レッドラム
「すまないが、なにを言っているのかわからない」
「文字通りの意味だ」
殺されてくれ、とはなんのことだ。
気でも狂ったか、ライト。
「というかなぜ一人で来た」
「ああ、ジャスティンは邪魔だかんな」
「まさか……」
最悪の展開が脳裏をよぎる。
「殺しちゃいねーさ。ジャスティンを殺るのはあとだな」
と言って、透明な液体の入った瓶を見せつけてくる。
「眠り薬だ。おねんねしてるぜ。ちなみにおまえにも使ったんだけどな」
「……俺をクビにした日か」
「ご名答」
食事をしたあと、猛烈な眠気に襲われたのをよく覚えている。そうだろうと予想はしていたが、マジとなるとショックだ。
「で? 殺されてくれ、とはなんのことだ?」
再び尋ねる。
返答はねっとりとしたいやらしい笑みだ。
「おまえを殺してーんだよ。なあ、ケイオス。殺されてくれよ」
「そうは言うが、おまえと戦う理由はない」
「へえ……言うじゃねーか」
自信たっぷりの顔だ。
初めて見る元・仲間の一面。表情は黒く、濁っている。
「ジャスティンはおまえを憎み、クビにしたがってた。けどな、迷ってたんだ」
「……それがどうした」
「はっきりとクビを進言してやったのは、おれだ」
「……」
「背中を押してやったんだよ」
ライトは薄気味の悪い笑いをやめない。
俺を挑発しているようだな。
「だからなんだ。なにが言いたい」
「なんだよ、怒らねーのか。だったらよ、戦う理由ってのを作ってやろうじゃねーの」
「何の話だ」
「おれは……これまで二十四人殺した」
「なんだと?」
「全員冒険者。どいつもこいつも自分が強いと思ってるイキリ野郎だ」
なにを言っているんだ。ライトも通り魔だったということか?
「こっちからインネンふっかけて、返り討ちにする。見物だぜ? 殺されるなんてこれっぽっちも思ってねーヤツらの死に際はよ」
「なぜ、そんな真似をする」
俺の問いに対し、待ってましたと言わんばかりにライトは笑った。
「気持ちいーからに決まってんだろーが!」
理解に苦しむ。正気じゃない。
「だが……そんなことをすれば警護隊が黙っていない」
「おいおい、おれは『大炎魔法士』だぜ? 装備ごと死体を燃やしつくすなんざわけねーんだよ」
証拠隠滅までやったのか。
「なんということを……」
「な? これで戦えるだろ? っていってもこれから始まるのは一方的な虐殺! おまえは地獄の苦しみの中で死ぬ!」
「待て、俺は別に自分が強いなどと思ったことはない」
「ああ? おまえはクソ雑魚だろ。そんなのは知ってんだよ。おれはな、おれを憎んでるヤツ、恨んでるヤツ、そういった馬鹿をぶち殺すのも大好きなんだよ!」
呆れたものだ。会話をするのも苦痛になってくる。
「……ライト。おまえは、狂っている」
「知るかボケ。なあ、おまえ、クビにされておれを、おれたちを憎んでるよな? 恨んでるよな? 怒れよ、顔を真っ赤にしてよ!」
なんだこいつは。倒錯しすぎだろ。
「それがおまえの本性か」
「そうだ! だから殺されてくれねーか、ケイオス!」
これは相当だな。相当にアホだ。そして、許されざる犯罪者。
俺は一息吐いて、ライトを見る。
分析士のスキル≪眼力≫を発動した。
「やめておけ、おまえに勝ち目はない」
「……は?」
「無理だ。おまえでは俺に勝てない」
「なに言ってんだ?」
ライトが一人で来た時点で、すでに詰んでいる。
レアな天職を持っていようが、関係ない。これはルールスの時も同じだ。
「ハッタリもいい加減にしとけよ!」
プライドが傷つけられたライトは、魔法を放った。
紅蓮の火球を三連発。基本的な炎魔法だが、ライトが使えば一つ一つが必殺の威力を持つ。
剣を抜いた俺は、まず最初の二発をかいくぐる。そして三発目を剣で斬った。
真っ二つになった火球が霧散し、熱気だけを残す。
「……? なんだ、おまえ」
ライトはもう一度同じことをした。
結果は同じだ。
「ああ? なんでかわせる?」
「ライト、おまえとは五年も組んでいたんだぞ。俺が分析士だということを忘れたわけではないだろう。おまえの癖も攻撃パターンもなにもかもを把握しているんだ」
「……んだと?」
ライトは最初の二発を囮に使う。そうして敵の行動を限定し、本命の三発目を当てるのだ。
何度も繰り返し見たヤツの攻撃パターンは変わっていない。
来るとわかっているものなど俺には通用しないのだった。
「もうよせ。そして出頭しろ。不安なら俺が付き添ってやる」
勝負にならない。と言外に言われたライトは震えだした。顔を赤黒く染めて、再び魔法の発動に入る。
「燃え尽きろ! ゴミ野郎が!」
ライトの両手から放たれる火炎。
今度は≪紅蓮大火炎≫か。
「家を燃やされてはかなわないな」
俺は回り込みながら、家とは逆側に走った。それを追いかけてくる火炎放射。
さすがに熱い。汗が出てきた。
先ほどの火球とは違い、面を攻める大火炎放射は避けづらい。
距離を詰めたいところだが、簡単にはさせてくれないだろう。
だからこうする。
結果的におまえたちからクビにされたことで手に入れた魔法を使う時だ。
「……影魔法≪影の中の黒子≫」
発動した魔法が、即座に俺の肉体を影中へと沈みこませる。
直後に通り過ぎた火炎は、なにもない虚空を焼き払った。
『な、なんだ!? 消えやがった!?』
消えてない。影の中にいる。
泳ぐようにライトの真下へと移動し、音もなく背後へと飛び出た。
密着し、後ろから剣を喉に当てる。
「……お、おまえ、なにを、しやがった」
「影魔法だ」
「……な、なんだ、それは」
「説明する義理はない。それよりもライト。教えてくれ」
「……なにを」
「俺はいま、一方的に虐殺できる立場にいるわけだが、おまえの言うような気持ちよさなんてぜんっぜんわかない。むしろ気持ちが悪いんだ。これはどういうことだ? 俺がおかしいのか?」
「て、てめえ……」
「俺は分析士だ。後学のために聞きたい。おまえはいま、どんな気分だ? クソ雑魚だと思っていた相手に、圧倒的な差を見せつけられる気分とは、どんなものなんだ?」
これはあくまでも知的な好奇心だ。
「ルールスは教えてくれなかった。だからライト、教えてくれ」
「ルールス……だと!? おまえ……会った……のか?」
「ああ、俺が殺した。ヤツは金欲しさに罪のない人々を殺し、金品を奪っていたからな。そして俺のところへ来て、金を寄こせと襲いかかってきた」
「ふ、ふざけんな! あいつは『聖騎士』だぞ! おまえに殺れるわけ……」
ぐいっと剣を込める。
切っ先がライトの皮膚を裂き、血が滴った。
「俺の質問に答えていないぞ」
「この……クソカスがああああああああああああああああ!」
雄叫びとともに膨れ上がるのは、ライトの体を覆う巨大な魔力だ。
危険を感じた俺は、すぐに下がった。
「すさまじいものだな」
スキル≪眼力≫で見るライトの体は、炎に包まれている。
「ふはああああああああああああああああああああああああああああ! これがおれの切り札! ≪大炎紅蓮の精霊鎧装≫! 近づいてみろ! 燃えて死ぬぜ!」
なるほど。内側に防御の魔法をかけ、自分の周りに炎を定着。
やはりレア天職『大炎魔法士』の名は伊達ではない。とんでもない才能だ。
「絶対零度の冷気でもなけりゃあ凍りつかねーぜ! 影魔法だかなんだか知らねーが、ぺてんは通じねえ! これでてめーはおしまいだ。だがよ、寂しがることはねーぞ。おまえの彼女もすぐに送ってやる」
彼女、とはエリーシェのことか?
「おれをコケにしてくれた礼だ。てめーのダチも、知り合いも、全部ぶち殺してやるぜ!」
俺はクビを横に振った。
救えない。
そこまで言われたら、もう終わり。
「……ライト、おまえは魔物だ。『殺人者』という名のな」
「なんだと?」
「俺はケイオス。アイツフェルンの準二級冒険者、そして魔物ハンターだ。もはや容赦はしない」
「ごちゃごちゃうるせーんだよ! 死ね!」
俺が大きく息を吸いこんだのと、ヤツが魔法を発動したのは同時だった。
「≪大熱炎線≫!」
「≪氷の息≫!」
絶対零度でもなければ、とヤツは言った。
俺が使える可能性をなぜ考慮しないのか。
絶対零度のドラゴンブレスは、ライトの放つ熱線と真っ向からぶつかり、消し去る。
そして———
「あ」
表情の消え去った間抜けな顔のライトへ、ブレスが降りかかる。
吐き終えたあと、そこに残っていたのは、氷の彫像となった『大炎魔法士』の姿だった。
「……さよならだ、ライト。あの世でその腐った性根を叩き直してもらえ」
言葉とともに、類まれなる力を持ちながら狂気に落ちた魔法士は、砕け散る。
陽光のもと、氷気の残骸が宙の舞うのであった。
おまけ・人物紹介
なまえ ライト
ねんれい 十八
せいべつ 男
ジョブ 大炎魔法士
スキル 炎魔法/炎魔法適性体(威力補正特大)/炎耐性(特大)/熱感知
ランク Dランクパーティー 個人ランク 六級
しょぞく 王都アーヴェス・冒険者 パーティー名『アカツキ』
かぞく なし
こいびと なし
ちょきん まあまあ
みため レッドブラウンの髪・茶瞳
という感じですっ!
書いていると、けっきょく一番恐ろしいのは魔物じゃなく人間……? となってしまいます。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
よろしければ感想、コメントお待ちしております。
次回から最後に向けて加速……できるといいなあ。
では!




