▽1・2 人類連合軍・異例の存在
場の空気が変わった。
先ほどまでの和気あいあいした雰囲気から一転、任務に臨む兵士としての緊張感が場の空気を変える。
「今回の任務はプランヴェル軍残党が潜んでいるとされる旧整備工場の調査です」
3Dホログラム映像で再現される旧整備工場の建物と周りの地形。
木々が多く、近場に森がある規模の大きい工場。
「ここ最近この旧整備工場から不審な物音や飛ぶ物影の報告が相次いでおり、今日訓練中の演習場に現れた五機のプランヴェル軍機はここから出てきた可能性があります」
ヨシノリを襲った五機のプランヴェル軍機。
今回の任務に繋がってくる。
「よって、今回は様々な状況に対応出来るよう空中戦闘仕様で旧整備工場の内部を調査します。敵が出た場合は共に参加するアルファ小隊の援護を受けて、プランヴェル軍残党を撃退します」
「つまりハチの巣をつつく任務だ。我々は六人と中途半端な人数だが、やってやろう」
任務の説明が終わる。
「出撃は今から一時間後だ。三十分前には『ベースドアーマー』に乗る気でいろよ」
説明の次は出撃で忙しくなる。
「今の内にトイレ行っとこ!」
「そうね。ナコは?」
「僕も行く」
忙しくなればトイレに行く暇はなく、そうなる前に三人娘はトイレへ急いだ。
「タキ一等兵」
「どうしました?」
三人娘がトイレに行ったところで、少女のように柔らかいユリの呼び声がやってくる。
「さっきの話、あの三人に答えていたことをもっと詳しく聞かせてもらえますか?」
三人娘の質問への返答。それをもっと聞きたがっていた。
「はい、いいですよ」
「まずは年齢から。タキ一等兵は十七歳なんですよね? 入隊は何歳からしました?」
「入隊は十五歳からです。それから二年の訓練課程があっての今になります」
「十五歳……大体中卒の年齢ですね」
ヨシノリはさも当然にしているが、ユリは違和感を覚える。
「ノア軍曹、タキ一等兵の教官をやっていたんですよね? 彼の年齢、今までおかしいとは思いませんでしたか?」
まるでなにかを探るようにユリの質問の方向がノアに向いた。
この質問に対してノアは難しい顔をして「思ってはいましたよ」と告げる。
「やはり……」
「えっと、どこがおかしいですか?」
ユリとノアがおかしいと思っていても、ヨシノリには分からない。
「本来軍に入隊出来るのは十八歳からなんですよ。緊急時の一時入隊だとしても採用年齢は十六歳、飛び級の特別士官でもないのに十五歳で入隊出来ていることが普通じゃないんです」
だから自らのおかしい部分をユリが説明する。
「え……そういうことなら俺、なんで……」
説明があって、ようやく理解出来てくる。他人から見る自らのおかしい部分、違和感のある部分を。
「じゃ、じゃあユリ少尉とさっきの三人の年齢は? とても若く見えますけども」
そして自分のおかしい部分に気付けば相手のことが気になってくる。
「私は士官学校を卒業したばかりで、二十二歳。三人の方はラウラ上等兵とハート上等兵が二十歳で、ナコ伍長が二十五歳だったはずです」
「それじゃあノア軍曹は?」
「はぁ……女性に年齢を聞くなと教えておけば良かった。私は三十二歳だ、バカモン」
最後に若干赤面するノアに叱られて「すいません」とヨシノリは謝る。
「しかし本当に全員成人されているんですね」
部隊メンバーの全員が年上、成人済み。
ここにいる未成年者の軍人はヨシノリ一人だけ。軍に所属して、おかしい存在なのだと実感出来てくる。
「まぁ未成年だろうと配属された以上は仲間です。なにかあれば、年上の私たちに頼ってくださいね」
そう笑みを浮かべてユリはヨシノリの頭を撫でた。
「は、はい」
異性の柔らかな手が優しく頭に触れる。父親が生きていた時以来から久しく撫でられる感覚。
ヨシノリはほんのり赤面する。
異性相手に恥ずかしさはあるが、同時に久しぶりの感覚に嬉しくもあった。
「次の質問に移りましょう。あなたの教官であるノア軍曹との関係、そして訓練生だった頃の訓練内容はどうでしたか?」
ユリは撫でる手を戻し、次の質問を告げる。
「えっと、ノア軍曹とは教官と教え子の関係で、重装甲機兵として二年間教えてもらっていました」
「まぁ私が教官として教える範囲内も範囲外も彼の訓練課程は異常でしたがね」
質問に答えるヨシノリに続いてノアは補足を入れ、話を続ける。
「戦車の下敷きにして耐久訓練とか、非武装で紛争地帯を横断とか、教官機のみが実弾を使用して回避訓練……挙句の果てに飲食の一切を禁止して過酷な訓練を課す。もはや度を越した拷問ですから何度もやめさせろと具申しましたが……結局、手取り足取りヨシノリの世話をするしか出来なかったですよ」
常軌を逸する、ヨシノリの訓練課程。そんなヨシノリを親身に支えてきたノア。
二人が姉弟のように親しい理由。親しくなる二年間の訓練課程の一部が話される。
「タキ一等兵の訓練課程はともかく、お二人の仲の良さは納得出来ました」
ユリはそんな二人の親しさの理由を理解する。だからか「羨ましい」と、どこか寂しい表情で気持ちを漏らした。
「ユリ少尉、そろそろ出撃準備を進めましょう」
「……そうですね。ラウラ上等兵ら三人が戻ってくるのも見えますし、始めましょうか」
両者にこれ以上の質問と回答がないところで、三人娘が丁度良く戻ってくる。
出撃準備を始めるには良い頃合い。
「先に準備してきます」
「分かった。私はあっちの三人に一声掛けてから準備を始める」
「はい」
ノアと軽くやり取りをして、ヨシノリは隊の誰よりも早く『ベースドアーマー』の準備に向かう。
実戦に向かうまで後少し。話し合いから殺し合いをするのに後少し。
戦いへの準備は進む。