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生命のはじまり、火の襲来 第1章ー8

 深夜。神皆葉は、布団の中で、今日の出来事を振り返っていた。


 入学式で何気なく助けた女――円麗。素直に礼だけ言えば良いのに、自分の行動に何かと口出ししてくるお節介焼き。鬱陶しく思っていたのに、しかし、そんな彼女に、妙な好感を覚えている自分がいることも確か。仕舞いには、夕飯にまで招待してしまった。


「僕は、人と関わりたいのだろうか」


 物心ついた頃から、自分は障害者だった。右半身がまったく言うことを聞かず、何をするにつけても、育ててくれた叔父夫婦と神奈の世話になっていた。


 そんな皆葉を、虐げる者がいた。当然だ。自分より劣る者がいれば、それを襲うのは、自然の摂理。弱みを見せれば、殺される。実際はそこまで重くはないが、当時の皆葉からすれば、死を意識することもあった。


 その環境から脱しようと、皆葉は足掻いた。右半身を動かすため、ありとあらゆるリハビリをこなした。小学校高学年ぐらいから、彼の右半身は割り方自由に動くようになっていった。


 だが、まだ学力の面で彼は劣っていた。計算能力が、同年代の子供と比べて、二、三年は遅れていた。だから、皆葉は勉強した。足りない力を、時間を掛けて補っていき、中学校に入学する頃には、どうにか周りからバカにされないぐらいにはなった。


 しかし、そこまでしても、自分を虐げる者は消えない。他人との付き合い方が、未だに良く分からない。仲良くなろうとしても、大半の者は自分を避ける。イジメる者が三割ぐらい現れ、しかしいつの間にか、彼らは再起不能な障害を負う。一割ぐらいの人は、仲良くなってくれるが、しかし、少し経てば自分から離れてしまう。


 皆葉は、そうした顛末を見続けて、やがて人と関わるのを諦めた。自分と関わると、不幸になる。そう。皆葉は悟った。


「ちゃんと、言ったのに。それでも付き纏うとは……変な女だ」


 自己紹介で吐いた、拒絶の言葉。戯言と受け取っていたようだが、事実なのに。なんで、彼女は無視するのか。でも、そうしてくれる彼女を、皆葉は嬉しく思ってしまう。


 そんなことを考えていると、突然、玄関から物音がした。


「神奈?」


 妹には、寮の合い鍵を渡してある。この部屋に入れるとすれば、彼女ぐらいだ。だが、入ってきたのは、神奈ではなかった。


 神奈と同じ様な緑色の髪をした女。だが、そこには感情が見えない。機械のような無機質な表情をした女が、そこにはいた。


「……誰だ?」


 幽鬼のようにゆっくりと近づいてくる女に対し、皆葉は布団から起き上がり、身構える。


「神皆葉。お前は選ばれた」


「選ばれた? 何に?」


神の道化(キャスト)に。故に、お前は戦わなければならない」


「戦う? そんなこと、僕には興味ない」


「お前に、拒否権はない」


 突然、女の動きが加速した。どこから取り出したのかしれないが、その右手には、槍がある。緑色の槍だ。武器の様な印象ではなく、祭儀に使うような、見栄えの良いものだ。しかし、研ぎ澄まされた刃は、美しさだけではなく、十分な殺傷力をも兼ね備えているように見える。


「……痛!」


 迫ってくる槍を、横に転がって回避する。しかし、女の動きは早く、立ち上がって逃げ出そうとする皆葉の足を、二撃目が捉えていた。忽ち、皆葉は崩れ落ちる。


「抵抗は無駄だ」


 仰向けに倒れた皆葉を、女は馬乗りになる形で制した。


「嫌だ! ようやく、僕は変われそうなんだ! こんなところで」


 最後の言葉は、女の槍によって止められた。皆葉の心臓が、槍によって穿たれた。


「あ、あ……」


 ゆっくりと、皆葉の意識は途絶えていく。

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