ヴォジュリスティより愛を込めて
2017/7/8一部誤記修正
●王国歴558年ゆきわたりの月1日
ぜんりゃく
お父さん、ウルリカ、お姉さん、お元気ですか。
ぼくは先月17日に無事にヴォジュリスティに到着しました。ゴーディアスともどもげんきです。
れんらくがおくれてしまったのは、街(塗り潰し痕)身辺が落ち着くまで忙しかったからです。みんなに早くぼくたちは無事ですと伝えたかったのですが、できなくてすみませんでした。
イズリアル様に言われていたとおり、領主様の館の通用口をたずねて、合言葉を言うと、イズリアル様とお兄さんは出張中でいなかったので、代わりにイズリアル様のお兄さんのウェレスレイ様が面談してくれて、魔術師組合に紹介してもらえ、魔術師組合に登録してもらえました。
それだけでなく、バイト(横線が引いてある)住み込みの下男として雇ってもらえることになりました。ろうどう環境はお金と10日に1.5日のお休みをいただけますし、職場の人たちはみんな体が大きくて大声で喋る、荒くれ者(斜線)いかめしい人たちですが、親切です。体の大きさと力の強さがぼくはまだ皆さんに及ばないので、先輩が一度で運べる荷物をぼくは二度往復して運ばなくてはならなかったりしますが、それでびしばし怒られますが馬鹿にはされません。そのぶんたくさん動けるようにごはんをたくさん盛ってくれて、大きくなれ力をつけろと励ましてくれます。でも時々ウルリカとお姉さんのごはんを食べたくなります。
それから、ヴォジュリスティには妖霊人が住んでいます! 領主様の館で働いている人もいるのです! 初めて見た時には感動のあまり息切れしながらにじり寄ったりしたので気味悪がられてしまいました。今でも時々見かけると、つい目で追ってしまいます。
色んなことを書きたいのですが、紙が足りなくなりました。今日のおたよりはここまでにします。またおたよりを書いたら、お兄さんに届けてもらえるようにお願いします。(走り書きの追記)お兄さんとイズリアル様に会えて、よく来たとほめてもらいました!
どうぞみなさんお元気で。お姉さんがおばかなことをしないよう、お父さんとウルリカとで気を付けてあげてください。
そうそう
ケイセイより
○558年ゆきわたりの月13日
ケイセイのお便りは、今月の定期便で確かにお兄様が届けてくださいました。無事に街に辿り着けたのか、道に迷っていたりお腹を空かせたり着るものが足りなくなったりしていなければいいと心配していました。ですから、あなたが無事で近況のお手紙を書いてくれたことに、私たちがどれほど喜んでいるかを、少しでもあなたに伝えられればいいと思います。
シオネはあなたのお手紙に触発されてか、魔法の練習に割く時間を多目にとるようになっています。犬の姿のまま桶を提げて雪の中を出掛けて行っては真っ白になって帰ってきて、思い通りにいかないと首を捻っていました。何をしようとしているのか尋ねるとジリツクドクターケビンなる物を作ろうとしていると説明してくれるのですが、私にはよくわかりません。
お父様からはよろしくとだけ言付けられました。あなたとゴーディアスが元気で充実した暮らしを送れているのなら何も言うことはないと。私も同じ気持ちです。
あなたが私たちの作った食事を懐かしんでくれると書いてくれて、面映ゆい心持ちです。すぐにでも食べたい物を作ってあげたいけれど、あなたのところに飛んで行くわけにもいきませんから、我が家で下拵えした燻製をお兄様に持って帰っていただくことにします。どうか食べてください。
あなたの修業が捗りますように。
ウルリカより
○558年ゆきわたりの月13日
弟よ、そなたの現地語の文章は大変読みにくいぞよ。郷に入っては郷に従えということで、こちらの言葉で読み書きするのはよい。姉もそのようにいたす。だが、少ない紙面に詰め込み過ぎだし字が統一感なくて踊っておる。
白状すると姉は自力で読めなんだゆえ、ウルリカに読み上げてもろうた。魔術師組合では座学も取り扱うであろうゆえ、これを機に一般教養の方も高めるべし。
こちらでは、手紙の定型としての前略・草々をはじめとした頭語と結語を使う習慣はないとのこと。ウルリカも書いておるが、改まった手紙にあらざるならば、一文目より本文でよいのだ。
こちらも紙面に限りがあるゆえ、小言はここまでにいたそう。あと、ウルリカが書いている私のあれこれについては気にするべからず。とまれ、敬清が無事に街に着いてよかった。ゴーディアスともども体に気を付けて、よく食べよく学びよく遊ぶこと。さらば。
潮音
●王国歴558年はるかぜの月1日
お父さん、ウルリカ、お姉さん、お元気ですか。ぼくとゴーディアスは元気です。
手紙のお返事で、お姉さんから字が下手で読みにくいと指摘を受けたので、初等教育を終えた子供に混じって真面目に書き取りを続けました。おかげで周りの子供たちからは必要な時期に教育を受けられなかった人だと思われているみたいです。ぼくも、自分の立場を説明してはいけないと言われているので、そういうことにしました。
ぼくの書き取りの成果はどうですか?
魔術師組合で適性を見てもらうと、今年のたいうふる月のじっし日に資格試験を受けるよう勧められたので、ウェレスレイ様に相談して、ぼくは組合は組合でも傭兵や出動士の組合員になりたいですと言ったら、所属する組合は複数でもいいと言われたので、試験を受けますと返事をしました。本当はぼくとお姉さんの登録証書がこっそり保管されているのですが、公の試験を受けて表の帳簿に移しておくに越したことはないからです。
ぼくは魔術師組合に登録できるのは資格を取った魔術師だけと思っていたのですが、資格取得を目指して勉強する魔術師見習いもいることに驚きました。考えてみれば、資格を取りたい人の窓口になるところが必要ですね。
領主様が帰って来たので、お会いしました。イズリアルさん家の人はみんなそっくりです。領主様とウェレスレイ様とイズリアル様が同じところにいると、同じ顔の世代別推移の図みたいで笑いそうになってしまいました。
決まった時間下働きをして、決まった時間魔術師組合に行ってお勉強をしています。
仕事の方も、体力の配分に慣れて来て、要領よくこなせるようになってきました。このお館には、毎日沢山の荷物が引っ切り無しに持ち込まれたり持ち出されたりします。荷車への集積だけでも一日仕事です。
まだ家は雪がたくさん残っていて過ごしにくい時期と思います。雪がたくさん残っているのはヴォジュリスティでも同じですが、街には人手がたくさんあるので、常に十分な雪かきが行われています。
あと、お姉さんも手紙の書き方が変です。ウルリカかお父さんに添削してもらってください。みなさんどうかお元気で。
ケイセイより
●王国歴558年はなさく月1日
お父さん、ウルリカ、お姉さん、お変わりありませんか。ぼくとゴーディアスは元気です。
ぼくのお仕事には変化がありました。今までは館の搬入出門で荷の上げ下ろしと出入りを管理する部署の下男だったのですが、今月から、街の色々なところに荷車を牽いて行って、行った先のお店で、品物を沢山積み上げて領主様の館に戻ってきて、荷運びと荷の上げ下ろしをする班に入れてもらいました。
このお出かけにはイズリアルさんやお兄さんや、お兄さんの仕事仲間の人が誰か一人か二人は一緒に来て、買い物を担当しています。この時の荷物が、森の各管理人さんのところへ行く生活物資だと知りました。これがお父さんたちのところへ行く大事な食べ物だと思うと、仕事に身が入ります。
お兄さんは仕事仲間の人に、ぼくを弟と紹介してくれました。それからは仕事仲間の人たちが、ぼくを見かけると声をかけてかわいがってくれるようになりました。ありがたいことです。お兄さんはお礼を言ってもなんのことだと取り合ってくれないので、ぼくがとても嬉しいと思っていることを、ウルリカたちからも伝えてください。どうか皆さんお元気で。
ケイセイより
○王国歴558年はなさく月15日
ケイセイ、ゴーディアス、お元気ですか。お勉強と鍛錬は捗っているようですね。街であなたが就いたお仕事が、私たちとも関わりのあるものだとうかがって、嬉しく感じています。我が家へ届けられる荷があなたの手を経ていると思うと、今までよりも大切なもののように思われて、改めて私たちの生活を支えてくれる定期便の物資への感謝の念が湧いてきます。
最近、お兄様とシオネが仲よくなってきました。お兄様がいらっしゃると、犬のシオネが尻尾を振って飛びついて、大変かわいらしいです。晩ご飯の後も一服しているお兄様に近づいて、撫でてくださいと要求していました。そして犬の姿のまま部屋に戻って寝て、朝食事の支度をするために人の姿になってから、頭を抱えて隅っこに蹲っていました。先月も全く同じことをしていました。
シオネは、犬の時にはお兄様に構ってほしがるのですが、人に戻ると自分の振る舞いを後悔しているような顔をして距離を置いてしまいます。何か困ったことがあるのですかと尋ねても何でもないと頑なに言うばかりで、私は力になれません。
お兄様も、彼女がご自分に懐いているのか苦手と思われているのかわからないと困惑しておいでです。お父様はお心当たりがおありかもしれませんが、憶測で女の子の詮索をするのはやめようと仰られて、私としてはそれ以上何も言えません。
以前にも、ケイセイとお父様は、放っておいていいと言っていましたが、本当に放っておいて大丈夫なのでしょうか?
困らせるようなことを書いてしまってすみません。ですがどうしても心配です。
ヴォジュリスティは我が家より南で雪はけもよいと聞き及んでおりますが、まだまだ寒い日が続きます。どうか体に気を付けて、温かくして過ごして下さい。お父様からもよろしくとのことです。
ウルリカより
●王国歴558年にじあらわる月5日
お父さん、ウルリカ、お姉さん、お元気ですか。ぼくとゴーディアスは元気です。
ウルリカとお姉さんにおかれましては、今月のお誕生日おめでとうございます。お姉さんから聞いているかもしれませんが、20歳というのはぼくたちの故郷では成人を示す特別な区切りの歳です。ぼくはウルリカとお姉さんのお誕生日のお祝いをするのはもちろん、特別なものを用意したかったのですが、貯金が貯まらないので、折角色々なお店や市場がある街にいるのに、買い物ができません。
昨日お兄さんと会えたので相談したら、お兄さんが出資するから、一緒に行って考えてほしいと言ってくれました。お兄さんとゴーディアスとの二人と一匹で市場を徘徊して決めました。お仕事が半休の日でよかったです。
途中、お兄さんの仕事仲間のヒックという人が現れて、助言をしてくれました。でもこの人は事あるごとにウルリカやお姉さんに紹介しろと言ってきます。今回もそうなったので、お兄さんが途中で丁重にお引き取り頂きました。それさえなければ、ぼくが組合員になりたいと言った時も組合の情報を教えてくれたり、暇な時に稽古の相手になってくれる、とてもいい人なんです。稽古といえば、ぼくは毎日の鍛錬も欠かしていませんよ!
魔術師組合の先生たちから聞きましたが、魔術師資格を取得する前に使い魔を持っている人は珍しいと知りました。でもぼくがゴーディアスを使い魔にしたのはただの事故だったので、未だに理屈がわかっていません。ちゃんとした使い魔契約の仕方を集中的に勉強しようと思います。
妖霊人は人間に比べて優れた魔法の力を持つ人が多いそうです。どの氏族も魔法とは体系の異なる不思議な力を備えているそうで、魔術師組合に所属している妖霊人は一人もいません。
それでは、今回はここまでです。改めて、ウルリカとお姉さんには、おめでとうございます。ヴォジュリスティより、心からお祝いしています。
ケイセイより
(別紙にて)
追伸・ウルリカへ。ご相談の件につきましては、放っておいて大丈夫です。こういうことは、他人が口や手を出すとこじれます。お父さんはそれをよくわかっていて、だから何も言わないのです。放っておいてあげるのが優しさというものです。
○558年にじあらわる月18日
この度はお祝いの品かたじけない。そればかりは言っておく。
しかし弟よ、姉はそなたに対して物申したき由あり。ヒック氏に対し、ウルリカはともかく姉を紹介せよと言われて、そなたは『我が姉は人様にお目にかけるなどとんでもない変人につき』などという断り文句を述べたそうではないか。その時一緒にいたという兄上から聞いたのだ! しかも兄上は笑いこそなされなんだが、そなたの情けなき仕打ちに同意すると仰った! かような仕儀にて姉がいかさま怒りと憂いに震えたことか知るがよい! そして謝れ! 全私に謝れ!
潮音
○558年にじあらわる月18日
お祝いありがとう。とても素敵なお衣装ですね。20歳で成人というのは、以前にも言っていましたね。
あなたたち姉弟の故郷では、目上の方から寿ぎを賜り、晴れ着を着て肖像画を残す風習があるのだとか? 残念ながら、我が家には絵心のある人物がいないので、肖像画は残せそうにありませんが、あなたとお兄様がくださった衣装はお父様とお兄様とイズリアル様に披露してお褒め頂きました。あなたが帰って来た時にも、ぜひ見てほしいと思います。
それから、今回のお手紙を読んでいただけばわかるかと思いますが、シオネが荒ぶっています。
お手紙の校正もさせてくれません。このままケイセイに届けばいいと言っています。
私も今回のシオネの腹立ちの原因については、彼女に同意します。見知らぬ人へそのような人品を貶めるような伝え方をするのはシオネの人格への攻撃です。あなたはあなたのお姉様のよいところをたくさん知っているはずですよ。なぜそれを正しくお伝えしなかったのですか。
お兄様にも同様に苦言を呈しました。お兄様は壁の隅を向いて伏せているシオネの気を引き立てようと苦心しておいででしたが、元々口が達者な方ではありませんし、そのうち黙って撫でているだけになっていました。しばらくしてから見ると、シオネはひっくり返って尻尾を振っていたので、機嫌は直ったのでしょう。
お父様はその件についてはご意見を差し控えておいででしたが、恐らく何か仰りたいことはおありだったのでしょうね。それも私たちとは異なるご意見を。
イズリアル様だけは屈託なく笑っていらっしゃいましたけれどね。当事者か家族でもないから私には関係ないと仰って。
それから、ビタとミンの間にまた仔ヤギが一匹生まれました。女の子です。シオネがアミノサンと名付けました。
次のお手紙では、なにはともあれシオネに宛てて謝ってくださいね。
あなたとゴーディアスの健康と、あなたのお仕事とお勉強が順調であるよう願っています。
ウルリカより
●王国歴558年はなさかう月1日(この手紙は日本語で書かれている)
姉ちゃん、申し訳ありませんでした。言い訳がましいと重々しょう知の上で弁解します。
森の外の人間に、森の中の人や物事にきょう味を持たせるようなことは言わない方がいいと言われています。ずっと前、外から紛れ込んできた人にウルリカを会わせてしまったら、きっととんでもないことになるという話をしたと思います。父ちゃんが留守番してなさいと言ってた頃です。
あれと同じで、兄ちゃんは外の知り合いに、森で得られる貴重な資源のこととか、美人の妹がいることとかを言って、きょう味を持たせないように気を遣っています。きょう味を持たれなければ、うちに遊びに来たいと言ってくれる友達を断って、お互いいやな思いも少なくなります。わしも同感だったので、街の人には実家のことはできるだけしゃべらないようにしています。
でも、姉ちゃんのことを人に悪く言って、姉ちゃんにいやな思いをさせたのは確かなので、謝ります。
多分姉ちゃんが一番いやな気持ちになったのは別の理由だろうとは思いますが、兄ちゃんだって悪気があったわけじゃないと思いますよ。今はもうわかっていただけていることと思いますが。
それから、ヤギの名前は、アミノで止めておいた方が響きがよかったと思います。
敬清
●王国歴558年なつかれくさの月2日
お父さん、ウルリカ、お姉様、お元気ですか。ぼくとゴーディアスも元気です。先月のお手紙にて非礼を許していただけて、胸を撫で下ろしています。
仕送りもありがとうございます。ウルリカが焼いたパンをゴーディアスと一緒に食べました。懐かしくて胸がいっぱいになりました。
お姉さんの新作の自称栄養ドリンクは、控えめに言ってもひどい味でした。最初は仕返しかと思いました。
激辛ラーメンのスープに同程度の植物由来の苦味と三倍鼻にくるワサビ風味の刺激は、首から下は元気になっても首から上が死にます。口と鼻の感覚がひどい混乱状態になって三日くらい食事がまともに摂れないし涙が止まりませんでした。
病気かと心配されて、仕事も休ませてもらえました。
何が入っているかは尋ねませんから、次はもっとまともな味にしてください。
ところで、ぼくは最近、あだ名で呼ばれるようになってきています。黒山羊とか仔ヤギと呼ばれます。
最近では知り合いの人はみなさんゴーディアスがぼくの使い魔ということを知っていて、使い魔を持つ魔術師は、他に余程目立つ特徴がなければ、使い魔に関係したあだ名が付くことが多いと教えてくれました。ゴーディアスが足の先以外真っ黒の毛皮をしているので、安直にそんなあだ名になったようです。
使い魔は、一般的に斥候活動に適している猫や蛇や鳥などが多いそうです。お兄さんの仕事仲間の資格魔術師のハルさんの使い魔は猫で、眠り猫のハルと言われていますし、魔術師組合の先生も猫や鳥を選んでいる人がいらっしゃいます。その中でも仔ヤギの使い魔は例がないそうです。使い魔契約の勉強をして、なぜ、どの段階でゴーディアスを使い魔に変えてしまったのかはわかりました。詳しい理屈は割愛しますが、ぼくがゴーディアスを使い魔にしたのはかつてお姉さんが言った通り魔法の誤発と成り行きからでした。でも今はゴーディアスがいてくれてよかったと心から思っています。読みにくくなってすみません。行間の取り方を間違えました。それではケイセイより
○558年なつかれくさの月14日
ケイセイ、ゴーディアス、お元気ですか。お変わりありませんか。
お兄様かイズリアル様からお聞き及びかもしれませんが、我が家では一波乱ありました。
シオネが、お父様のお仕事を教わりたいと言い始めたのです。私はすっかり忘れていましたが、彼女はいずれ辺境監視官に就くことを期待されて森に帰された人でしたね。
シオネの言い分は、ケイセイが一人前になるために一人で家を出て頑張っているのだから、自分も一人立ちをし然るべき役目を果たしたい、すぐには無理でも独立目指して備えたいということです。言っていることはもっともだと思いますが、お父様も私も、彼女を辺境の森で一人暮らしさせることに、不安を覚えています。
ひとまず、お父様が家の周りで取り組めることから少しずつ教えていこうと仰って、シオネもそれに同意したことで話し合いはまとまりました。ケイセイはどう思いますか?
森の恵みと、シオネがあなたのために作った元気が出る飲み物をお兄様に託しますね。
ウルリカより
●558年たいうふる月1日
お父さん、ウルリカ、お姉さん、お元気ですか。ぼくたちは元気です。
さて、今月はいよいよ、一年に一度の魔術師資格試験の実施月です。10日から数日かけて、ヴォジュラ領全域から集った受験生を捌いていくといいます。なのでヴォジュラでは、少しでも過ごしやすく交通の便が良い夏にこの試験を行うということです。他の地域ではきたかぜの月に行うそうです。
結果発表は半月後で、魔術師組合に結果が張り出されます。遠くから来た人には郵送通知だそうです。来月には結果を報告できると思います。頑張ります!
短いですが、今回はここまでです。本当はウルリカとお姉さんのお手紙への返事も書きたいのですが、実は予定が押しています。
ヴォジュラ領は辺境の豊富な資源と引き換えに、多くの食べ物や嗜好品を他領から取り寄せています。そのやりとりが集中するのがこの時期でもあるそうで、大規模な集積が度々行われることになって、忙しいのです。
どうぞ皆さんお元気で。お姉さんに進路は反対しませんが堅実に勉強してくださいと、それと栄養ドリンクはもう送らないでくださいと伝えてください。それでは。
ケイセイより
○558年たいうふる月16日
このお手紙が届く頃には、もう試験は終わっているかもしれませんね。あなたが日頃の勉強と訓練の成果を如何なく発揮できることを姉をはじめウルリカも父上も祈っています。
……いかがですか? 今、横でウルリカに添削してもらいながら普通の手紙を書いていますよ!
ウルリカはウルリカで手紙を書いています。イズリアル様が気を利かせて便箋の綴りを与えてくれました。ですので、これからは紙に余裕ができます。
さて、姉は現在、つれない弟がドリンクを送らないでほしいと書いてきたことに対してやる気をかき立てられ、味の改良に余念がありません。
味見をしたら、確かにしばらく生きた心地もしなくなる凄まじい刺激でした。ウルリカも筆舌に尽くしがたい顔で言葉を濁しました。でも父上は、これは力が出ると感心していました。味覚の違いの問題でしょうか? それとも、一部のつわものにしかわからないおいしさなのかもしれませんよ?
管理人のお仕事も、お父さんから身を守るために気を付けることや、資源を守るための資源毎のありかや特色やチェック項目を時々現場に連れて行ってもらって頭に入れています。敬清が修行と称してしていたことと、半分くらいは一緒かもしれませんね。
こちらは過ごしやすい季節となり、葉物野菜や川魚がたくさん摂れています。敬清が造ってくれた氷室もまだ形を残していて、去年と同じように、補強すれば来年も使えそうです。獣が肥えて果樹がつくのはもうしばらく先のことになりますが、よい保存食が出来上がればまた送ります。ではでは。
潮音
●558年くさのつゆの月1日
お父さん、ウルリカ、お姉さん、お元気ですか。ぼくたちは元気です。
まずは嬉しいお知らせからしたいと思います。先月の資格魔術師試験において、ぼくは見事合格しました!
試験内容は部外秘なので言えませんが、予めお姉さんがお師匠様から頂いてきた資料を熟読して、独学でも勉強してきたのが功を奏しました。その節はお姉さんにはありがとうございました。お姉さんはあの本たちをほとんど読んでいなかったようですが、大丈夫ですか?
ドリンクは本気でいりません。それでもぼくのためにと送ってくださるのなら、せめて味が一種類になってからにして下さい。お姉さんこそ魔法の勉強をし直してから、ドリンク作りに着手するべきです。きっと何かが欠けているか、独自のアレンジを飛躍させすぎていると思います。最近話題に上りませんが、産(塗り潰し)自宅警備員を作るという話はどうなっているのですか? もしや膠着状態なのでは? 一度初心に返ってみることをおすすめします。
ふと思い立って、飲み残しの入れ物にその辺で摘んだ草を差したら、弾けてしまいました。そんなものを人に飲ませようとするなんて、ひどすぎます。一部のつわものにしかわからない美味などという言葉の魔法でごまかすのはやめましょう。裸の王様ですか? ハードルが高すぎます。一般大衆向けにリニューアルしてください。
ぼくは魔術師資格を獲得したので、魔術師組合にお勉強に行かなくてもよくなりました。その分、力仕事を頑張って、武芸の鍛錬に時間を割こうと思います。折角街に来たので、できれば色々な人に稽古を付けてもらって、もっともっと強くなって帰りたいと思います。どうか皆さんお元気で。
ケイセイより
●558年しもふる月1日
お兄さんから、真顔で、おまえの姉が魔境監視官にもなりたいがお嫁さんにもなりたいと言い出したので、婿を探してやろうとすると鳴き喚いて暴れる、おまえは姉を落ち着かせるよい方法を知らないかと尋ねられました。
ぼくは、姉は森の動物のお嫁さんになりたいわけではないからだと思いますと答えました。
一体何があったのですか? いえ、今のは言葉の綾です。知りたいとは思いません。むしろ説明しないでください。
今は他に何を書いたらいいのかわかりません。ぼくはどうすればいいのですか?
ケイセイ
○558年しもふる月14日
ケイセイ、ゴーディアス、お元気でしょうか? 前のお手紙がだいぶ混乱している風だったので、心配です。
恥ずかしながら、私はやっと私の直截な疑問に対して、お父様やケイセイが遠回しにほのめかして下さっていた事実に気が付きました。
シオネは、犬の時にはお兄様を好きで、人の時には嫌いなのですね。二人がとっくに見破ってそっとしていたことに今更気付くだなんて、私はどこに目をつけていたのでしょう!
そして、なんて悲しいことでしょう! なんとか、人の姿の時にも打ち解けてもらいたいものですが、なんとしたものでしょうね?
何があったのかは、ケイセイの希望通り、説明は控えます。でも、これからは任せてください。今までよりもっと的確にシオネの様子に気を配ってさしあげられると思います。安心して、修業に励んでください。
ウルリカより
●558年きたかぜの月1日
お父さん、ウルリカ、お姉さん、お元気ですか。ぼくたちは元気です。
今月のぼくのお誕生日のお祝いをありがとうございます。首から提げるものが増えたと言ったことを覚えていてくださったのですね。丈夫で身に着けやすい物入れとベルトで、重宝しそうです。
ゴーディアスにもかわいいリボンを、ありがとうございます。さっそく首に巻いてみました。本人も気に入っているようです。
イズリアルさんの口利きで、兵士宿舎の自主錬に参加させてもらえるようになりました。屈強なヴォジュラ兵の体力作りに付いていけている自分に我ながら感心しています。手合わせもしてもらえて、勝てるようになってきました。勉強になります。
今年は結構背が伸びて、もしかしてウルリカを追い抜けるんじゃないかと期待しています。ウルリカが作ってくれた外套の袖の折り返しを解いたら、ちょうどいい具合です。
この時期には王都の高等学校の寮にいる領主様のお嬢様が、お友達を連れて里帰りをなさいます。去年も下働きしてる時に、ちょっとだけ見かけたくらいだったのですが、お嬢様が連れてきたお友達の一人が、根の氏族のハーフ(打ち消し線)とのあいのこでした。きっかけはお嬢様がジェオフレイお兄さんの弟が館で働いていると聞いて、ぼくに会ってみたいと思われたからだそうで、それから紹介してもらいました。
彼はぼくと一つ年下で、すごく背が高くて、髪や肌の色が独特で、神秘的です。魔法の力も強いみたいで、治癒や支援の魔法が得意だそうです。根の氏族の特徴として、土と接地している皮膚から養分を吸収することができるんだそうです。もっと色々な話を聞きたかったのですが、ぼくの食い付きがよすぎて、引かれてしまったようです。今月半ばまではここに滞在するそうなので、できれば王都に帰られるまでに心証を回復して、できれば彼と友達になりたいです。
森はいつもの大雪に見舞われていることでしょう。どうか皆さんお体に気を付けて、風邪など召されぬようお過ごしください。
ケイセイより
追伸・ウルリカへ。残念ですが、その推理は違います。
(別紙にて)追伸
ぼくは、街に来て、1年になりました。みんなと出会ってからは、もう5年になります。
自分で言うのも気恥ずかしいですが、この間ずっと真面目に修行してきて、大分腕に自信がつきました。これも、ぼくとお姉さんを親切に面倒をみてくださった、お父さんやウルリカをはじめとするここで出会った全ての人々のおかげです。そのおかげで、今なら約束を果たせそうな気がしています。
これから、お仕事の方はお暇を貰って、一度家に帰ろうと思います。約束通り、ウルリカと手合わせをして、勝ちますよ!
組合員にもなりますよ! 色んな所へ行って冒険をして弱きを助け強きを挫く立派な男になります! 首を(打ち消し線が引いてある)覚悟を決めて待っていてくださいね。
ぼくは来た時と同じように、ゴーディアスと二人で、こっそり帰ります。お兄さんがいつものように定期便お届けのお仕事で先に家に着くと思うので、この手紙はいつものようにお兄さんに届けてもらいます。
それでは、しばしの間、さようなら。
「行きましょう、ゴーディアス!」
「メエ!」
由無し一家・完




