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王国一美しいもの

私がエルローザになって3日が過ぎた。


どうやらこの世界は中世ヨーロッパではあるが、なんちゃってヨーロッパのようで、トイレや風呂、電気、ガス、水道、電子レンジや冷蔵庫、などの生活インフラは全て現代レベルだった。しかし、何故か移動手段だけは馬車であったが…。


正直現実の中世貴族の様に一度ヘアセットしたら数日間風呂に入らず、そのために臭くなる体臭をさらに匂いのキツイ香水で誤魔化したり、用はおまるで足して、そのブツを庭に投げ捨てるようなおぞましい生活は勘弁願いたかったので、本当にそのへんは乙女ゲーご都合主義世界に感謝している。


ただ、3つほど懸念すべきことがあった。1つはこの世界でのテーブルマナーだ。私が公爵令嬢という身分の高い立場にある以上、フォーマルな社交の行事は避けられない。公爵令嬢ともあろうものがはしたないマナーで食事をしていれば他の貴族の奴らに舐められかない。だがこれはそれほど問題ではなかった。基本的な部分は現代における一般的なマナー同じで、さらに私が乗り移った(?)エルローザの体にテーブルマナーが叩き込まれており、意識せずとも正しい所作を取ることができたのだ。


2つ目は服、つまりはドレスの話だ。私の前世が男であった以上、着たことのなかったものだ。この世界はインフラなどは現代的で、テレビもインターネットもあったりするが、服装はその例外であった。中世ヨーロッパよろしくドーム型のスカートを持つ例のアレだ。厳密には違うのかもしれないがまぁそれは気にしたってしょうがない。


ドレスに関してだけは本当に大変だった。服の着付けは全てメイドがやってくれるので覚える必要もなかったが、まず、コルセットの装着が辛すぎた。肋骨を締め付けるコルセットの痛みには初日は思わず発狂してしまうほどだった。さらにはコルセットが肺を締め付けるので浅い呼吸しかできず、常に貧血気味の状態で生活しなければならない。


こんな痛い拷問器具を毎日着けて生活している中世の女性は皆ドMなのではないだろうか?


愉快なドレスの拷問器具はコルセットだけではない。命からがらコルセットを付けた可愛そうな私に、鉄の鳥籠の様なものが被せられた。奴もかなりの難敵であった。クリノリンとかいう奴だ。こいつはドレスのドーム型を維持する為に使う器具で、こいつはシンプルに重い。女性の中にはペンより重いものを持たないと嘯く人が居るかもしれないが、中世の女は米俵でも余裕で持てる力がありそうだ。その上、クリノリンを付けている時はしっかり座ることができない。どれだけ体が疲弊しても基本は立っていなければならない…それもコルセットのせいで貧血気味の状態でだ…


貧血、積載荷重過多に続く最後の敵は足場の不安定だ。そう、ドレスといえばハイヒールだ。前述の拷問器具を装備した状態で高さ10cm近いヒールを履いて歩かねばならない。当然ながらヒールなぞ履いたことはなかったし、普通の洋服を着てヒールを履いても転ける可能性は否定出来ない。


コルセット、クリノリン、ヒールのドレス三悪魔の真の恐ろしさはそれぞれが連鎖して事故を起こすところにある。


コルセットのせいで貧血を起こし、


貧血でよろけてヒールのせいですっ転び、


クリノリンが引っかかって起き上がれなくなる。


その結果出来上がるのはペチコートを天に向かい無様に晒す間抜けな逆さまのレディー…つまりは私だ。


これにはあまりにも腹が立ったので私専属のドレス職人をクビ(命は取らない方)にした。正直死を命じなかっただけ私は優しすぎる。


また、使用人の服を仕立てている職人にコルセットとクリノリンを使わない動きやすい服を仕立てるように命じた。ヒールは5センチまでは我慢しよう。自宅でこんな服を着るのはもう沢山だ。


最後の問題は何というか…私、つまりはエルローザ・グレスティンについでだ。妹が言っていたようにエルローザは国を滅ぼすことが出来る恐ろしい権力を持った女だった。まずグレスティン公爵家唯一の後継であること。この時点で私にはこの国の2割の土地を私有できる権利が約束されている。


さらに私のお父様であるエルランド・グレスティン公爵様はこの王国の宰相であり、王族、公爵家を除けばお父様に逆らえる人間は貴族にすらいない。グロリアお母様は執事のアイシャ曰く唯一の子である私を狂信的なまでに溺愛しており、


「お嬢様にとってグロリアお母様は無限に使える魔法のランプでしょう…(遠い目)」


とのことだった。さらにお父様はお母様に逆らえないらしく、間接的に私はエルランドお父様を操ることができてしまう。要するに王国の行政を悪役令嬢エルローザは操ることができるのだ…(困惑)


ここまでは私の立場や血に連なる権力だ。…つまりまだあるのだった…私の権力のカードは。


その中でも一番ヤバい奴は私の頭の上に乗っていた黒いティアラだった。意識せずに使っていたのでこのティアラがそこまで恐ろしいものだとは思っていなかった。このティアラはフレームはプラチナ出来ており、周りにはダイアモンドがふんだんに装飾に使われている。真ん中には大きな翡翠(このティアラもそうだがエルローザは翡翠が大好きの様だ…ドレスにも翡翠が大量に散りばめているものや、翡翠色のものが全ドレスの6割を占めていた。家具などの調度品も翡翠だらけ。)


だが待ってほしい。ダイアモンドの装飾の真ん中に翡翠の宝石を飾るのは変ではないか?ダイアモンドに比べれば翡翠など下の下の価値しかない。そう思って翡翠の宝石を触っていた時、うっかり翡翠がティアラから外れてしまったのだ。そうしたら何があったと思う?そこにはカルミア王家の紋章が刻まれていたのだ。流石にこれには私も恐怖を禁じ得なかった。


執事のアイシャに聞いたところ、このティアラの逸話はカルミア王国の人なら誰でも知っているほど有名な逸話であるらしい。


「それはエルローザお嬢様が10歳になられた時のことでした。エルローザお嬢様10歳の誕生日を祝う為に王宮にて舞踏会が開かれたのです。舞踏会にはカルミア王セントリアン3世陛下、カルミア王妃ミレーネ陛下の両名を始め、王国宰相グレスティン公爵、財務大臣アルナドット公爵、法務大臣ダランベール公爵の三公爵家、そのほかにも軍務大臣ルーベンス元帥や騎士団長ベルシュ様など王国のあらゆる重鎮が列席しておりました。」


私の誕生日になんて豪華なメンバーが集まっているんだろう…公爵令嬢ヤバすぎる。


「その事件は舞踏会の終盤に起こりました。各参加者がエルローザお嬢様にプレゼントを立場の低い者から順に渡していき、最後に国王、王妃両陛下がプレゼントを与える番になったときです。」


「国王陛下はこうおっしゃいました。『エルローザ、お誕生日おめでとう。私は国王だからなんでももっているよ。さぁ、私に欲しいものを教えてごらん?』国王の言葉に対してお嬢様はこう言いいました。『国王陛下、私は欲しいのはこの国で一番美しいものよ!そう、ミレーネ様の頭の上のティアラが私は欲しいわ!私のほうが似合うと思うもの。』国王は困惑し、ミレーネ様もたかだか10歳のお嬢様にその美しさで喧嘩を売られた訳ですから女性として怒りを隠しきれない様子でした。」


何を言っているんだ私…ミレーネ様ごめんなさい。本当にごめんなさい。でもこのティアラが頭の上にあるってことはこの状況から貰えたのか。


「ミレーネ様は怒りを露わにお嬢様に近づいて言いました。『エルローザ、このティアラは王国で一番美しい私を飾り立てる為に、私の為だけに作られたティアラなのよ。あなたになんか似合うはず無いわ。私が一番似合っているのよ。』大臣たちも皆それに同意し、なんとかティアラを諦めて貰えないかと考えを巡らせていました。」


「その時でした。突如エルローザお嬢様はミレーネ様にさらに一歩詰め寄り、ミレーネ様の唇を強引に奪いました。それも軽いものではなく夫婦がするような舌を入れるディープなキスです。たっぷり1分ほどミレーネ様にキスをし、糸を引きながら口を離したお嬢様はこう言いました。『ミレーネ様が王国で一番美しいものなのね。美しいミレーネ様に怒りの顔は似合わない。だって私の物になるんだもの。国王陛下、ミレーネ様を私にちょうだい!』これにはミレーネ様も絶句するほかありませんでした。舞踏会の空気は凍りつきました。お嬢様はお父様が怒るお母様を宥めるためにディープキスをするのを真似したのです。ちなみにこれがお嬢様のファーストキスです。」


私ェ…なんて事をしてくれたんだ。エルローザって百合もいける口なのか…ファーストキスがそれとかヤバすぎる。流石悪役令嬢…この女が自分自身とか不幸すぎない?


「国王陛下は玉座から転げ落ち、ミレーネ様は羞恥のあまりその場で気絶、エルランドお父様は土下座、アルナドット公爵は抱腹絶倒、ダランベール公爵は頰を限界まで引っ張って夢かどうか確認していました。ルーベンス元帥は驚愕のあまりアゴが外れ、ベルシュ様は3日後まで「尊い…」としか話せなくなりました。舞踏会は大混乱です。」


大☆参☆事


もうめちゃくちゃだよ…よく私生きていたと思うよ本当に…お父様含め皆よく許してくれたなこれ…


「これには国王陛下もミレーネ様の敗北を認めざるを得ませんでした。陛下自らなんでも与えると言った手前、ミレーネ様が敗北を認めなければミレーネ様をお嬢様が持ち帰ってしまいますから。『そのティアラはエルローザに一番よく似合うよ…王国一美しいものはそのティアラだから、エルローザにはそれをあげよう…お願いだからミレーネは連れて帰らないでください』この様にして、お嬢様はミレーネ様のティアラを手に入れたのです。」


「この事件は王国ではエルローザ事件と呼ばれており、エルローザ公爵令嬢は国王から王妃のティアラを賜わり、王妃から唇を賜った、ミレーネ様が後宮の側室と関係を持ち、両刀になったのはエルローザ様が原因であると国民のなかでは認知されております。」


「こんな話聞いた手前なんだけど、記憶を失った私はこの事件を聞いてどんな顔をすればいいのかしらね…」


「笑えばいいんじゃないですか?」


そんな訳でこのティアラは私の頭の上にあるのだった。(白目)


しかしこのティアラはただのティアラではない。王妃のティアラなのだ。このティアラには特別な権力がオマケでついているのだ。このティアラを持つ私は公爵令嬢ではなく王妃と同じ待遇、つまりは王族と同じ待遇を受けることができる。外国や他の貴族の屋敷に招待された時、最高級の国賓や来賓としての待遇を受け、私は公爵のお父様よりも上座に座らされる。王城のあらゆる場所に入れるし、もちろん国王の寝室にだって顔パスで入れてしまう。

王妃のティアラ強すぎない?


そして改めて思います、エルローザ頭おかしい(困惑)

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