幕間 3
炎が荒れ狂っている。見渡す限り、灼熱の赤で染まった大地。
そこに、神皆葉は立っていた。
「これは……“火”の知識か」
炎は様々な形をし、また色をしている。赤だけでなく、青だったり、緑だったり、そして白だったり。
それらの炎は、まるで語り掛けるように皆葉の脳にイメージを植え付けてくる。
「……なるほど」
皆葉は瞳を閉じ、頭の中で渦巻いているイメージを理解していく。これまではイメージしにくかったものが、今では瞬時に様々なことができそうな感覚を、皆葉は実感する。
しばらくすると、数多ある炎は一か所に集まっていく。炎が集い、一つの形を成していく――人の形へと。
「とりあえず、おめでとう。神皆葉」
炎は、男性へと姿を変えた。赤い短髪の精悍な青年へと。
「あんたは、“火”の神霊」
「いかにも。お前が紅蓮に勝ったから、今はお前の中にいる」
「なるほど。で、僕に何の用?」
皆葉の問いに、“火”の神霊は返す。
「お前にチュートリアルをする」
「チュートリアル?」
「神霊石をめぐる戦いにおいて、必要な要素をお前に教える」
「……もう他から聞いているけど」
皆葉は不要と言う。皆葉が知るルールは、
・神霊石を宿したものは“神の道化”となり、期限内に他の6つの神霊石を蒐集しないと死ぬ。
・神霊石は7つあり、それぞれ“火”、“水”、“天”、“地”、“光”、“闇”、“生命”がある。
・神霊石を持った者には各人に与えられた命――“メモリ”を使用することで、“回復術式”、“緊急離脱術式”、“契約術式”、“封印結界術式”を使うことができる。また、神霊石を具現化させた武器――“神霊結晶”を使うことができる。
・神霊石は他の神霊石に反応し、各“神の道化”が干渉可能な範囲に近づくと、警鐘を発する。
・他の“神の道化”から神霊石を奪うと、倒した“神の道化”に残っていた“メモリ”を自身の“メモリ”に加算することができる。
「以上が戦いの要素だと聞いたけど」
「大体は合っている。だが、先に見せた“火”の知識も含めて、他にも知らなければならないことがある」
“火”の神霊は語る。
・他者から奪った神霊石の使用については、“メモリ”を必要としない。
・他者から神霊石を奪った“神の道化”は、残りの“神の道化”の情報を知ることができる。1つ奪えば現在の大体の居場所を、2つ奪えば所持している属性を。3つ奪えば現在の詳細な居場所及び特徴を、知ることができる。
「その2つの要素の理由は?」
「1つ目は、純粋に勝者への特典だ。ただし、他の神霊石については、自身の心臓を基にしていないため、たとえ破壊されてもフィードバックはない。また、新たに得た神霊石の知識は、その神霊が教えることになっている。
2つ目も勝者への特典ではあるが、どちらかというと戦っていない他の“神の道化”の逃げ得を防ぐためだ。戦いが停滞しては面白くないから、徐々に逃げられないように、勝ちにくくするようになっている」
「……面白くないというのは、あんたたちがか?」
「そうだ。いや、我々神霊というよりは、“主”が退屈しないためと言った方が良いか」
「“主”? それはいったい?」
「“主”については、お前が最後まで勝ち残れたら嫌でも謁見することになる。今気にすることではない」
事務的に、淡々と“火”の神霊は皆葉の問いに応える。
「他に何か聞きたいことは?」
「なら、この戦いをやらせる理由は?」
皆葉は問う。
律華やメイから聞いた話の中で、唯一不明なのが『動機』だ。なぜ、神霊石というものを与えて互いに殺し合いをさせるのか。
「…………我には、その質問に対する答えがあたえられていない。だが、ヒントはある」
「ヒント?」
「お前たちが、なぜ神の道化と呼ばれているのか、それがヒントだ」
「神の道化……“主”とやらが退屈せず、面白くさせなければならない、とあんたは言ったな。つまり、“主”とやらの愉悦……そのためか」
「……」
“火”の神霊は応えない。
「……まあいい。なら、すべての神霊石を集めた者には、何か報酬が出るのか?」
「まず、神霊石をすべて集めた時点で、メモリによる制限がなくなる。その後は、神霊石を自由に使ってやりたいことをすればいい」
「……それが報酬? 自分の生命をチップにさせられて、それだけだと?」
「望むなら、“主”に頼むがいい。我には計り知れぬが、“主”ならばいかなる願いもかなえうるだろう。だが」
「だが?」
「いや……我に言えるのは、お前たち人が、命を賭けた報いには応えられるだろう、ということだけだ」
「…………わかった。なら、最後に1つ」
皆葉は告げる。
「前の持ち主の記憶を見ることはできないか?」
「なぜ?」
「あんたが見せたのは、“火”の力の使い方だけだ。だが、力を使えるだけで生き残れる程、この戦いは甘くない。僕は魔術師として経験がないから、他からそれを補いたい」
「なるほど」
“火”の神霊は頷く。
「記憶を見ることは可能だ。だが、お前が欲しい戦いの記憶だけでなく、他の様々なものにも触れることになるが、構わないか?」
「ああ」
「承知した。ならば、豪紅蓮の記憶の開示をもって、お前へのチュートリアルを終了する。さらばだ、神皆葉。精々足掻き、生き残ることだな」
そう告げると、“火”の神霊は元の炎となって、霧散していった。
炎は次第に消えていき、周囲が闇に包まれる。そして、
「――――ッ!」
声にならない悲鳴を、皆葉は上げた。
この後は、豪紅蓮の記憶に触れます。どの程度書こうかは悩ましいところですが、それ程長くはしないつもりです。
あと、サブタイトルを「水の咆哮」としつつも、まだ『水』の人に焦点が当たってません。
ぼちぼちと彼女の方のお話も書いていこうと思います。




