第1話 壊れた剣が世界を変える?
辺境の小さな村の外れ、苔むした石造りの工房に、ルーチェは黙々と向かい合っていた。
「ええと……今日はどの剣から直すかな……」
手元に広げられたのは、柄が折れ、刃が曲がり、錆びだらけの剣の山。
村人は口を揃えて言う――
「ルーチェ様の工房? もう、使い物にならんって話だよ」
ルーチェは小さく溜息をついた。魔力が全く使えない彼女は、父のような伝説の魔導具職人には程遠い――と、村人たちは思っている。だが、ルーチェ自身は知っていた。自分には「壊れかけの魔導具を、想像以上の力に仕立て上げる技術」があることを。
「……ふふっ、今日も楽しくなりそうね」
そうつぶやくと、ルーチェは古びた剣を取り上げ、指先で刃の欠けを撫でた。すると、まるで剣が「お願い、直して」と囁いているかのような気がした。
まずは錆びだらけの短剣。ルーチェはハンマーを手に取り、叩き、削り、組み合わせる。魔法は使わない。だが、彼女の手にかかると、錆びた刃は光を宿し、握る者の力に応じて形を変える不思議な剣に生まれ変わる。
「よし……これで一丁上がり!」
その瞬間、村の広場から騒がしい声が聞こえた。
「勇者だ! 勇者様がやってくるぞ!」
ルーチェが顔を上げると、村の入口に一人の若い男が、ぼろぼろの鎧で立っていた。剣を構えたその姿は勇ましい……が、どこか頼りなさそうだ。
「えっ、私に何か?」ルーチェが尋ねると、勇者は息を切らしながら答えた。
「その……剣を……貸してくれませんか……?」
ルーチェは首を傾げる。
「えっ、戦うのはあなたでしょ? 私は作るだけなんですけど……」
しかし、勇者は目を輝かせて、泥だらけの剣を差し出す。
ルーチェは一呼吸置き、軽く手を触れるだけでその剣を修復した。錆びた刃は瞬く間に鋭く、輝きを増し、握る者の力に応じて形を変える――まさに伝説級の剣へと変貌した。
「……さあ、どうぞ。気をつけてね」
勇者は驚きと喜びの入り混じった表情で、剣を握りしめた。
「ありがとう……これなら、俺、ドラゴンだって……!」
ルーチェは笑いながら工房に戻る。
「ふふ、結局、私の工房、今日も世界を救っちゃうのね……」
壊れた剣たちが、また一つ、世界を変える力を宿す――そんな、平凡だけどちょっぴり不思議な日常が、ルーチェの小さな工房で静かに始まるのだった。




