第18話 クロエの涙は過去との決別
夜月の灯りが部屋を照らす。外は暗く、寝静まっている真夜中……、隣でスヤスヤと寝てるのは保護した獣人の子供。私は子供の髪をさらりとなでるとその子ははにかんだ笑顔でまた眠りの世界に誘われた。
その時──、部屋の扉が開くとゼファーが真剣な表情で私の前まで歩いてきた。
「……この子は大丈夫よ」
獣人の子が心配だったのかと思い笑顔で伝えると、ゼファーは首を振り『違う』とだけいい私の隣に座った。
「……クロエさ。そろそろ俺にだけでいいから、本当のこと話しくれないか?」
私は思わず目を見開き、喉奥になにかがつまるような感じで声が出なかった。……誰かに、そう言われたのは初めてだったから。
じっ──と見つめるゼファーにいたたまれなくなってしまうが……ここで逃げたら終わりだと自分の直感が言ってた。だから、私は怖くてもゼファーになら…と思い話しをした。
「私、実は──スチュワード王国の元公爵令嬢だったの。ゼファーと出会う前に王宮で婚約破棄されて、父親からは追放、大事な弟を独りで置いてゼフィール王国に来たの」
ゼファーは静かに私の手に自分の手のひらをそっと重ねながら瞳は私を真剣に見ていた。
「……幼い時、私は父親から"道具"として扱われてたわ。ミスをしたら暴力は当たり前、ご飯はなかった。そんなある日、私が第二王子の婚約者に決まった瞬間。父親は暴力やご飯を抜くのは辞めさせられ、代わりに教養という名の監視がついたの」
「でも、第二王子は父親と一緒だった。そこから私は誰にも頼るのも希望を抱かなくなったのよね、けど。そんなある日、第一王子の婚約者様が私が一人でいるのを見つけて助けてくれたの。…って言っても父親に見つからない程度にね?……そこから薬草の知識や自分がもってる全てのものを私に授けてくださったの」
「……うん」
「記憶力が良いってはたから見たら羨ましいのよ……でも、私は記憶力の良さが嫌になる時があるの。嫌な記憶ほど鮮明に残ってるから」
「でも、私はあの地獄のような檻から抜け出したくて婚約破棄や追放を望んでた。でもある日ね、婚約破棄の噂を聞いて、私はそれまで以上に必死に努力を重ねた……、そこからは最初に言った通り婚約破棄からの追放でこの国にやってきたの」
遠い目をしながら言う私にゼファーは唇を軽くかんだあと、私に優しく。けど強く言った
「……クロエは強くて優しい、誰よりも」
「え?」
私はゼファーの瞳をじっ──と見つめながら聞き返すと穏やかな顔でゼファーは話す。
「まだクロエは自分のすごさを分かってない。だけど、それがクロエの良さでもあるんだ。少しづつこれからわかっていけばいい。……俺はさ、クロエのことを裏切らない、それは絶対。ずっとこの先もそばに居る、口先だけじゃないってこれから証明してみせるから」
強く、そう決意したような瞳と声で言うゼファーに私はようやく自分の感情がわかった。………私は、誰かに"頼っていい"、"裏切らない"、って言って欲しかったのかな。
「クロエ。全部話してくれて、ありがとな」
その瞬間───私は涙が溢れて止まらなくなった。誰かに…誰かに、ここまで言われるのは初めてだったから。誰かの役に立たないと、強くないと自分の価値を見失いそうで。必死に自分を奮い立たせてた…、だけど今の自分を受け入れてくれる存在がいるその事実に涙が止まらなくなる……
ゼファーは何も言わず、優しく私をぎゅっ─と強く抱きしめた。その体温は温かくて優しかった、……人の体温はこんなにも温かいのだと思うとまた泣けてくる。私はしゃくり上げるまで初めて誰かの腕の中で泣いた、温かく心地いい鼓動と共に。
夜は更けていき、私は次第に眠くなった。その時─か細い声でゼファーはつぶやいた。
「大丈夫。俺がいるから、寝ていいよ」
その言葉を聞いた私は今まで張り詰めてた糸が切れそのままゼファーの腕の中で瞼をゆっくりと落とした。
───私はもう自分を殺さなくていい、もう1人じゃないから
安堵が全身に生き渡り、私はそのまま眠りの世界へと沈んでいった。
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