水の咆哮 第5章-4
作業が捗ったので、本日2回目です(まあ、前回上げ損なったので、本来なら違うのですが)。
* *
「――――――!!」
咆哮と共に、律華が前進する。
両腕を後ろに回すと、新たに背中に生えた2本の翼が引きちぎられる。
「ほう?」
迎撃の構えをとりつつも、興味深そうに、光冥は観察する。
「――――――!!」
人としての意識がないのか、口から出るのは叫び声だけだ。だが、律華は明確に、討つべき敵として光冥を認識し、右手の翼を叩きつけた。
対する光冥は、籠手を装着した左腕で、翼を弾く。有機体と金属がぶつかり、鈍い激突音が周囲に響いた。
だが、律華は止まらない。先刻は、増していく光冥のスピードについていけなかったのが、今度は逆に、凌駕する程だ。
「面白い」
防戦を強いられる光冥。しかし、その瞳は黒い輝きで満ち満ちていた。律華の動きを細部まで掌握していく。
「――ここだ!」
連撃の繋ぎ目、その僅かな隙をついて、光冥は律華の翼を弾いた。強烈な打撃からか、律華は2本とも翼を手放してしまう。
「――――――!!」
律華は再び、翼を2本引きちぎる。だが、同じように光冥に迎撃されていき、やがてすべての翼が周囲に飛んでいった。
武器がなくなり、たまらず律華は後方へと距離をとる。
「さあ、ここまでか?」
離れていった律華へ、光冥は挑発する。
「他に出し物がなければ、終わりだぞ?」
そう言うや、光冥は疾走する。離れた距離は一瞬で縮まり、神霊結晶を纏った拳を叩きつけんとする。
ドラゴンの装甲に対して、光冥の特性は通用していないが、鉄壁な護りというわけではない。数を重ねて、装甲を引き剥がそうと試みる。だが、
「な……に……!?」
拳が当たろうというところで、突如6色の閃光が光冥を襲った。
不適に律華は笑い、
「――終わりなのは、貴様だ!」
肉薄した光冥に渾身の右ストレートを叩きつけた。
* *
律華と光冥が激闘を繰り広げるグラウンドから遙か離れた上空。そこには、数機のドローンが2人の闘いを観測していた。
そのドローンはNINJAが用意したものだった。映像は、NINJAの所へ送信されている。だが、他にも映像を見ている者がいた。
グラウンドへと続く通路。そこに、白衣を纏う壮年の男だった。手元にある端末で映像を受信し、2人の状態を把握する。
「どうやら、力を制御できているようだ」
律華の闘いぶりを見て、男は安堵する。
その映像は、誰もいなくなった新緑高校へ立ち寄り、神奈が干渉した端末に再度干渉したことによるものだった。ドローンのデータ送信先に、自身の端末を追加させている。
白衣の男は、端末を確認しながらも、戦場へと駆けつけようとする。
* *
(上手くいった)
2つの意味で、律華は自分の制御を誇る。
1つは、10年前に使用していらい封じてきた力を制御できていること。
もう1つは、周囲に飛ばした翼の制御。
元々、竜律華には魔術の素養がなく、生来のドラゴンの力があるだけだった。そのドラゴンの力も、10年前に光冥による襲撃を受けた際、暴走する形で解放されたきりで、それ以来律華が使うことはなかった。
奇しくも、光冥を迎撃するために発現したドラゴンの力は、光冥から神霊を奪うことになった。
”火”、”水”、”天”、”地”、”光”、”闇”。それらの宿る神霊石から神霊が離れ、最も近くにいた律華に宿った。
ただの人間ならば、神霊石という器から解放された神霊を宿せば、制御できず死んでしまう。だが律華には、ドラゴンの力があった。
さらなる偶然か、6つの神霊は律華の中で6つの人格となった。それは、律華の身体がドラゴンを制御させようとするためか、家族を失った悲しみを紛らわせようとしたためか。原因は不明だが、結果として律華の力は、6つの人格と力を得たことによって、制御されることになった。
それら6つの人格は、今では1つの人格として統合され、明確に律華の意志で、神霊の力とドラゴンの力を制御している。
そして今の闘い。律華はドラゴンの力に呑まれたように装い、単調な攻撃を仕掛けた。
翼を弾かれたように装い、周囲の中空で待機させた。だが、翼には1つずつ疑似的な人格と魔力が込められており、律華の意志によって行動が可能となっている。
時宜を図り、律華は罠として展開させた翼による魔力砲撃を放った。
律華は構えを整え、光冥の逆襲に備える。
(魔術もこの拳もクリーンヒットした。だが、この程度でくたばるはずがない!)
「なるほどな」
律華の思考に応えたかのように、光冥はばねのように跳ね起き、律華を見据える。
「面白いぞ、娘よ。10年前、初めて眼にした時も思ったが、その力――非常に面白い」
拍手をする光冥。両腕に籠手を装備しているので、耳障りな金属音が響く。
「それに、暴走したように見せる手管も良い。かつての貴様を知っているが故に、だまされたものよ。
さて、今の貴様に対抗しようというなら……こうか?」
光冥が右手を自らの胸に当てる。
「そっちが6つなら、我も6つ必要というところだな。来い!」
光冥から膨大な魔力が放たれる。6つの光に染まった魔力が吹き出し、そして光冥の周囲に”石”が漂う。
「神霊石?」
「左様。貴様に神霊は奪われたが、魔力の貯蔵庫としての役割は果たすのでな。それに、こういった使い方もできる」
光冥が右手を振るうと、神霊石はそれぞれが発光する。そして、
「チッ!!」
舌打ちと共に、律華は翼を全面に展開。魔力を発現させ、障壁を展開する。
直後、神霊石から先の律華と同じく、6色の閃光が放たれた。
ぶつかる閃光と障壁。周囲に爆風が広がっていく。
「さて、これで条件は互角か?」
爆風によって視界が遮られる中、光冥は閃光の結果を確認せず、前進する。到底、こんなものでは律華を仕留められるとは考えていない。いや、死んでもらっては困るのだ。それは、
「もっと我を楽しませよ!!」
”愉悦”ゆえに。
闘いはまだ続きます。




