159. オープン前日の会議①
フィールエルからの “通報” を受けて臨場したユーゴ。
彼の顔を見るなりナイフを腰だめに突進したネルを、フィールエル、パレア、雪の力を借りて宥めること一時間。誤解やルーナの奇行やらを説明し、なんとかネルの鎮火に成功した。
とりあえず夜も遅いということでその日は寮に戻ることを了承させ、翌日改めてゼフィーリアを紹介することにした。
そして当日。
「それで私が呼ばれたわけね」
ゼフィーリアがユーゴに向けて言った。
「そうだ」
場所はめいでぃっしゅ二号店のフロアである。
明日はオープンの日であり、二号店のメンバーは最終チェックに忙しく、日が落ちてようやくすべての準備が整った。
この時間帯はグラーニャの本店も営業を終了している。
よって集合は夕食時となった。
メンツは十人。
一つ目のテーブルにユーゴと鉄太と輝星。二つ目のテーブルにフィールエル、ネル、パレア、雪。三つ目のテーブルにゼフィーリア、マルガレーテ。そして四つめのテーブルにユーラウリアという配置である。
この配置はユーゴの指示によるものであった。
それぞれの前には夕食、ユーゴの奢りで店のメニューが並んでいた。
ちなみに彼ら以外のメイドはそれぞれ新規オープンの景気づけに外食に出ていて、その費用は鉄太持ちだった。
「ねぇ鉄太。やっぱウチら場違いやない?」
輝星は隣に座っている義兄にひそひそ耳打ちした。
「いや、でも居て欲しいっち言ったんはユーゴさんやけな」
「ああ、そうだ。キラリ、営業の打ち合わせに来ただけのお前には申し訳ないが、ちょっと付き合ってくれ。佐久間兄妹にもまるきり無関係ってわけでもねぇしな」
ユーゴの返答に、今度はマルガレーテが手を挙げて質問する。
「あの……ワタクシも同席してよろしいんですの?」
「ああ。もうゼフィーリアから説明は受けたんだろ?」
「え、ええ……」
「そうよ。私が前世の記憶をもっていることや、私の特殊能力のことをね」
ということは、この世界の秘密に関しては伏せていることだなと、ユーゴは察した。いい判断だとも。
「私も話すかどうか迷ったけれど、マールは親友だもの。もう隠すことはやめにしたわ。信じてもらえるか分からなかったけど……」
「ゼフィ……安心なさって。初めは確かにビックリしましたけれど、ゼフィの事を疑いなんてしませんわ」
「女同士、友情が篤いのは結構なことだ。それで今回集まってもらったのは、俺、鉄太、ゼフィーリアそれぞれ同じ思惑で動いているこの現状を、それぞれの内輪に説明するためだ。俺の方は説明する気はなかったし、正直何度も同じ説明をするのは骨が折れるが仕方ない。というわけでお前ら、とりあえず黙って聞けよ。特にパレア」
「はぁっ!? なんでアタシだけ名指しなのよっ! 不当な扱いに断固抗議するわ! ていうかここの支払いってユーゴ持ちなのよね。だったらパフェ追加で!」
「うるせーからだよ。そういうとこだぞ。じゃあ自己紹介は (俺にとっての)終焉か混沌しか生まねぇから、俺から簡単に紹介する」
そしてユーゴはフィールエル、ネル、パレア、雪を異世界を共に移ってきた異世界人ということ、この店のオーナー兄妹とゼフィーリアは転生者だということ、加えてゼフィーリアに関しては前世がユーゴの知り合いだということ、マルガレーテはゼフィーリアの友人だということを簡潔に説明した。
「それで最後に、このニヤニヤしている派手な女がユーラウリア。今はその力をほとんど失っているらしいが、神という存在だ。まぁ知っている奴も居ると思うが」
「やおびー(←挨拶)。よろー」
今回ユーラウリアは空気を呼んだのか、余計な発言をしなかった。逆にそれが、ユーゴには不気味に思えた。
フィールエルやネルはゼフィーリアに対してやや探る目付きをしており、ゼフィーリアはそれに気づきながらも淑女然としてティーカップに口をつけ、ユーラウリアはそんな人間の少女たちをニヤニヤと眺めていた。
佐久間兄妹はその状況に居心地の悪さを覚え、パレアは既に自分のグラスを空にする勢いでパフェを平らげようとしていた。
そしてユーゴは紹介に続き、この世界に来てからのあらましを説明した。
主軸はベレッタの問題である。一年前のクーデター事件の発生から、それの鎮圧を成したのがゼフィーリアであること、そして現在ベレッタ・レーナスがその首謀者として狙われていること。そう仕向けているのが守護者教会とハルファルト公爵だということ。そして彼女を護るため、鉄太とゼフィーリア、そしてユーゴが協力していること等を。
このくだりは主に他の異世界から来た少女たちに向けて話したのだが、正直、ユーゴとしては二度手間感があり、初めからこいつらを巻き込んでおけば良かったかもと、少し後悔した。
ユーゴの思考を読んだわけではあるまいが、フィールエルがユーゴに向かって文句を言う。
「ユーゴ、何故ボク達に秘密にしてたんだ? 言ってくれれば協力したのに。水臭いじゃないか。そう思わないか?」
最後にフィールエルは同じテーブルの仲間たちに同意を求め、パレアが「まぁ、そうね」と応じた。
「きっとユーゴさんは、私達がこの世界に馴染むのに必死だったので、余計な負担をかけないように気を遣って下さったんですよ」
「ないない。ユーゴがそんな気を遣うわけ……ある。あるわ!」
ネルのフォローを否定しかけたパレアだが、パフェをユーゴに攫われそうになって手のひらを返した。
それを見たユーゴが『こいつ、以前グレンに協力したのも飯に釣られたからじゃねぇのか?』と疑念を抱くのは仕方がない事なのかもしれない。
「ユーゴさんはとても優しいですよ。口では何かと悪態をつきますが、いつも周りの事を考えて下さっています」
にこりと微笑んだネル。その言葉にユーラウリアはピクリと反応した。
───この子……理解ってるじゃない。
ゼフィーリアはネルも要注意リストに入れることにした。
「その通りだ。ネルはよく理解っているな。パレアもよく見習えよ?」
「うわ……うざいわね、こいつ」
ネルの擁護を受け調子に乗るユーゴに、だがそのネルは───
「でも、女性にだらしないところは改めないといけません。色っぽい女の人を見ればだらしない顔をするし、女性と知り合えばすぐ親しくなるし……。それに昨夜の説明で私……達は納得したわけではありませんよ。こちらの世界に来てからユーゴさんの素行は目に余るものがあります。ここで一度、きちんとお話をさせていただく必要があると思います」
───お得意のスキル、 “笑ってない笑顔” でプレッシャーをかけてきた。
それに怯みそうになるユーゴだったが、ここで退いてはオトコがすたる。
「おいおい、俺を女たらしみたいに言うなよ。大きな誤解だそれは。だから話し合う必要なんてない」
「まぁまぁネルちゃみ。そこは後でウチが説明したげる。他の子たちにも、ちょ~っと相談があるしね」
ユーラウリアがユーゴ達の間に割って入り、フィールエル、ネル、パレア、雪、ぜフィーリアを順に見渡して言った。
「おいユーラ。お前、いったい何を企んで……」
「しゃらーっぷ! 女子同士の話なんだから、ユー君ほ黙ってて」
一人でも面倒くさいこの女達が集まっての密談。
その事にユーゴは激しく嫌な予感しかしなかった。




