四章二十一話 勇者班の任務票
《辺境者の歌》 四章 二十一節
『厚き票は、名を守るために名を薄くする。』
2374- 王都外縁詰所 佐々木視点
出発十五分前、荷車はまだ来ていなかった。
勇者班の六人だけが詰所裏の石敷きに並び、任務票に書かれた荷を待っている。三郷は三度目に門を見た。
「現地で確認するんじゃなかったの」
桐谷が聞く。
「荷車が来るかどうかは現地じゃ確認できないだろ」
「今、細かいね」
「うるさい」
三郷は笑わなかった。昨日、任務票の穴を飲み込んだことを気にしているらしい。
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荷車は、出発八分前に来た。
御者が手綱を引くより先に、山崎が後部の綱を外した。弾薬箱二つ、保存食一箱、簡易結界具。救護包は見えない。
「下だ」
桐谷が荷台へ腕を入れた。弾薬箱の角に袖が引っかかる。
「幸、右腕使うな」
「左だけじゃ届かない」
三郷が横から弾薬箱を持ち上げた。佐々木も反対側を支える。箱は任務票の紙より、ずっと素直に重かった。
一箱目の下に救護包が二つあった。
「五人で二つ?」
山崎が数え直した。
「治療班は後方待機です」
御者が言った。
「その後方が分からないから聞いてる」
三郷の声に角が立った。御者は自分が書いた票ではないのに、肩をすくめた。
✶
佐々木は詰所へ戻り、任務票と救護包を受付台へ置いた。
「五人で二つです。予備を一つ」
「規定数です」
「では、桐谷の分を別に」
職員は桐谷の腕を見た。桐谷は袖を下ろして隠した。
「私だけ多いのは嫌」
「嫌でも持て」
「宗助が持つなら」
話がずれた。佐々木が返事に詰まっている間に、三郷が受付台へ手を置いた。
「予備一つ。俺が持ちます。それでいいですか」
職員は出発札の時刻を見て、奥の棚から救護包を取った。
「貸与扱いです。未使用なら返却を」
「使わなかったら返します」
三郷は受け取った包みを自分の荷袋へ押し込んだ。保存食を一つ出さなければ入らず、そのパンを山崎へ投げた。
✶
出発は三分遅れた。
荷車が動き出すと、荷台の下で救護包が擦れた。佐々木は一度車輪の横へ屈み、固定紐を締め直した。
「承なら先に気づいたかな」
山崎が、もらったパンをかじりながら言った。
「今それ言う?」
三郷が振り返る。
「いや、宗助が気づいたって話」
佐々木は返さなかった。固定紐を引く指へ、荷車の振動が伝わってくる。
任務票の備考欄には、救護包優先と追記された。その横へ、出発三分遅延。佐々木宗助確認、と自分で書いた。
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