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魔法使いちゃんの予定無き旅  作者: ウラエヴスト=ナルギウ
第三章 ノルダ合衆王国
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日記42 雪の決戦! ②

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 ヴァレリウスはカルロッタに両腕を向け、いきなり"星を堕とす(ステラ・フェレン)弾丸(・クーゲル)"を放った。


 カルロッタは至って冷静のまま、ヴァレリウスに向けて長い杖を向けた。


 この状況では、"星屑の(エッジワース・)煌燦(カイパーベルト)"の為の()()の時間が足りない。転移魔法で遠くへ離れて溜めるのも一つの手だが、この状況で逃走をして無駄な時間を費やす方が不利に転じるだろう。


 ならば転移魔法は避ける為に使うのでは無く、攻めの為に使うべきだろう。


 カルロッタは転移魔法を使い、いきなりヴァレリウスの頭上に現れた。


 カルロッタの杖から放たれた無数の魔力の塊は、ヴァレリウスへ向かって降り注いだ。


 しかしヴァレリウスは空間属性魔法を存分に活用し、向かって来る魔力の塊を可能な限り軌道を捻じ曲げ、必要最低限の小さな動きで全ての弾丸を避けた。


「やはり戦いの誇りすら無いな!! それで良い!!」

「……面倒臭い……」

「はっ!! 俺に常識を説くか!! だが生憎だったな!! この私にそんな物は微塵も無い!!」


 そう言うことが面倒臭いって言った訳じゃ無いんだけどなぁ……。


 けれど……何だか前に戦った時よりも、魔法の練度が上がっている様に見える。そして、あの義腕……少しだけ形が変わっている様な……?


 何か小さな物を嵌め込めそうな穴? かな? それが付け足されている。


 恐らく前の戦いでは見せなかった何かがある。警戒すべきはそこくらいかな。


「さあ! 見せてやろう!! 俺の新たな技術と頭脳の結晶を!!」


 そう言ってヴァレリウスさんは転移魔法で何も無い所から小さな黒い箱を手に持ち、義腕に取り付けた。


 黒い箱は底の方に小さな穴が空いており、側面と上面は細い筒で繋がっており、その中で白濁の液体が巡っていた。


 義腕に取り付けられた黒い箱は、義腕から伸びた鉄の鉤爪でしっかりと固定され、何かが回転する音を発し続けた。


 その瞬間、ヴァレリウスさんの雰囲気が大きく変わった。何だか、別の何かと混じったかの様な……?


 ヴァレリウスさんは悪役の様な笑みを浮かべ、義腕を私の方に向けた。その直後、義腕の五指から炎が伸びた。


 その炎は鞭の様に撓り、その先端の速度は私の五感でも追い付くことが出来なかった。


 咄嗟の、実に本能的な反射神経で私の周りに防護魔法を張ったお陰で私の体に炎が届くことは無かったが、威力がもう少し高ければ一気に防護魔法は崩れて、炎の鞭にぐるぐる巻きにされていただろう。


 咄嗟に防護魔法を使う癖を付けてて良かった! ありがとうございますお師匠様!!


 けど、この感じ、何か妙だ。確かにヴァレリウスさんは火の属性魔法も充分扱えるらしいけど、それにしてはただの魔法の操作だけでは説明が付かない動きと速度と練度を見せている。


 基礎的な魔力操作で、あれを再現することは不可能だろう。つまり、あれは、独自に作られた魔法。しかも個人の魔力的特徴に基づいた物。


 けど……あの人のそれは、確か空間属性の魔法。少なくとも、火の属性は微塵も含まれていないはず。


 ……この、違和感。別の物が、ヴァレリウスさんに混じっている感覚。魔力の癖も変わっている。


 私は即座に転移魔法でヴァレリウスさんの背に回り、"蒼焔(シーニイ・プラーミャ)"を放った。


 ヴァレリウスさんは、速攻で放たれた高火力の熱を避けることも歪ませることも間に合わず、その背を大きく焦がされていた。


 しかしすぐに空間を歪ませ、私から10m程離れた場所で振り返った。


「全く、油断も隙も無い。追い詰めたかと思ったんだが」


 ヴァレリウスさんは背中に酷い火傷を負ったにしては、随分と余裕そうにけらけらと笑っていた。


 その時、ようやくヴァレリウスさんの変化の理由が頭に浮かんだ。


 けど、もしそうだとすると、あの人は堕ちる所まで堕ちたと言うことだ。


「……ひょっとしてその箱、()()ですか」


 辛うじて届いた私の言葉に、ヴァレリウスさんは意外にも顔を歪ませた。


「早い、早過ぎる。残念だよカルロッタ、早いのは結構だが、もっと正義に燃え怒り心頭になって欲しかったんだがな」


 ……どうやら、私の予想は正解らしい。最も最悪な予想だったのに。


「まあ良い。百点満点だ。その褒美として説明してやろう」


 無邪気に、子供が自分で作った積み木のお城を紹介する様に意気揚々とヴァレリウスさんは語り始めた。


「俺は五百余年生きて来た。その間にも、様々な研究を重ねて来た。まあそれでも、お前に負ける程度の実力しか手に入らなかったがな。だが、収穫はあった。人の脳の何処が、最も魔力操作、魔力的特徴を表す機能を持っているのかを解明出来た」

「良く出来ますね、そんなこと」

「お、怒りが見えて来たな。良いぞ、その調子だ。この箱は、その必要最低限の脳と生命維持に不可欠な臓器を圧縮して詰め込んだ俺の発明品だ。名前も教えてやろうか?」

「……もう、良いです。聞きたくありません」

「実は決めて無いんだ。候補として玩具(スカートラ・デイ・)(ジョカートリ)とかだな」


 ヴァレリウスさんの発言は真実だろう。だとするなら、あの箱の大きさから考えるに、成人した人の物では無い。恐らくまだ……十才にも満たない――。


 ……考え過ぎるのは辞めておこう。どうせもう関係無い。あの箱はもう生きているとは言えない。


 しかしヴァレリウスさんは、その笑みを更に深めて言った。


「どうした? 折角の顔が台無しだぞ?」


 怒りを見せてはならない。感じさせてはならない。


 時間が無い、冷静に、冷静に――。


 冷静に……ならないと、足元を掬われる。


 ヴァレリウスさんはもう一つの箱を義腕に取り付け、その雰囲気は更に特異な物へと変わっていった。


 その魔力は大きく渦を巻いていた。その魔力はやがて風となり、その風に乗って小さな水滴が回り始めた。


 風に乗った水滴がヴァレリウスさん自身の独自の魔法によって更に加速に乗って私に飛んで来た。


 同時に別の魔法を使うのはまた難しいはず。あの箱には少しの意思もあるらしい。


 そして、ヴァレリウスさんがこの状況でただ雨粒程度の水滴を飛ばすだけの魔法を使うはずが無い。何かある。


 私は前の毒に侵されたことを思い出し、必要以上の警戒を水滴に向けた。


 防護魔法だけでも不安だ。やっぱり転移魔法だろうか。しかし、使い過ぎるのもまた不安。なら、迎撃かな。


 私は杖を向け、向かって来る水滴に火の球体を複数放った。一見すれば過剰な数だが、このままヴァレリウスさんに攻撃を仕掛けるなら充分だろう。


 水滴と正面衝突した火の球体は、一瞬でその水滴を蒸発させた。しかし次の瞬間には、蒸発した水滴がいきなり白い煙と共に爆発を起こした。


 規模として大変小さい。にも関わらず、衝撃と熱だけは異常に大きく、私の体を僅かに傷付けた。


 しかし、この程度で攻撃のては決して緩めない。どうせこの程度の傷ならすぐに治るんだ。


 ヴァレリウスさんも、私が攻撃の手を緩めないと知っているのか、素早く前進しながら義腕を振り翳し、五指から伸びる炎の鞭を薙ぎ払った。


「魔法とは正しく神秘の技法!! 人命がまた尊いのなら、それもまた神秘の結晶だと思わないか!! なあカルロッタ!!」

「それが魔法だなんて……!!」

「何だ! 侮辱と受け取るか!? それとも道徳に反するか!! 生憎その全ては過去に置いて来た!!」

「だから貴方はずっとそんな人なんです!! 貴方の願いすら貴方が捻じ曲げて!!」

「私の心がお前に分かるかァッ!!」


 炎の鞭はより太く大きく伸び、多くの水滴を巻き込んで巨大な熱と共に私に向かって来た。


「だったら私は!!」


 私は叫んだ。


 その意味なんて知らずに、怒りの意味も分からずに。


「捻じ曲がった貴方の野望を、この思いで撃ち貫く!!」


 私の杖の先から、無理矢理魔法術式を組み上げた炎の鞭が二十本以上伸びた。ヴァレリウスさんが作り上げた炎の鞭よりも、太く、長く、丈夫な魔法だ。


 真正面から、ヴァレリウスさんの野望を打ち砕く。どれだけあの人が強くとも、どれだけあの人がしぶとくても、私は、あの人を確実に倒す!!


「こうも簡単に真似されては、()()()()()()も悲しむだろうな!!」


 ヴァレリウスさんは笑っていた。笑いながらそう言っていた。それでも私は分かる。あれもまた本心だが、その言葉にある感情の中には、確かな愛情がある。


「貴方はそんなのだから!! 自分すら見失うんです!!」

「私は俺だ! 永遠に!! 五百年前からずっと!!」


 私の炎の鞭がヴァレリウスさんの鞭を蹴散らし、その人の体を炎で縛り上げた。


「焼けて!! 何もしないまま!!」

「それが出来るならなァ!!」


 ヴァレリウスさんは即座に炎の鞭の魔法を使う黒い箱を取り外し、また別の黒い箱を取り付けた。


 その瞬間、私の炎の鞭は何故か動きが止まり、その炎の鞭が液体の様に曲がりくねった。


 どうやら炎を固める魔法、いや、恐らく炎だけでは無いのだろう。個体では無い物を固める魔法とかかな。


 そのままヴァレリウスさんが固まった炎を掴み、ほんの少しだけ力を加えると、ぼろぼろと砂の様に炎の鞭は崩れ落ちた。


 粘土を捏ねる様に、崩れ落ちた炎の欠片を集め、ヴァレリウスさんは新しく炎の槍を作り上げた。


 ……単純な疑問なのだが、熱く無いのだろうか。あれって。


「何ぼぉっとしてる!! 急がないと大勢死ぬぞ!!」


 ヴァレリウスさんはそう叫びながら、作った炎の槍をこちらに思い切り投げ付けた。


 すぐに避けようと飛行魔法を使ったが、体が思う様に動かせない。体が動かないと言うよりは、何かに押さえ付けられている様な感覚だ。


 ヴァレリウスさんはそれを狙っていたと言わんばかりに、義腕を私に向けた。義腕の歯車は音を立てて回転し、大きく開き銃口と杖にも見える金属の針が五本伸びた。


 そこから放たれた何十もの魔力の塊と共に、炎の槍はヴァレリウスさん独自の魔法によって更に加速した。


 私が転移魔法を使いヴァレリウスさんの背に現れ、杖を向けた。


 そのまま無数の魔力の塊を放ったが、それはヴァレリウスさんの寸前で何かに激突し霧散した。


 透明な壁、いや、さっきの魔法か。


 さっきヴァレリウスさんが見せた炎を固め、砂の様にする魔法。これがもし空間にも効力を発揮するのなら。空間属性が得意なヴァレリウスさんならあり得るだろう。


 しかしこの一瞬で固めたとは考え難い。事前に予測しないとあり得ない。


「動きが単純だぞ、カルロッタ」


 ヴァレリウスさんは横目で私を睨み、そう言った。


 読まれている、私の動きを、私の癖を、私の思考を。前の戦い、そして今の冷静では無い私を見て、学習し、完璧に読んでいる。


 ヴァレリウスさんの眼帯で隠された瞳は何時の間にかこちらに視線を向けており、その奥に刻まれている魔法陣が軌道した。


 直後に、私の体に重苦しい衝撃が直撃した。飛行魔法でも対抗出来ない程大きな衝撃に、私の体は吹き飛んだ。


 ヴァレリウスさんの実力は、以前よりも大きく輝いている。しかしそれでも、私の契約は解除出来ない。


 ヴァレリウスさんの実力が、契約を解除出来ないギリギリの強さなのは前から知っている。しかしそれ以上に分からないのが、遅れれば誰かが死ぬこの状況で、私の契約が解除出来ないこと。


 見ず知らずの人だとしても、殺されて、死んで良い人はいない。昔お師匠様はそう教えてくれた。


 それはとっても尊いことだとも思うし、子供ながらそれが道徳観と言うのも理解していた。ただ、人は理解だけでは納得しないと言うのも、また事実。


 お師匠様は、命は平等だと言った。私もそう信じていた。けど、今のこの状況、私は見ず知らずの誰かの命の為に、契約が解除出来ない。私が、この私自身が、その命を心底どうでも良いと思っているからだ。


 外の世界に出て、命は平等では無いと知った。私は私と親しくしてくれる人が好きだ。私は私を知ってくれる人が好きだ。


 それ以外の人は、見捨てても、殺しても、何の感情も湧くことが無い。何で私はあの時、フライムートさんを見捨てようとしたんだろう。


 ああ、きっと私は、薄情なのだろう。


 誰からも好かれようとして、けどそれ以外の人はどうでも良くて、もう、自分が分からなくなる。


 これじゃあ、ヴァレリウスさんのことも、とやかく言えないや。


 あの人が自分の理想を演じているなら、私もきっとそうだ。


 ああ、ならもう、いっそのこと――。


「……全部、見せてしまおう」


 私の醜さ、私の弱さ、私の隠したい物。その全部、全部、いっそのこと、全て。


「見てて下さい、目を、逸らさないで」


 カルロッタの一言の瞬間、ヴァレリウスは辺りの空気が重苦しく変わったことを敏感に感じ取った。


 しかし未だカルロッタの小柄な体はヴァレリウスの目の魔法によって吹き飛んだまま。何が出来ると言うのか。


 それでもヴァレリウスの脳裏には、五百年前の戦いが過る。嘗ての星皇の、あの冷たい視線を、あの慈愛の眼差しを。


「何故思い返す、こんな時に」


 忌々しくも、華々しい思い出に、ヴァレリウスは自然と笑みが溢れてしまった。


 そして、この違和感の理由に気付いた瞬間、その笑みは更に深まった。


 ヴァレリウスの視界で、カルロッタは両腕を広げた。


 より、魔法を使う為に最適化された状態を模索し、それの再現の為に自らが覚えた魔法の全てを頭の中で回す。


 カルロッタの周りには、人の腕を模した宝石が四つ浮かんでいた。土属性の魔法とその他諸々の魔法で条件を整え魔法を作り出し、更にそれを整形したのだ。


 四つの腕には更に宝石で作られた指揮棒の様な杖を持ち、常に魔力が巡っているのが分かる。


 背中の服を破り、そこから肉と繋がる宝石の翼が伸びていた。その両翼の間には、更に感覚を研ぎ澄ませ魔力回路を増加させる為に"偽者(ファルソ)"で作った脳が二つ入っていた。


 その脳は回復魔法と"偽者(ファルソ)"の応用で神経と血管が繋がっており、問題無く脳としての活動をしている。


 カルロッタの背は更にそこから植物の枝が伸びており、"植物愛好魔法(プラント・ラヴァー)"で操っていた。


 最早その姿は、人からは遠く掛け離れている。彼女の容姿に最も適した言葉は――。


「まるで悪魔だ」


 ヴァレリウスは嬉しそうに呟いた。


「もっと見せろ! カルロッタ・サヴァイアント!! その目も眩む程の才能を!!」


 ヴァレリウスは喜々として、悪魔の姿となったカルロッタに対峙した。


 ヴァレリウスは真っ先に魔力の塊をカルロッタに向けて放った。しかし、その魔力の塊は宝石の腕に触れると、スポンジに水が吸い込まれる様に吸収された。


 直後にカルロッタが宝石の翼を羽撃かせると、転移魔法を使ったのかと錯覚する速度でヴァレリウスとの距離を縮めた。


 何か魔法を放つのか、そう思った矢先にカルロッタの背の植物の枝が大きく撓り、それが宝石に包まれた。その上から更に土属性の魔法によって作られた鉄で包まれた。


 その枝がヴァレリウスの腹部に強烈な打撃を叩き込んだ。だが、カルロッタ対策で汎ゆる改造を自身の体に施した彼にとって、その衝撃に体が空中を舞うことはあっても、ダメージは皆無に近い。


 しかしその瞬間、カルロッタは小さく呟いた。


「"力の男(マハト・マン)"」


 "力の男(マハト・マン)"が発動し、更に"高貴な魔法石(エーデル・シュタイン)"によって強化され、打撃の威力は数十倍にまで膨れ上がり、ヴァレリウスの腹部を衝撃だけで風穴を開かせた。


 赤黒い血が下の雪原に散ったかと思えば、それと同じ打撃が次々とヴァレリウスに向かって来た。


 無数の枝がヴァレリウスに襲い掛かったが、それでもヴァレリウスは力強く叫んだ。


「ボコスカと殴りやがってクソガキィ!!」


 一瞬の隙を突き、ヴァレリウスの打撃がカルロッタの額に当たった。その瞬間、"空に憧れた(ヴェーゼヴィヒツ)少年(・ロレ)"の効力でカルロッタの体はまた大きく吹き飛んだ。


 だが、やはりヴァレリウスの体には無数の打撃によって貫かれた風穴が至る所で開かれており、出血こそ抑えられた物の再生に時間が掛かるだろう。


 それでもヴァレリウスは笑ってみせた。


「そんな物じゃ無いだろうカルロッタ!! お前はシャルルと戦ったらしいじゃ無いか!! あいつは俺よりも遥かに強い!! そいつと戦った奴が、この程度の実力なはずが無いだろう!!」


 その瞬間、カルロッタの宝石の腕がヴァレリウスを囲った。


 宝石の腕が一斉に杖を振ると、そこから様々な魔法が放たれた。しかしヴァレリウスは空間を捻じ曲げようとした。


 だが、ふとカルロッタと視線が合ったかと思えば、更にカルロッタは呟いた。


「ヴァレリウスさん、()()()()()


 先程の打撃でこっそりヴァレリウスの血を舐めていたカルロッタは、既に簡略化された"血の(ブラッド・)絶対服従(サブジゲイション)"の条件を満たしている。


 しかしこれでは、多くの魔力と、それに見合わない効果時間の短さが弱点だ。ヴァレリウス程の実力者ならば致命的な弱点となる。


 だが、カルロッタにとってその弱点は余りある魔力総量によって解決出来るのだ。


 ヴァレリウスの思考と共に肉体の動きは静止し、カルロッタの前で多くの隙を見せ付けた。


 すぐにヴァレリウスに向けて宝石の腕達は魔法を放った。端から見れば、色とりどりで宝石の様に美しい魔法の連撃だが、ヴァレリウスからしてみればその一つ一つが自分を殺せる殺意と悪意の塊なのだ。


 だが、事前に発動していた義腕に付けた黒い箱の魔法で空間を固めており、ヴァレリウスの寸前で魔法は破裂していた。


 しかし、それも長くは続かない。以前として宝石の腕は、その宝石の杖から魔法を放ち続け、何れ脆い空気の壁を突破するだろう。


 だが、やはり彼は幸運であった。この五百年間、彼は幾度と無く幸運でその場を乗り越えて来た。そして今度もまた、幸運で窮地を脱した。


 カルロッタの魔法が直撃する寸前で、"血の(ブラッド・)絶対服従(サブジゲイション)"の効力が消えたのだ。ようやく体を動かせたヴァレリウスは即座に空間を捻じ曲げ、魔法の軌道を真上へ、真下へ向けた。


「確かな殺意……確かな覚悟、良いだろう!! カルロッタ!! その姿を評し!! 俺も全力を出そう!!」


 ヴァレリウスの向こうの空が見える程に空いた風穴は、回復魔法とはまた違う技術によって塞がり、ぼろぼろになって意味を失くした上着を力任せに剥ぎ取った。


 彼の細身の背には、自らが改造して無理矢理取り付けた鋼の機械が、背骨の上を通って皮膚の上に露出していた。


 先程から黒い箱を取り寄せる方法を応用し、ヴァレリウスは背丈と同じくらいの新たな発明品を取りだした。


 一見すれば巨大な鉄の怪鳥だ。鋼の翼の様な物がその中央部から伸びており、その中央部には義腕にある黒い箱を嵌め込める機器と全く同じ物が二列に並んで、計六つあった。


 更にそこには、ケファの背の鋼の機械とぴったり噛み合わさる部品があり、どうやら合体することが見て取れる。


 分類上、その機械は魔道具と呼ばれるだろう。しかし魔法学以上に、その機械にはヴァレリウスの五百年の知恵の結晶で作られた、新たな学術として成立する程の技術が刻まれていた。


 その鋼の翼は大きく羽撃き、一人でヴァレリウスの背に回り、その鋼の羽根が彼の体を包んだ。


 その一瞬でもカルロッタの猛攻は続いたが、鋼の羽根は放たれた魔法を弾いていた。


 そして、ヴァレリウスの汎ゆる準備は整った。ようやく、彼女の思いに答えられる。


「五秒か、六秒か。待たせたな」


 ヴァレリウスを包む翼が仰々しく開くと、彼はカルロッタと視線を合わせて鋭く叫んだ。


「さあ!! 俺は全力を出したぞ!! カルロッタァ!!」


 今まで散々酷使して来た魔力の総量は、その機械に内蔵された魔力の貯蔵タンクによって供給され充分に回復していた。


 鉄の翼の機械の背には黒い箱が六つ装着されており、義腕の物と合わせて計八つの魔法を操ることが可能となった。


 その羽根からは、羽撃く度にぎらりと光る粉塵が辺りに舞っていた。その粉塵は羽根の材料と同じで、ある程度の魔法なら弾き飛ばすことなら出来るだろう。


 更に粉塵は触れるだけで体に傷が付く程に頑丈で、吸い込むだけで喉や肺が傷付きやがて死に至るだろう。それどころか血中に混じれば猛毒となり、様々な中毒症状を引き起こして藻掻き苦しむだろう。


 だが、ヴァレリウスはその粉塵の脅威には晒されない。対策の改造すら施しているのだ。


 最早彼の体は人間よりも機械の部分の方が多く、外見はそこまでだが内蔵器官、その他諸々は既に最適化された機械によって埋め尽くされている。


 対カルロッタ・サヴァイアントの現状の最終形態。これ以上となれば、彼が忌み嫌う他者からの技術提供が不可欠となるだろう。その際の技術提供の有力候補はジークムントになるが、それはまた面倒臭いことになるとヴァレリウスは思っていた。


 ヴァレリウスはカルロッタに向けて、未熟児が母親に渾身のぐちゃぐちゃに荒らされた部屋を見せ付ける時の様に誇らしげで自慢したそうな表情を浮かべていた。


 しかしカルロッタは冷徹に、小さく呟いた。


「"()()()()"」


 八つの独自の魔法、実質的な魔力総量の増大、自らの命を侵す粉塵の散布。


 あそこまで追い詰めて、ようやくカルロッタは、全力を出せるのだ。


 晴れ晴れしくも、何処か淀んだ感情が心の中で流れているのを感じたカルロッタは、大きく息を吐いた。


「何で……戦ってるんでしょうね」

「俺がそれを望んだからだ」

「私はそれを望んでいません」

「関係無いな」


 ヴァレリウスは、突然膨れ上がったカルロッタの魔力総量に胸の鼓動が高まり、高揚した気分で応答を繰り返していた。


「ならば逆に問おう。何故戦いたがらない。最も簡単で、一番続けられて来た歴史ある問題解決方法だろう」

「……そうですね。じゃあ、私は――」


 カルロッタの杖の赤い宝石が、どろりと溶けた。そこから現れた白く短い杖をカルロッタは握り締め、その先端に白銀の輝きが集まった。


「もう戦わない様に、戦います。こんな無駄な戦い、もう二度としたく無い」


 その雰囲気や言葉は、何時ものカルロッタとは遠く離れていた。しかしその異常さすらも、ヴァレリウスの心を滾らせる燃料にしかならなかった。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


私、カルロッタが大好きなんですよね。特に哀れで愚かで可愛らしい所が。世界が何たるかを全く分かっていない無知ムチな所が。


と、言う訳で、虐め尽くしましょう。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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