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海岸通り バイト先まで   作者: 大橋むつお
1/4

1:海岸通りの事故

ライトノベルベスト 


海岸通り バイト先まで・1






 しまった! 


 バスの発車音で目が覚めた。


「おばさーん、次のバス何時かなあ!?」


 ぼくは、階下のおばさんに大声で聞いた。


「なんだ、まだ居たの。今のバスで出たと思ってたわよ」


       


 今朝は、なぜか早く目が覚めて、一時間も早く朝飯を食った。


 それでバスの時間まで、わずかなまどろみを楽しんでいて、それが本格的な二度寝になってしまったのだ。


「次のバスって……一時間先だわよ」


 階段を駆け下りてきたぼくに、民宿のおばさんは気の毒そうに時刻表を指さした。


 ミーーーン ミーーーン ミーーーン


 頭の中が真っ白になって、蝉の声だけが際立った。


 二三秒、呆然として玄関のピンク電話に。

 受話器を手にしたところで、肝心の電話番号が頭からとんでしまっていることに気づく。


 ドタドタドタ!


 慌てて二階に戻り、バッグから手帳を取りだし、そのまま電話のところに戻った。



「あ……」



 同宿のA子さんに先をこされていた。


「だからさあ、もう二三日は帰んないから……お母さんに代わってくれる……あ、お母さん……」


 ぼくは、こういう時にはっきりとものが言えない。


 狭いロビーで新聞を読むふりをした。夕べも、今日からのバイトに備え、早く寝ようとした。でも、いまホットパンツのお尻を向けて電話しているA子さんたちにつかまり、ウダウダと、二時近くまで付き合ってしまったんだ。


 地方新聞の三面記事、海岸通りの北の方で、大型タンクローリーが事故。そこを眺め、四コママンガを見ている時に声がかかった。


「はい、電話かけるんでしょ」


 A子さんが、お気楽に受話器を振って促している。


「あ、ども……もういいんですか」


「急ぎの電話だって、顔に書いてあるわよ」


「すんません」


「優しいのと、気の弱いのは違うって、夕べ言われてたでしょ。神田川クン」


 ちなみに、ぼくは神田川ではない。柳沢二郎。二郎と言っても次男ではない。なぜ神田川かというと、夕べ盛り上がった時に、A子さんの連れの、B子さんやC枝さんに「キミは、神田川のオトコみたいだね」と言われて、そうなった。


「よ、神田川。オネエサンたちといっしょに海岸散歩しない。気が向いたら、そのまま海へザブーン!」


 B子さんは、ピンクのTシャツを、ビキニの上の方が分かるところまで、たくし上げて、ぼくを挑発した。


「よしなさいよ。あの子バイトのために来てんだから」


「まあ、海まで来て川を相手にすることもないか」


「B子」


 A子さんが、軽くたしなめた。いつの間にかC枝さんもロビーに現れ、三人連れだって玄関を出ていった。




 ボクは、テレホンカードを入れて、バイト先の「海の家」まで電話した。




「……すみません。バスに乗り遅れて、少し着くのが……」


――ああ、いいよいいよ。夕べの海岸通りの事故で、道が塞がってっから。お客さん来るの遅れそうだから――


 オジサンが優しく言ってくれた。


 そう言えば、今、新聞で知ったところだ。


 ボクは、改めて新聞を読み直した。事故の復旧は、昼前までかかる見込みと書かれていた。


 でも、やっぱり、できるだけ早く行こう。バイトとは言え仕事は仕事だ。それも初日。誠意は見せておかなければならない。


 誠実さと気の弱さが、同じ結論を出した。

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