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四人目の被害者になりました。五人目は阻止したいと思います!  作者: こう


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112/112

112 踏みしめた大地の先


 フルスが目を覚ましたのは、全焼した侯爵家が沈んだ、大地の底だった。


 マイナと口論になり、振り払われた毒が燃えた。異臭に気付いたときには体調不良で動けなくなった。そこまでしか覚えていないフルスは、自分がどこにいるのかもわからなかった。


 フルスは気付かなかったが、そこは毒の山がある鍾乳洞だった。侯爵家は地中深くまで落下し、その引き上げることなく埋め立てられる予定である。よって、近くに転がっているニリスの白骨化した遺体も、このまま誰に発見される事もなく埋められる。

 フルスはニリスが死んだことも、ペンタスが無事逃げ出せたことも知らない。妹のマイナが火事の煙に煽られて、遠くへ運ばれてしまったことも。


 妹を呼ぼうとして、ぽつぽつ淀んだ光を放つ物に気付く。自分を見下ろして、自分もそれの仲間入りしていることにも。


 ――死んだ。死んだ。これは肉体ではない。魂だ。俺は死んだ。


 スッと理解したフルスは、同時に首を傾げた。

 何故地の底に居るのだろうか、と。


 神を信じ、教会の示す通りに行動した自分が何故、天に昇っていないのか。

 確かに他人に毒を盛ったが、あれは確認。神官の導き。つまり神の意志だ。その通りに動いたのだから、聖人ほどとは言わずとも、優遇されて然るべきでは?


 なんて、罰当たりな思考が過った瞬間。

 自分以外の魂が上げた悲鳴が聞こえた。


 目を見開けば、地中から伸びた手がフルスと同じ格好をした魂……侯爵家の使用人に絡みつき、地中へ引きずり込んでいるのが見えた。


 どれだけ抵抗しても逃れられない拘束に、フルスは魂の芯から恐怖した。

 何もわからなかったのに、見ただけでわかった。


 あれは、天とは真逆。安らぎではなく、消滅へ誘う手だと。


 同じものを見た者達が蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。フルスも同じ蜘蛛の子だった。しかし逃げ場などなかった。

 だって彼らは須く、大地に縛られた魂。

 大地から伸びてくる手から逃れられるはずがなかった。

 フルスも足首を掴まれて転倒する。転倒した瞬間、体が大地に沈んでいった。


『い、嫌だ……いやだいやだ!』


 駄々をこねる幼子のように、恥も外聞もなく暴れる。固いはずの大地はまるで泥のように、底なし沼のようにフルスの体を呑み込んでいく。


『いやだ……! 死にたくない……!』

『コロシタクセニ?』


 嘆くフルスの耳元で、地中から顔を出した女が笑う。

 灰色の髪に、青い目の女だった。見たことのない、知らない女――美しい顔をした女が、ニタリと笑いながら小首を傾げている。


『コロシタクセニシニタクナイ? コロシタクセニミトメテナイ。ソンナオマエガテンニノボレル?』


 ――笑わせないで。


 ケラケラと響く笑い声。フルスの傍から、他の魂の傍から。女の哄笑が地下の空洞に響き渡る。


『罪ハ穢レ』

『穢レハ土ニ』

『埋メテ』

『体ト一緒ニ』

『埋メテ』

『罪人ハ体カラ解放サレナイ』

『神カラノ祝福ナド望メナイ』

『埋メテ』

『埋メテ』

『埋メテ』

『埋メロ』

『彷徨イ歩クノモ烏滸ガマシイ!!』


 キャーアハハハハッ


 甲高い笑い声が、嘲りが、半分以上沈んだ耳にも届く。


『大丈夫。大地ハ受ケ止メテクダサル。先程溜マッタ分ハ解放サレタ』

『後五十年ハ問題ナイ』

『悪人ガ増エナケレバ問題ナイ』

『人ヲ追イ詰メルノハイツダッテ人』


 完全なる暗闇に放り出されたフルスに聞こえるのは、意味深な女達の囀りだけ。

 それもすぐに聞こえなくなり、恐怖に絶叫したフルスだが……その声すらも大地は呑み干して、いずれ存在そのものを吸収するだろう。


 ぬる、と大地から身を起こしたのは、先程フルスを捕まえた灰色の髪の女。

 彼女は地面を滑るように移動して……服を着た白骨体をゆっくり撫でた。


『ふ、うふふ……ニリス様。ニリス様……』


 女の胸元は赤かった。アイヴィーが自ら吐いた血で胸元を汚しているのとは違う。彼女の胸元には穴が空き、肉が覗いていた。


『わたくしという者がありながら、何人も妻を娶った酷い人……』


 落ちくぼんだ眼窩をなぞり、骸骨の歯茎を撫で、自らの唇で触れる。いや、触れること叶わず、僅かに沈んだ。


『やっとあなたと、同衾できますわね……うふふ、あはは、ぅうふふふ、きゃーっはははは!』


 頭部に抱きつくように絡みつく。女はそのまま大地に沈んだ。

 女が沈んだ後残ったのは、衣服を着た……頭蓋のない、白骨化した遺体だけだった。


 大地は全てを受け入れる。

 受け入れて、吸収する。

 溜まった分は適度に放出し……エネルギーを蓄えて、星は生きていた。

 エネルギーとなる養分が日々どのような活動をしているのか。

 それは、星々には預かりしれぬ事。

 その星に、少し他と違う異物が紛れ込んでいても。

 些事でしかないのだった。


 なぜなら大地は全てを受け入れる。

 それだけだから。






 男爵家の中庭で、手持ち無沙汰に花を見ていたクインティーナは、ふと自分の胸元で揺れるペンダントを見下ろした。


「大事な物だとは思うのですが……これ、重いです」

『え、なんかごめん……』

「あ、いえ、アイヴィーさんが重いという訳ではなくて……!」

『原材料石だからね。仕方がないわ』


 宝石も身につける習慣などなかったクインティーナだ。装飾品の重さには不慣れだった。


『樹脂じゃなくて鉱石、川とかで落ちていた原材料を削って作ったカメオ……大きさもそれなりだし、重いよねー。でもずっとつけていると慣れるから、よろしくね』

「はい、お任せください」


 クインティーナはペンダントをぎゅっと抱きしめ、立ち上がる。

 大地を踏みしめて、歩を進める。その横を、ふわふわ浮いたアイヴィーが続いた。


 地に足着けて進むクインティーナと、世界から浮いたアイヴィー。


 いずれ昇るのか、沈むのか。


 それはそれぞれの生き方とによると、まだ誰も知らない。


完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました!


『……待って? 完結? これで!? 謎が残りすぎじゃない? 第一部だよね? 完結って第一部のことだよね? だって私フラグ立ててたじゃない!? ときめきじゃなくて事件フラグ立てていたじゃない!? 確かにタイトル的な区切りはついたけれど! あと最後何なんで推理ものを謳っているのにホラーで終わるの!? ハッキリさせて! 謎はハッキリ解明させて!! よくないよくない予防線張って私に色々言わせるのよくないよ……! 出したい情報全部出した? 全部解明しない考察の余地ある終わりが好き? 考察の余地ある情報出せてる大丈夫!? テレーザお嬢様のところとかもっと触れよう!? 私あのお嬢様のこともっと知りたいんだけどー!?』


続きに関しては伸びを確認して決めます。

お付き合いありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
『ノ・ビ・ロ』
まさかの脱出end……! ホラーと笑いと不穏を反復横跳びする楽しさをまだまだ味わいたかったです。 どうか第二部に繋がりますように……!
感想の『バイオハザード』で妙にこの終わりに納得しちゃいました(笑)。 コミカルホラーで面白かったです! その中で、弟がペンダントを持って帰らない(姉とは2年間でお別れ出来てた)事とか要所にポイントがあ…
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