表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海岸通り バイト先まで   作者: 大橋むつお
2/4

2:ビーチパラソル

ライトノベルベスト


『海岸通り バイト先まで・2』  







 しかし歩くことはないだろう――ぼくの中の横着さがグチを言う。




 ぼくは、一時間先のバスを待つよりも、五十分かけて、海岸通りをバイト先まで、歩くことに決めた。


 Tシャツに短パン。帽子は、民宿のおばさんの勧めで、ジャイアンツのキャップを止めて麦わら帽に替えた。大きめの水筒ごと氷らせた裏山の湧き水を肩から斜めにかけて、首にはタオルを巻いた。


 歩くと決めて、民宿のおばちゃんが、あっと言う間に、このナリにしてくれたのだ。


 民宿の寒暖計は、二十九度を指していたので、少し大げさかと思ったが、十分も歩くと、おばちゃんの正しさが分かった。


 民宿から続く切り通しを抜けると、見はるかす限り、右側は海。まともに真夏の太陽にさらされる。ぼくは海沿いの「海の家」のバイトと高をくくっていた。アスファルトの道は、もう四十度はあるだろう。


 通る車でもあれば乗せてもらおうかと思ったが、事故のせいか駅とは反対方向の、この道を走る車は無かった。


 砂浜でもあれば、波打ち際に足を晒して涼みながら歩くこともできるんだろうけど、切り通しを過ぎてからは、道は緩やかな登りになっていて、ガードレールの向こうは崖になって落ち込んでいる。


 水筒の氷が半分溶けてしまった。


 溶けた分は、ぼくの口に入り、すぐに汗になってしまう。


 しばらく行くと、ようやく道が下りになり、右手に砂浜が見えだした。


「足を漬けるぐらいならぐらいならいいよな……」


 そう独り言を言って、ボクは「遊泳禁止」の立て札を無視して、砂浜に降りた。




 岸辺の波打ち際、海水に脚を絡ませた瞬間、頭がクラっとした。




 ぼくは快感の一種だと思った。実際、海の水は、心地よくぼくの熱を冷ましてくれる。


 数メートル波打ち際を歩いて気づいた。波打ち際から四五メートル行くと、海の色はクロっぽくストンと落ち込んでいるのだ。


 なるほど、こんなところを遊泳場にしたら、日に何人も溺れてしまうだろう。




 しばらく行くと、遠目にイチゴのようなものが見えてきた。




 近づくと、赤と白のギンガムチェックのビーチパラソルだということが分かった。


 ちょっと傾げたビーチパラソルの下にはだれもいない。砂浜には自分が歩いてきた足跡しかついていなかった。


「ちょっとシュールだな」


 そう独り言を言って、パラソルの下……というより、パラソルが作り出している「木陰」の中に収まってみた。


 さやさやと、体から暑気が抜けていく。ほんのしばらくのつもりで、ぼくは憩う。

 

 気づくと、形の良い脚が目に入った。


「気持ちよさそうね」


 目を上げると、白のショートパンツに、赤いギンガムチェックの半袖のボタンを留めずに裾をしばり、栗色のセミロングが潮風にフワリとなびいている。


「あ、きみのビーチパラソル?」


「うん、そうよ」


「ごめん、勝手に使って」


「いいわよ、ちょっと詰めてくれる」


「あ……ああ」




 その子は、思い切りよく、ぼくの横に座り込んだ。その距離の近さにたじろいだ。




「この辺じゃ見かけないけど、あなた、夏休みの学生さん?」


「うん、東京。でも、遊びじゃないんだ。バイト、お盆まで……」


 そこまで言って、気が付いた。砂浜には、やはり、ぼくの足跡しか残っていない……。


「ふうん……東京だったら、もっと時給とか、条件のいいバイトあるんじゃないの?」


 足跡の謎を聞く前に、たたみかけるように、鋭い質問がきた。


「きみ……本当は、家から逃げ出してきたんじゃないの……?」


 え……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ