生命のはじまり、火の襲来 第7章ー3
「というのが、先日の出来事だ。それで、紅蓮……先生はCIAとNINJAと取引して、米国に不都合な情報を提供しないことを条件として離脱を承認してもらい、今後はNINJAの一員として働くことになったらしい」
ですよね、と確認をとる皆葉。律華は特に補足はしなかった。
「以上で、連絡は終了だ。後は、2人で好きにしてくれ。あ、そうそう」
律華は眼鏡を掛けて、
「ちゃんと、避妊はするんですよー」
楽しそうに茶化して、去っていった。
「さて、皆葉君。さっきの続きをしましょう」
「え、あの」
再び拘束される皆葉。救いの主は、もうこの場にいない。
「さあ、答えは? あと10秒以内に答えましょう」
「あの、その」
ゆっくりと、麗の顔が近づいてくる。逃げたいと思うけど、そこまでの抵抗をする気が起きない皆葉。
「あと5秒」
「だから、待って……麗さん」
「3秒」
「くううう……!」
「「そこの泥棒猫!」」
あと少しで唇が届きそうなところで、ドアが開かれた。
「あたしのミナ君に、何をするつもりですか!?」
「兄さんに手を出したら殺すって、言いませんでしたっけ?」
ずかずかと、闊歩してくるメイと神奈。各人が皆葉と麗を掴み、無理矢理に引き離す。
「ねえ、ミナ君。何浮気してるの?」
「麗さん。何抜け駆けしてるんですか?」
じりじりと迫ってくる2人。皆葉はおろおろするばかりだ。一方麗は、
「早い者勝ちでしょうが。それに、私は彼に、あんたたちのことをどう思っているか、問いつめてただけなんだけど」
「へえ?」「そうですか?」
麗の一言を聞き、一斉にメイと神奈は皆葉を凝視する。
「ねえ、ミナ君。あなたの恋人は、あたしだよね」
「兄さん。どんな風に変わっても、私は兄さんを愛してますよ」
三人に囲まれ、皆葉に逃げ場はない。どう対処しようか悩み、
「彩破! 何とかしてくれ!」
もう1人の自分に頼ることにした。だが、
『いやだね。お前が何とかしろ』
「なぜだ!?」
『なぜって……面白いからに決まってるだろうが。私が表に出てるより、お前に任せておいた方が色々面白い場面を経験できるから、主導権を渡しているわけだが?』
「くうううう!」
もう1人の自分も、協力してくれない。もはや、皆葉の処理能力では対応できない。皆葉の思考が停止した。その時、
「んん!?」
何度か経験のある、甘い感触が口の中に広がった。眼前には、麗の顔がある。
「「ああ!?」」
数秒間皆葉と唇を交わし、麗は離れる。
「ごちそうさま。君が答えを言わないからこうなるのよ」
「この、あたしだって!」
メイが続く。皆葉は反応しようとするが、口づけによって頭の回転が鈍くなっていて、回避行動がとれない。
「ん……」
「ダメです! 離れてください、会長!」
名残惜しそうに舌を絡めるメイだが、神奈によって引きはがされる。
「どういうつもりですか!? あなたは、兄さんと殺し合う敵でしょうが!」
「ええ。殺し“愛”をする仲なんだから、キスぐらい良いでしょ?」
「ああ、もう!」
メイを突き飛ばし、神奈が皆葉に迫る。
「か、神奈?」
「兄さん。この豚どもに汚された唇、私が浄化してあげます」
そっと、最後の唇が触れる。2人のように乱暴に浸食するのではなく、優しく舐め回すように、神奈は触れ合う。
「…………さて、これで浄化されました。2人とも、兄さんは、私だけの兄さんです。手を出さないでください」
「何言ってるの、このバカ妹! 彼は、私の友達なんだから!」
「そこの下品な金髪! ミナ君は、あたしの婚約者! 後から出てきたのが、簒奪しようとするんじゃあない!」
女同士の、醜い争いが始まった。すっかり皆葉のことは脇に置かれ、皆葉はどうにかその場から脱出することができた。
ベンチから離れて、屋上のドア付近から、争い合う3人を見ながら、皆葉は自身に問う。
「なあ、彩破。僕は、どうするべきだと思う?」
『どうするべき、とは?』
「僕には、正直良く分からない。みんなの好意は理解できるけど、僕の感情が、理解できないんだ」
『……なるほど』
内に眠るもう一人の自分は、しばし沈黙する。そして、
『私様なら、全員相手にするが』
「……はい?」
『常識がどうのとか言うなよ? 私たちは、いつ死んでもおかしくないゲームに巻き込まれた。なら、常識的な考えに縛られてどうする。
お前が感情というモノを理解できないのは、神奈が色々と妨害してきて、他人と触れ合う機会が僅かだったからだろう。だが、今はそれも止めると言ったじゃないか』
「それは、そうだけど」
戦いが明けた後、皆葉は神奈と話し合った。神奈はあくまでも皆葉を護るため、他人を排除してきたと語った。しかし、それはもうしないと、約束させた。
『なら、誰とどうこうなるは置いといて、様々な人間と触れ合うのは、感情を理解するために良いことだろう? 触れ合って人間というモノを理解して、それからどうするかを考えても、遅くないぞ。まあ、戦いに生き残るのが前提だがな』
「そう……だな」
彩破の言う様に、まずは人間を理解しなければ、何も始まらない。それに、敵対するのも人間なのだ。今後自分が生き残っていくためにも、人間の理解は必要なことだ。
『それに』
付け加えるように、彩破は言う。
『お前も、楽しいだろ?』
その一言が自分の口から出たきり、彩破は何も言わなかった。
しばし、その問いかけに皆葉は考える。魔術との出会い。律華の教え。紅蓮との戦い。そして、3人の親しい人を見て、
「ああ、楽しいさ」
今の、素直な“感情”を言葉にした。
「生命のはじまり、火の襲来」の完結です。
一応、続きものとして書くつもりですが、投稿用にまとめているので、次の話は現時点で書いておりません。
構想はあるのですが、続きがどういう展開が良いか、ご意見があればお書きください。




