古い記録の続き
隼人達は調査を始めて1週間が過ぎていた。
***一週間後***
一週間が経った。
金曜日の放課後
隼人のスマートフォンに、師匠からのメッセージが届いていた。
『お札を用意しました。瑞希に預けます』
隼人は瑞希姉さんに確認した。
その日の夜。部室に瑞希が現れ、白い布袋を隼人に手渡した。
「師匠からです」
瑞希が言った。
「新しいお札ですね」
消えた記録
学校記録の調査
その後、隼人たちは松田先生からもらった古い資料をさらに丁寧に調べることにした。
特に、昭和四十五年以降の修繕記録だ。
隆がパソコンで整理していった。
「昭和四十六年:北側外壁補修」
「昭和四十八年:屋根瓦交換」
「昭和五十一年:南側増築」
「昭和五十三年:校舎内部改装」
修繕や改修の記録は、かなり詳細に残されていた。
だが。
「札については、何も書かれていない」
秀が言った。
「昭和四十五年の写真には札が映っている。でも修繕記録には、札については一切触れられていない」
「不自然ですね」
夕子が呟いた。
「何か意図的に、避けられているのか」
隼人は黙ってそれを聞いていた。
古い校務日誌
その数日後。
隆が古い資料の中から、何かを見つけた。
「これ……」
隆が机の上に置いたのは、昭和五十年代の校務日誌のコピーだった。
「校務日誌?」
隼人が近づいた。
「ああ。松田先生の資料の中に混ざってました」
隆がページをめくった。
ほとんどが、学校の日常的な記録だった。
授業の記録。
行事の記録。
修繕の記録。
だが。
昭和五十四年の七月。
ある日の記述が目に止まった。
「北側校舎に関する確認」
「確認……?」
美優が首をかしげた。
「何を確認したんでしょう」
隆は続きを読もうとした。
だが。
「あれ……」
「どうした」
「その前後のページが、欠落しているんです」
隆が呟いた。
確かに、昭和五十四年七月の記述の前後のページが、ごっそりと抜き取られていた。
意図的に。
「消された……」
秀が言った。
「この記録、誰かが消したんだ」
隼人は、その欠落を見つめた。
わざわざ切り取られた。その事実が、かえって何かが隠されていることを物語っていた。
***曖昧な言葉***
しかし、部分的に残された記述を見ると、別の言葉が使われていることに気づいた。
「札」という言葉は、一切使われていなかった。
代わりに。
「標」
「守り」
「確認」
そういった曖昧な言葉が散在していた。
「これ……昔の先生たちは『札』という言葉を避けていたんでしょうか」
隼人が呟いた。
「意図的に、別の言葉を使っていた」
「だとしたら……」
隆が言った。
「昔の先生たちも、何かを把握していたんだ」
「札のこと」
夕子が続けた。
「何のために、それが貼られているのか」
五人は、その可能性を感じた。
戦後から現在まで。
複数の世代の先生たちが、何かを守ってきた。
その事実が、ぼんやりと浮かび上がってきた。
***松田先生への再確認***
翌日の放課後。
隼人たちは松田先生を訪ねた。
「先生、昭和五十年代のことについて、何かご存知ですか」
隼人が聞いた。
松田先生は少し考えた。
「昭和五十年代……私がまだ新任の頃ですね」
「はい」
「そうですね……」
松田先生は遠い目をした。
「当時の教頭先生から、『山側にはあまり近づかないように』と言われた記憶があります」
五人は顔を見合わせた。
「山側に、ですか」
隼人が聞く。
「ええ」
松田先生が答えた。
「理由は、教えられていなかったんです。ただ、『学校の関係者として、そういうことになっている』という説明だけでした」
「学校の関係者として……」
秀が呟いた。
「つまり、何か公式な理由があるということですか」
「おそらくそうですね」
松田先生がそう答えた。
「でも、詳しいことは、今となっては誰も知らないのかもしれません」
隼人は、その言葉の重みを感じた。
昔の先生たちは、何かを守るために、意図的に情報を制限していた。
そういう可能性が高まった。
***校舎図面の比較***
その夜。
隼人たちは、昭和五十年代の校舎図面と、現在の校舎図面を並べてみた。
ほとんどは一致していた。
だが。
一か所だけ、異なっていた。
「ここ……」
隆が指さした。
校舎の北西角。
昭和五十年代の図面では、そこに何かが描かれていた。
***小さな構造物。***
だが、現在の図面には、その構造物は描かれていなかった。
「あ……」
隼人が気づいた。
「古い写真に映っていた、あの構造物だ」
夕子が確認した。
「昭和四十五年の写真に映っていた、校舎の隅の石垣のようなもの」
「そうだ」
隆が言った。
「その構造物が、昭和五十年代の図面には、ちゃんと描かれている」
「でも現在は……」
秀が続けた。
「消えている」
いつ消えたのか。
誰が消したのか。
なぜ消されたのか。
その答えは、まだ得られていなかった。
***消えた構造物の正体***
隆が昭和五十年代の図面をさらに拡大した。
その小さな構造物。
何か建物のような形をしていた。
だが。
「名称が書かれていない」
隼人が呟いた。
他の建物には、すべて「教室」「倉庫」「便所」というように名前が書かれていた。
だが、この構造物には、何も書かれていなかった。
ただ、「□」という四角い記号だけ。
意図的に。
何かを隠すように。
「これ……」
隼人が言った。
「何の建物だったんだろう」
その問いに、誰も答えることができなかった。
五人は、古い図面を見つめた。
昭和五十年代には確実に存在していた構造物。
だが、いつの間にか消えた。
そして、現在。
その場所には、何もない。
ただ、古い柵があるだけだった。
窓から見える山へ向かう柵。
夜の山。
その山の前に立つ古い柵。
そして、その柵の向こう側に、かつて何かが立っていた。
五人は、その謎の深さを感じずにはいられなかった。
隼人が布袋を開いた。
中には、白いお札が二枚入っていた。
最初のお札とは、確かに異なっていた。
文字も。色合いも。
「これ……以前の札と少し違う」
隼人が呟いた。
「そうですね」
瑞希が頷いた。
「師匠は、『これは別の役割がある』とおっしゃっていました」
「別の役割?」
秀が聞いた。
「はい。詳しくはおっしゃらなかったんですが……」
瑞希がそこで言葉を止めた。
隼人は新しい札をじっと見つめた。
札を見ているだけで、何か使命めいたものを感じた。
***写真の中の札***
数日後。
隼人たちは、松田先生からもらった古い資料をもう一度、丁寧に調べることにした。
特に、昭和四十年代の学校写真だ。
「これ……」
隆が呟いた。
昭和四十五年の校舎完成写真を見ていた時のことだった。
「何か見えますか」
隼人が聞く。
隆はパソコンでその部分を拡大した。
校舎の柱。
その柱に、何かが貼られているように見えた。
白い、紙のようなもの。
「これ……札ですか」
夕子が声を上げた。
隆がさらに拡大する。
確かに、昭和四十五年の写真に写っている校舎の柱には、白い札のようなものが貼られていた。
そしてそれは、瑞希からもらった札に、似ていた。
「昔から、札があったんだ」
秀が呟いた。
「だから師匠は『昔から、この学校のどこかに、そういったものが』って言ったんだ」
「つまり……」
美優が言った。
「札は最近になって貼られたものじゃない」
「もっと前から……」
隼人が続けた。
「あるべくして、あったんだ」
***校舎移築との関連***
隼人は写真をもう一度見つめた。
昭和四十五年。
校舎完成の記念写真。
その校舎には、確実に札が貼られていた。
だが、現在の校舎には、どこに札があるのか。
「待てよ」
隆が言った。
「昭和四十五年の校舎には札があった」
「ああ」
「今の校舎にも札がある」
「そうだな」
「だとしたら……」
隆が写真の記録を確認した。
「『昭和四十五年 校舎完成』」
「その札が貼られた校舎が、いつまでそこにあったのか」
「知りたい、ってことですね」
夕子が言った。
隼人は写真を並べてみた。
昭和四十一年。古い校舎。札なし。
昭和四十三年。校舎移築中か。札の痕跡なし。
昭和四十五年。新しい校舎。札あり。
そして、現在。校舎。札あり。
「つまり」
隼人が言った。
「校舎が移動した時に、札も一緒に移動した、ってことか」
「いや」
秀が首を振った。
「昭和四十五年の校舎に札があって、現在の校舎にも札がある」
「だったら、もし校舎が移動してるなら……」
「昭和四十五年の校舎から札を外して、現在の校舎に貼り直した、ってことですか」
隆が言った。
五人は黙った。
その場合、誰が。いつ。なぜ。
そのすべてが、謎だった。
***師匠への報告***
その週の金曜日。
瑞希姉さんが部室に現れた。
隼人たちは、発見したことを話した。
「昭和四十五年の校舎に札があった」
「そして、その札が移動している可能性がある」
「誰が。いつ。なぜ、移動したのか」
瑞希姉さんは、静かに聞いていた。
「師匠にお伝えさせていただきます」
瑞希がそう言った。
数日後。瑞希からメッセージが届いた。
『師匠からのお言葉です:「良い質問を見つけましたね。その質問こそが、答えへ向かう最初の一歩です。」』
隼人は、そのメッセージを何度も読んだ。
「答えへ向かう最初の一歩」
それは、まだ答えではなかった。
だが、確実に、五人は前に進んでいた。
***新しい調査***
その後、隼人たちは新しい方向で調べることにした。
昭和四十五年以降の学校記録。
校舎の修繕記録。
施工業者の記録。
すべてが、五人の前に静かに積み重なっていた。
そして、窓の外には、相変わらず山が見えていた。
夜の山。
昼の山。
いつも同じ山。
だが、その山の背後に何があるのか。
五人は、まだ知らなかった。
部室の壁には、二枚のお札が貼られていた。
最初のお札。そして新しいお札。
二つの札に守られた部室で。
五人の調査は、少しずつ、学校の深い謎へと近づいていった。
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