表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/85

迷子

目の前には凹凸の少ないグレーの石畳が広がっていた。


「痛ったぁ・・・。」


倒れた瞬間に咄嗟に手が出たようで、手のひらが血まみれになっている。


行き交う人は視線をよこすものの、誰も助け起こそうとはしない。


いきなり後ろから衝撃を感じたと思ったら、石畳に転ばされていた。




「お(があ)ざま~。」




そう、私の転ばされた原因がエグエグと泣きながら腰にへばりついている。


「ボク?悪いけど起きたいから離れてくれる?」


くるんと黒いウエーブのかかった短髪が見えるのでたぶん男の子なのだろう。


この国(ティルディグ)では女の子ならスカートをはいているはず。


「もう二度と離じまぜん!」


グリグリと顔をこすりつけられ、さらに腰をしめつけられた。




仕事が終わってからファンとティルディグに来て"移動"をし、門とよばれる関所のような場所を超えて首都のアオイさんの館に泊ったのが昨日のこと。


今日はアオイさんの護衛騎士(壁軍団)の方と女だけで"市場(バザール)"に買い物に来ていた。


壁内の市民区域の市場のため、首都アザンプールでは日中の女性活動率はかなり高いそうだ。


ドリューズではほとんど見かけなかった女性がたくさんいる。


異世界と言っても見た目は地球人と変わらない容貌で、体格が違うくらいの違いしかなかった。


壁軍団の方たちが特別背が高いという訳でないのがよくわかった首都体験なのです。




おっと現実逃避している場合じゃなかった。




「ボク。逃げないから、起きさせて?いつまでもここで寝てたら迷惑でしょ?」


いぜんエグエグと泣いている男の子に話しかけると「ボクじゃありません!ヤトです。お()・・・いえ、母上。前のようにヤトヴィルとお呼び下さい!」と返事があった。


「ヤト?」


私の呼びかけに片手だけスカートを握りしめる男の子。


やっと起き上がって血だらけになった手でスカートをほろうこともできずにいると今度は前から男の子が抱きついてきた。


「母上~!」


子供の頭がみぞおちくらいあたりのところでグリグリしている。




この子・・・天使みたいに可愛い!!


絶対将来イケメン(地球的感覚で)になる・・・。


人違いにしても、まず顔のつくりに遺伝子の共通性はまったく見受けられない。


くっきりした二重に瞳はあざやかなエメラルド色だし、まつげもバサバサ。


白色人種に近い感じで頬はバラ色で唇は薄くもなく厚くもない。


共通点は黒髪というくらい。


その黒髪にしてもこの子のそれは青っぽいような黒髪だ。




持っていたハンカチでヤトくんの涙を拭いてあげる。




「母上・・・怪我が・・・。」


少し落ち着いてきたのか、彼は私の怪我に気がついたようだ。


「"洗浄"、"治療(キュア)"。」


そしてきれいになった手を小さな手でつつんで頬をすりよせた。


「お母さま。シーザが来たら一緒に国に帰りましょう!」


・・・思いっきり人違いだし。


身なりもいいし、言葉づかいもアレだし、貴族の子かな?と思ってたら外国の人間のようだ。


「そのシーザさん?はどこにいるの?」


とにかく保護者らしき連れがいたら引き渡せばいいか。


「はぐれました!」


少し赤みの残る目でヤトくんは胸を張ってそう言ったのでした。







もし人ごみではぐれてしまったら『噴水広場』でおちあいましょう。




その『噴水広場』は首都の"市場(バザール)"内のここにしかない観光名所らしい。


正直噴水なんて珍しくもないけど、ティルディグでは有名な場所のようだった。


円形の巨大な噴水を取り囲むようにベンチが設置してあり、そこで噴水を眺める人、絵を描く人(写真がないから商売として)、食べ物を販売する人、大道芸を披露する人などでごったがえしていた。


余計人を探せないような気がするのは気のせいだろうか・・・。




私だけでなく、もしものことがあったら『噴水広場』に来るように言われていたらしい。


ちなみに私は「しっぽ」持ちの男の人に視線が吸い寄せられているうちに皆さんとはぐれてしまった。


「しっぽ」は本物(獣人)ではなく、アクセサリーの毛皮とわかった時には超ガックリでしたorg


次はケモミミの人にだけ反応しよう!と心に誓った。




「ヤトくん、何か食べる?」


「母上!ヤトヴィルです!ヤトクンではありません!」


がっしりと腕をつかまれた状態で一緒に噴水のふちの石に腰をかけています。


私が庶民の服(綿と麻っぽい素材の服)に対して、少し高級そうな目の細かい柔らかい布地の白いシャツに紺色のベスト、光沢のある黒い長ズボンにピカピカの靴をはいたヤトくん。


貴族じゃないにしてもお金持ちであることは確かそうだ。


ただでさえ可愛い天使のような子なのに、一人で歩いてて誘拐されたりしないんだろうか。


ドリューズに比べれば格段に治安はいいのだろうけど、それでも「スリやひったくりはいますので気をつけて下さい。」と念を押されている。




母親じゃないと言っても意固地に「母上です!」と言い続けるヤトくん。


確かにティルディグ的には10才くらいまでの子供がいてもおかしくない年齢ではあるが、こんな大きな子に母親と間違えられるのは独身女性(26歳)として複雑な心境だ。




「母上の後ろ姿をみつけた瞬間走りだしてしまいました。シーザには悪いことをしてしまいましたが、母上を見れば一緒に喜んでくれると思います!」


ヤトくんのお母さん・・・離婚したとか家出でもしたのかな。


もうお昼も近いからと飲み物や食べ物をすすめても「母上がいらっしゃるだけで胸がいっぱいです!」と側を離れないヤトくん・・・というか動こうとさせてくれない状態になってます。




一緒にきた護衛騎士のローザさんかエルザさんにみつけてもらうのが先か、ヤトくんの保護者にみつけてもらうのが先か・・・。


そう思っていると、目の前の人ごみから赤い人が走ってくるのが見えた。


赤い人というのはイメージで、燃えるような赤毛の人だと理解したのはヤトくんの前にひざまづいた時だった。


「ヤト様!」


「シーザ!母上です!」


ヤトくんの言葉にやっと私の存在に気付いたその赤い人は、視線がかちあうと大きく目を見開いて「・・・奥方様・・!」と呻いた。




世の中に似ている人が3人いると聞いたことがあるけど、まさか異世界にその一人がいようとは・・・。


私とアオイさん以外に日本人が紛れ込んでいるのだろうか。


そこまで似ているのなら会ってみたい気もする。


「・・・ヤトくんには申し訳ないんですけど、人違いなんです。」


慌てて立ち上がると、目の前の赤い人は「存じております。」と頭を下げた。


「お嬢様、ご迷惑をおかけいたしました。(わたくし)はシーヴェス=ユースルと申す者です。ヤト様を保護いただきましてありがとうございます。後ほど改めてご挨拶に伺いたいと存じますが・・・。」


「いえいえいえっ!そこまでお気をつかわずとも結構ですっ。大したことはしていませんからっ!」


ブンブンと音のしそうなほど手をふって全力でお断りする。


人違いで抱きつかれた迷子と一緒に座っていただけだから。


「ぜひとも改めてご挨拶に・・・。」


「その必要はない!母上は一緒に国に帰るのだからな!」


やっと赤い人(服はグレーだけど)・・・いえ、シーザ(シーヴェス)さんがヤトくんに向き直る。


「ヤトヴィル様。奥方様はお亡くなりになったのです。」


「いや、母上はここにいるではないか!」


「この方はヤト様のお母上ではございません!」


母親を亡くしたらしい小さい子にこういうことは言いたくないけど・・・。


「ヤトくん。ごめんね。私はファリサって言ってあなたのお母さんじゃないの。似てるかもしれないけど本当はわかってるよね?」


ヤトくんの頭を撫ぜてあげると、ヤトくんのエメラルドの瞳にみるみる涙がもりあがってきた。


「・・・母上?」


うっ。


自分が悪い訳じゃないのに、ものすごい罪悪感が押し寄せてくる。


「それに私、ここの人間じゃないの。アザンプールにくるのも二回目で明日には帰る予定だから・・・。」


外国人(?)のヤトくんとは二度と会えないかもしれないとは言葉にできなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ