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ステータス『0』の観測兵 ~クラス転移を離れた少年は、砲火と魔法の異世界で昇進させられる~  作者: ハルキーノ
第三章 ”自己”

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六章五話 残った声の行き先

《王録》 六章 五節

『残った声は、別の胸で形を変え、二度目の命を得る。』


 触れた瞬間、相手の目が変わる。


 目だけが、先に答えへ届いたようだった。


 その顔が、好きだった。


 好きだと思ってしまう自分が、少し気持ち悪い。


 転校してきた最初の日、誰も話しかけてこなかった。


 知っていることを誰かに届けたくて、でも届ける相手がいなかった。


 この世界に来てから、それが少し変わった。



 ドラゴン爆撃のドクトリンは、先に伝えておくべきだった。


 五百キロ爆弾の衝撃半径は地形によって違う。


 建物の内部に入れば衝撃波が弱まる。


 伏せる方向は爆心地の反対側が正しい。


 知っていれば動けた人間がいたかもしれない。


 だから触れて回った。一人、二人、三人。


 触れるたびに、目が変わった。その顔が好きだった。


 ……いや、好き、というより、間に合った、という手応えだ。


 胸の奥がすこしだけ温まって、次の瞬間には冷える。


 手のひらだけ汗をかく。



 機関銃の射線が変わるタイミングも伝えた。射手の交代周期は大体四十秒から六十秒。その間に移動すれば通れる。


 根岸さんに触れた。動いた。


 黄泉さんに触れた時、もう動けない状態だった。


 それでも目だけ上げた。


 その目が、一度だけ揺れた。


 それだけで十分だった、と思いたかった。


 届けるのは情報じゃなくていい、と言い切れたら楽だった。


 でも本当は、どれだけ渡しても足りない。


 足りないのが分かるのが怖いから、顔に逃げる。



 九人目に触れた時、その人が「ありがとう」と言った。


 聞いたことのない種類の声だった。


 転校してきた日から、そういう声を待っていた気がする。


 でも今言われると、次に行けなくなりそうで困った。


 「どうも」と言って、次に向かった。


 自分でも雑だと思う。


 でも止まれなかった。



 結界の第二層まで残量が尽きた時、周囲に誰もいなかった。


 みんなが動いていた。教えた通りに動いていた。次に触れる相手を探した。


 いなかった。英雄が来た。触れる相手がいないと、僕は戦えない。


 教鞭を握ったまま、それだけ分かった。伝えきれなかった知識が、まだある。でも届ける相手がいない。


 転校してきたあの日から、ずっとそれだけが喉の奥に引っかかっていた。


 知っていることを誰かに届けたかった。言葉にできる理由は、そこまでだった。


 少しでも届いたなら、それでよかった。


 そう思うことにした。


 思うことにして、喉の奥の乾きを飲み込んだ。


 届ける相手の目が変わる、あの顔が好きだった。


 転校してきた日、あんなふうに目を止めてくれる人はいなかった。


 この世界に来てから、ようやく何人かにその顔をしてもらえた。


 九人、とは数えていた。


 九人の目が変わった。


 転校してきた日のことを思うと、九人というのは、すごく多い気がする。


 知識は届いた。もっと届けたかった。でも届けた分は、ちゃんとある。


 伝えきれなかった分が、まだある。でも届けた分も、ちゃんとある。それは消えない。


 触れた瞬間に目が変わった、あの顔は消えない。


 そう思うことにした。


 転校してきた最初の日は、誰にも届けられなかった。


 今日は、九人に届いた。それだけのことだった。


――――――――


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https://kakuyomu.jp/works/822139841314440520/reviews

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