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東方転犬録  作者: レティウス
娘が頑張る妖々夢
103/115

STAGE12

「ついに来たわ」


「凄く遠回りしましたがね」


「うっさいわね!だったら、あんた一人でくりゃよかったじゃない!」


「まーた、始まったぜ」


「水と油ね」


 白玉楼についた霊夢たち一行だったが、霊夢の決意とも言える、言葉尻を取って、椛が突っ込みを入れると、霊夢が面白いように食いつく。


 そんな霊夢たちを遠巻きに呆れた顔で眺める魔理沙と咲夜。ぶっちゃ、ここでやるなという心境である。


「あら~、いらっしゃい」


 そんな霊夢たちのピリピリとした雰囲気とはうって変わり、縁側に腰掛けてのんびりした声で出迎えるのは、この白玉楼の主である西行寺幽々子。


「おい、私はいつから目が悪くなった?」


「安心していいわよ、私も同じのが見えるから」


「相変わらずですねぇ」


「(" ̄д ̄)けっ!」


 幽々子の隣にはうず高く積まれた皿が置かれている。魔理沙が目を疑うぐらいな量である。そんな皿の数を見て、霊夢がやさぐれる。


「むぐむぐ……ごっきゅん。ようやく来たわねぇ。もっと早く来ると思ったわぁ」


「どこぞの巫女が寄り道しまくったので」


「あんただって乗ってきたでしょうが!」


 ハムスターの如く頬をパンパンまで膨らませていたものを飲み込んだ幽々子が暢気に評価する。


「あら~、椛じゃない。どうしたの?妖夢なら門のところにいるわよ?」


「いえいえ、私と妖夢さんはそこまで仲良くないですよ。今日は貴女の犯した罪を裁きにきました。ついでに、人身御供という名の八つ当たり対象の確保をしにきただけですよ」


「どういうこと~?」


 可愛らしく首を傾げる幽々子。椛がいる理由が今一つ分かっていない。妖夢との関係はスルーしているあたり、いい性格をしている。


「そうですねぇ、結論から言ったほうが早いですかね……とっとと、春を返しなさい。さもなければ、幻想郷が崩壊します」


「それはできないわ~。私だって、意味なく春を奪った訳じゃないもの~」


 椛の言葉を受けて、真面目な顔で告げる幽々子。しかし、隣に置いてある皿から饅頭を取っているために、色々と台無しだ。


「なんだって、春を奪ったのよ」


 幽々子の言葉を受け、霊夢が尋ねる。ただし、その目線は幽々子が持っている饅頭に釘づけである。こっちも台無しである。


「そうねぇ、あの木を見て頂戴」


 そう言って、また一つ饅頭を消費した幽々子が指差したほうに視線を向ける、霊夢たち。そこには、立派な桜の木が一本立っていた。


「なんだありゃ。花が咲くどころか完全に木が立っているだけじゃねぇか」


 桜の木を見た魔理沙がそう評する。幽々子が指差した場所に立っている桜の木は花はおろか、蕾も葉もついてなく、枝だけである。


「でしょう?だから、咲かせてみたいのよ。これだけの春を集めてやっと、反応があったのよ。だから、もう少し待ってくれないかしら?立派に咲いたら、春を返すし、宴会にも呼んであげるわよ?」


「お断りします」


「断るわ」


 幽々子の提案をきっぱりと断る霊夢と椛。二人は揃って否定し、揃って睨みあうが、すぐに幽々子に向き合う。


「もう、待てませんよ。正直、ギリギリもいいところなんです。今すぐ春を返すか、私にボコされて下さい」


「私の勘がそれをしちゃいけないって言っているから却下よ」


 どちらも今一つ要領を得ない答えだが、答えとしてはきっぱりと断っていた。


「しょうがないわねぇ……悪いけど、私も止まるわけにはいかないから、少しの間、止まっていて貰うわよ」


 縁側から立ち上がった幽々子が手を霊夢たちのほうへと向けるそこからは、妖力で作られた蝶がゆらゆらと霊夢たちへと向かってきた。


「避けなさい!死にたいのですか!」


 いち早くそれを察知した椛が咄嗟に飛びのくが、霊夢たちは初期の位置から動かなかったのを見て、慌てて大声で叫ぶ。


 珍しい、椛の叫び声と内容に慌てて言うことを聞く三人。


 三人がいた位置に蝶が通り過ぎた後、椛が幽々子を睨みつける。


「どういうつもりですか?」


「なんで、わかったのかしら?」


「貴女の能力は知っているつもりです。故に、もう一度訪ねます。どういうつもりですか?」


 椛に睨まれても、柔和な笑みを崩すことなく幽々子は答える。


「別に殺すつもりはないわよぉ。あれに触れても死にはしないわ。ただ、当分の間は動けなくなるだけよ」


 幽々子の答えに満足がいかない椛は眉根を寄せるのをやめずに睨む。


 一方の霊夢たちは、幽々子の口から出た台詞に慄いていた。


 一応として、スペルカードルールの設定上、即死につながる攻撃は禁止である……マスパなどは甚だ疑問が残るが。


「お気に召さなかったようねぇ」


 そう言って、幽々子がほほ笑む。幽々子の前には、顔をしかめた四人の少女の姿が映っていた。


「紫さんや藍さんクラスならいざ知れず……私たちではあの程度でも致命傷になりかねませんよ?」


「あらぁ?椛は効かなかったような……あぁ、そういえば」


 この中で唯一交流がある椛を基準に考えていた幽々子だったが、それが間違えだと今さらに気がついた。椛に能力が効かない理由は椛ではなく、その親にあったのだと。


「ごめんなさいねぇ。ただ、私も目的のために手段はあまり選ばないわよ」


「そうですか……」


 幽々子の言葉を聞いて、覚悟を決める四人。そのうち、二人……椛と霊夢は今回の異変の原因とも言える桜の木をちらりと見る。


 そこから漏れ出している強烈な死の気配を感じ取る椛と、持ち前の直感によりそれが危険だと感じ取っていたためである。


「とっとと終わらせます」


「ふん、認めたくないけどその意見には賛成よ」


「なぁ、こいつらって実は結構相性いいんじゃね?」


「あ、貴女もそう思う?」


「「よくない!」」


 いがみ合う椛と霊夢の姿を見た魔理沙が評した内容に咲夜が同意するが、それが聞こえていた二人がそろって否定の言葉を上げる。そして、そのまま睨みあう。


「あらあら、仲がいいわねぇ。それじゃ、二人そろっておやすみなさい」


 にこにこと笑っていた幽々子から再び蝶を模した弾幕が放たれる。それが、開戦の合図となる。


 変則的な4対1の戦いに置いても、幽々子が終始優位に進めていた。


 幽々子の能力である【死を操る程度の能力】を使った弾幕は、ちょっとかすってもアウトである。そのために、いつも以上に飛びまわらなければいけなかった。


 当然、幽々子はこの勝負でこの四人を殺すつもりは一切ない。せいぜいが、昏睡状態にして、事が終われば直すつもりだ。


 ただ、それであろうと、椛達にしたらたまったものではない。


 幸いと言えるかは微妙だが、唯一の救いは、幽々子が戦闘に慣れ親しんでいなかったことだろう。


 その大きい力をバカみたいに使っているだけで、避けたり防いだりするのはそう難しいことではなかった。妖夢涙目である。


「もう、当たらないわねぇ」


 ちょっと頬を膨らませて拗ねる幽々子。普段ならば、その可愛らしい姿と見た目のギャップに笑みが出てもいいのだが、残念ながら、現在の状況でそれはイラつかせるだけである。


「それじゃ、これでどうかしら?」


 幽々子の懐から一枚のスペルカードが取り出される。それを見た霊夢たちも息を飲んだ。


 ここまで、既に幽々子のスペルードは5枚ほど撃破してきた。そろそろ、終わりだろう。


 だが、今までのスペルカードも何とか撃破しただけで、こちらが反撃できたという訳でもない。


 そんな状態で、再び使われたらたまったものではなかった。


「「反魂蝶 -八分咲-」」


 そして、宣言されると同時に全方位に大量の弾幕が展開されていく。


 それを慌てて防ごうと動こうとした4人だったが、そこに突如として乱入者達が現れたのであった。


 乱入者達は迫ってくる弾幕をそれぞれの方法を用いてかき消した。


「犬符「魔犬の顎」」


 灰色の毛と耳と尻尾を持つ人型妖怪は迫りくる弾幕を空間ごと喰らうかの如くかき消し、


「鬼符「鬼神の一喝」


 桃色の髪と白磁の角を持つ妖怪は拳を前に突き出すと、その全てを粉砕し、


「天符「風神雷神」」


 翼を持つ妖怪が錫杖を掲げると、風が吹き荒び、雷が落ち弾幕のこと如くを一つにまとめ、かき消し、


「霊符「無双封印」」


 陰陽師の服を着るZUN帽をかぶった人外は、霊夢の夢想封印と全く同等の形を持ちながら、出鱈目な威力を持った霊弾でその全てをかき消したのであった。


 突如現れた乱入者に誰もが度肝を抜かれ、固まる中、いち早く復活したのは、この中でこの四人と一番関わりが深い椛であった。


「お、お父様!?」


 驚きのあまり、素っ頓狂な声で叫んでしまう椛だったが、仕方のないことかもしれない。


 そんな椛の叫びが聞こえているのか、聞こえてないのか、四人は椛の声に反応することなく、幽々子を睨みつけられていた。


 更に言えば、四人から溢れだす妖力やら霊力が洒落にならないレベルで噴き出してもいた。


「幽々子ぉぉぉぉぉっ!いい加減に春を返しやがれ!」


 両者が睨みあう緊張感の中、それを最初に破ったのは、椛の親である真理であった。


「そうです、いい加減になさい!」


「これじゃ、いつまでたっても花見ができないやろ!」


「いい加減、私たちの我慢も限界だ!」


 真理の台詞をきっかけに、残りの三人も思い思いの言葉を叫ぶ。なんてことはない、四人とも早く花見がしたくて、我慢の限界を超えただけである。


「そ、そんなことを言われてもぉ………」


 最後のスペルカードを破られ、なおかつ幻想郷の理不尽と呼ばれる四人に睨まれることによって涙目になった幽々子がガタガタと震えながら、何とか言葉を発しようとしたのだが、四人に睨まれて何も言えなくなる。


「いいか?返すか返さないかだけ答えろ」


「それ以外の回答は、返さないと受け取ります」


「ちなみに返さへんというならば、うちらも考えがあるで?」


「さぁ、疾く答えよ」


 ぶっちゃけ、脅し以外の何物でもないのだが、ここで返さないという選択肢は自分の死に直結する。故に幽々子が選ぶ答えなど一つしかなかった。


「か、返します!返しますから、力を引っ込めてぇ!」


 大慌てで、桜の木……西行妖に近づいていく幽々子。


 だがしかし、イライラして理性の箍が外れかかっている真理達は力を引っ込めない。


「あ、あら?どうしたのかしら?ほら、早く返さないと!」


 西行妖から、集めていた春を抜こうとする幽々子だったが、何故かそれが出来なかった。それどころか、あろうことか、西行妖が暴走を始めたのだ。


 ただし、始めたのはいいが、時期が悪かった。ここにいる四人にとって、なんの障害にもならないのだから。


『とっとと、春を返せ!さもなきゃ、引っこ抜いて家具にするぞ!』


 四人の脅しではなく本気の言葉に、暴走を始めていた西行妖がピタリと止まる。どうやら、死を振りまく存在でも怖いものがあったみたいである。


 西行妖の心の声を代弁すると、「自分より、あいつらのほうが死を振りまく」だと思われる。間違ってないのが、なんとも言えない。


 こうして、のちに春雪異変と呼ばれる異変は、四人の理不尽によって幕を閉じたのであった。

なんか知らないけど、霊夢と椛が犬猿の仲になってしまった。解せぬ。キャラが勝手に暴走を始めたんだと思う。


そして、終わり方だけど、ずっとこれは考えていました。

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