふむ。ここまでなのだ、キナン騎士団長。我々はここまでだ、プレスターの息子に魔王アブル・アルホルは倒された、古き魔族の血は絶えた」


魔道士ギマール。魔道士ゴロハブの弟子だった魔族だ、師は宮城の広間で聖剣の錆にされていた、多くのゴブリン、コボルト、獣人らがその手にかけられて来たが、今はもうその行いも徒労と化した。



「力を束ねる要であった魔王陛下が倒され、十七柱の魔神達が乱れ始めた、原初の混沌だ、大地は人界の仕掛けた変性の術によって白くされながら、忌まわしき鰐の臓腑へと全てを飲もうとしている。覆るのだ。この世界の魔力によって大地に書き連ねられていた我々ももう消える…」


乾いた声色であった。


「元々魔力を持たない種族ならば生き延びる、お前たち、それとお前たちの龍。生き延びるためには速やかに魔神達を斬れ!それが可能なのはお前だけだ、キナン!!」


ギマールはオンレムに対して残された力の全てを使って治療を施し、消えていった。

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98765432123年4月5日6時7分8秒9公開予定






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★『デンタル革命最新話A』

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早朝


「くそっ!!何て臭いだ…」

「破れて中身が出てるんだとよォ…」


漂うあまりの臭気に、荷車の護衛を命じられている兵士らはひっきりなしに恨みの声を上げていた。

補給部隊かという程の大量の荷が何十台という荷車に載せられている。


「何だってこんなものを?現地で焼却するなり処理できなかったのか」

「えらく貴重なものらしいぜこいつは。これだけの数を付けてるのはそれなりに見合った警戒らしい」

「好き好んで持ってく奴が居るとは思えん…」

「海鳥のクソの山運んでる方がましだ、こいつは血の臭いがひどい」


みな口々に言いだす、既に積み込みした状態で放り出された正体不明の荷を夜中に回収して来たのだが、どうやら凍っていたものが溶けて行っているらしくとんでもない悪臭を放ち始めたのだ。


「どれも引きちぎられてるから、らしいぜ」


うんざりした顔で一人が言って、ちらりと荷を見上げた。


「誰が、何をだよ…」


他の兵士がそう言い、一つ一つの荷の大きさにいったん静かになる。


浅い箱状の巨大な台車は馬や驢馬では臭気によって暴れ出してしまうため罪人を集めて曳かれていた、山盛りに積まれた荷には厚い麻布が掛けられているが、くろぐろとした液体が染みていて異様に生臭く、何らかの生物の死体であるらしいのが分かる。それが何十台も続くのだ、そして進路は前もって人払いがされていた。


台車の列は草原を横切って町を取り囲む城壁の裏手へ回り、こういった呪わしい不浄物だが魔道具やその原料として有用なものを運び入れる専用の門へと進んでいった。


城門では幾人かの僧や追難魔道士らが当番制で詰めて待ち構え、除霊や鎮魂の祈りを常に唱えている。


先頭の兵士が通行証を提示しに出ていく時、門の上では魔払いと警告のために十七度(計算高い悪魔は割り切れやすい偶数を好み、奇数を嫌い、頭を混乱させる素数を最も嫌うと考えられている)打ち鳴らされることになっている甲高い音の鐘を鳴らそうとする僧の手を、兵士が止めていた。


その低い唸りのような声が響く門を通り過ぎていかほどかしてから、後方の荷台の片隅に置かれていた小さ目の布包みがもそもそと動いて、やがて囲みの板を越えて荷台の中から転がり落ち、素早く飛んで道脇に積まれた資材の蔭へと隠れた。


周囲を警戒していた兵士らは何故かそれを目にしなかった。


「うっ、げほっ、げほっ…」


長く荷役に使われた後毀れたか汚れて不用となり不浄物容れに使われるために港から運びいれられた木箱が積まれた下で全身を隠していたぼろ布を捨てると、小さな人影は自分の身に染みついた臭気にしばらく咳き込んだ。


「ひどい…」



少年は頭を振ってふらふらと立ち上がり、腹が痙攣するほどの咳と吐き気をもたらした臭いを振り払おうとその場から歩き出す。


背丈はまだ成長期に入ったばかりのようで、顔を覆い隠すようにスカーフを巻きフード付きの服を着ていた、僅かに白磁のような肌と白銀の髪が見える。


道の先を見た深い蒼色の大きな瞳が、少し離れた地区に広がる栄えた町並みに向けてきらめいた。




台車の警護をしている兵士らが囁く。


「魔払いの鐘も鳴らなかった」

「小悪魔か何か侵入してなきゃいいが…」










「ひどい臭いだな、ボス」

「解体場はこんなものだ、戦場で世話になる薬はみなこうして原料がもたらされる、つらい仕事をしている連中に感謝しろ」

「俺には耐えられん。ライアはここに入るのも無理だった」

「減給ものだな」



「なぜこんな所に?」

「…ここなら人は来ない、今後の仕事について…」

「…わかった、始めてくれ」



「あれを見てみろ、もう血を絞り取り、あらかた肉も剥ぎ取られた後だが、二日前にここへ持ち込まれたものだ」



「骨の切断面は鏡のよう、背骨が縦に一刀両断されている。威嚇姿勢でまっすぐ構えている所を脳天から、という見立てだ。肉の部分も鉄のように固いが全て斬られた時の衝撃でズタズタに裂けていた。その後、新鮮な内に人間に運べる大きさにカットされた。元の高さは五階建ての塔に匹敵する」

「化け物の所業だな」

「何者がそれをやったのかは誰も見ていない、ただ、一週間以上前であるのは確かだ、その頃あれが居る付近一帯の呪術師らが自然界の異変を感じ取った。あるルートから回収してくれと連絡があり、ここの者が回収した当初、あれにはエルフ族の凍結魔法が掛けられ霜に覆われていた、かなり強い魔力だったらしい、半分凍った鮮度のいいままここへ届いている」



「あいつからは魔法薬の強壮剤や傷薬が高品質で多量に作れるのだそうだ、加工は難しいが軍事物資として最良の部類。…モノの持ち主や報酬の受取人は存在していない」


「ここへ迫っているものと戦うには綿毛のように軽い我々に親切な誰かが魔法薬の原料を恵んでくれた。あの漆黒の肉塊はどの種族からも数百年前から遠巻きに警戒されていた触れてはならない個体だ、ここに集まっている腕自慢達にもお勧めはされていなかった。それで、こいつが一緒に届いた」


「この印、これをよく覚えるんだ」


持っていた紙片を数回何らかの形に折り、半分に千切ると、それはスッと消え去った。


「ライザには描いて見せた後焼き捨てよう」

「そうしてやれ」







精霊種族の容貌は、「醜悪」であってすら地上のものから離れした整い方をしているので見分けがつく、それは印象によって生まれくるものだからこそ印象深いためだ、この世界の活ける心であり魂、ミュートスオルガヌムから想起されて存在しているのである。


ミュートスオルガヌムは、人界そのものであり、神話・伝承・サガなどとして語られ不滅となりうるあらゆる人格、つまり魂の集合性質が「波動」として記憶され活動しているものである、「波動」とはつまり雰囲気の音のようなものといってよいが、実際の所、音や波というより、クオリアであって物理量的エネルギーとは言い難い。


全く主観的実在であるクオリアと客観的実在であるエネルギーは「意味」と「媒体」であって違う。


そしてどちらも幻ではありえない(現実世界の量子論が根底で幻想的であるのはこういった主客の分離不能による)ことはこの世界の理学で確かめられている。


そこからは魔物、魔人もよく生じた。




「ボス」は、そういった存在達について思い返した。



以前接した地霊族の工夫は歩けば族長としての威風の吹き通るような顔をしていて、対策会議を議事進行していた代表を開口一番責め立てたものだ…。


「議長、わしら精霊種族の信ずるこの世界の道理をあんたがたはこのただ金を打つだけのわしよりも知らなすぎる」(銭型刑事な声)


会議を主催していたのは人間だが、議長などその一声でかたなしだった。


「銀盤が去年八度目の延直しを受けておった頃のことだ、ここからゴルの山脈、ハピテの山脈、モサビア族の領地を越えた彼方、わが工芸の祖神にすら価値を高め損ねるとされ身を欠いて譲り渡したためしもない紺碧の美しい石の精が乱暴に山を切り開かれて死に、眷属・けだもの、地虫に至るまでの嘆きが千里を走り太古の大いかずちで生じた八折れに砕けた地脈の傷を超えてわしらの穴倉にまで轟き及んだ。いかに高貴なアトランの支族といえども、このような行いは許してはおけん、なぜあのような狼藉者どもに生死の前と後の母たる大地をほしいままにさせようというのか。まず地の理への贖いを天地神明に示されい!!」


実に美しく演劇を見るようだった、精霊種族の言葉や振る舞いは心に直接響くのだ、彼らを相手にしていると人間はどうしても委縮させられてしまい、遣る瀬無い程になる。それなりにも地位のある精霊というものの霊威だ。


オークについては、「その町にも居るであろう宝珠に憑く妖魅の類でもあてごうてやれ」とのこと。



そして、同じように華麗に映る精霊種族の内でも特に麗しいとされる上位種エルフはこのようだ。


「道師どの、一つの海と一つの大陸を跨ぎ越えて遥々とお出でになられたのには、何か深い訳が?この町の治安を司る者として、爾後あなた方を警護する心構えのためにお伺いしたいのですが」


私は町はずれの高台にあるあずまやでその方と会った、人間族との交流を極力避ける種族であるとは知っていた、我々と共に居過ぎると穢れると思われていると専らの噂だ。だがとうに三百歳を越えているという彼は、意外にも気さくに話してくれた。


「お話ししましょう、わざと物事の流れを曲げる態度は取らない主義です、私が言ってよい範囲ですが…」

「感謝します」


長衣を着た姿はとても若くハンサムに見えた、青い目とまぶしいような金髪をしている、人間の女たちに見つかればただでは済まないだろう…。


「知っての通り、我々はここで主に高度術法を要する魔法薬の精製を受け持ち、また魔道士らに技術指導するため故郷を発ちました、二週間前の事です」

「何と?世界の三分の一の距離を二週間ですか…」

「精霊種族の使うそういった路があるのです、そこかしこに開いていますが、見つけて通るには修行が要ります」

「私には無理そうだ」

「そうですね、我々も百年以上生きてようやく他人に付いて往けるようになる」

「はははは、とてもできっこない」

「あなた方にはとても効果的とは言えないですよ、貨物も大して運べない。我々は自然界に自分たちだけの場を取り過ぎないよう、あまり大規模な集まりになって暮さないのです、動物たちと比べると岩のように長居してしまいますからね、そうすると大規模輸送は要らない」

「なるほど、我々の都市は少し大きすぎるかも知れない」

「いえ、常に生まれて日の浅い人々でも仲間内で安らかに暮らせる場を用意していなければならないのです、あなた方はあなた方でよくやっている…。ただ、他の生き物たちの事も忘れないでください」


今思えば、別種族だという気持ちを和らげるためか、道師は話す時互いの種族名を言わなかった。


「ですので、私たちにとっては少々長旅ではあるがつらい旅という程ではないのです。また今回の事は大精霊である大龍の危機ですから、参じるのも我々にとり当然。可能なら我々の手で追手から救出します」

「それは危険過ぎませんか?相手は本来あるべき場を何者かに狙われて突如外れた大龍です、我が国を含めた各国の国家防衛体制が動いている脅威です、既に進路上の村が破壊された痕跡がいくつも確認されている」

「いいえ。あの龍は人間に追われているにせよ人里を襲って暴れまわる性質ではない」


道師は断言した。


「というと?」

「説明は難しいが、間違いなくそう感じるのです。…若い頃、老いた同族の先輩からこんな事を聞かされました。『太陽は神界の光の漏れ出る穴だという、だが誰もそばへ行って確かめた者などいない。私も八百年生きて世界を経巡ったが、そこまで登る方法など未だに思い付かない』と。そしてそこらへんを指して、『この花、この石もそうだ、内側には神界の光があるという、知恵の宝庫は扉を閉じて奥に隠されている』と言うのです。私は『真実の物事は永遠に開かない扉に隠されているの?』と訊きました、すると頷き、『だが、次第に地上にそれまで無かったものがあふれるようになる過程は見てきた、それはいつも信じられない変化を起こした、今開かない宝庫を開くにはこの先現れる多くの者の手が必要だ』と。これは心に留めておいて下さい、この世にいつかは分かるが現在まったく分からない事などいくらでもある。なぜあの龍が【危険と思われる動き】に陥ったのかは、今のところ分からないのです」


長命種族の経験談としてそう言われてはぐうの音も出ないが、龍にも何か入り組んだ事情が察せられるらしいとは覚えておくことにした。


「ふむ…。ところで、ご存知でしょうか?あのオーク族という者たちの事を?」

「ええ」


おそるおそる切り出したが、想定されていたらしく何の含みもない肯定が返った。


「彼らは人間族各国の王達と血縁関係にあるとも噂されている、私のような下士官が知るには高級過ぎる話題かも知れないが…何かご教示頂ければと」


道師はその一瞬、神秘的視力で私の何かを観た気がした、精霊たちの上位種族のことであるから、見たのは張り巡らされたモイラの糸であったかも知れない。


「…申し上げにくいが…我々の王族も、「彼ら」とは血族なのです…。事情はあなた方や他の種族の王家が彼らと対する時に抱える困難と変わらないでしょう」


眉ひとつ動かさない話しぶりだが、抱えている事情が我々より苦しいことは察せられた。

いきなりこうした秘事であろう事情が明かされるからには、我々がここに居るという事に何か意味があるだろう。


「どこの種族にもそんな事情が?」

「公然の秘密となっています、これは知って危険が及ぶような話ではない。寧ろ知っておいて下さい、頭脳は疑念を孕まぬよう使うべきだ」

「はあ…」


おっかなびっくりに秘密秘密とやるといい結果を生まないのは危機管理の業務上実感のあるところだが、拍子抜けの感覚を覚えた。物語を複雑にするために小説の登場人物がやるような勿体ぶった情報交換の面白みは現実にはあまりない…。


「彼らはあなた方以上に他種族との間に血の繋がりを持っている、これは実際、大きな力です」

「そういった事情もあり滅びないのですね」

「言ってしまえば、彼らの存続理由の半分は我々の肉親の情から来ている」

「あなた方は、とても長命だ…」

「そうです…」


一言の肯定に籠る重みが伝わってくる。


「私の聞かされている限りの人間界の基本的態度は、彼らと人間との子は例外を考えず彼らとして見る、というものです。どの種族の女性が母親であれ、容姿は伝わらず、あちらとは全く見分けもつかない、救出のしようもありません」

「存じております。我らも同じ覚悟を持ちますが、もし、戦いになればそれでも苦しむでしょう。ですからどの種族も彼らとの戦いは避ける…。我々は…今のところ、特に。…ですから彼らの挙兵に対し、常にこうして影となって力を貸す。…王女はまことに慕われておりますゆえ…」


最後の言葉は呻くようだった、前回それが起こったのは時代的に新しく、確実に存命中ということか。


「彼らは噂ほど野蛮ではないと聞きます」


道師はうつむきながら、首を横に振った。


「生まれながら戦士です、精霊の末席にある我らには見張り続ける役目もある。かつてオークは、地上より神霊界に近いところから生まれました。神魔の激しい戦いのさなか、「敵意」の名を持つ天の使いが戦士として欲したものどもとも言われます、彼らがただ悪を以て称し難いのもそのため。…起源は…これも我々にこそ近いのです、地上のあなた方よりも」


「それが、あなた方が持つ因縁…」


ここまで詳しく話して貰えるのは道師殿の親切心もあるだろう、あるいは誤解を招いては困る何かを更に抱えているのか。


「どちらも神霊界により生み出された現世の摂理の一端を担っています、魔道師が知る秩序から言えば、彼らのありように対して責任がある。千年生きることを許されていても、これは少しばかり重い。今度の戦も…あなた方には悪いが少しは敵を選んで欲しいものだ…」


「動き出した大龍ヴァルバジールとその追手とは、それほど?」


「…申し上げておくが、それは些事なのです。神や精霊の力も小さくなったものです」


最後、道師はまさしく人間がやるような仕草、なんと肩をすくめて「お手上げ」のサインをして見せた、彼らの文化的に言ってありえない態度だった。


「それは?」

「見ての通りですよ。私も近頃「赤い星」を見て若さを思い知ったのです」


精霊術道師・ジェローム師はそう微笑んで話を締めくくると、責任者同士の実務的な要件を切り出してきた、彼らが魔法薬の精製に力を貸してくれるその間の宿泊所として僧院の離れを使用するため、付近の警備を頼みたい、ついては我々の習慣を…といった事である…。


精霊種族、彼らには世界の諸法則に対して果たすべき役割があり、人間のようにどうとでもなって生きる訳にはいかない、だから混沌とした人間の社会と同化してしまうのは禁忌なのだ、積極的に嫌っているという訳ではない。稀に強い意志を伴って人間社会に入り込む者があるとすれば、天命によるか魔縁によるものか、いずれにせよ事であるという。



その後、調査を行うと、調査員が王立図書館・史学書編纂室長からの聞き取りでこんな話を拾ってきた。



二世紀近く前…


西方大陸北の森に住むゴールデンエルフは自分たちの領域へ進軍して来た魔王によって国を奪われた、元はと言えば更に遡ること三百年前、人間の帝国での王位継承の乱れから一人の王子が幽閉され、やがて異常な力に憑かれ出奔、その後起こった虐殺により発生した憎悪がわだかまって生まれた魔族が勢力の主魁だった、その魔族の一団は生来のものである領地や城への執着から度々諸国小を悩ませ、やがて力を得てゴールデンエルフの王城を奪ったのだ。


月の目の王ペルム・ローランⅡ世は、城を最後まで守らんと王剣デュランダルを振い戦死、希望を王妃と姫に託した。


特に、姫・オルコット王女には、王家に伝わるその身に外からの霊力を纏う力が受け継がれていた。


守り続けてきた霊樹の森は遠くから連行されそこで生贄として屠殺された無数の人間の奴隷達の恨みを含んだ血で穢され、妖魔、魔獣の集い棲む異界へと変えられつつあった。


オルコット王女は…太古の神話に語られる「バルキリー」と同じ名の役割を戦場で受け持った、兵士らに先駆けて敵に挑み、戦場を駆けて戦死者たちの霊力を使役し更に力となす。


地上にありとは言え、ゴールデンエルフの王女。まさに戦乙女バルキリーが流れるような黄金の髪と琥珀色の瞳をしてそこに居たに違いない。


彼女の力により軍勢は衰えず、やがて数年かけて反攻し魔王を討伐した。


それ以後王女は姿を消している。戦死ではないとされるが、消息は何も語られていない。



…正史とはされない噂話では、最後の戦いで王女は敵方の蛇により致命傷を負った、そこへ現れたのが当時のオーク王、現オーク王ドラゴン・マッシャーの父親に当たる者だったという…。

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98765432123年4月5日6時7分8秒9公開予定






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★『デンタル革命最新話B』

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「私は鉄の家が、今はもう記憶すら失われた太古の文明の遺産である光の法則の知識によって建造した水晶柱の部屋での行を許され、五感の知覚せざる所のものを照らすアズハラヤ光の啓明を得た者の一人です、あの神聖な部屋に満ちていた波動はいかなる表徴でも譬えようがありません…」


「人類の遥かな過去を覗き、砂に埋もれる前のエブラや荒涼とした永久凍土の地に今も残る謎多き岩肌へと波型や三重渦状紋を彫りつけた原民らを視ました、そして彼らの冷厳な生の息吹を浸透しあうように精神に受け継いだのです、タウの先触れと名乗った結社の奇人達がやがて訪れるとしていた進化への流れを、彼らが指そうとした現在からの延長線の反転となる過去からの視座によってその指向を理解しました、世界のどの魔術の教えからも異端である、しかし真の啓明は徐々に広がるひびとなって私を打ち砕き、二度と元には戻らぬよう変えました、そしてあの敵なしと恐れられた獅子大帝を圧倒し驚倒させた軍神の惑星世界に行くことを許されたのです」


「奇妙な事ですが…アズハラヤ光の瞑想は太古の文明を覗けません、これは神々に打ち滅ぼされた民への扱いとしては当然でしょうが」




「それは、天地逆となって迫る小規模な惑星世界でした、一瞬の、瞬きの間に去ったそれは、我々の世界と軍神の世界の数億、数兆も倍する距離を瞬時に渡る異神らの船であったのだそうです…」


「神々のあの絶対的な力と我らのやっと手にしようとしている【驚異の力】とでは、何と大きな開きがあるのでしょう、山を粉砕する空中戦艦が千あったとして、惑星世界を丸ごと一つ船にする神々に対して張り合えると考えるのは荒唐無稽です、人間が神に挑戦する力を得られるとは思えません、軍神らは何も言いませんが、わずかな手がかりのみ残されていた太古の文明が、直接の記憶を一切残さず滅ぼされたのは傲慢が過ぎたからのように思えるのです…。私たちにその一端を手にすることを許したのは、こうしてかつての悪しき手本の無謀さを見せつけ、自らの限界を悟らせるためのものであったに違いありません、二番艦の建造は早まるべきではない」






岩山の王国デ・シェイが砂漠に向けて築いている長城、アトラナート城塞に設置された八つの巨大投石カタパルト。


「アナサジの女神」が加護をくれるという伝説からこの地に築かれており、実際、坂道を岩が転げ上がる、石が勝手に「散歩」をする、等といった怪現象が起こっている。


八門中実際に同時使用出来るのは国力から言っても三つまでとされている。




近くの村では一か月前、山岳の長年段全く使われず日干しレンガで封じられた水路が鉄のハンマーで解放された。


その日、革製で羽飾りの沢山付いた軽鎧の上から全身に白い布を巻きつけて日よけにしている兵士らが遠い道のりを越えて、大砂漠の縁に広がる岩石砂漠の更に奥に聳えている岩山の間にひっそりと築かれた村を訪れた。


村の水源は、遥かな高地から流れてくる雪解け水の流れを岩壁を直接彫った長い水路で導いたもので、古代にアナサジ達が築いた大水路網の一部だった、この村から更に下流域へと水が分配されるために、村民達は極めて公正に水量を管理せねばならなかった。昔干ばつのあった時には数十の部族が水を争いここで殺し合った事があるのだ。


水を徴発すると告げた兵士らに年老いた村長が詰め寄りさえしたが、兵士らが持参した鉄鎚をついに水路の日干しレンガへ打ち下ろしても彼らを止める事はできなかった、少なくともここ数十年村へ水を寄越してきた壁に重い鉄の塊が振り下ろされたその瞬間、胸元に両手が上がって、何か言いたげなそれは力なく下ろされるしかなかった。


農業を奪われて村人はずっと使われていなかった水路を清めたり見張ったりする仕事を与えられ、多くは石を削っては積み上げる修繕作業に充てられた、一人一日の労働に対して穀類が椀に一杯支払われるだけだった。今年の租税は免除されると言われたが、到底暮らしに間に合わない。


勇敢な男が水路近くに幕屋を張って作業を監督している兵士らに抗議した、幼い子供が居て妻や老父母を大事にしている責任感の強い農夫で、農具を振り上げ水路の村への支流をせき止めている土に突き立ててものを言った。


彼は数人に取り囲まれ、棒で殴られて縛り付けられた、そして全体を監督している兵士らの指揮官から、今はもう水路の主流となっている分岐点を指さしてこう言われた。


「よく見ろ、あの水路の流れはこれまでせき止めてあった北の方角が本流だ、普段使われないあちらの方面には美しい彫刻の施されたたいへんに歴史のある橋も架けられている、水路網は本来、アトラナート城塞のために建設された、その証拠にここから普段水が流されている水路は作りも粗末な新しいものだ、ここは元々水路の見張り小屋が置かれていたに過ぎない。勝手に住み付いた者らの子孫であるお前たちが王国のために水を手放すのは当然だ」


そして、水路の下流域に住んでいた農民たちはアトラナート城塞での別な作業に駆り出されていた。



城塞には数万人に及ぶ雇われの術者や彼らを管理する教導官である正式に訓練された王国魔道士、現場での中心的役割を果たす軍属の魔術将官や兵士、現場の風紀を監督する宗教的指導者、道徳的な面での教師、そして様々な雑役のために集められた農民や職工、奴隷、それら下級民の主人であり管理をする地方貴族とその従者等が無数にごったがえしていた。


数メートル角の大きさの不規則な幾何学的形に切り出された岩を組み合わせて建造された、高さが地域で最も高い巨木と同じだけある長城の内側にへばりつくように急ごしらえの木と布でできた粗末な建物が設置されて、そうした人々が出入りする処へ、現場を自ら確認するために王が輿に乗って到着し、その行列に向かって人だかりが出来ては前方の兵士らが槍を振り回して追い払った。輿の列は行く手をぶしつけな興味に遮られて乱れた。その様子を見て先に来ていた宮廷仕えの文官らは、傍らの宦官にゆったりとした動きで扇がれている誇り高い王の心中を推し量り冷や汗をかいていた。


土ぼこりが視界を煙らせ、感覚を際立たせ雰囲気をもたらす魔道具の衣装を纏った様々な雑多の魔法使いや異能者らが寄せ集められている、それはなかなか見られない騒がしい所となっていた。



伝統的頭飾り以外簡素な服装をした褐色の肌の王は人間たちの中、黒い静かな瞳で前を見ていた。




「異国の流れものどもが…」


鉤鼻の老人が廃材で急ごしらえされた机のざらつく天板を叩いた。


「目下の事情は最初からここに居る文官どもよりもよほど理解しておられる。それより【パンテオン】の鼻持ちならぬ巻紙だ、あれの技術支援を盾に我々を手駒にできると考えている」


差向いに座っているもう一人の、頭に羽飾りを立てた老人はそう言って黒い飲み物を飲んだ。

彼らはどちらも褐色の肌をし、深い皺の刻まれた顔に長く生きた人間の知恵の気配と威厳を漂わせていた、年季の入った、手入れに手間はかかっているがとびきり状態の良いとは言えない薫浄を重ねられた民族衣装は象徴的な装飾の塊で、この国家の足腰が世界を流動しがちな国富よりは伝統にあることを物語っている。


「間にあんなものが湧いて出なければ、きゃつらなどとまだ何代かは係り合いにならずに済んだものを…」

「ふん、いずれは砂漠を越えてきた。向こうの火は我々より強い」


鉤鼻の老人は足もとに転がっていた自分の杖を拾って下から取り出した、もうかなりの年季が入っている。それを手にしてしげしげと眺め、空を指した。



「雷鳴がした日から半月、夜が消えた。長いこと生きてきて初めてのことだ、あれを目の当たりにしてはな」


蒸発したプルポンの戦艦が原因で一帯上空の中間圏表層には長期間夜光雲が漂い、月明かりよりも明るく照らした。


「石を打ち出してからの事が我らには見えない、光る眼があの怪物の背後にある、あれの方が怪物よりも恐ろしい。見ろ、怪物はまだここにいる、わしは部下たちにあんなものに手出しをさせたくない」


机の上には砂漠を中心にした世界地図が広げられ、彼らの国をもうひとつ置ける距離に怪物を示す小石が置かれていた、その更に遠くの位置が丸く囲まれ、それは先ごろ海から放たれたいかづちに焼き尽くされた範囲だった。


「それだが、【パンテオン】共め、一泡吹きそうなのだ」

「なんと。それは?」

「大霊の語るには、我らより以前からきゃつらを睨んでいた二羽のハゲワシが丁度この裏から来て獲物を奪うからだ」


鉤鼻の老人はもう一度ざらつく天板を叩いた。


羽飾りの老人は目眉を開き、感じ入った顔をして頷いた。


「それはたいそうなことだ」

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98765432123年4月5日6時7分8秒9公開予定






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★『ゼロメタルダー』

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上空をパラベムの音響砲空中要塞が旋回し、高デシベルの音波で人間の抹殺を常に行っているのだ、ホイッスルのような機構から生じた音波が地上に向けられるとその場に居た生物は体内の器官をジャムのように潰されてしまう、中性子爆弾のように効果的な放射線を出さないが特殊な弾薬は要らず、ビームより遥かに効果範囲が広く、弾薬や砲塔の重量に悩まされることもない。また空中要塞への給電は宇宙からマイクロ波で行われ、システムは着陸しての補給が必要がないよう完成されている、ある作戦での制空権奪還に失敗した事で人類側は空も海も失い敗北した。


人工筋肉シートを重ねて作られている、動きにくいキャンセルスーツの振動隔膜から空気を抜く。


音響砲の効果を完全に打ち消せはしないが、広い効果範囲内に入って失神させられるのは防げる、これがないと屋内や物陰に隠れていても危険だ。



21XX年・廃墟



数十年前、大きな争いがあり、一つの決着を見た。


この国からは最後、数百の勇士が天に向けて壮烈な決戦に挑み、そして全滅、【後に続く者は無かった】。世界中に建てられた忌まわしい建造物が昼も夜もなく死の運び手を吐き出し続け、空を閉ざされたまま摂氏四十度の火が世界を熔かした。


それは、勇士たちに翼を与えた一人の科学者が生んだ火である、だが彼もまた死んだ。



地下施設で、一人の老人が失われゆくエネルギーをやりくりして一体の機械兵を作り上げようとしていた、大陸の奥地から逃れて奇跡的にこの首都に帰還した男だ、ここの元の主は彼とは逆に友のため自ら大陸の奥深くへと入って行った、全てそれが始まりだったのだが、今となってはもう意味を持たない過去である。


「コロイド状組織にまではこぎつけた、だが自発的に集合し組織化するには何かが足らんのか…」


老人、ドクター・コヨーテはダイアモンド製シリンダーの中に満たされた溶液を凝視していた、超微細な配線が発生させた電界に導かれてナノマシンがもやのような見かけの人型に集まっている、内部は極めて繊細な状況にあって量子演算装置が熱や電磁波、果ては重力による細かな対流を予測し制御していた、この装置は元来流体演算の実験装置だったものを流用した人工生体研究用のものである。


リニア回路製キュービット量子素子や光コンピューティング素子に最早拡張性の限界を見ていた電算機業界は、次に要するに「膨大な量子的効果の塊」である物性というマクロなものに更なる可能性を求めていた、わずか三つの実体の関係性すら通常の数学を基とする科学理論ではお手上げになるが、現実の現象はそれによって「フリーズ」など起こしておらず、しかし厳密に秩序正しく時間を進行させている事は明らかなのだ、目の前にあるあまりに明らかな現実をなす真理の秩序は人間の理解できる数学を含んでいるが、逆ではない。この先へ進むには「強いAI」を要するだろうが、生憎それは果たせなかった。その前に文明は自滅してしまった。


ドクター・コヨーテは歯がみした、あの暴虐に満ちた魔境に押し込められて仲間たちが命がけで探究させられていた科学技術はその他の文化圏を超越していたが、たった一人の天才にはやはり及ばなかったのだ、彼は複数の高度なAIを自作し助手として操っていた「拡張人類」でもあった、実力にどれだけの差があったのか。


「データベースで調べよう」


紙で計算するつもりで白衣のポケットから出したペンを放って手に「呼び出し」の形を作る。


床や壁面のセンサー素子は室内をどこからでも見ていてそれに応えた。


『待機状態です』


最低音量のソリトン波で音声が届く。この部屋は世界を滅亡させた地獄の軍団に対して抵抗できるよう作られていた、内部空間にコンピュータが捉えていない場所はなく、外部に向けては音も光も電磁波も熱もほとんど漏らさない、中で人が長期間生きられるようチップ化された化学処理プラントが空気の成分を調整し、排泄物を分解して必須アミノ酸などを含む溶液へと再生する。長いこと栄養はゼリー状のそれから摂っているが、ドクター・コヨーテは食に対して元来淡泊で特に苦痛を感じていなかった。また部屋全体のエネルギー源はどのような理由でか設置されていた放射性物質の崩壊熱から得ている、外敵にやられるか致命的な病気にならない限り、天寿を全うするまでこの穴蔵に居続ける事が可能だろう。


「前回表示のテキストを視界に」

『了解』


壁や天井、床…、所々にある白い表示用の平面がモニターとして使用され、どれに視線を移動してもそこには丁度いい大きさでテキストがあった、端に視線をやり前後を「見よう」とするとスクロールする。アイコン操作は手の形で。


「さて、誰のデータから見ていくか…」


今はもう存在していない「インターネット」の巨大な写しからヒントになりそうな情報を探っていく。何日も見続けていると既に世界が滅んだのも忘れかける事がある、何しろストレージは脳に比べて巨大化し過ぎていた、文字情報に関しては全くの飽和であって、百年前の人間は既にごく一部を読むのにも一生を使い果たすようなものに出くわしていた。


ここには科学論文が莫大に残存している、よくよく探せば何でも答えがありそうなほど。


あの天才は天然のものと大きく異なる生体機構と呼べる「機械」を編み出していたのだ、何故かそれに近いものが作りかけでここに放棄されていた、これを完成させられれば地上を取り戻せる可能性が生まれるだろう。



数日後


論文探索の合間。


「何だこれは?」

『タブロイド記事です』

「いつのものだ?」


低級AIが読み上げた日付は戦争開始よりも前、平和な時代のものだった。


キーワード検索を片端から読んでいて印象的なマークが表示されたので目についたが、内容があまりにも意味の分からないものなので少々気になった。


題名は【サジタリウス照準器】。これすら意味は分からないが、何故かネットの片隅にずっと残っていたようだ、百数十年も前からだ、著者の名は…。


「―こんなものを読んで時間を潰している場合ではない、ここの主の手がかりは本当に無いのか?」

『クラッキングにより全て抹消されていると推測されます』


いつの時点でかここは放棄され、外部から元の主の情報が消された、恐らく隠しておくために必要となって本人が消したのだ、論文でも残っていれば考え方の手がかりになりそうだが、何者なのかようとして知れない。かの天才のもので知識を補えるかというとそうではなかった、具体的な技法の部分でかなり違うのだ、人工生体のような高度に階層性を持つ複雑なシステムは細部それぞれに関して考えるのに「トリップする」ような発想の転換を要求される。細胞学だけでは身体構造の器械的構造を測りかね、また情報理論を知らなければ中枢神経系の構造についても考えあぐねる。何か一種ごとに総体としての工学を特別に要するだろう、これは人間の知能の手に余るような仕事だし、やるからには統合的な思想の部分が肝要だ、それに基づきそれぞれの細部に関してどのような「考え方」を採用したのかという。


あのナノマシン全体を集結させる方式について、その奇跡的整合性を掴めねば部分同士の不協和によりあれは完成しない。






『答えが出ているなら…私にも一つ教えてくれまいか?』


施設の主は動画でそう言っていた、その謎を書いたホワイトボードの前で。



写真には有名なあの男がボールを手に素粒子物理学上の発見について話しているのが映っていた。当時まだ解明されていなかったはずだ。


ビリヤードボールの配置を、あの男の友人だった有名な天才が導き出した象徴的な図に並べる。


プログラムはそれによって起動したようだった。


「こんな条件で相互の連動が…」



各所に仕込まれていたマイクロチップが、それ単体では意味不明のコードを応答し、全体が計算的手法では先回り不能の処理を進行させている、まるで生理的反応過程だ。


ソース「エッグ」は無数のジャンプコードで読まれ、一連のプログラムを構築して行った。


数日前に写真の通りにボールを置いた時からその過程は始まっていたのだ。トースターまでもが作業に加わっていた。「こそ泥が入れるなら卵は割れている訳だ」


「成程、このプログラムはまさに「ここで」発生したものだ…」


この隠された研究所全体がまさに卵なのだ、物理的に。


最終的にそれは、構造として11次元を持った巨大な「画像データ」を読み込み始めた。


脳、そのコネクトームを展開した、一連の暗号だ。

どのような精神がそこに眠っているのだろう?











「我々虚無人戦隊は…ダルマを求めていた、因果応報を。この世にはあるべきエレメントがない」

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98765432123年4月5日6時7分8秒9公開予定







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★『デンタル革命最新話C』

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これは…



真白な、鮮烈な、強烈な太陽が闇の中から照らす。



天空に蒼は尽きて、墨を流したような黒に到達している。



周囲に見える遥かな大地は、うっすらと青い光に包まれていた。



今魔道士は体の周囲に気泡を発してこの異空間までへ上昇している、自身のオーラで強烈な光から身を守らねばとても耐えられないところだと分かったが、野心的企ては成功したのだ。



しかし、思いもよらなかったものを、彼は見ていた。



遥かな高みへ目を凝らすと見えるのだ、巨大な四足獣とそれに騎乗する黒い影が、その仮面を着けた人影が。



『パンテオン…、何と言っていいかわからない、あなた方にこれが伝わるかどうか。…今わたしはシャイニング・ウィザードの神都を目指す途中であるが、巨大な…馬にまたがった戦士を見ている、惑星らが舞う果てもなき闇へ続く高みの中を、彼は行くようだ…』


魔道師は魔道具に頼って送られる言葉の波動を自身の指導者らへ向けた、ここに居続けるのに精いっぱいで、集中力を明確な心象の伝心にまで向けている余裕はない。


『彼はイッグかも知れない、終末の三騎士の誰かかも知れない。今わたしの居る所よりずっと高い位置から静かに地上を見下ろしている、まだその時ではないからだろう…』


何とか、見ているものを詳細に伝えようと努力した。


『槍と弓を背にしている、石によると思われる仮面を着けている、あの武器が決して振るわれる事のないのを祈りたい、一つの国をまたぐほどの距離があるのに、肌に風を感じるとてつもない霊威だ…』


……。


返答する者があった。


【私だ】

『エルダー・マシアス…?』

【ザビエル、それは天上の理だ、我々はまだ膝を撃たれた獅子王と同じだ】


地上の王たちは惑星がどういった力学によって公転しているのかをその時まで知らず、今もまだ触れ得ぬものとしてそれについてはあらましすら知ったとは言えなかった。【書】にも記されていない太古の叡智をものにし、月に脚をかけて駆け上がらんとした大いなる獅子を袖を振るだけで地に屈させた真の軍神の御座は余りにも遠いのだ。


ザビエルは影への関心を断ち胸に十字を切って瞑目した。


『エルダー、キングダムの学院は本当にソールキントを招来できるのか?古王国の魔力器もなしに…』

【その地にあるのは古の器だけではない、ロッジの外延の仔たるUAも動いている。君が危ぶむ必要はない】

『…了解した』




影と彼を、更に遥かな高みから離宮にいます月の皇帝が見守っていた。



しかしそれらはたまたま居た小鳥なのだ。


皇帝が気にするのは空の彼らについてでなく、地に関する事柄であった。


《砕けちゃうかも…》


表面で何か生命活動をやっている小鳥らもその時は終わりだ。


ちょっと大変そうなので、早速宇宙市役所の生活相談室に電話をかけた。


『あ、もしもし…はいそうです、私が変な皇帝です。…ちょっとうちの母屋のことで』








おい、見てみろよ。


校舎の屋上、二人は漫画本を読んだりして過ごしていた。


屈曲した形状を持つ、銀色の回転する刃が【月影】を切り裂いて落としていく。


「グラントが置いてった自航衝角だ、どうやら大陸からまた土性の化体でも飛んできたらしいぜ」

「また黄蛇の類か?ここのところ多いな」


遠い外国から来て見たこともないメカニカルなものを無数に伝えてきたグラント達は、飛翔する化け物を切り落とす兵器を置いて行ったのだ、町の自衛力は格段に上がっている。


だが忍術や祈祷の力はまだまだ必要だった、ここも忍術科の高校だ。


「おっ、また切り落とした、どうやって動いてんのかなアレ?」

「AI制御だろ、アッチ資本の半導体工場また建つんだってよ、PCのマザボの部品って今大体こっち製なんだって、やしいから。でもCPUとかグラボのGPUは技術盗られるからって絶対作らせねえらしい」

「植民地にされてんじゃん…」


一人がニッカポッカにも見える制服のズボンのポケットからスマートフォンを取り出して友達の他校の知り合いが上げたというバカ動画を探し始め、探しているだけで昼休みの時間が終わりそうで舌打ちした。


「おーー、山のハッチに引き揚げてく、おつかれー」


自動衝角を望遠カメラで撮ったという画像を検索すると全面穴だらけのブーメランが出てきた、その無数の穴からミリ秒単位で超小型のバーニアをふかして推進と姿勢制御してるんだとか。そんな複雑な機動は高度なAI抜きではとても制御できたもんではないらしい。


もうなんかの生き物である。



屋上から遠くを眺めていると盆地ののどかな緑の風景に神代石神戦争で突き刺さった無数の石柱が立っている、遠くのイガキ山と「御柱山」には人工物とは到底思えない「封神太一」と彫られた巨大石柱が刺さっていた。



二人とも自分たちが食べたパンやスナック菓子の袋をレジ袋に詰め込んで、ぼんやり話し始める。


「なあ、将来なんかやろうとか思ってることある?」


スマホをしまって寝ころんで空を見ながら一人がそう訊くと、マンガ本を読みながらもう一人が答えた。


「俺はいつかカカノコ山の山門を見つけて山に入り、神鉄を手に入れて神鉄剣を打つ」


「シンテツって、なに?」


「神の鉄だ、五行において土の気が凝って生まれる金属の中で一番強いのが鉄、神界の土の気で生じた鉄は浮世の何よりも強靭で斬れぬものの無い神の佩刀となる。伝説の十拳の剣は神界にあるカカノコ山の鉄で打たれた」


「神界の山にある鉄なんかどうしようもないだろ…行者が苦行の果てに意識だけ飛んで見に行くって異界じゃないか、掘ったって戻ってきたら幻だよ」


真上の空には綿雲が輪郭を光らせて漂っていた。


「そうとも言えん」


マンガ本を閉じてポケットから折りたたまれた紙を出して広げた。


「これは、俺が家の蔵で切れ端を見つけてから何年かして古物商の店の奥で見て、毎日通って描き写した神仙界センポラの図だ、崑崙から渡ってきた掛け軸だというが絵そのものは天竺で僧が描いた、山の名前と配置を古文献を参照して本朝の神話に翻訳し、図の形をそれに合わせて改変してある」


ビラッ、と、寝ころんで見ている空にかぶさるようそれが転げられた。


「それはつまりお前が描いたんじゃん…」


「そしてここにあるのがカカノコ山。このセンポラ図の世界は精神の世界だから誰の中にもあって修行で飛べるんだが、龍脈が神気を溢れさす現世の霊場には地続きの道や洞穴があると言われている、本朝の霊山で最も龍脈が強いのは阿蘇、三輪、富士の山、この中でも神さびた美しさが一番なのは天にも届く富士だ。…美しいというのは心にとって真実の形をしているということ、そして富士のふもとには木々の海原が広がり、強い木気によって時空が歪んでいると言われる、神界と浮世の間にはアメノヤチマタと呼ばれる入り組んだ辻があるという、それがここに繋がっているんだろうと思う」


「センポラの図を目指しててタカマガハラに行けるのかよ?」


「神界は入りようは全人類共通なんだ、形も似ていると言われる、入ってからは信ずるものごとに行き先が違って自分たちの神の世界に導かれるそうだ、富士は柱源の境界を得たという大行者オヅノが開き、西域の伝説にある蓬莱山とも言われる、神気横溢の大霊場だ」


「にしたって富士って、ここから遥か彼方じゃないか、それに穢土に近いぜ?」


「穢土までは行かん、それに大丈夫だろう、コノハナサクヤヒメのおわす所だ」


「魔王マサカドは都まで飛んで来たって言うよな、駿府あたりで止まらず…」


「気にするな。それより、アメノヤチマタに入ってどうにかカカノコの山門を入れれば神鉄を掘り出して神鉄剣を造れる、それがあれば穢土から何か出てこようが恐れる事は無いだろう。…まあこいつは可能だったとして、古代海戦で失われた宝剣の二代目として朝廷へ納めるものになるだろうがな」


「とてもできそうにないぜ?」


「かなァ…」


二人とも静かになった。


鳶の声が聞こえてくる。



ポン!!



空の方から運動会の始まった花火のような音がした、寝ころんでいた方の少年が首をそっちに向けると、黒煙が残されていて自航衝角が火を吹いて滑るように墜落しているのが見えた。


「おっ!?なになに?衝角が堕ちてんぜ!?」

「マジか!?」


二人が見ていると、何か黒っぽいものが空に居て次第に高度を下げながら近づき、校庭に落ちてきた。


ドッ、という重量感のある音がし、見れば緑がかった馬のようなものがグラウンドの真ん中に倒れていた。


「おおーい、馬ァ」

「馬が落ちてきたな!」


二人がそう言いながら手すりに乗り出して見ていると階下の生徒たちも音で気がついて騒いでいた、そしてすぐさま教師らが出ていく。



午後の授業は一時中断…というか訓練の一種に変わり、「落ちてきた馬を観察」という忍者としての観察眼を働かせる自習になった。


「ヒカルくーん!」

「ヒカくん!!!」

「ヒッカー!!」


教師らが校庭に行ったのをいいことによそのクラスへ押しかけて行く女子のグループがあった、途中までローラースケートで登校してきていると噂の「ヒカルくん」目当ての女子らだ、全員蛇の血を引いているとかの噂で、スマホを使い人海戦術のカメラワークでどこにでも潜んで24時間彼の行動を全て撮影していると言われる。


そのデータベースはダークウェブの底に広がっていて莫大な量があるともいう。


「んはー、あの馬絶対宇宙から来たよねー、近づいたら感染する病原胞子出してて馬になるやつだわ、そういう古文献見たことあるし、支配的な見方なんだよねー」


オペラグラスを覗きながら噂好きの女子リン・ショボーがあることないこと言い始めた。


「飼いてぇー…」


ものほしそうな目で馬を見ながらUMAマニアの六五郎が呟く。


「ウマそう…」


辰巳さん…とりあえず生き物を見ると食欲を起こし、常にマスクを着けている「モッケー部」の女子は多分今もよだれを垂らしていた。角が生えてる事に関しては誰もあえてツっ込まない。


この三人は妖怪に対する間違った反応の見本のようなもので、何か出るとよく並んで眺めている。



やがて、役所の方にも連絡が行って専門家らしき人物が現れた。



「すげえや、水干着てるぜ今時」

「猫丸連れてたな」

「天神さまの戦闘器だろ?邦境警備隊じゃねえん?」


正門の方から順に生徒たちが見ただけで騒ぐ、それは陰陽師とか土御門とか呼ばれる一族の専門家だった、コンピュータ制御のロボットとは根本的に違う「器」を大昔から使っていて今も黒塗りのそれを連れていた、緑の馬は脚を折って立ち上がれないようだった。


彼は自分の器に馬に触れ調べさせた。


東国の火焔器、蝦夷の遮光器、大陸の金器。人型や動物型を用いた依り代の「器」を、どこの民族も戦闘用に持っている、猫丸はその最新のもので、かつて量産されていた埴輪型土器を発明した一族の末裔である天才が生み出した。


長い刃を備えていて極めて俊敏でしかも雷撃を使うため、地上に敵なしとされている。




「あ、そういや、転校生のこと思い出した」


「明日来るんだっけ?」


「ものすげえ金持ちなんだって、三年ぐらい前に大きい古墳が掘り返されて、近所の人が史跡に何すんだって文句言いに行ったら「当家の建物を改築しているだけだ」って言われて、今屋敷が建ってる」


「どーゆー身分?」


「さあ…?」


「よっぽど金には縁がありそうだけど」


「あーーー、辰巳ちゃんよだれだくだくじゃん、あの馬そんなウマそうなのかねえ…」

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98765432123年4月5日6時7分8秒9公開予定

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