8:鑑定スキルで芋ゲット
昨日や今朝とは打って変わって、昼食ではお腹いっぱいになった。
高山ハーブを挟んで焼いた魚は、ほんのりスパイスが効いて美味かった。
草の量も多かったので、魚から出た油で炒め物にしたようだ。
「油かぁ。ないと不便だよなぁ」
「そうねぇ。魚の油じゃ、やっぱり焦げ付いちゃうし」
少し焦げ目のある草も、魚と一緒に口に含めば問題なく食べられる。
油……動物性油脂でもあれば、炒め物するときには使えるんだけど。
あとは植物性のものか。
「川のあった辺りからもう少し下ったら、木も生えていたよね」
「えぇ。でも近いようで、意外と遠いわよ。ここから片道二時間ぐらい掛かるもの」
意外と遠いな。
陽が暮れるのも早い季節だし、いくなら一日がかりか。
昼食を終えて片づけを済ませると、セリスと二人で砦の周辺の散策に出た。
今度は袋を忘れず持って行く。
いっそ動物じゃなくって、動物タイプのモンスターでも出れば仕留めて油と肉を抜き取るんだけどな。
あぁ、あんまり強くないモンスターでお願いします。
「セリスはモンスターと戦ったことは?」
「あるわ。一応少しだけど、精霊魔法も使えるから……火と、それから土のね」
「魔法が!? 凄い! 俺、魔力は人並みにしかなくって、使えないんだよ」
「わ、私も得意って訳じゃないの。短剣のほうが得意だから」
「え、じゃあ砦にあった短剣を今夜にでも研いでおくよ」
そう言うと、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
精霊魔法──ますます彼女のハーフエルフ説が高まったな。
エルフは精霊魔法に精通していることが多い。半分でもその血が流れるハーフエルフもまた然りだ。
でも異種族婚は、この世界でもあまりよく思われていない。だから……俺からは聞かないでおこう。
「砦の南側は随分と険しいな」
「えぇ。南に向かうのを諦めた私の気持ちが分かるでしょ?」
「分かる……王国側のほうが道は険しいってことなのかな」
砦の建っている場所は比較的平坦だけど、二百メートルほど歩けば傾斜が急な斜面になっている。
数百メートルほど下った先は、今度は垂直の壁が同じぐらいの高さが続く。
道らしき道なんて全く見えず、むしろ起伏に富んでいて奥がどうなっているのかサッパリ分からない。
南に行くのは諦め、西のほうへと進んだ。
こっちは傾斜こそ穏やかだけど、足元は岩だらけで歩きにくいったりゃありゃしない。
「私も西側にはまだ行ったことないの。前に行こうとしてモンスターを見つけたから」
「強そうなヤツ?」
「ううん。火蜘蛛だったから、そんなに強くはないんだけど……相性が、ね」
火蜘蛛というのは、別に火を吐く蜘蛛とかではない。
ただお尻から出す糸は高温で、触れると火傷をする。それで火蜘蛛という名前が付いた。
蜘蛛といっても昆虫の蜘蛛とは比べ物にならない大きさがあって、体長は一メートルぐらいって本に書いてあったかな?
昆虫系モンスターは大きいってだけで、どれも気持ち悪いんだよなぁ。
上に下にと緩やかな傾斜の山を小一時間ほど進むと、ゴロゴロとした岩肌の向こう側に森が見えてきた。
ここまで特にモンスターと遭遇せずに来たのは、まだ陽が高いからだろう。
「あの森まで行きたいけど、引き返す時間も考えると進むのは止めた方がいいだろうね」
「そうね。明るいうちに戻った方が安全よ。それに、森の中に行くなら、砦にあった装備を持ってきた方がいいかも」
盾のことだろう。厚手の外套も裁縫スキルで修繕すれば、多少は防御力アップにもなるかもしれない。
明日の食糧の心配はしなくてもいいし、朝から森に向かってみるか。
「この辺りは草もたくさんあるし、食べられそうなものを探してみるわ」
「区別がつくのかい?」
「んー……なんとなく、ね。少し舐めてみて、痺れたりするのはダメなの」
いやいやいや、それ危ないだろう!
んー、何かいいスキルはないかな……そうだ。
セリスが地面に生えている草に視線を落としている間に、こちらはステータスボードの操作だ。
採取スキル、そして……鑑定だ!
うげっ。鑑定ってレベル1を取るだけでもポイント10いるのか。300ポイントあっても、下手すると20ぐらいまでしか取れないかもしれない。
採取スキルも欲しいし、とりあえず1取って──、あ、次のレベルは5に下がるんだね。
なら10まで取って、採取を20にっと。
俺もしゃがみこんで、地面に生えた草を手に取る。
心の中で『鑑定』と念じると、吹き出しがポップアップした。
【高山植物。名前はない】
……食べられるかどうかまで鑑定できないのか?
他の草に触れて鑑定しまくっていると、名前のある植物もあったりした。
そしてようやくだ。
【サイサイ:標高の高い山に自生する、食用可能な植物】
【肉厚な葉は苦みがあるが、火を通すことで若干薄まる】
【多年草なため、一株から葉を採取し過ぎなければ数年持つ】
きたきた!!
背が低く、横に広がるように生えたぶっとい葉っぱのこいつは、食べられるようだ。
葉は取りすぎないよう、茎の先の方の葉っぱだけ取るようにしよう。
他にもイモ菜という、芋と菜っ葉を合わせたありがたぁーい植物も見つかった。
【イモ菜:高山に自生するイモ科の植物】
【根には大きな芋が実るが、数は極端に少なく、一個か二個】
【また、葉の部分も食用可能】
全部掘り起こしたら次はない。
採取しようとすると【食べごろ】だとか【未熟】、【熟し過ぎ】といった吹き出しが浮かぶので、【食べごろ】だけ掘って、俺の握り拳の倍もある芋をゲットした。
「鑑定通り、随分とデカイ芋だなぁ」
一個しか実ってないのも鑑定通りか。
葉も食べられるっていうし、もちろんそれも持ち帰る。
他に三つほぼ【食べごろ】を掘り起こして、芋は合計六個になった。
「え!? ディ、ディオン。それどうしたの!?」
「え? この芋かい?」
大きな芋を見せると、セリスは目を輝かせて頷いた。
「あぁー、これだよ。高山に自生しているイモ科の植物なんだ。葉っぱも食べられるんだぜ」
「本当!? 知らなかったわ。私の故郷だと、それに似た形の葉っぱで、お腹を下すものがあったから……同じものだと思ってた」
だけどその葉っぱの根っこは芋ではなく、普通の根だったらしい。
毒草だと思っていたなら、そりゃあわざわざ引き抜いたりしないよな。
「南ではポピュラーなの?」
「え? あ……いや……じ、実は俺、鑑定持ちでさ」
ということにしておいた方が、この先何かと便利だろうな。
「そうだったの!? やだ、早く言ってよ。でも凄いわねディオン、鑑定スキルはなかなか身に付かないのに」
「う、うん。まぁ俺の鑑定レベルもまだ3なんだけどさ」
「それでも凄いわ! ディオンには悪いかもだけど、あなたがお父様から魔法でここに飛ばされたこと。私にとっては幸運だったかも」
「はは。そう言って貰えると、飛ばされた甲斐があるよ」
甲斐ってのも変だけど、俺がいることで誰かが喜んでくれるならそれだけで有難い。
さぁ。今日はご馳走だぞ!
意気揚々と来た道を引き返そうとした時──
『ンメェーッ』
これから帰ろうとする方角から、山羊のような声が聞こえてきた。




