ドュニューのお願い
*ファン視点です。
リサが仕事に行っている間に、リサの兄の潤から電話がかかってきた。
『ファン君にお願いがあるんだが・・・。』
用件を切り出される前に「すみません、リサに断るように言われています。」と断った。
『なっ・・・!』
「リサの兄上とは言え、ティルディグは危険な所です。決して【仕事】に連れて行かないようにとリサにきつく言われています。」
リサは彼女の兄が冒険者の仕事をしたがることを懸念していた。
リサの国・・・"ニホン"でも冒険者になることのできる人間はいるだろう。
だが、リサの兄ドュニューがそうかと言えば"否"だと思う。
知識もなく、魔法も使えなければ体もできていない。
魔物はいない世界とは言え、凶悪な人間どころか野生動物すら対峙したことすらないだろう。
物見遊山で依頼を受けようものなら、結果は火を見るよりあきらかだ。
「そういう訳ですのでご期待に添えず申し訳ありません。」
リサに教えられたセリフを言って、強制的に話を終了する。
その後は電話が鳴っても出なくてもいいとリサは言っていた。
ギルドの仮カード(木札)を手にする程度なら、首都の観光客でもよく見かける行動だ。
しかしリサは「一回でも採取系や手伝い系の依頼をうければ満足すると思う?そのうち絶対討伐系の依頼を受けたいって言いだすし、ファンみたいな冒険者がついてれば実力以上の仕事をできるって勘違いするんじゃないかな。」と憂い顔を見せた。
リサは冒険者ギルドの依頼を受けたこともないが、彼女の口ぶりでは冒険者の仕事を理解していると思う。
この国"ニホン"では"げーむ"と言って、"てれび"のような画面の中の架空の世界で冒険者ギルドの仕事のようなものを受けることができるらしい。
前に"こんびに"の"れじ"で見た小竜もその"げーむ"の一環だとリサに説明を受けた。
リサはまだ魔物(タビーのこと)以外の【魔物】に遭遇したことがない。
魔物のこともこちらの世界にいる"猫"という動物と勘違いしているフシがある。
一度魔物がどんなに危険なモノなのかその目で見たほうがいいかもしれない。
だが、物事には"絶対"ということはない。
どんなに簡単に倒せる魔物だったとしても万全を期したいと思う。
自分だけならとにかく、リサを危険にさらすような真似だけはしたくない。
その時は自分の他に護衛が必要だろう。
その時思い浮かんだ顔は・・・"あの男"だった。
自分より上位の冒険者。
あきらかにリサに好意を寄せている。
・・・リサと【腕輪を交わしてから】にしよう。
ドュニューからの電話は後でリサに伝え、リサに魔物が何かを教えることは腕輪を交わしてから考えることにした。
*
今日は"呼び寄せ"ないように言われていたので、一通り鍛練を済ませ掃除や食事の支度などしつつリサの帰宅を待っていた。
最近では切る・焼く・炒めるの他に"煮込む"料理も覚えた。
"てれび"の料理番組を参考にし、新しい料理を出すたびにリサの驚く顔や喜ぶ顔が見られるのは楽しい。
こちらの文字がわからないので、"てれび"で紹介された必要な材料を自国語でメモをとっておく。
すると今度はリサがそれでティルディグの単語を勉強する。
料理もできてリサとのふれあいもできるので一石二鳥だ。
「兄から私にも電話がきたわ。」
帰宅後のリサは何事もなかったように切り出した。
「俺はリサに言われた通りに対応した。」
リサは困ったように「ありがとう。でもギルドの用事じゃなかったの。」と足元にからみつく魔物を抱き上げた。
「美嘉さんもタビーに会いたいって。」
話しかけられた魔物は無反応だった。
「家に来るのか?」
別にリサの兄やその妻が来ても差し支えないが・・・。
リサは魔物を床にそっと下ろすとダイニングのテーブルに座った。
「ファンも座って?」
座ったリサは自分に上目遣いでお願いをする。
自分が立っているから意識してのことではないだろうが、そういうリサを見ると場所もわきまえずに抱きしめたくなる。
「何かあったのか?」
リサの前の席につくと、彼女は「ごめんなさい。」と謝った。
会話の流れから謝られる要素はなさそうだが・・・。
「兄が異世界のことを美嘉さんに話しちゃったみたいで、美嘉さんにも魔法を見せて欲しいってお願いされたの。」
「それくらいなら構わない。」
「ファンの魔法を見世物みたいにしてごめんなさい。私が魔法を使えれば良かったんだけど。」
リサはそんなことを気に病んでいたのか。
「どうせ"移動"で魔法をみせることになるだろう?」
自分が笑ってみせれば、リサは安心したように「ファンの気分を害するかと思って・・・ごめんね?」と可愛く言ったのだった。
リサが高圧的で自分の魔法を当たり前のように「人に見せろ」というなら気分を害したかもしれない。
しかし、リサのは可愛い"お願い"だ。
「そこまで狭量に見えたなら心外だ。」
リサの柔らかな手をとって手首に唇をおとす。
「・・・っ!」
リサの口が何か言いたそうに動いた。
「言いたいことがあるなら言った方がいい。」
自分の言葉にリサは「輪ゴムの件もあったし・・・。」と顔を下に向けた。
「"腕輪"の話なら俺はとてつもなく心が狭いが、悪いか?」
さらに手首を甘噛みしてリサの味見をする。
「・・・悪くない。」
空気が甘くなりかけた所で魔物がテーブルにのぼってきて「にゃーん。」と二人の邪魔をした。
「タビー、テーブルに登っちゃダメよ!」
途端にリサの気持ちが逸れる。
テーブルから飛びおりた魔物がこちらを振り返ってニヤリとほくそ笑んだような気がした。




