水の咆哮 第2章-7
(何だ・・・・・・これは)
突如巻き起こった爆炎。
護りたいと思った少女が、炎に焼かれていく。
少年は、叫ぼうとする。
だが、声は出ない。彼の身体は、主導権を失っているから。
表に出ている人格に抗議しようとも、それは許されなかった。身体を操る人格は、暗に言う。
『お前は私様に委ねた。ならば、黙って観ていろ』
少年を、猛烈な後悔の念が襲う。
どうして、自分で打開しようとしなかったのか。確かに、彼にはその術がなかった。だが、今の状況が起きるというなら、彼はもう一人の自分という”悪魔”に身を委ねようとは思わなかった。
だからこそ、”悪魔”は選択させた。”悪魔”にとっては、いつでも表に出ることはできた。だが、無理矢理に肉体の主導権を奪おうすると、負担が大きく、少年の人格による抵抗を受けることがある。
そこで、選択させるということで、少年の肉体の主導権を完全に奪い、反抗できなくした。
(くそ、くそ、くそぉ!)
怒りがこみ上げてくる。だが、身体は言うことをきいてくれない。
憤怒の念を抱きながらも、”悪魔”は効率的にその場を制圧してのけた。
そして、”悪魔”は少女のもとへ赴いた。
少女は、業火にまみれたままだった。だが、
(・・・・・・どういうことだ?)
業火は、少女の身体を焼いてはいなかった。少女自身が、業火を放出し続けていた。
身体が少女の頬に触れると、絶えず放出されていた業火が瞬時に消える。
「————」
少年には、自身の身体が何かを言っているのが聞こえなかった。だが、その行動は理解できた。大切な“モノ”を慈しんでいるということを。
* *
(身体が熱い)
内側から焼かれているのか、気が付けばずっと、少女の全身を高熱が覆っていた。
他には何もない。ただ、灼熱の炎が周囲にあるだけで、それが世界のすべてだった。
(私は……死んだ?)
意識があったのは、タンクローリーを停止させた後、狙撃をされる時まで。痛みと出血で、意識が途切れた。
(何もされてなければ、しばらくすれば私は死亡しているはず。なら、この熱は……地獄の業火とやらかしら?)
他人事のように、少女は内心で独り言ちる。だが、
(熱いけど……苦しくない? いや、どこか優しさを感じる)
死後の世界とやらは分からない。でも、なんとなくだが生きている――そう少女は感じていた。
全身を覆う熱は、身体を作り変えようとしているようだ。自分の身体を見ると、撃たれた怪我はない。ただ、全身に赤い文様が刻まれていた。
(これは、いつまで続くのかしら?)
身体を動かしたくても、動かせない。いや、現実世界でないのだろうその場では、動く必要性というものがないようだった。
次第に退屈を覚えてきた少女は、これまでのことを振り返る。
様々なしがらみに捕らわれた半生。
退屈な世界の中に突然現れた、おかしな少年。
少年を巡る、様々な出来事。
(ああ、彼に出会ってからは……ずっと退屈しなかったな)
楽し気に、少年とのやりとりを思い返す。
(彼は大丈夫かな。何でもできるように振る舞ってくるくせに、意外に間抜けだし)
ふと、少年のことが気になる。
(まだ死んでないなら、私は……)
「ならば、そろそろ目を覚ますか、お姫様?」
灼熱の炎だけの世界に、人影が現れた。
人影は、少女の手を取る。そして――少女に口づけした。
この後は、しばらく前に思わせぶりなことを言っていた、先生のお話を予定してます。
今回のメインのお話は、いくつか間話を挟んだ後の予定です。




