今夜のディナーは高級料理
ボーちゃんの食事は、本当に変わっている。
僕が殺した魚を丸々ボーちゃんの付近に行くように持って行ったのだが、全く食べない。
お腹がいっぱいなのかと思って食べ、尻尾の部分をぷっと吹きだしたら、ボーちゃんはその尻尾を食べた。
あくまでも食べるのは、食べカス、という生き方を貫いているのか、魚の尻尾が好きなのかはわからない。
後者だとなかなかの通だと思う。僕もエビフライの尻尾は好きなタイプだ。
で、ここで一番僕が気にしているのは、ボーちゃんの性別だ。
ボーちゃんが雄か雌か。これが一番重要だったりする。
雄ならいい。いや、BLの素養はありませんが。でも、雄なら本当に助かる。
雌なら困る。雌なら、これ、ある意味浮気になるよね?
なんて思ってしまうからだ。
ノーチェへの罪悪感が出てきてしまう。
本当に、恋心なんて微塵もないよ。うん。
ノーチェはいい子だから、そこのところは誤解はしないだろうが。
でも、最低限性別はあの神に聞いておけばよかったな。
僕には全く判断ができない。
とはいえ、雌だと知ってしまったからといって、ボーちゃんを追い払うことは僕にはできそうにないけど。
最初のころは相棒相棒と言っていた僕でも、心の片隅で“こいつ、非常食になるな”なんて思っていた。
でも、今は“こいつを食べるなんてとんでもない”になっている。
そこそこ強敵との戦闘中でも、ボーちゃんが献身で僕を治療してくれる。
瀕死状態にまで献身することもあるが、きっちり戦いが終わったら回復魔法をかけてあげ、餌のおこぼれを渡すのも忘れない。
捕食による経験値が下がった代わりに、多少怪我をするかもしれない、というような獲物相手にも戦うようになったので、むしろ前より経験値が溜まっている気がする。
うまくいけば、明日にはレベル3になれるかもしれない。
え? 今日はなれないのかって? 今日は眠たいから寝るよ。
自問自答をしていたら眠たくなっていたことに気付いたので、僕は寝ることにした。
ちなみに、最近の僕の寝る方法も工夫している。
適当に砂地を見つけると、泡を出して、そこに口を入れ、
「落穴!」
僕の身体がすっぽり入る大きな穴を作った。
かなり大きな穴だ。
「落穴!」
その下にさらに小さな穴を作る。
僕は大きな穴の中に入り、小さな穴にはボーちゃんが入る。
完全に塞いでボーちゃんが酸欠になったら困るので、ある程度穴には余裕を持たせている。
ちなみに、その穴には僕の排泄物も落ちるようになっていて、それらは漏れなくボーちゃんの餌になる。
眠っている時にトイレを済ませる癖ができてしまっているが、人間になるまでに治さないと、おねしょ癖があるように思われるな。
最近、食べることと寝ることが楽しみになってきている。
良眠のおかげだろう。夢もいい夢ばかりだ。
ちなみに、この日に見た夢は、生まれて初めて入った高級中華料理屋で、これまた生まれて初めてフカヒレの姿煮を食べるものだった。
……訂正する。僕の楽しみは食べることばかりのようだ。
鮫として生きているのにフカヒレを食べる夢を見るとは。
反省しなくては。
これだと僕が食べられる側じゃないか。
……でも、フカヒレ、おいしそうだったな。
……鮫狩り?
いやいやいや、鮫って怖いんじゃないの?
と思ったが、地球において最大とされるジンベイザメはプランクトンや小魚、海草くらいしか食べないし、実は人間を襲う鮫というのはとても少ないと聞く。
ならば、僕より強い鮫のほうが少ないのではないか?
そんなことを思ってしまう。
まぁ、平均的なジンベイサメより僕の方が大きいんだけどね。
わずかに、だけど。
でも、あくまでも鮫狩りも悪くないなって思うだけで、僕は意図的に獲物を狙うんじゃなく、索敵スキルを頼りに獲物を探しているからな。
偶然、今日見つけた獲物が鮫なんてことが――ってあれ?
索敵スキルに気配が……色は赤……ほぼ互角。というか、あれ……だよな?
【ブラックシャーク:HP300/300】
……僕と種族の同じ鮫がそこにいた。
なんだ、同じ種族なら争いになることは……あるよね。
むしろ、同じ種族だからこそあるのか。
縄張り争い。
だって、やる気満々でこちらに突撃してくるんだもん、あいつ。
こりゃ、本気で戦うしかないな。
大丈夫、僕にはあって、あいつにはないものが一つある。
それは、守るべきもの。
ボーちゃんを守るためにも、全力で戦ってやる。
待っていろ! フカヒレ!
絶対においしく召し上がってやるからな!
自分自身に尊敬語を使いながら、僕もまたブラックシャーク目掛けて泳いでいった。
明日は完全外勤なので、更新時間が18時前後からの開始になります。
ご了承ください。内勤なら仕事するふりして小説書けるのに。




