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ステータス『0』の観測兵 ~クラス転移を離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~  作者: ハルキーノ
第三章 ”自己”

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四章二十五話 迷宮後報

《辺境者の歌》 四章 二十五節

『後報は、帰った者の数より、書けなかった名で重くなる。』


2374- 冒険者協会報告室 佐々木視点


 迷宮後報は、薄い紙だった。薄いのに、書く欄は多い。到達階層。


 遭遇魔物。損耗。


 回収品。同行者。


 佐々木は、欄の名前を順番に読んだ。どこにも、古い声、と書く場所はない。


「回収品は」


 受付職員が聞いた。


「錆びた腕輪。木箱付き」


「危険反応は」


「なし。たぶん」


「たぶん、は書けません」


 佐々木は少し黙った。


 書けない言葉の方が、現場では多い。


 でも報告室では、書ける言葉だけが残る。


「現時点で確認なし」


「はい。それなら」


 受付職員が筆を動かした。



 三郷は、報告室の壁際で腕を組んでいた。


 笑っている。


 けれど、いつものように話を軽くしない。


 桐谷は椅子に座り、腕輪の箱を見ている。箱の蓋には泥がついたままだ。拭けば落ちる程度の泥なのに、誰も拭こうとしない。


「同行者名」


 受付職員が言った。佐々木は名を挙げた。三郷弦。


 桐谷幸。山崎才我。佐々木宗助。


 それから、迷宮で会った者たちの名を、分かる範囲で言った。


「不明者は」


「います」


「数は」


「二」


 受付職員は、二、と書いた。


 たった一文字だった。


 佐々木は、その一文字を見ていた。



「欄外で構いません」


 桐谷が言った。


 受付職員のペン先が止まる。


「何をですか」


「腕輪が置かれていた部屋のこと。声が聞こえたこと。私たちのうち、聞こえ方が違ったこと」


「確証は」


「ありません」


 桐谷の指は、受付台に触れていない。けれど、言葉だけはそこから退かなかった。


「では本文には」


「欄外で構いません」


 同じ言葉を、桐谷はもう一度言った。


 佐々木は、少し意外だった。


 桐谷は普段、同じ言葉を繰り返さない。狙いを変える。角度を変える。


 それでも、今は同じ場所を撃った。


 受付職員はしばらく迷い、報告書の下に小さな線を引いた。


「欄外参考記録」


 そう書かれた。


 本文ではない。


 でも、消えたわけでもない。



 報告室を出る時、三郷が箱を持った。


「軽いな」


「中身は」


「軽い」


 三郷はそう言ってから、少し持ち方を変えた。


 軽いものはつい雑に扱ってしまう。でも、この軽さは雑に扱っていいものじゃない。


 佐々木は、報告書の控えを折らずに鞄へ入れた。


 迷宮の奥で聞こえた声は、本文には載らない。


 欄外には残った。


 それを十分だとは、まだ言えなかった。


――――――――


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https://kakuyomu.jp/works/822139841314440520/reviews

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