師匠を訪ねる
隼人達は、瑞希姉さんの師匠に逢う事になった。。。。
***約束の日***
翌日の夕方。瑞希は五人を連れて、学校を出た。
目的地は瑞希の師匠の家だ。学校から歩いて二十分ほどの距離にある古い一軒家だった。
五人は初めて訪れる場所だ。
「ここですか」
美優が言った。
「ええ」
瑞希が頷いた。
「師匠はこちらにお住まいなんです」
五人は互いに顔を見た。
古い家。庭には、古い木がいくつか立っていた。
そして、その庭から、学校の裏山がうっすらと見えた。
「あれ……」
隆が呟いた。
「学校の山、見えるんだ」
「ですね。ちょうど視界に入るんです」
瑞希がそう答えた時、家の戸が開いた。
***師匠との対面***
師匠は、思っていたより普通の人だった。
五十代だろうか。
白髪交じりの髪。
普通の顔。
普通の格好。
ただ。
その目だけが、何か違った。
透き通ったような、そんな目をしていた。
「瑞希から聞いてます」
師匠がそう言った。
「新聞部ですね」
「はい」
隼人が答える。
「本日はありがとうございます」
「いえ。写真を見せてもらったから、ね」
師匠がそう言った。
五人を部屋に通す。
古い日本家屋の座敷だった。
床の間には、古い掛け軸が飾られていた。
師匠は五人に座るよう勧めた。
***古い写真を見る***
師匠は、瑞希から受け取った古い写真を、丁寧に見ていた。
昭和四十一年。
昭和四十三年。
昭和四十五年。
師匠は、特に山が写った部分を何度も見ていた。
長い沈黙の時間が流れた。
五人は、その様子を見守っていた。
「……やはり」
師匠が、やっと口を開いた。
「この山、何か妙ですね」
隼人が聞いた。
「先生は、何をお感じになりますか」
「感じる……というより」
師匠は写真から目を離さなかった。
「昔と今で、何かが変わった、という印象があります」
「変わった、ですか」
「ええ」
師匠が答えた。
「この昭和四十年代の写真に写っている山と、今の山とで」
師匠は写真を隼人に渡した。
「何が変わったんでしょうか」
隆が恐る恐る尋ねた。
「それが」
師匠は首をかしげた。
「まだ、よく分かりません。だから、昨日は『直接見たい』と言ったんです」
「そうか……」
隼人が呟いた。
「学校に入る前に」
しばらくしてから、師匠が言った。
「では、学校へ向かいましょう」
五人は頷いた。
師匠の家を出た。学校へ向かう途中。師匠は一度、歩みを止めた。
学校の方角を見つめている。
「このルートで向かいます」
師匠がそう言った。
隼人たちが気付いた時、師匠は学校の西側へ向かっていた。
つまり、裏山の方へ。
「先生?」
隼人が声をかけた。
「ここから見たい」
師匠がそう言った。
やがて、学校の裏側に出た。
そこは、ほとんど人が来ない場所だ。
古い柵が立てられ、学校の裏山を隔てている。
山は暗い。
いつもより、妙に暗く見えた。
「この山……」
師匠がそう言ったとき。
五人は感じた。
あの夜と同じ冷気。
その一瞬のあとで、師匠は何かに気づいたようだ。
「分かりました」
師匠がそう言った。
「やはり、この学校は何かを守っているんですね」
「守っている?」
美優が聞く。
だが、師匠はそれ以上、何も言わなかった。
「では、中へ入りましょう」
そう言って、学校の正門の方へ向かった。
***部室へ***
学校の部室に到着した。
師匠は、ゆっくりと部室の中を見回った。
スタンド。
扇風機。
パソコン。
そして。
壁に貼られた、瑞希からもらった札。
師匠の目が、その札に止まった。
「……やはり」
師匠が呟いた。
「このお札、大事ですね」
隼人が驚いた。
「先生、これが何か、ご存知ですか」
「何か……というより」
師匠は札を見つめた。
「昔から、この学校のどこかに、そういったものが……」
師匠は言葉を止めた。
「いや。詳しくは……」
隼人が待った。
だが、師匠は何も言わなかった。
「ただ、このお札だけは」
師匠が最後に言った。
「ずっと守り続けるべきだと思います」
「守り続ける?」
秀が聞く。
「何から守るんですか」
だが、師匠は答えなかった。
代わりに、師匠は部室の窓から外を見た。
夕暮れの学校。
その向こうの山。
「この場所は……」
師匠がぽつりと呟いた。
「大事な場所ですね」
そして、振り返った。
「君たちが、この学校のことを調べるのは、いいと思う」
隼人たちは頷いた。
「ただ、気をつけなさい」
師匠が続けた。
「この学校には、昔から何かがある。それは、今も変わっていない」
「先生……」
隼人が言いかけた。
「それは、何なのですか」
師匠は部室を見渡した。
「それは、これから、君たちが一歩ずつ理解していくことになると思う」
そして、瑞希を見た。
「瑞希よ。君も、この部室に来るといい」
「かしこまりました」
瑞希がそう答えた。
「この場所は、君たちを守ると思う」
師匠がそう言った。
***師匠の提案***
その後、師匠は部室を離れるまでに、もう一つ言った。
「ところで」
師匠が隼人に向かって言った。
「君たち、このお札の意味、知ってますか」
「いいえ」
隼人が答える。
「瑞希さんは、『貼っておくといい』とだけ……」
「そうですね」
師匠が頷いた。
「では、もう一つのお札を、持ってきてもいいですか」
隼人たちは顔を見合わせた。
「もう一つ、ですか」
「ええ」
師匠が答えた。
「この部室は、今は守られているかもしれない。ですが、これからのことを考えると、もう一つ、何かが必要かもしれません」
隼人が聞いた。
「それは、どうしたら」
「私が用意します」
師匠がそう答えた。
「ただ、時間が必要です。一週間ほど」
「分かりました」
隼人が頷いた。
別れの際に
師匠が帰る時。瑞希と一緒に学校を出た。
その時、師匠は一度、立ち止まった。
そして、学校全体を見つめた。
「この学校……」
師匠が小さく呟いた。
「何か、大きな秘密を抱えているんでしょうね」
瑞希が聞いた。
「先生……本当に、何か分かっているんですか」
「本当のところ?」
師匠がそう言った。
「瑞希よ。君も気づいていることがあるはずだ」
瑞希は黙った。
「でも、まだ全部は明かさない方がいい」
師匠がそう言った。
「なぜなら、答えは――」
師匠は学校を見つめた。
「君たち自身が、一歩ずつ、この学校の謎に近づく中で見つけるものだからです」
瑞希が頷いた。
「では、あの山の中に……」
瑞希が言いかけた。
だが、師匠は首を振った。
「まだだ」
そう言って、夜の町へ消えていった。
***部室へ戻る***
五人が部室へ戻ったとき。時刻は夜の八時を過ぎていた。
部室は、いつもと変わらない。
だが、何か違って見えた。
壁に貼られた札。
窓の外に見える山。
そして、部室そのものが守られているという、師匠の言葉。
「先生、何か分かったんでしょうか」
美優が呟いた。
「完全には……」
隼人が答えた。
「でも、何かを知ってるのは確かだ」
「山のこと」
秀が言った。
「あの山に、何かあるんだ。確実に」
隆がパソコンを開いた。
「古い写真を見直してみましょう」
昭和四十年代の校舎。
昭和四十年代の山。
その背景に隠されたもの。
師匠は、それを見ただけで何かを感じた。
そして、学校の裏側から山を見ながら。
「この学校は何かを守っている」
そう言った。
「守っている……」
夕子が呟いた。
「何を守ってるんだろう」
そして、ぽつりと。
「それとも。守られているのは」
隼人がその言葉を続けた。
「学校の方……?」
その問いに、誰も答えることができなかった。
部室の窓から、山が見えている。
夜の山。
暗く、そして何か重い。
そんな山が。
見つめ返しているかのような。
そういう感覚だけが、五人の心に残った。
松田先生が廊下の窓から見た山。
古い写真に映っていた山。
そして、今、師匠が感じとった山。
それらはすべて、同じものだった。
同じ山が、学校の背後にそびえ立ち。
学校を見守るように。
あるいは。
学校を監視するように。
五人に何かを伝えようとしていた。
だが、その言葉は、まだ届いていなかった。
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