▽6・3 有志連合・最後の戦い、集う意志
朝焼けに彩られた空。今日という新しい日を迎えた空。
「あ、ユリ隊長戻ってきたよ!」
「ちょっと待って、あれ手繋いでない?」
「わ、わぁ……! 本当だぁ……!」
その空の下、ヨシノリとユリは三人娘の視線を浴びながら戻ってくる。
「ユリ少尉、機体の通信から聞いてましたよ」
「がんばれましたよ、私。ヨシノリ君と手を繋いだおかげで!」
ユリのニッコリ笑顔。
繋がれたままの二人の手を見たノアは「大したもんだ」と呟く。
「それで次にすることは?」
視線をユリに戻して、ノアは問う。
「まずは鹵獲した機体の塗装からです。敵と誤認されたくないですからね」
「了解、早速取り掛かりましょうか。そっちで見てる三人も手伝えよ?」
問いの答えは『ハートシンク』の塗装。視線を送ってくる三人娘にも声が掛かる。
「あーい!」
「機体が結構大きいから『ベースドアーマー』でやるのがいいかもね」
「あれ、なんかいっぱい人が来るわよ」
そこにフォックス小隊以外の塗装人員もぞろぞろとやって来る。
「塗装の人員ですね。先ほど人員を回してくれると言われたので、それでしょう」
フォックス小隊の面々に塗装人員も加えて『ハートシンク』の塗装が始まっていく。
※
朝焼けの中で青く明るくなる空。
『ヘキサ』を照らす太陽は塗装し直された『ハートシンク』を照らす。
「とりあえずはこんなもんですか、ユリ少尉」
「はい。簡易的ですが、これで十分でしょう」
中隊の面々が見上げる『ハートシンク』の姿。
元の黒一色をベースにノア機は蒼のラインを、ユリ機は白のラインを機体各部に入れている。本来一日以上要する塗装を数十分で終わらせたものだが、その姿は敵味方を見分けられるほどにはプランヴェル軍機との違いが分かる。
これですぐに戦闘に出ても目視での敵味方の識別に支障はない。準備は万端である。
「上空から正体不明の艦船が接近! 各小隊は迎撃に出ろ!」
「おい、お客さんだ! 迎撃するぞ!」
『ハートシンク』の準備が万端となった途端、早速迎撃の警報が鳴り響く。
即座に兵士たちは自分の『ベースドアーマー』へと走っていった。
「来たか、プランヴェル!」
「早速お前のことを追いかけてきたな、ヨシノリ」
空を見上げると正体不明の艦船――プランヴェルの母艦が見える。
ヨシノリを追って森空基地へと近付いていた。
「行きましょう! この戦いで敵の計画を捻じ曲げます!」
ユリを筆頭にフォックス小隊も出撃開始。
三人娘は空中戦闘仕様に換装された『ベースドアーマー』へと、ユリとノアは『ハートシンク』へと搭乗。
ヨシノリは唯一塗装の必要性がない朱殷の巨人『魂解』に乗る。
「プランヴェル、ここで決着を付けるぞ」
乗り込んで機体を起動。決着を付けるために飛び立つ。
上空では既に出撃した他小隊がプランヴェルの母艦を睨み合い、そこにヨシノリたちのフォックス小隊も空に上がってくる。
舞台に上がる役者は揃った。
「あの戦艦はなんだ? 誰か詳細は?」
「プランヴェル軍の母艦です。私たちの鹵獲機体はあそこから奪ってきたんです」
「なるほど、プランヴェル軍か。久々に人類連合軍としての本業が出来るな!」
「なっ!? プランヴェル軍の艦船からなにか出てきます!」
まるでヨシノリを待っていたかのように母艦から黒い塗装の物体が多数出てくる。
「プランヴェル……俺が上がってくるのを待っていたか」
ヨシノリはプランヴェルの思惑を察し、母艦から出た機体を凝視する。
「プランヴェル軍機多数! 約五十機です!」
「敵、空中戦闘仕様の『ベースドアーマー』と多脚戦車。ここ最近姿を見せなかった機械兵士もいます!」
鹵獲兵器の中に紛れる、プランヴェル軍の初期戦力――機械兵士。人型の機械で、人間と同程度の大きさの敵兵。
プランヴェル軍に鹵獲された『ベースドアーマー』と同じエネルギー砲を持つ重装備の機械兵士。戦車を容易く破壊する火力、時速500kmで空を飛べる機動力、歩兵の小銃程度では破壊されないなど能力は『ベースドアーマー』に匹敵する。
「ここは我々フォックス小隊が先行します!」
「ブラボー了解。全機フォックスに続くぞ!」
ユリ率いるフォックス小隊が前進、先行。他小隊はそれに続く形で前進する。
「ヨシノリ君」
「はい、少尉」
「ヨシノリ君は自由に戦ってください」
「良いのですか?」
「あの敵はヨシノリ君が一番殺したい仇。そしてあなただけが唯一あの敵とまとも以上に対抗出来る。後ろは私たちに任せて、ヨシノリ君は自らの意思で戦ってください」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……俺は自由に行かせてもらいます!」
真の親の仇を前にして願ったりの指示。そんなユリの言葉に背中を押されて、ヨシノリは機体を一気に加速。
『ベースドアーマー』では出来ない超音速機動で敵との間合いを一気に詰める。
≪フフフ……わざわざ私の前に来たか、タキ・ヨシノリ!≫
プランヴェルの声が通信に入り込む。直後、プランヴェルの攻撃が始まった。
実弾の射撃、飛翔するミサイル、イズレット粒子砲と呼ばれるエネルギー砲の光、その全てが揃ってヨシノリに集中して向かう。
「願ったりだろ、お前にとっても!」
文字通りの集中砲火。しかし幾重にも攻撃が重なろうとも、風の如く分厚い弾幕の中を通り抜けていく。
「俺にとっても願ったりのことなんだよ!」
弾幕の中で一切の被弾もなく、あっという間に敵の陣形の懐に入った。
≪なにっ!? しまった!≫
陣形の懐。交戦距離が近くなった今、そこから始まるのは一方的な戦闘。
プランヴェルの機体が散開して距離を離そうとしても既に遅く、離れようとして攻撃を緩めれば一瞬で仕留められ、回避に徹しても確実に撃破される。
超音速で駆け回る『魂解』を捉えて撃とうとも、当てるどころか射線上のプランヴェル自らの機体を撃墜してしまう。
「プランヴェル軍、こちらの射程内です!」
「全機一斉射撃! プランヴェル軍を圧倒している内に一気に畳み掛けます!」
「ヨシノリ! 一斉射撃が行く、上手く避けろよ!」
プランヴェルがヨシノリに手間取っている隙に各小隊はプランヴェル軍へ接近。各小隊の射程内にプランヴェルの機影が収まった。
≪くっ、破壊者め!≫
『ハートシンク』のイズレット粒子砲から走るビーム、各小隊の実弾とミサイル。
ヨシノリに酷く荒らされた挙句、各小隊からの一斉射撃がプランヴェルに放たれた。
「一気に終わらせる!」
誤射もあり得る中を、ヨシノリは尚も被弾なしでプランヴェル機だけを撃墜する。
もうプランヴェルに逃げ場もなければ避けようもなく、この一瞬の内に展開中の戦力を破壊されて、プランヴェルの戦力は見る影もなく全滅した。
「プランヴェル! これで終わりなら、後は母艦だけだな!」
≪なにを言ってくれるか、タキ・ヨシノリ! これからだ!≫
高揚するプランヴェルの余裕の声。それと共にプランヴェルの母艦から、各小隊へ物体が何個も放出された。
「あれは……っ!?」
ヨシノリにとって見覚えのある物体。
「各小隊全機、プランヴェル艦が放出した物体から離れて!」
思い出すのは初任務でワープゲートから落ちてきた電磁パルス発生器。それと同じ物体だと気付き、叫ぶ。
「全機散開! プランヴェル軍が放った物体から距離を離してください!」
ユリはヨシノリの声を聞いて即座に指示。各小隊は指示通りに急ぎ散開するが、ほんの数秒後に多数の電磁パルス発生器が接近、一斉に発光が始まる。
「なに、これは電磁パルス――」
「Fデバイスが止まって――」
複数の巨大な発光。電磁パルスの範囲内の機体はシステムが一部停止、通信機もダウンして半数以上の機体が次々地上へ墜落していく。
「そんな、被害は!?」
「こちらチャーリー、五機損失」
「こちらデルタ小隊! 隊長がやられた、もう俺を含めた三機しかいない!」
「こちらアルファ! 隊長も全員やられました、残ったのは私だけです!」
「ユリ隊長、ナコです! エコー小隊、ブラボー小隊、共に全滅しています!」
ユリとノア、三人娘は無事。
それに対して他の小隊は壊滅的。フォックス小隊も含めて残り機数は十五機、元の五十機近くの機数から大きく減らされた。
≪第一陣の全滅は流石の早さだったが、これで状況はこちらに有利≫
「有利だと?」
≪そう、有利だよ。なにせここからが本番なのだからな!≫
有利である理由。その証明としてプランヴェルの母艦から三機の機影が現れる。
その三機は10mの黒い人型兵器。
ユリとノアが鹵獲した機体と同一の機体――『ハートシンク』である。
「あの機体、ユリ少尉とノア軍曹が乗っている機体と同じやつ!」
≪フフフ……貴様の父、タキ・サエアキには感謝しているよ。貴様が今まさに乗っているプロトタイプ、サエアキの機体のおかげで『ハートシンク』があるのだからな≫
起動時に出た、プロトタイプの文字。
ヤン将軍が乗っていた『真龍』と似た見た目のプロトタイプ機。
それが示すのは、ヨシノリの乗る機体が父親の作った機体であるということ。
「だったら尚のこと、お前の猿真似に負けてやれないな!」
≪猿真似? サエアキの兵器は元を辿れば私の兵器に通ずる。だから私の作るものこそがオリジナルだ。私の兵器より弱く、欠陥品に乗る貴様に言われたくないな!≫
プランヴェルは性能差の違いを示すが如く『魂解』がまだ撃てないイズレット粒子砲を三機の『ハートシンク』から放つ。
≪フハハハハハッ! さぁ本番だ、降参するなら今だ!≫
「まだまだぁ!」
戦車どころか艦船すら容易く貫く粒子砲。それを各一機一つずつ、計三つの粒子砲から攻撃が来る。当たれば『魂解』の装甲など豆腐の如く貫通させられるだろう。
しかし被弾以前に、ヨシノリは当たり前のように攻撃の全てを避けていく。
「次はこっちからだ!」
避けながらの反撃。まともに狙いが付けられない中で照準が合った一瞬に、140mm滑腔砲を発射。一瞬でありながらの確実な狙いで『ハートシンク』に当てる。
≪その程度の反撃は通用せんよ≫
着弾の火花と煙の後、そこにいるのは前面に展開されたエネルギー状のシールドを構えた『ハートシンク』の無傷な姿。
≪こっちにはこの盾があるのだからな!≫
「あの盾、前面に『ベウ・マサクレイ』と同じ防御フィールドを出しているのか」
これまで人類連合軍を苦しめてきた『ベウ・マサクレイ』の鉄壁の守りたるエネルギー防御フィールド。
実弾やレーザーをも全く通さず、その守りを唯一貫通出来る巡洋艦と要塞の大型レールキャノンの巨砲でさえ『ベウ・マサクレイ』の撃破には最低でも数十発以上が必要という凄まじい防御力を持つ。
それと同一の防御を『ハートシンク』は盾として扱っている。
≪通用しない反撃をして、いつまで戦っていられるかな?≫
まさに最強の矛と最強の盾。
「どこまでも戦い続けてやる! お前の全てを殺し切るまで、どこまでも!」
だとしても、ヨシノリは怯まない。
両親の仇を前にして復讐を諦めることはない。
「全機、私に続いてヨシノリ君の援護を!」
諦めないヨシノリへの助力。
生き残った『ベースドアーマー』からの実弾とミサイル、ユリのミサイルポッドとノアの30mmガトリングによる援護射撃がプランヴェルの『ハートシンク』に向く。
≪付け合わせの野菜の如き外野共が! こっちにはイズレットシールドがあるのだ!≫
しかし援護射撃はイズレットシールド――エネルギーの盾で全てを防ぎ切られた。
「ダメだ、敵の防御を突破出来ない!」
「まだです! こっちの砲を!」
ユリは諦めない。今度はイズレット粒子砲を発射する。
≪外野共にはやられんよ!≫
また防がれるが、今度は防がれた箇所が違う。イズレットシールドの真ん中、実体シールドとなっている部分に粒子砲が防がれた。
「真ん中で防いだ? まさか、でもそれなら……!」
敵を良く見て、ユリはあることに勘付く。
「各機へ、敵のシールド範囲は前面だけです。背面なら実弾でも攻撃が通るはず、なので各『ベースドアーマー』は全機で一機を、ノア軍曹は私と一緒にもう一機を叩きます!」
「了解、お供します!」
そこから最適解を見出し、ユリたちは一気に『ハートシンク』へ接近していく。
「少尉たちも前に来る? だったらこうだ!」
ヨシノリは状況を把握。ミサイルポッドの中身を全て発射、敵『ハートシンク』全機の視界を爆煙で包む。
≪付け合わせの野菜如きが無駄なことを!≫
これに対して敵はイズレットシールドを構えたまま動かず、守りを固めた。
「今なら! ノア軍曹、左端の敵にイズレット粒子砲を集中!」
「あれか、攻撃を集中させる!」
ユリとノアはその守りを固めたところを狙い、敵一機にイズレット粒子砲を集中。
射線はイズレットシールドと被っているが、全てはユリの目論見通り。
≪なに、バレただと!?≫
「やっぱり!」
イズレット粒子砲は確かに防がれるものの、それは実体シールドにだけのこと。
エネルギーシールド部分に対しては容易く貫通出来た。
二人のイズレット粒子砲はそのまま敵『ハートシンク』の装甲を貫通、撃破した。
「なるほど。この粒子砲なら貫通出来るということか。敵をよく見ているな、少尉」
ユリの分析と最適解。このおかげで敵が一機減り、残るは二機。
≪これ以上はやらせんよ、外野共!≫
爆煙が晴れて、今度はプランヴェルの反撃。
目を合わせられた味方の『ベースドアーマー』から次々に撃破され始める。
「マズい! ハート、ラウラ、三角戦法で行くよ!」
「三角? オッケー!」
「アタシが奴の前に出るわ!」
味方が減っていく中で三人娘は敵『ハートシンク』に突撃。ナコとラウラは敵機を行き過ぎて背面に回り、ハートが敵機の正面でガトリングガンを放つ。
≪そのような浅知恵が、通用するものか!≫
プランヴェルはハートの挑発を防ぎ、無視。背面へと回ったナコとラウラの方へと矛先を向ける。だが、それも戦法の一部。敵機は三人娘の三角陣形の中に入れられて、どこへ向いても背後を取られるのだ。
「後ろがガラ空き!」
ハートはガトリングガンを撃ちながら接近、敵機の背面への接射を狙う。
≪こんな三機如きに!≫
背面への接射を阻止するためにハートへ向き直れば、今度は背後にいるナコとラウラの攻撃がプランヴェル機の背面に直撃。
≪まさか、たかが『ベースドアーマー』にやられるだと!?≫
まともに防御も反撃も出来ず、三角陣形の中から逃げようと既に遅い。三人娘が追って来るのである。
≪せっかくの『ハートシンク』が……サエアキの努力を奪ったというのに!≫
三角陣形の中に囚われ続けた状態で背面へ何発も直撃。背部ユニットが爆発して、機体本体の動力にも誘爆した。
二機目の撃破。残るプランヴェルの『ハートシンク』は一機のみ。
「なんなら奪った報いだと思え、プランヴェル!」
≪なに、後ろに!?≫
最後の一機は一瞬にしてヨシノリに背後を取られ、140mm滑腔砲が背部ユニットに直撃。次弾で機体の装甲と動力を貫かれて空に散った。
≪バカな……第二陣がこうも全滅するとは……!≫
これでプランヴェルの『ハートシンク』は全滅。ヨシノリを消耗させられなかった上にユリやノアを含めた他の兵士も生き残っている。
この状態では破壊者を止められず、ヨシノリを助力する者たちさえも止められない。
≪くぅぅッ! 流石だと認めざるを得ないな、コイツらは!≫
後に残るプランヴェルの戦力は母艦以外なく、負けたも同然。
≪だが、まだ負けではないよ!≫
それでもまだ負けていない、その証明に上空からミサイルが降ってくる。
「上空からミサイル! こっちに向かってきます!」
「ノア軍曹、シールドを! 味方機は私とノア軍曹の後ろへ!」
「全機、私たちの後ろに隠れろ!」
ユリとノアはイズレットシールドを展開。その後ろに味方『ベースドアーマー』が身を隠し、ミサイルの雨をやり過ごす。
「このミサイル、どこからだ?」
一方でヨシノリはミサイルを回避しつつ30mmガトリングで迎撃。
ミサイルの雨をやり過ごし、上空を見上げる。
≪さぁ第三ラウンドだ≫
見上げた先、遥か上空にいるのは300m級の巡洋艦が二隻。
「クソッ……こちらの巡洋艦まで鹵獲しているのか」
プランヴェルに鹵獲された人類連合軍の巡洋艦。小惑星の破砕も可能な艦首大型レールキャノンが最大の特徴。ミサイルや近接防御火器も搭載。大型Fデバイスにより飛行が可能で、大気圏の離脱と突入も単独で可能。更には宇宙でも行動出来る。
まさに万能艦であり、鹵獲されても仕方ないほど戦闘艦の中では生産数が多い。
≪降伏するなら今の内だ。タキ・ヨシノリ、どうする?≫
そんな鹵獲された巡洋艦が艦首――巨砲たる大型レールキャノンをヨシノリに向ける。
「降伏だって?」
≪しないのか?≫
「誰がテメェなんかに!」
≪ならば貴様を殺してでも、その機体から引きずり出すまで!≫
交渉の余地はない。両者共に殺意を発する、その時――空に響き渡る轟音と共にプランヴェルの巡洋艦が射抜かれた。それもたったの一撃で地に墜ち行く。
「――――私はハイロウ要塞司令官、ジャン・ハルナカ少将」
そして全ての通信に声が聞こえてくる。
「我々は決した。ライカゼ・ユリ少尉が暴いた一部権力者たちによる暴虐な計画、それを阻止するために我々ハイロウ要塞は有志連合に参加する!」
ジャン少将からの通信。
プランヴェルの巡洋艦を射抜いたのはハイロウ要塞の大型レールキャノンだ。
≪ハイロウ要塞からだと!? こんな時に、こんなタイミングで!≫
しかし参加はハイロウ要塞だけではない。
遠方、蝦夷基地のある方角から戦闘機『デーモンフライ』の編隊が接近してくる。
「よぉ、ユリ少尉と中隊の愉快な仲間たち。蝦夷基地第六〇三飛行隊だ。なんか基地司令からお前たちの殺害命令が出たんだけど、俺たちも有志連合に参加するぜ」
≪なに!? 蝦夷基地司令官に成り代わった私の命令を無視だと……いや、待て、司令室の前に誰か……そういうことか、貴様ら!≫
「へっ、あの怪しい司令官の野郎、今頃死んでいるだろうぜ」
蝦夷基地の司令室に押し掛ける基地の兵士たち。基地の司令に成り代わっていたプランヴェルは殺され、同時に第六〇三飛行隊は対艦ミサイルを発射。二隻目の巡洋艦を撃沈。
これで蝦夷基地の指揮権も鹵獲した巡洋艦も損失、今度こそ残るのは母艦のみ。
「こちら天倫基地所属機。我々は情報を伏せたオカダ・アルマ大佐により不本意に計画に助力させられていた。だが、次は正しい道を歩む。我々も有志連合に参加させてもらう」
天倫基地の『ベースドアーマー』もこの場にやって来る。
やって来るのはこれだけじゃない。有志連合へ参加する者たちの声は次々にくる。我も我もと名乗りを上げて、声は広がり続ける。
「良かった……私の声が届いていて!」
様々な声、様々な部隊、様々な人間がこれまでの敵味方に関係なくユリの呼び掛けの下に集っていく。
≪こんな……!≫
プランヴェルの母艦は抵抗出来ない。
電磁パルス発生器は使い切り、光学迷彩があってもヨシノリを奪うチャンスを逃したくなく、迷いの末に手段がなかった。
「こちら死神、パーティーはまだやっているみたいだな。デザートのチョコは頂くぜ」
若い青年の声。
声の出元は黒い塗装と白で縁取られた鴉のエンブレムを付けた双発戦闘機。エース機までもがユリの声に集まってきた。
≪私が負けていく!≫
死神と名乗ったエース機からの対艦ミサイル。
プランヴェルに成す術はなく、最後に残った母艦に直撃。
トドメと言わんばかりにハイロウ要塞からの大型レールキャノンも直撃する。
≪まだだ、まだ私には――≫
プランヴェルの母艦は攻撃に耐えられず、力を失って地上へ墜ちる。
ヨシノリを手に入れるというプランヴェルの思惑は覆された。
だから思惑を実現するためにはもう一度覆す必要がある。
≪フフフ……≫
「プランヴェル艦からなにか……あれは……!」
墜ち行くプランヴェルの母艦から出てくる、16m級の黒い巨人。
ヨシノリが幼き頃に見た黒い巨人。
エネルギー砲とシールドを持つ人型兵器。悪魔を思わせるような四つの機械翼。
「まだ『ベウ・マサクレイ』がいたのか!」
それはプランヴェル軍の主力機。たったの二十機で人類を苦しめた最強の機体。
「それなら、まさか!」
イズレット粒子砲を搭載した、オリジナル。
その矛先がヨシノリに向く。
これからなにが起こるか? それをヨシノリは知っている。
「全機警戒! 敵『ベウ・マサクレイ』の攻撃が来る、俺から離れろ!」
だから叫ぶ。幼き頃、戦火に包まれた街で見た『ベウ・マサクレイ』のイズレット粒子砲を思い出しながら、上昇して誰も巻き込まれないように味方から離れながら。
≪フハハハハハッ!≫
直後、巨大な光の柱がヨシノリ目掛けて天に昇る。
撃った『ベウ・マサクレイ』の姿すらも隠してしまうほどの巨大なビーム――『ハートシンク』とは出力が違い過ぎるイズレット粒子砲の砲撃。
「プランヴェルの野郎、こんな威力の調整も出せるのか!?」
≪この力、貴様らが『ベウ・マサクレイ』と呼ぶ、この機体は未だ健在だ!≫
ヨシノリが覚えている威力とは違う。まさに極大な射線上を全て死で覆う威力。
≪さぁ畏れたまえ! この世界の頂点となる、私と私の『ハートサイス』をな!≫
プランヴェルの口から明かされる『ハートサイス』という『ベウ・マサクレイ』の真の名前。
その力を示すが如く、射線上にあった雲は全て霧散、その先にある軌道エレベーターは破壊されていた。
「ヨシノリ君、無事ですか!?」
「生きているなら返事をしろ!」
ヨシノリが全力で回避を行っても『魂解』の装甲の大部分が焼けている。
たったの一射でこの威力。
ユリとノアの心配した声が通信に響く。
「少尉、軍曹、俺は生きています。そっちの方は大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。中隊の全員、今の攻撃での死傷はない」
全員が無事。
みんなの方へ視線を向ければ、全員の機体も無事である。
≪タキ・ヨシノリ、決着を付けよう。一対一でな。どうだ?≫
「幸いにも敵戦力は後一機だけです。難敵ですが、全員で協力すれば倒せるはずです」
プランヴェルとユリ。似ていて、印象の違う二つの少女らしい声。
一騎討ちか、有志連合の全員で立ち向かうか、二つの声が二つの選択を迫る。
≪今度は、噓は言わない。一対一で貴様以外は狙わないと約束しよう≫
「最後の決着を付けましょう、みんなで!」
誰の犠牲も望まない一騎討ちか、犠牲を出してでも協力してプランヴェルを殺すか。
二つある選択肢。ヨシノリが選ぶのは一つ。
「いえ、ここからは俺の戦いです」
誰も犠牲にしない一対一での決着。
これ以上誰も失いたくなく、自分の手でプランヴェルと決着を付けたい。
ヨシノリが選んだのはプランヴェルが出した決着の付け方だった。
「プランヴェルとの一騎討ち! ここで、俺の手で決着を付けてきます!」
それだけ言い残してユリとノアの返事は聞かずに機体を加速。
ただひたすらに決着を付けるため、ヨシノリは『ハートサイス』に向かう。
≪ありがとう。では貴様の望み通りだ、ここで決着を付けよう≫
「あぁ、お前の全てを壊して、全てを終わらせる。俺の復讐も、この戦争も、全てな!」
お互いに見合い、お互いが望む決着の時は遂に来た。




