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ステータス『0』の観測兵 ~クラス転移を離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~  作者: ハルキーノ
第三章 ”自己”

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四章七話 戻らない荷車

《辺境者の歌》 四章 七節

『戻らぬ荷車の轍は、記録の余白を広げる。』


2374- 王都外縁詰所 ベイル視点


 荷車は、戻らなかった。


 人は戻った。


 その二つは、同じ報告欄に入らない。


 ベイルは詰所の机に座り、濡れた外套を肩にかけたまま、相談票を見ていた。正式依頼票ではない。被害届でもない。誰かが「これはまだ事件ではない」と判断した時に使う、半端な紙だった。


「積み荷は」


「食料袋が三、工具箱が一、替え車輪が一」


「替え車輪もか」


「はい。外れた方ではなく、積んでいた方です」


 それは嫌な話だった。


 壊れた車輪を直すための車輪まで失った、ということになる。


 ベイルは欄外に小さく書いた。


 予備喪失。


 字にすると冷たい。


 でも冷たく書かないと、次の人間が読めない。



 戻ってきた御者は、椅子に深く座れなかった。


 腰を下ろすたび、体が勝手に浮く。まだ荷台の揺れが残っているのだろう。目は机ではなく、詰所の出入口へ向いている。


「追われたのか」


「見えませんでした」


「見えないものに追われた」


「音はしました。後ろで、木が割れる音が」


 魔物か、人か、車両か。


 そこを聞かなければならない。


 聞いたところで、御者が答えられるとは限らない。


「匂いは」


「油です。焦げた油。あと、濡れた布みたいな」


 ベイルは、相談票の分類を一つずらした。野盗ではない。魔物単独でもない。


 誰かが道具を使っている。そこまでしか書けない。



「羽黒のところへ回すか」


 同僚が言った。


 ベイルはすぐには頷かなかった。


 何でも羽黒に回せばいい、という空気ができかけている。


 それは楽だ。


 楽だが、危ない。


 名前が通りやすくなると、人は中身を見なくなる。


「先に道を見に行く」


「誰が」


「俺が行く」


「お前、現場は」


「相談票を書いた人間が、紙の外を見ていないのはまずいだろ」


 そう言うと、同僚は黙った。


 ベイル自身も、言ってから少し後悔した。


 格好をつけるほどの話ではない。


 ただ、戻らない荷車を紙だけで扱えば、次に戻らないのは人になる気がした。



 夕方、詰所の外に出ると、雨はやんでいた。


 道には、荷車の轍が途中まで残っている。


 途中から先は、泥が崩れて線が消えていた。


 ベイルは膝をつき、指で泥を押した。柔らかい。車輪だけなら沈む。人の足なら、逃げられる。


 だから人は戻った。


 荷車は戻らなかった。


 その順番を、相談票の一番下に書くことにした。


 原因不明。


 ただし、次の荷は減らすこと。


――――――――


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https://kakuyomu.jp/works/822139841314440520/reviews

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