なんでも屋稼業その2 アンドラス
サービスエリアにて予想外の事件に遭遇して、少し出発時間が遅れてしまった。しかし、少し飛ばせば大丈夫だろうとも思っている。
ここまで来ると高速は空いている。東北の風を感じながら、ひたすら走った。
漸く士郎は、西那須野塩原インターチェンジまで来て、高速を降り、ホテルを探した。そこで、一泊し、朝一番で出発する予定だ。
県道400号線に出て、塩原方面に向かって走っていると、前方で交通事故があったらしく、警官が迂回の指示を出している。
仕方なく、その指示に従い左折した。
辺りはもうかなり暗くなっている。日中は暑かったが、今はかなり涼しい。風も出てきたので、余計に寒く感じる。
士郎は、さっきから気になっている事がある。士郎の後ろから黒いベンツがつけてきているのだ。
彼は記憶をたどる。
『そういえば、川口ジャンクションに入った頃から見かけているぞ。これは怪しいなあ』
暫く進むと、コンビニが見えてきた。
『よし、コンビニに寄って様子を見てやろう!』
コンビニに停車する。駐車場には3台の大型バイクと、白の軽自動車がとまっている。
士郎を付けて来たベンツは、ゆっくりとコンビニの前を通過して行った。
見ると、20代と思える男が車を運転し、助手席には40代ぐらいの男が座っている。二人とも黒いスーツ姿であった。
どうも、観光で来ているようには思えなかった。
『ふん、行っちまったか。しかし、用心に越したことはないな』、士郎はヘルメットをとりながら、そう考えていた。
缶コーヒーを買おうと店に入っていくと、すれ違いに30代の女性が出て行き、例の軽自動車へと乗り込んだ。
店の中では、バイクのライダーが3人、雑誌を手に取りながら談笑している。
士郎は缶コーヒーを店の外で飲み干すと、再びバイクにまたがった。
暫く乗っていると、後ろから“ゴー”というバイクの音が響いてきた。
士郎が、バックミラーで確認すると、さっきコンビニにいた3人組だ。
何か嫌な予感がする。
彼らは横一列に並んで、スピードを上げて、ぐいぐいと近づいてくる。
中央の男が、前輪を空中に持ち上げたまま、突進して来る。いわゆるウィリーという技だ。
士郎は、ニヤッと笑う。どうも危険を感じるとニヤリとする癖があるようだ。
前輪を持ち上げたバイクが士郎を飲み込もうとした時、前輪に全荷重をかけて、ブレーキをかけながら後輪を浮かせると同時に横に振った。それが、後ろのバイクの前輪に当たり、彼はバランスを崩して転倒する。
他の2つのバイクも、その煽りを受けて、急ブレーキをかけて止まった。
そのスキに士郎はそのまま方向転換をし、逆方向に向かって走る。
残った2つのバイクも、慌てて方向転換をして追いかける。
士郎の乗っているバイクは中古だ。迫ってくるバイクのスピードにはかなわない。
再び2台のバイクが接近する。
2人は、鎖分銅をブンブン回転させながらやってきた。
その分銅が士郎に向かって飛んでくる。
士郎はそれを何とか避けていたが、やがて鎖分銅が士郎のバイクの後輪に絡まり、バイクが派手に転がっていく。
だが士郎は、その寸前にジャンプをして宙に舞った。
士郎の真下を男のバイクが通り過ぎようとしていたが、その男の後頭部を蹴り上げた。
バイクはヨロヨロとしながら、近くの塀に激突する。
今度は士郎が着地した地点に向かって、もう1つのバイクが前輪を持ち上げたまま士郎に襲い掛かる。
士郎は寸でのところで、その攻撃をかわして、全力疾走する。
近くにあった木に駆け上りながら再びジャンプし、空中で後方回転しながら、クナイを放とうとするが、そこへ男の鎖分銅が飛んでくる。
士郎は咄嗟にクナイを使って身を守ったが、その衝撃は強い。そのため、不自然な形で地面に落下した。士郎は左足が、しびれた様な感覚に襲われる。
そこへバイクから降りた男が、容赦なく鎖分銅の攻撃を仕掛けてくる。
士郎は、それをビッコを引きながらな何とか避けているが、それも時間の問題のように感じた。
士郎は、この状況を打開しようと、近くの公園の中にある草むらへ逃げ込んだ。
そこへ男は、鎖分銅をブンブン回転させながら近づいてくる。
士郎は、草むらの中から3枚の手裏剣を放つが、回転している鎖分銅によってはね返された。
男は、手裏剣が飛んできたその場所へ向かって、分銅を飛ばす。
だが手応えはない。
ザワザワ、ザワザワと草むらの中を移動する気配がする。
そこへ向かって、次々に分銅を繰り出す。
暫くすると、草むらの中の気配が消えた。
男は感覚を研ぎ澄ませながら、士郎の気配を探す。
すると、何かが燃えているような臭いがしてきた。それも一箇所ではない。3,4箇所から臭ってくる。
次の瞬間、それぞれの場所で、パン、パン、パンという火薬が弾けるような音がする。
男の五感が麻痺したその時、男の腰と首に強い衝撃があり、その場に倒れこんだ。
「ちっ、面倒かけやがって!」、士郎はそう呟きながら、額の汗を拭った。
もうこの時には、足の痺れも無くなっていた。
鎖分銅で男を縛り上げる。
その時、腕に何か刺青のようなものが見えたので、袖をまくってみた。
するとそこには、天使の羽を持ち、獰猛そうな鳥の顔を持った刺青が現れた。
士郎は、この3人の男たちの始末をライフアシストに依頼した。ついでに刺青の事も聞いてみた。
「ああそれは、アンドラスのマークだ。アンドラスは西アジアに拠点を置く国際的犯罪組織だ。嫌なところに目を付けられたな。それだけでは済まないかもしれんぞ。充分注意してくれ」
「そうか、ナノマシーンを狙っているという分けだな。こりゃあ面白くなってきたなあ!」
「おいこら、ゲームをやっているんじゃあないぞ」
「わかってるよ、おっさん」
「ちっ、緊張感の無い奴だな・・・。それにおっさんじゃあないぞ、社長と言え!」
「はいはい、失礼しました社長!」
その後、自分のバイクを調べたが、乗れる状態では無かったので、襲ってきた男のバイクを拝借する事にした。