生命のはじまり、火の襲来 第7章ー1
戦いが開け、休日も開けた、週始め。円麗は学校の教室にいた。
普段通りの時間に登校して、短いホームルームまでの時間をぼんやりと過ごしている。先週ならば、面白い男をからかって楽しんでいたのに、まだ、彼は登校してきていない。
戦いの顛末はどうなったのだろうか。気にはなるが、麗はそれを確かめなかった。戦いは、どんな結末になったとしても、終わっている。だが、彼の学生寮や診療所に行くことはできなかった。直接、彼が話しかけてくれるのを待っていると言えるし、自分から出向く勇気がなかったとも言える。
様々な思いが麗の頭の中で錯綜していると、始業時間間際で、扉が開いた。女と見紛う緑色の長髪を靡かせ、想い人は入ってきた。
「誰?」
クラスメイトらは、その人物の変貌ぶりに、痛い発言をした男であると認識できていない。だが、麗は分かっていた。
「おはよう、皆葉君」
隣に掛けた神皆葉に麗が声をかけると、他の人間らは驚く。
「ええ!? 神皆葉!?」
「なんなの、あの髪!? イメチェン!?」
視線はさらに激しさを増す。前後の姿の落差が激しく、好奇の目は以前よりもさらに向けられる。
だが、皆葉はそれに構わなかった。
「おはよう」
素っ気なく、あいさつを返す。それだけで、終わった。
「ねえ、あれからどうなったの?」
皆葉の耳に手を添えて、小声で麗は問う。
「どうなったか……そろそろ答えが来るぞ」
ドアに指が向けられる。ちょうど、始業を伝えるチャイムが鳴り、同時にドアが開けられた。メガネをかけた、竜律華が入室してくる。
「おはようございます。今日は、新しい仲間が増えることになりました。どうぞ」
手招きをして、律華が呼び寄せる。招きに応じて、恰幅の良い、スーツを着た男が入ってきた。その姿を見るや、女子生徒の大半は黄色い声を上げる。
「グレン=ホンダです。日系のアメリカ人で、本日からこのクラスの副担任を勤めることになりました。リュウ先生が不在の時などに代わりをします。担当は、英語です」
よろしくお願いします、と流暢な日本語と、外人らしくない堂に入ったお辞儀をして、自己紹介を済ませた男――豪紅蓮。
さらなる女子生徒の歓声が上がる一方、麗は絶句する。口をパクパクと動かして、皆葉を見る。
「何を聞きたいかは分かるが、とりあえず、僕もあの男も、生きている」
「どうして」
訊こうとしたところで、何かが皆葉と麗の間に飛んできた。それは、2人の間をすり抜け、後ろの壁に突き刺さった。そこにあるのは、トランプのカードだった。
麗は凍り付く。当たりどころが悪かったら、死んでてもおかしくない威力に。
「そこ。誰が発言を許可した?」
射手は、紅蓮だった。右手にはトランプの束が握られている。先の戦闘の時に見せた、戦士のような、険しい表情をしている。
「まあまあ、紅蓮先生。今は教師なんですから、昔みたいなやんちゃはダメですよー?」
言われて、紅蓮は咳払いをする。
「失礼しました。昔、兵士をやってたことがありまして、つい癖が出てしまいましたね。善処はしますが、授業中――特にワタシの授業では、私語は止めてくださいね。マドカ=レイさん、シン=ミナハ君」
一転して、愛想笑いをする紅蓮。麗は黙って頷き、皆葉は何も返答しない。他の生徒たちも、色々と質問したいことが出てきたが、先刻の恐ろしさを垣間見て、何も言い出せずにいた。
「さて、紅蓮先生のやんちゃは置いといて、もう1人、新しい人がやってきました。今度は、可愛い子ですよー」
再び手招きがされる。入ってきた人物に、今度は教師二人以外の全員が驚いた。
「はじめまして。神代神奈と申します。このクラスに空きができたそうなので、夕陽丘中学から飛び級して来ました。よろしくお願いします」
人当たりの良い笑顔で挨拶をする神奈。男子生徒が全員、興味深そうに彼女を見る。しかし、神奈はそれらすべての視線を意に介せず、目的の人物に近づこうとする。
「律華先生。あそこが空いてますけど、よろしいですか?」
「ええ、良いですよー」
教壇から降りて、神奈は歩く。空席となっている、皆葉の、もう1つの隣の席に。
「神奈……どうして」
「さっき言った通りですよ。アホな人たちが消えて、空きができたから、どうかとお誘いを受けたんです。よろしくお願いしますね、兄さん」
「兄さん!?」
その単語に、やはり関係者以外が反応した。しかし、少しすると、納得するような呟きもちらほらと出てくる。何しろ、同じような髪型と色をしているのだから。
「さて、今朝のホームルームは以上で終わりです。それではみなさん、勉学に勤しんでくださいねー」
ざわめきが続くホームルームは、律華の手によって御開きとなった。




