レンタル鍛冶場
「ダメだ、ダメだ!そんなんじゃ素材が台無しだ!」
汗だくになりながら試行錯誤を繰り返していると、タムじい・・・いや【親方】は汗をにじませた程度で涼しい顔をして怒鳴った。
着ている服もほぼ同じ、燃えにくい火ネズミの毛から編まれたシャツに耐火魔法を持ったリザードの皮のズボンをはいている。
「だいたいその粗末な魔法もなんだ!惚れた女のために死ぬ気を出すくらいの覚悟でやれ!」
「死ぬ気って・・・。」
首にまいた手ぬぐいで滴る汗を拭おうとするが、手ぬぐい自体が役をなさない状態だった。
「まだ地金にもたどりついてないのに、いきなり本気でやったら後が続かないと・・・。」
「グダグダぬかすな!本気を出した限界の向こうに新しい世界がある!」
タムじい・・・いや親方は、スパルタ方式かつ根性主義者のようだ。
「お前も冒険者になるために腕が上がらなくなるまで剣を振ったことがあるだろう。それぐらいの気魄でやるんだ。」
飲み屋でグダグダになったあの日から、タムじいとは交流が生まれた。
昔冒険者だったタムじいは、鍛冶店の親方だった。
普通の武器も作るが、まれに魔法効果を付与した特殊な武具も作るらしい。
だが、今自分が作っているのは武器ではない。
前の仕事で珍しい石が手に入ったのでアクセサリーに加工を頼もうと思ったら、タムじいに「ならお前が作ってやれ。そのほうが喜ぶと思うぞ?」と唆され、今に至る。
タムじいいわく、彼女は高価な宝飾品を沢山持っていたそうだから、素人の作ったものなど喜ばれるかどうかわからないが「要は気持ちだ」と言われ、取り組むことになった。
普段なら、珍しい石などすぐに興味を失くしてギルドの買い取りに出してしまっただろう。
でも、その石を見た瞬間にリサに似合いそうだと思った。
今週もまたリサには会えなかった・・・。
仕事が忙しいのだろうか。
具合でも悪いのだろうか。
それとも・・・こんな若造には興味を失くしてしまったか・・・。
もしや、こちらの世界に来れなくなってしまったとか・・・。
「オラ!気ィ抜けてんぞ!魔法銀が泣くぞ!」
えっ?!
「ちょっ、ミスリルって!練習用のただの銀じゃなかったんですかっ?」
「ファリサちゃんへのプレゼントなんだろ?やる気出さないと使用料も嵩むからな!ガッハッハ。」
・・・待て。
俺は何回材料を無駄にした?
「ぼうず、その年でB級冒険者だろ?支払い能力も確かめてあるから安心してるぞ!ギルド割引はしてやるからな!」
一瞬クラッと眩暈がしそうになった。
金の心配よりも魔法銀の稀少性が問題だ。
魔力を込めて失敗したミスリルを集めて溶かして元に戻るかと言えば、答えはNOだ。
「・・・もっと早く言って下さい。」
米神を押さえて唸った俺に、親方は「依頼に失敗したら、お前は"今のは本気じゃなかった"って言うのか?それと同じことだ。」と一日怒鳴り続けていた声を普通の音量に戻した。
「基礎もコツも教えた。昨日一日練習もした。今日は本番にすると言ったはずだ。」
本番と言っても、今日の一番からいきなり本番になっているとは思わなかった。
そこそこ上達した時に本番だと思っていたのだが・・・。
冷たい声で「ファリサちゃんへのお前の気持ちはそんなもんなのか?一発で決めるくらいの気概を持て。それでもしくじったら何度でも這い上がれ。」と言われる。
魔法付与をつけるために魔法銀板を合わせて強い地金にする段階でこれなら、この先どうなるかわからないが、とにかくテンションは上がった。
「頑張ります!」
今は頭をまっさらにして目の前の金属にだけ集中することにした。
「ぼうずはなかなか筋がいいから、冒険者をリタイヤしたら良かったらウチで雇ってやってもいいぞ。」
「まだ冒険者になって2年、俺はこれからもっと上がる予定です!」
「ま、それで命を落としたら、後はゼットあたりが名乗りを上げてくれるだろうから安心して精進しろよ。」
振り上げた槌にこめた魔力が動揺で無残にも拡散する。
左手で使っていた魔法も揺らいだ。
「ハハハ。まだまだ甘いな。」
自分の後ろで親方が腕を組んで胸をそらして笑っている。
打ちおろされた槌によって淡い光を発していた手元の金属は一瞬のうちにして力を失い黒ずんだ姿に色を変えた。
「この複数の魔法銀板を合わせて鍛えることによって模様が生まれ、美しくなるとともに、より強い金属となり魔法効果も高まる。最初の地金が成功すれば後の工程は最初よりは楽になる。ぼうずが魔法剣の遣い手でなければやらせようとは思わなかったが、なかなかどうして俺の目もまだ大したモンだな。」
タムじいの説明なのか自画自賛なのかわからない言葉を聞き流し、もう一度やり直す前に魔法銀板に不純物がないように"洗浄"で洗い流す作業にとりかかった。
リサ・・・今、何をしてる?
ここにリサがいないとわかっていても、つい人混みの中に黒髪の女性を探してしまう。
俺は、医者でも薬でも治せない厄介な病が体の奥まで巣食っているようだ。
早く金曜日の夜よ、来い・・・!




