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君の目覚めるその暁に

 もう16年ほど前になるだろうか。


 エドウィンと婚姻した王妃に呼ばれ、真白は彼女の部屋にいた。

 茶を勧められても断り、要件だけを聞こうとする自分に、茶器に目を向けたまま彼女は言ったのだ。


「陛下のお心を乱さないで欲しいのよ」


 そんなことを願われても自分の知ったことではないと、真白は目を細めて王妃を真っ直ぐに見ていた。


「私は何もしていませんが?」


 淡々と返すと勘に触れたらしい。きっ、とこちらを睨み付けて王妃は高い声を荒げた。


「陛下の前に現れないで!あの人の目にあなたが映るだけでも私は……!」

「あなたも王妃ならば、私の役目もお分かりのはず。立場上、顔を合わす機会はどうしてもあるのです」

「そんなこと、代わりを立てたらいいのよ」


 我が儘で幼稚なことを言うと思った。嫉妬しているのならお門違いだろう。

 自分はエドウィンに興味はない。心を占めるのは護だけだ。


「………分かりました。では私は城には出向きません」


 この場を早く去りたくて、彼女の求める答えを出せば、ホッとして頷いている。


 聖女候補を養成する学校の敷地内に教師用の宿舎があって、真白はその奥まった部屋で表面上は静かに暮らしていた。

 度々の登城せよとの命に、真白は王妃の言った通りに代わりを立てた。特に咎められることもなく、数ヶ月が過ぎた。


「白亜、元気だったか?」

「………供も付けず夜中にやって来るとは」


 突然彼女の部屋に乗り込んで来たエドウィンは、驚き呆れる真白を見つめて、嬉しさを隠そうともしなかった。


「君になかなか会えなかったから、どうしているか心配していたよ」


 彼を入れることは勿論せず、部屋の前で立ち話をすることにする。真白としては、皆に気付かれない内に早くお帰り願いたかった。


「エドウィン、用がないなら早く帰って欲しい。国王が一人でこんな所に来るなど、しかも夜中なのに誰かに見られたらどう思われるか」

「真白」


 いたって真面目な表情で、エドウィンは彼女を見つめる。


「どうして城に来ない?私を避けているのか?」

「別に、人をやれば済む用事ばかりだっただけだ」

「………もしや誰かに何か」


 言い掛けて黙る彼から目を反らす。


「月がよく見えるな。明日は晴れだ」

「………ああ」


 真白が窓から夜空を見上げると、彼女の隣で月光を浴びながら、エドウィンは俯いた。


「君は、月のようだな」


 ****************


 あの時のように月の光を浴び、エドウィンは目を閉じて目蓋を開くことはない。

 生気に満ちていた彼は、月光のせいだけでなく今は痩せて白い顔を晒している。


 真白は傍らの椅子に腰掛け、彼の額を撫でた。


「今度はお前が月のようだな、エドウィン」


 届きそうで届かない、目に見えているのに掴めない、そんな相手。


 それでも仕方ない。自分は目覚めるのが遅すぎたのだ。

 ただ、自分が死ぬまでには一度だけでも目を開けて欲しい。


 そうしたら、月に手が届く。ほんの少しでもいい、彼に伝えたいことがあるから。


「明日は晴れのようだ。エドウィン、一緒に散歩に出よう」







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