竜を見たかい?
私に与えられた客室に面している庭は建物に囲まれたつくりになっているそうです。
その建物・・・囲んでいるにしてはずいぶん遠くに見えるので、言われなければ気がつかなかったかもしれません。
一応安全な場所ということで、私とアオイさんが庭でお茶をしたり、話をしたりすることは許可されています。
現在、私が外に出るのはまだ許可が下りない状態です。
許可が下りないのは警備上の関係で、絶対アオイさんも付いてくる気だからとサリエルさんがこぼしていました。
首都観光はないみたい(←図々しい?)で、外に出る時はドリューズに戻る時になりそうです。
私たちは庭の規模にするとかなり建物のそばにしか居ませんが、薔薇のアーチや迷路っぽいものが見えたり、水路があったり、石柱があったり庭なのに丘のようにアップダウンがあったりとずいぶん凝ったつくりになっています。
前に入場料を払って見に行った庭園を彷彿とさせるつくりに、見える範囲だけでも"首都"でこれだけの土地があるってどんな規模なのよとツッコミを入れたい心境です。
まだ首都とやらをこの目で見たことはないですけどね。
アオイさんの話では、この館は首都のはずれで小高い丘の上にあるそうです。
中心部に行くには面倒臭い手続きしつつ大きな門を2つ超えて行くそうで、その中心部に行けば遥か遠くに王城がのぞめるそうな。
全部伝え聞きのため、遥か遠くの王城とやらも見ていません。
某ネズミの国のようなシン*レラ城を想像するとガッカリするとアオイさんには言われています。
でも、見た目は白い岩や石を使用しているので、目にまぶしい・・・いえ、キレイという話でした。
それにしても、この広大な敷地を含め、首都のまわりをぐるっと高い壁が囲っているとは信じられません。
高い壁=魔物除けで万里の長城ばりの壁が存在するらしいので、首都から帰る前にこっそり写メにはおさめておこうと心に決めています。
*
「それでは、休憩はやめて自分自身の魔力を感じる練習に戻りますよ。」
アオイさんの一言で、目の前の茶器やお菓子(クッキー系でした)はあっという間に片づけられました。
昼食の前にドレスを着替えさせられて、今日はピンクフリフリ(何の罰ゲーム!)からオレンジ色のフリフリの抑えられた(ピンクのドレスと比較して)若干重さも減った動きやすいものになっています。
髪の毛も編みこまれたり、結われたり、毎日よくバリエーションがあるものだと感心します。
私は仕事の時は邪魔にならないように後ろでしばるオンリーだから、新鮮と言えば新鮮だけど・・・いかんせんフリフリドレスに合わせた髪型づくりには違和感を感じています、ハイ。
フリフリのごっつ盛りは26歳の着るドレスじゃないだろうと思っていますが、同僚のユッカだって異存はないと思いますよ。
この後、まだ夜のドレスがあるというのも無断欠勤3日目の私はすでに体験済みです。
アオイさんに手を握られ、毎日練習を重ねると魔力を感じる前にくるピリピリにも慣れてきました。
あの【じわーん】とくるのが私の魔力じゃないかとアオイさんに言われています。
他の人は、もっとポカポカしているような・・・お風呂や温泉に入った時に感じるような心地よさを感じると言われ、人とは違うけどつきつめればまぁ似たものか?と諦めました。
アオイさんの思惑と違って、私は『目指せ"光"』ですので、異世界人だし魔法を使えれば御の字です。
幸いというか、アオイさんや侍女さん、護衛騎士の方に対してはおかしくなったり、おいしそうという感覚は発生しませんでした。
アオイさんにしてみれば自分の意思じゃなくて強制的に異世界に放り込まれたワケだから、日本に帰りたいという気持ちがあるでしょう。
「体の中で感じたら、魔力が体の中にいきわたるイメージをしてみて。」
目を閉じてアオイさんの声に従って、自分の体の中で【じわーん】とした何かが広がっていくのを想像してみます。
ちょっと気を抜くとイメージが散ってしまい、アオイさんに魔力で包んでもらって自分の力を感じる呼び水を差し向けてもらわないとやり直せません。
もう少し慣れると相手がいなくても魔力をイメージできるようになり、その後にコントロールできたら次の段階になるそうです。
最終的には呼吸をするように操れるようになるって、いったいいつの話なんだろう。
人参を目の前にぶら下げられた私は、時間があれば練習で、集中力が途切れたらこの国の言葉を教えていただいています。
「ホラ、魔力の動きがなんとなく散漫になってる。」
手を握っているアオイさんが魔力で圧力をかけてきました。
魔力に圧倒的差があると、魔力で抑え込んで相手の魔法を発動できなくしたり動けなくするのは可能のようです。
相手の魔力を中から操ることはできなくても感じることができたり、裏技的にやりようがあるってことでしょうか?
「また集中が途切れてる!」
「すみません!」
*
【じわーん】を体中に満たす・・・。
目を閉じて光(自分の中の魔力のイメージ)が自分の体の中にいきわたるように・・・。
あ、なんか今回は全身くまなく広がりそう・・・。
じわーんがなんとなくくすぐったいような気がするけど、こういう想像(妄想?)はけっこう得意だし、今日はいい感じ・・・。
『くおーん。』
ん?今の音は?
私の手を離したアオイさんが「かなり遠くだけど念のため鐘を鳴らすように伝えて。」と侍女さんに指示すると、どこなのかわからないが、すぐにガラーンガラーンと大音量の鐘が鳴り響くのが聞こえた。
「な、何が?」
目を開けるとアオイさんが遠くの空をじっと見つめている。
「竜が首都に向かって飛んでくる。」
「何もいませんよ?」
アオイさんの見ている方を目を凝らしてもそれらしい姿は見えない。
「まだ肉眼では見えないわ。レーダーをかすっているような状態よ。」
レーダーって異世界にあるの?
私の疑問に答える前に「あ、方向が逸れたわ。西の空を横切る・・・。この近くを飛ぶなんて珍しいわね。」とアオイさんが、西と思しき空を指差す。
「ほら、あそこよ。こちらに来ない・・・とは思うけど、あれが竜よ。」
アオイさんの指の先を辿ると、空に黒い点がゆっくりゆっくりよぎっていく。
・・・。あのちっちゃい点?
「かなり近いわね。今頃王宮では宮廷魔術師が大忙しよ。」
アオイさんが「気が変わらないことを祈ってるわ。」と胸の前で両手を祈るように組んだ。
「あれで近いんですか?」
初めて見る竜が黒豆のような"点"であったのに拍子抜けしてガッカリしてしまった。
アオイさんはまじめな顔で「あんなに小さくてゆっくりだけど、竜はかなりのスピードで飛んでいるの。あの距離で点で見えるくらいだから近くを飛んだだけでも街中すごい被害になるわ。あちらもわざわざ人間の街には近づかないと思うけど・・・。」と竜から視線を外さない。
やがて黒い点が視界からいなくなると、アオイさんの緊張はとけたようだった。
ファンも恐ろしいとかなんとか言っていたような気がする。
「ま、"触らぬ神に祟りなし"って、蓋し至言であるということね。」
まだまだ竜についてわかっていない私は、その言葉は浸透しなかったのでありました。
すみません、仕事の都合で滞りがちになると思います。




