きれいな贈り物
シーザさんはひざまづいたままヤトくんと視線を合わせ、「ヤトヴィルさま。このお嬢様は貴方様の母上ではないのですよ。これ以上は迷惑になります。」と諭した。
そして私を見て「この方を見て母上とお慕いしたくなるお気持ちはよくわかりますが・・・。」と付け加える。
「うっ・・・ひっく・・・ぐっ・・・。」
泣きかけたものの、なんとか涙をこらえようとするヤトくんの頭に自然と手が伸びた。
くるんとまいた髪の毛の上から撫ぜ撫ぜすると、手入れのされた髪の毛は絹糸のようにさらさらしていた。
「お嬢様は・・・。」
シーザさんは何のサービスなのか、先ほどからお嬢様を連呼している。
「私は平民なのでお嬢様じゃないですよ。それにもうそういう年でもないですから。」
苦笑しながらもヤトくんの頭から手が離せない。
シーザさんは一瞬何かを言おうとして言葉を飲み込んだ。
もし年齢を聞こうとしてやめたのなら、この世界でも妙齢の女性に年齢を尋ねるのはNGということなのでしょう。
「・・・そうですか。ヤトヴィル様がご迷惑をおかけしました。これは些少ですが・・・。」
そう言って懐から何かの袋を取り出す。
「いえっ!私も迷子仲間ですから、そんな気を使わないでください!」
今度こそ手がもげるほどぶんぶんと手を振った。
何かたくさん入った・・・どう見てもお金としか思えないその袋をヤトくんと一緒にいただけで受け取るわけにもいかない。
シーザさんは少し困った顔をして、ヤトくんに「そうだ、ヤトさま。あのお守りをお渡ししてはいかがでしょうか。」と提案した。
涙目をこすっていたヤトくんは途端に笑顔になる。
「母上、私が作ったのです!」
ベストの内ポケットから小さなきれいな黄金色の布袋を取り出す。
ヤトくんの小さな手でその袋の中から薄いガラス片のようなものをつまみだした。
「私どもの国ではありふれた材料の"お守り"です。かなり強度があり割れたりはしませんのでご安心を。」
ヤトくんの隣でシーザさんがフォローをしてくれた。
2センチ×4センチくらいの小判型のそれを手に取ると、メガネのレンズを平らにしたらこれになりそうな感じだった。
きれいな少し青い薄いガラスというかプラスチックというかよくわからない材料でできていて、黒マジックで描いたような簡単な花の絵が真ん中にあった。
なるほどヤトくんが描いたのだとわかる。
ヤトくんが一生懸命描いたのだと思うとほんわかと温かい気持ちが伝わってきた。
「ありがとう、大事にするね。」
持っていたハンカチで包もうとすると、手をすりむいた時の血とヤトくんの涙で汚れていたのでどうしようかと思っていると、それを見たシーザさんが懐から高級そうなハンカチを取り出して「こちらをお使い下さい。汚れたハンカチは処分いたしますね。」と交換してしてくれた。
「よかったですね、ヤトさま。」
シーザさんがやさしく微笑むとヤトくんも力づよく頷く。
そしてシーザさんの手をかりて立ち上がった。
「母上。母上に手紙を書いても良いですか?」
「・・・えっと。気持はうれしいんだけど手紙かぁ・・・。ドリューズでも届くのかな。それに私、テイルティグの文字でも読み書きがかなり怪しいから外国語となると難しいかも。」
子供相手に何を言っているのかと気恥ずかしいけれど、本当のことなので期待だけさせる訳にもいかず謝っておいた。
「・・・ドリューズのどちらでしょうか。」
「特に家があるという訳でもないから、連絡をするなら"幸運のヤドリギ"というお店か、冒険者ギルドのドリューズ支部になるのかな・・・?」
「お嬢様は"冒険者"でいらっしゃるのですか?!」
よくわかっていないヤトくんの横で驚くシーザさん。
「いえ・・・というか、住所が定まっていないので登録しただけの"仮"冒険者ですけど。」
「・・・なるほど。では冒険者ギルドか"幸運のヤドリギ"という店に宛てますね。」
シーザさんのブラウンの瞳が物問いしたそうな感じだったが、詳しい事情を聞かれても困るのでスルーしておいた。
「あ・・・!私の連れが来たようです!」
少し離れた所から小走りでやってくる金髪の二人組の壁軍団の・・・いえ、この土地では皆が壁状態なので私服の護衛騎士と申しましょうか。
私が首都を自由に歩かせてもらえるのは、イザとなったらファンの『お取り寄せ』が可能なためだったりします。
「ローザさん!エルザさん!」
私と色違いでおそろいの服を来た二人が「ファリサさん、探しましたよ~。」と近寄ってきて、シーザさんとヤトくんに気づきました。
「・・・そちらの方はお知り合いですか?」
小声でエリザさんが尋ねてきた。
「同じ迷子仲間の子と、その保護者さんです。」
自分を迷子と認めて苦笑しました。
「じゃあ、ヤトくん。シーザさん。連れが来たので失礼しますね。」
頭を下げるとヤトくんが「母上!手紙を書きますね!」と手を振った。
シーザさんも軽く頭を下げてヤトくんの手を取って歩き出した。
「母上・・・ですか?」
ローザさんが訝しげな顔をしている。
「信じられないけど、あの子の母親にソックリなんですって。・・・もう亡くなってるみたいだけど。」
「へぇ・・・。そういうこともあるんですかね~。ちなみに懐のものは大丈夫でした?最近は死んだとか生き別れたとかの"母親にそっくり"だって抱きついてくる子供のスリも増えているそうですよ。」
エリザさんの言葉に思わず財布を確認してしまったけど、きちんと財布は存在していました。
ヤトくんとシーザさん達の方があきらかにお金持ち風(しかもお礼もすごそう)だけど反射ということで許して下さい。
「・・・次から気をつけるわ。」
治安がいいと聞いていたけど、やっぱり人が集まれば犯罪もあるのだと気をひきしめ、買い物の続きに繰り出します。
首都の"市場"で有名な焼き菓子の店にも行ってないし、アクセサリーの店(腕輪を見るため)にも行ってないし、まだまだ買い物はこれからなのでした。




