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「ねえ、あなた、さっき何をしたの?」
マリノは目の前に立つ六花に問いかけた。
「急にどうした?」
「彼女に何かしたでしょ?」
「さあな」
「ごまかさないで」
六花は諦めたかのようにーー
「ソレから妖かしとして過ごした記憶と感情を封じた。そうすれば人間として死んでいくことが出来る」
「あなたも人の記憶を弄れるの?」
「お前だけの特殊な力だとでも思ったか? こんなものはそう珍しい能力でもない」
「どんな意味があるの?」
「私は妖かしの一族だ。だが、私たち一族も死した後の世界のことは知らない。この娘が向こうの世界に行ったとしても、人間として両親に会えたほうがいいだろう」
「つまりは助けたということね」
「そうか?」
少し拗ねたようにプイっと横を向いて六花は言う。「助けたつもりはない」
「助けたのよ。あの子は何なの? あなたにとってどんな意味があるの?」
「説明したはずだ。たまたま知り合った妖かしの娘だ」
「違う。本当のことを知りたいの」
「本当のこと? それでは私が何か隠し事をしているかのようだな」
「そうよ。あなた、嘘をついているわね」
「嘘?」
「あなたとあの子、何か関係があるんじゃない?」
「どうしてそう思う?」
「あなた、あの子には障害があって口が効けない言っていたわね。でも、あの子、事件の翌日に家族と一緒にディズニーランドに行くって近所の人に話していたそうよ」
「どこでそんなことを?」
「警察で耳にしたのよ。あの時、あの子が話せなかったのはあなたが何かしたからでしょ? あなたはあの子を庇っている。何か関係があるからじゃないの? 教えて。どんな関係なの?」
「なぜ、そんなことを気にする?」
「知りたいのよ。あなたのような感情を押し殺したような人がどうしてそんなことをしたのかを」
マリノの真剣な眼差しにーー
「好奇心か。仕方ないな」
六花は諦めたようにふっと息を吐いてから言った。「それで? 何を知りたいって?」




