第10話 ワイバーン討伐2
ステフは何かの魔法でバンッと音を辺りに響かせた。
ワイバーンは何の音だと辺りを見回しているようだがそれ以外に特に変わりはない。
「ステフ、今の音は? 特にワイバーンにダメージを与えた様子は無さそうだけど」
「ただの音を響かせるだけの魔法よ、それ以外の効果は何にもないわ」
「なっ!? そんなことしたら……」
獰猛なワイバーンの顔がこちらをじっと見ている。
これは明らかに姿を捉えられた。
「グギャァァァアアアアアアアアアアア」
「気づかれちゃったじゃないか、何やってんだよ!」
「そりゃ不意打ちで殺すこともできたけどそれだとカイの勉強にならないでしょ?」
「勉強って……」
俺たちがそんなやりとりをしている中、ワイバーンは不快な鳴き声を発しながら翼をはためかせて飛び上がっていた。
「カイ、ワイバーンと人との戦いは人の方が圧倒的に不利よ、何故だかわかるかしら?」
「空を飛んでいるからか?」
「そうよ。付け加えるなら、こちらに何の飛び道具も無ければ空から一方的に遠距離攻撃で蹂躙されるわ。ほら、見てみなさい」
そう言ってステフが指を差した先にはさっき飛び上がったワイバーンが空中で大きな口を開いていた。
その口の奥から何やら光っているものが見える。
ん? 何だあれは、炎?
「あれは火のブレスね。生身で当たったら消し炭も残らないから気をつけなさい」
ステフは飄々とした様子でそう言う。
「ひ、ひぃぃ!」
俺はこのヤバい戦いに巻き込まれまいと急いでその場を離れようと走り出そうとした。
「うぐっ!」
走り出そうとしたのだが、ステフに首根っこを掴まれて尻もちをついてしまった。
ワイバーンの方を振り返るともう既にワイバーンの口から赤黒いブレスが吐きだされている真っ只中であった。
あぁ、こりゃもうダメだ。
あの赤黒いの見るからにヤバそうだもの。
享年15歳、クソッタレで代わり映えのない毎日だったけど今日一日だけは刺激的で楽しかったな。
スラムの陰で野垂れ死ぬよりかはワイバーンのブレスで焼かれ死んだ方が幾分かはマシかもしれない。
享年15歳、クソッタレで代わり映えのない毎日だったけど今日一日だけは刺激的で楽しかったな。
それにしてもステフは立ちすくんでいるのかその場を動こうともせず、俺を掴んだまま離さない。
生身で当たったらヤバいってステフ本人が言ってたのになぁ……。
まぁ1人で死ぬのは怖かったんだろう、巻き添えにされた形だがしょうがない。
来世があるならもう少しマシで、腹一杯食える人生を送りたいなぁ。
一瞬の間に色々な想いを巡らせていた俺の視界いっぱいに赤黒いブレスが広がっているのが見えた。
目を閉じて死を受け入れる体勢を整えるものの、いつまで経ってもその時は訪れなかった。
「……あれ?」
目を開けてみるととんでもないことになっていた。
周辺の草っ原が燃え尽きて地面が剥き出しになっていた。
だが俺たちがいるところだけが無事みたいだ。
「なに『来世に期待!』みたいな顔してるのよ」
「へぁ?……何で生きてるの……?」
我ながら至極情けない声が出た。
「防いだからよ。今この場で最も安全なのはこの私のすぐ側なんだから安心しなさい」
ポッ……イケメン……。
「まず、ワイバーンを相手取るときはブレスを吐き出させる。アレは連続して打てるものではないわ。次に、ブレスを吐き終わった隙を突いて高火力で撃ち落とす!」
ステフが右腕を上へあげると、その手の先に巨大な、人を丸ごと覆ってしまうほどの大きさの炎の塊のようなものが現れた。
そのあげた右腕をステフが振り下ろすとその炎の塊が空を飛んでいるワイバーンの元へと向かっていった。
ワイバーンはそれを避けきれず右の翼に直撃し、堪らず大きな唸り声をあげて地面に墜落した。
それを見たステフは満足そうにふふんと鼻を鳴らし、俺の方を振り返った。
「そして最後は落ちてきたところをトドメよ。鱗が硬くて剣とかだと攻撃が通りにくいから目を狙ってそのまま脳天を突き刺すか鱗の隙間を狙って首を飛ばすといいわ」
そう言うとステフはその場から消え、離れたところから何か千切れるような音が聞こえたと思ったそのとき、ワイバーンの首から先が宙を飛んでいるのが見えた。
こうしてワイバーン討伐は俺のビビり具合とは裏腹にあっさりと終わった。
そもそもステフが『ワイバーンってどんな魔物かって? 鱗の生えたただの鳥よ』と俺に誤った事前情報を伝えたのが悪い。
そのせいでただの鳥かよーと何の心の準備もせずに来てしまったのだ。
後でちゃんと文句を言ってやろうと俺は心に決めたのだった。
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