世界の基本の"キ"を知る
兄夫婦を家に呼ぶことになった。
・・・と言っても、ファンの"移動"で送迎つきなので移動時間は少ない。
金曜日だと"向こう"ついて行くと言いかねない兄がいるので、その前に呼んでおこうという私の提案で今夜来ることになっている。
*
「ただいまー。」
仕事を終えた私が家に到着するともう兄夫婦は家に来ていた。
兄とその妻の美嘉さんは二人でタビーを構っていた。
ファンはその傍らで、あたかも監督でもしているように見守っている。
「あ、亜莉紗ちゃん。お邪魔してまーす♪」
家に無かったねずみのついた猫じゃらしを持った美嘉さんが満面の笑顔で挨拶する。
ここにも猫好きが一人・・・。
兄は転勤族(一応全国)のためペットは飼っていない。
飼おうと思えば飼えるらしいが、毎回ペット可の賃貸が簡単にみつかる場所とは限らない。
美嘉さんも兄の転勤に帯同し子供ができるまではパートを続けると言っていた。
私も美嘉さんに挨拶をする。
どうしてこんな美女が兄なんかと結婚したのだろう・・・。
美嘉さんは十人いれば九人が「美人」と言うような、目の覚めるような美人なのである。
残り一人?
世の中にはいろんな趣味の人がいるので、100パーセントとは断言できないのです。
私が十人なら満場一致で「美人認定」するレベルですよ?
兄と並ぶと同じくらいの身長で、すらっとしていてヒールを履けば兄よりも背か高くなり、出るところは出ていてひっこむ所は引っこんでいるうらやましい体型です、ハイ。
私の真っ黒な直毛とは違って少し濃茶色の髪の美嘉さん。
染めやすいと言っていたし量も適量で髪質がうらやましい・・・と言うかいっそのこと全とっかえをお願いしたい女性なのでした。
「亜莉紗ちゃんも魔法が使えるようになったって本当?うらやましい~!」
目の前の義姉は、兄の職場の人が幹事となった合コンで知り合ったそうです。
「・・・使えるというほどのレベルじゃないですよ?どこかのパフォーマーとか奇術師の方がよっぽどスゴイですから期待しないで下さいね。」
「いいの!ホンモノっていう所に価値があるんだから!」
目をキラキラさせた美嘉さんは、いつもの美人度により磨きがかかって輝きがUPしていた。
「撮影禁止、他言無用でお願いします。」
前もってファンやアオイさんと打ち合わせしておいた条件で魔法を披露することになっている。
アオイさんは『いざとなったら、そちらに出向いて関係者全員の記憶操作しちゃうから亜莉紗ちゃんにおまかせするわよ?』とコワイ発言をしていた。
その時、電話の向こうでは笑っていたようだが彼女のことだ。
有言実行・・・できそうなところがまた怖い。(ゾクリ)
ファンは『ここは魔法のない世界だから証拠さえなければなんとでもなるのでは?』と楽観的だし。
兄が親の仇でも見るような眼で喰い入るようにこちらを睨んでいる。
「・・・ちょっと怖いんだけど。」
タビーも兄夫婦からこちらに視線をうつしていていてヤジ馬ならにヤジ猫になっていた。
「あーちゃんにできるなら、血縁者の"兄"である自分にもできるはずだ!」
・・・ああ、そういうこと。
異世界に行く前に魔法を教えろって流れになるのかなと予感がする。
後で美嘉さんに『冒険者になりたいと言い出した時のこと』を話しておいた方がいいかもしれない。
「じゃあ、あまり期待しないでね?先にファンの魔法を見せると私の魔法がいかにショボイかばれるので私からいきます。」
打ち合わせ通りにファンがリモコンで照明を落とす。
常に外から見えないように気をつけているので、カーテン(念のためリビングだけは夜でも透けないレースカーテンと遮光カーテンに変えました)をきっちりしめて真っ暗になりました。
「"光"。」
指の上に光球が現れ、兄夫婦は「「おお~!」」となっている。
その光はピンポン玉くらいの大きさで微弱ながらもぼんやりとした明るさを持っている。
タビーとさんざん遊んだせいか、ビー玉サイズの数秒から成長してピンポン玉サイズで十秒くらいは保つようになった。
たしっ!
タビーがバレーのアタックのように飛びついてきた。
指の上にあった光球がてんてん・・・と音はしなかったもののボールが転がるように落ち、それをおいかけようとしたタビーが追いつくと同時に?消えてしまった。
「え?」
「今のは魔力ではじいたんだ。」
真っ暗な部屋の中、冷静なファンの言葉が聞こえる。
「魔力って?」
「"光"。」
こちらの質問に答える前にファンは部屋の照明くらいの光度をもつ【光】を彼の掌に出現させる。
「"魔物"だからな。」
「"猫"だとそんな芸当ができるの?確かに妖怪とか魔物っぽい存在にされることもあるだろうけど・・・。」
兄夫婦はファンの"光"に釘づけになっている。
ファンはそれをふわりと空中に浮かせる。
空中を上がる光球と共に顔が移動する兄夫婦。
自分もああいう反応だったんだろうな・・・と頭のどこかでチラリと思う。
「・・・リサ。勘違いしているようだが、あの"魔物"はこちらの生き物に似ていても全然違う生き物なんだ。」
どう見ても猫だけど?
キャットフードとか食べる姿は猫以外の何物でもないし、眠い時も足でタオルケットとかふみふみと仔猫がしていたような行動(母乳が出やすくなる動きの名残らしい)もするし、猫にしか見えない。
ファンは腕組みをしたまま私の顔を見ると少し考えながらこう言った。
「向こうにいる生き物は、魔力を使えないと生き残れなかった。だから現在存在する【暴力性がなく知性があり会話可能な生き物】以外はすべて【魔物】なんだよ。」
・・・・
「それって人間(亜人といわれる人種)以外は全部魔物ってくくりになるの?あの"馬"も含み。」
まだ首をかしげつつファンに尋ねる。
「そうだ。だが、リサはまだ勘違いしていると思う。その"魔物"は、中でも危険な方の【魔物】のはずなんだ。本来ならば、の話だが。」
「"猫"が危険?」
タビーのはちょこんと座って光球に向かって顔を向けている。
やはり普通の猫にしか見えない。
「その"魔物"は別名"魔力喰い"と呼ばれていて、魔力の高い魔物や人間を襲う。」
ファンは私を促すようにタビーに向けて視線を送るが、やはり猫は猫にしか見えなかった。




