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9:可愛いは正義

 山羊の声──つまり肉!!


「セリス!」

「お肉ね!」

「分かっていらっしゃる!」


 足場は悪いけれど、俺たちの足は軽かった。

 ガラガラと石を蹴って斜面を登ると、大きな岩の陰から山羊が飛び出してきた。


「いた──けど、背中になんかいる?」

「火蜘蛛だわ!」

「げっ」


 くっ。先を越されて堪るか!

 腰の剣を抜き、一気に駆け寄る。

 蜘蛛はこちらに気づいたが、自分の獲物と俺とを見比べて判断が一瞬遅れた。


「っしゃあ!」

『ギュプッ!?』


 山羊の背中に跨っていた火蜘蛛に向かって、横から一閃。

 逃げ遅れた火蜘蛛は、そのまま横に真っ二つになった。


「よし!」

「へぇ、ちゃんと使えるのね」

「まぁ習ってたからね。それでも素人に毛が生えた程度さ。火蜘蛛はそんなに強いモンスターじゃないし」


 高熱の糸以外は、これと言って注意することはない。

 その糸も図鑑によれば、せいぜい一メートルぐらいしか出せないらしい。

 一度出してしまうと、また貯えるのにだいぶ時間が必要なんだとか。


 そして山羊のお尻にはその糸が巻き付いていた。


『ンメェ……ンメメェ』

「糸を巻き付けられて、痛そうだな」

「でもあの糸、高温なのは放出された時だけ。段々冷めてくるから……もう触っても平気だと思う」


 とはいえ、山羊の尻に巻きつけられたときは確かに高温だったろう。

 火傷もしているだろうし、結構痛いはずだ。


『ンメェ。メェー』


 ちょっと小ぶりの山羊だけど、肉の量は十分だ。油脂とかって取れるのかなぁ?


『ン。ンメェー』


 けど魚もあるしなぁ。肉は食べたいけど、せっかく釣ったもんなぁ。先に食べてしまわないと、傷んでしまうし。


『ンンメェェ』

「ああぁぁぁーっ。さっきからメェメェと、悲壮感漂わせるなよ! だいたいなんだその顔は! お前……お前……ん?」


 つぶらな瞳でこちらを見つめているのは、やっぱりどう見ても仔山羊だ。

 でも体は大人の山羊っぽい。


「こいつ、デカくない?」

「そ、そうね……あ、鑑定があるなら、ディオン調べられるんじゃない? なんていう種類の山羊なのかとか」

「あ、そうだった」


 メェメェと鳴く山羊を凝視して鑑定をすると、


【クラッシュゴート:大人になってもまるで仔山羊のように愛らしいモンスター】

【毛量が多いため、時々羊と間違えられる】


 ──とあった。


「モンスター……だった」

「……えぇ!?」

『メェー』


 セリスが驚いて声を上げると、山羊──クラッシュゴートも真似をして声を上げる。

 大人になっても仔山羊のよう……じゃあこいつは大人なのかと言えば、それはNOだ。


 鑑定結果には続きがあって、大人のクラッシュゴートは体高二メートル以上にもなる──と書いてある。

 こいつはせいぜい百二十センチほど。

 それにクラッシュゴーとは生後三年目から雄も雌も角が生えてくるとあるが、こいつにはまだない。

 本当にまだ子供なんだ。


『メ』


 火蜘蛛の糸ももう熱くないのか、今度は尻尾をぷりぷりしながら俺たちを見ている。

 何がそんなに嬉しいんだ。


『メッ。ンメェ』

「……な、なんだよ」

『ンメェー』


 尻尾をぷりぷりしながら、クラッシュゴートは鼻を俺に擦りつけてくる。


 うっ……やめろよ。


『ンメェ』


 俺は肉が欲しくて火蜘蛛を倒しただけなんだ。

 べ、別にお前を助けるためじゃないんだ。


 ないんだよぉ。


『ンメェー』

「うわあぁぁぁ、クソ可愛いよぉぉ」


 思わずクラッシュゴートを撫でまわすと、向こうも満足気に目を細めて身を任せてくる。

 こんな奴……食えるわけないじゃん!


 くるりと後ろを振り向きセリスを見ると、彼女は呆れた顔をしてため息を吐いていた。




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