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158. ユーゴの厄日

「デジタルゲームの中に人間を転生させることなんて、いくらウチら神でも無理だよ」


「……は? どういうことだ?」


 目が点になったユーゴは続けて疑問を口にする。


「ゼフィーリアはゲームの世界に転生したと言ったが……いや、待てよ。確かアイツは『転生したこの世界が “セイクリッドマテリアル” っていうゲームの世界観と瓜二つ』と言ったんだったな。周りの人物も含めて」


 ユーゴの気付きに、ユーラウリアはにっこりと笑った。


「ウチが言いたいのは、人間が遊ぶようなプログラムされたデジタルゲームの中に()()()()()()()()()()は超むずいってコト。次元っていうか、世界としての規格が違うからね~。人間からすれば、あーゆーゲームってプログラムされたデジタルな情報で、人間が住んでいる世界───もっといえば人間が感じてる情報ってアナログじゃん? まーウチからすれば人間の世界もある意味でデジタルなんだけど……って少し話がずれちゃった。つまり、ゲームの世界に転生は難しいけど、人間が転生可能な世界をめっちゃ真似たゲームなら作れるよねってコト」


 人差し指を立てて得意げにユーラウリアが語った内容を受けて、ユーゴは自分の勘が正しい方向を向いていたことを確信した。


「楓香……前世のゼフィーリアがやっていたゲームは、この世界を精巧(模してたってことか。そうか、ゼフィーリア(アイツ)は|セイクリッドマテリアル《そのゲーム》を『運命選択型』って言っていたな。選択肢によって物語の結末が変化すると。もしかしてその結末やその過程の人間の行動なんかは、この世界のループ、一つ一つの情報が使われているってことか?」


「いえすいえす! その通り! やっぱユー君、勘が鋭いねー! ぱちぱち」


 正解に辿り着いた己の使徒に、女神は拍手を送った。


「いやしかし……何のために異世界で起こった出来事を地球のゲームにしたんだ? その目的が理解出来ねぇな」


 頭を捻るユーゴに対して、ユーラウリアは一言だけ返す。


「さぁ?」


「さぁ? ってお前、そこ意外と重要じゃねぇか?」


「うーん。ウチが知ってるのは、 “世界” に記録された情報を利用して物語を創るっていう手法があるってことくらいで、それを作って何がしたいかっていうのは知らないし、ウチらの目的の障害にならないから興味もないし? まーハッキリ言えるのは、ゲームとかの物語にするのはあくまで実験の副産物だってことかな」


「そうか……。じゃあゼフィーリアの前世が俺の知り合いだったことは? 異世界で昔の知り合いに遭遇するなんて、ただの偶然じゃすませられねぇだろ」


「それなー。まじウチもバビったし! ……え、何その目? ガチでウチ、知らないよ? 神に誓うって!」


 女神がいったいどの神に誓うのか理解に苦しむが、必死で弁解するユーラウリアを見てユーゴはため息混じりにジト目をやめた。

 ユーラウリアが真実を言っているか否か、ユーゴには見抜けない。追求したところで無駄と考え諦めることにしたのだ。


「まぁでも、()()()の存在は盲点というか、誤算だったよね」


 ユーラウリアのかすかな呟きは、開いたドアの軋んだ金属音によってかき消され、ユーゴの耳には届かなかった。


「旦那様、お待たせいたしました」


 雪が金属製のトレイに三人分の飲み物を載せて戻ってきた。


「いや別に構わねぇんだが、確かに飲み物を持ってくるにしては時間がかかったような……何か問題でもあったのか?」


「いえ、問題というほどではありませんが、ほどなくお判りになるかと」


「?」


 ニコッと雪が微笑むと、怪訝な顔をしたユーゴのスペリオール・ウォッチが電子音を鳴らした。これは通話を報せる着信音だ。


「何だ……フィールエルから?」


 受話ボタンをスライドして通話を開始すると、凛々しいアルトがスペリオール・ウォッチから発せられた。


『ユーゴ。そっちでは何か面白いことになっているようだね?』


「? 何の話だ。面白いことなんて何一つねぇけど?」


『怪しいな。ボク達の元には()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が現れて、()()()()()()()()()()()()()

という情報が流れてきたんだが?』


「おい待て。どこでその情報を手に入れた?」


 電話という遠隔通話手段がないこのセイクリッドマテリアル界において、情報伝達の手段は手紙しか無い。馬車を休みなく走らせたとてグラーニャに届くまで一昼夜は要する。

 数時間前に起こった出来事を遠いグラーニャに居るフィールエル達に報せるのは不可能だ。

 可能性があるとすれば遠隔通話機能があるスペリオール・ウォッチだが、王都側でそれを有しているのはユーゴを除けば鉄太とゼフィーリアのみ。

 ゼフィーリアはフィールエル達の連絡先をまだ知らないはずだし、今のところ有効的な関係を築けている鉄太は、事態をみだりに掻き回してユーゴを不利な状況に置かないはずだ。

 しかしフィールエルがもたらした答えは、意外なものだった。


『雪の【式神】という術でだ』


「なにっ!?」


 ユーゴは、勢いよく雪に顔を向けた。


「いや、ニコッじゃねぇよ雪。……にしてもそうか、雪はフィールエル達と違ってそういう不思議能力を失ってなかったな」


「はい。(わたくし)の精霊術の一つです。この札を “式神” という自動で命令を遂行する存在に変化させ、私の声を封じてフィー達のもとへ飛ばしました。グラーニャまでの距離でしたら、ものの数分で届きますわ」


「……それは便利な手段をお持ちで」


 頭を抱えたくなったユーゴ。もう既に面倒くさい事態になる予感しかない。


『それでユーゴ、ボク達もそちらへ行きたいから今から迎えに来て欲しい」


「嫌だよ、面倒くせえ。別に緊急事態じゃねぇんだから自分たちで何とかしろよ。俺はタクシーじゃねえんだ。あばよ」


 言い捨てて、ユーゴは通話終了のボタンをタップした。

 しかし間を置かず、再びフィールエルからの着信。


「しつけぇな、嫌だっつってんだろ」


『ユーゴ。ボクは君のためを思って言ってるんだけど?』



「どういうことだ?」


『いまネルが荷物を抱えて寮を飛び出していった』


「……何だって?」


『この問題は早めに手を打っておいたほうがいいと思う。ネルは「ユーゴさんを殺して私も死にます」とか物騒な事を言っていたからな。ユーゴにも事情があるだろうし、今のうちならボク達が間を取り持ってやる。でもキミが相手にしないと言うなら、ボク達は味方できないな」


 ネルは恐らく、本気で殺りに来る。

 ユーゴの死角から攻撃できるのは、今のところネルただ一人である。

 それが即死になるものならば、実はユーゴには対処可能である。だが、それが即死にはいたらず、さりとて取り返しがつかない障害が残るようなものならば、ユーゴには為す術もない。

 心中覚悟のネルならば、鉛筆一本でユーゴの片眼を抉るくらいの事はやりそうだ。

 ユーゴの背にブルっと悪寒が走った。


「……分かった。今からそっちに行く。雪、ついてこい。緊急事態だ」


「かしこまりました」


「いってらー。ウチはここでお留守番してるねー」


 ブンブン手を振りながら見送るユーラウリアの声を聞きながら、ユーゴは思った。

 今日は……いや、今日も厄日かもしれないと。

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