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水の咆哮 第3章-2(3/4)

3分割と前に書きましたが、予想以上に長くなったので4分割です。

「ちょうどいいところにあったわ」

 神代神奈はオートバイに乗っていた。

 教育区のモノレール駅に放置されていたオートバイに乗り、モノレールの沿線上を走っていた。いや、モノレールのレール上を走っていた。

 新緑町のモノレールは、レールの上にまたがる形で設置されているため、オートバイが走るスペースはある。しかし、少し左右に揺れるだけでもすぐさまバランスを崩す上に、地上からの高さが30メートル以上のため、常人ではまず走行しようとは思わないところだ。

 だが、麗は動揺することなく、軽快にオートバイを走らせていた。


「結構応用が利いて助かるわ」

 麗はオートバイに乗る前に、”生命”の力をオートバイに注入していた。

 そもそも鍵がないため動かすことができないはずだが、魔術によってそれをクリアした。

 さらに単車に乗った経験のない麗だが、オートバイに宿った生命が操縦を補助し、僅かでもふらつぐことがあれば直ちにオートバイが姿勢制御を行ってくれる。

 麗は一刻も早く神皆葉の元にたどり着くために、不安定な足場にもかかわらず時速120km以上の速度を出しているが、オートバイの——魔術によるサポートを使うことで無茶な走行にも何とか耐えることができた。



 高速で走ってきた甲斐あって、神奈は10分程で商業区のモノレール駅にたどり着いた。

「ありがとね」

 物言わぬオートバイに礼を告げると、麗はオートバイから下りてモノレール駅の中に入っていく。


「確か、駅員室にいるって話だったと思うけど」

 軽快な足取りで麗は駆けていく。数分も経たずに、目的の駅員室を見つけることができた。

「さて、兄さんは……」

 扉を開けると、


「……………………」


 皆葉と麗が口づけを交わしていた。




 どのくらいの時間が経っただろうか。

 実際の時間は1分にも満たないだろうが、彼女にとっては随分と長い時間、嫌な光景を見せつけられているように感じた。

 以前にも、同じような光景を目にしたことはあったが、体制からそれは、彼女が慕う愛しい人からしていたのが分かる。そのせいか、無性に腹立たしい。

「………………」

 何か言葉を吐き出そうとするが、舌が回らない。

 無理やり引きはがそうにも、なぜか身体が動かなかった。

 神奈は、ただ見ていることしかできなかった。

 そして……神奈の中で……何かが弾けた。



   *   *



 ——ようやく、二人の距離が離れた。

 すると、なぜか麗は、崩れ落ちてしまう。

 即座に皆葉は、麗を支えた。

「麗さん?」

 神奈の口から出てきたのは、麗を気遣う言葉だった。

「神奈?」

 神奈の声に皆葉が振り返る。

「兄さん、何をしたんですか?」

 怒りとも軽蔑ともつかない眼差しを皆葉に向けながら、神奈は問うた。

「……ちょっと待ってくれ」

 皆葉は麗を抱きかかえ、簡易ベッドへと運んでいく。



 皆葉は麗を簡易ベッドに下すと、近くにある椅子にかけた。

 神奈もそれに倣う。

「それで兄さん、何をしたんですか? いや、何をしていたんですか?」

「神奈? どうしたんだ?」

「どうしたじゃありません!」

 神奈の表情が一層険しくなる。

「私が必死こいてここに駆けつけようとしている最中に、二人は楽しくいちゃついてたんですよ!? 面白いわけがないでしょう!」

「すまない」

 感情的になる神奈とは対照的に、皆葉は淡々と謝罪する。

「君が納得できる答えかは分からないけど、とりあえず話を聞いてくれ」



 皆葉は語る。

 NINJAに襲われ、退けることはできたものの麗が重症を負ったこと。麗を救うため、やむを得ず”火”の神霊石を貸与したこと。そして、

「今の麗さんは、神霊石による”改造”の最中。さっき意識を取り戻したけど、”改造”が終わるまではおそらく動かない方が良いから、眠らせた。

 ”改造”自体はあと数時間程で完了する。でも、それまでは神霊石を取り出せない。麗さんの心臓に憑依して動いているから、無理やり取り出そうとするなら、僕の神霊結晶を使うしかない」



「……大体はわかりました。ですが」

 神奈は立ち上がり、皆葉の眼前に顔を近づける。


「どうして、キスをする必要があったんですか?」


 こんな風に、と言わんばかりに、神奈は至近距離で告げる。

「……どうしてだろうな」

「兄さん?」

「——NINJAに麗さんが重症を負わされた時、僕は本当に焦っていた。だから、”彩破”に助けを求めてしまった。

 冷静だったら、ひょっとして僕でも彼女を助けられたかもしれない。でも、頭が回らなかった。

 それで目覚めた彼女に気持ちを問われて、ついやってしまった——これで、説明になるかな?」

「…………そうですね」

 神奈の両手が皆葉の頬に伸びる。


「だったら、兄さん。私が同じことをしたら、どうしますか?」

 

「神奈?」

「私が、もしもいなくなりそうになったら、どう想いますか?」

「いやだ」

「なら、どう想ってますか?」

「どうって……」

 戸惑う皆葉を他所に、神奈は続ける。


「私はあなたが好きです、愛してます。一人の男性として、皆葉さん。あなたを愛してます」


 真っすぐな瞳で見つめながら、神奈は告げる。

「僕は……」

「私に対しては、また答えは出ませんか?」

「……僕は、君のことを大切に想っている。でも、これまで兄妹のように過ごしてきた人から、突然異性として愛していると言われて、気持ちの整理がついてない」

「麗さんには、行動で示したのに?」

「それは……」

「うーん……なら、こうしましょう」


「私はこれから、あなたにキスします。

 嫌なら、拒絶してください。

 そうでないなら、そのままでいてください」


「それは……卑怯だ」

「卑怯で結構です。私はこういう女なんですから。さて、そんなに待つ気はないので、早く決めて下さい」

 頬に当てられた手が、皆葉を神奈に引き寄せていく。

「僕は……」

 神奈から視線を外し、皆葉は逡巡する。



 まだ一週間ほどしか経っていないが、神皆葉を取り巻く環境は一変した。

 神霊石を巡る闘いはもとより、いつのまにか自分の周りには人が増えていった。これまでだと、妹のような存在である神代神奈と、学校の付き合いで関わっていた水無月メイぐらいだったのに。

 円麗——彼女が凍っていた皆葉の心を溶かしてくれた。


(だから僕は、麗さんのことが気になって仕方がない。でも神奈のことを、僕はどう想っている?)


 皆葉の人間関係を狭めていた神奈。

 客観的に見るなら、恨んでも良いかもしれない。だが、やり方はともかく、彼女はずっと皆葉の傍にいてくれた。

 幼少期から障害のために制約を負っていた皆葉を献身的に支えてくれた。

 彼女がいなければ、本当に皆葉は孤立していたかもしれない。


(家族として愛している。でも、異性として意識したことはなかった)

 そもそも自分に恋愛感情というものがあったことが驚きなぐらいだ。麗に対する感情が、おそらくそれだとは思う。

 なら、神奈に対する想いは?

 いや、神奈はなぜ、急にこんなことをしだしたのか。

(……ッ!)

 迷う心を振り切り、皆葉は神奈に向き合うことを決意した。


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