遺跡の先客
ノーチェの案内のもと、僕たちはその謎の洞窟のある場所へと向かった。
途中、深い谷があり、橋のようなものは見えない。
どうやって谷の向こう側に渡ったんだろう? と考えていた。
「この下です、ヴィンデさん」
この谷が目的地だったようだ。
「ノーチェ、この下まで降りたの?」
谷の深さは二十メートルくらいか。
僕の体はとても小さいので人間だったころよりもはるかに高く感じる。
「はい、蔦も丈夫ですし、このくらいならエルフなら誰でもできますよ」
ノーチェはそう言うと、木から伸びた緑色の蔦へと飛び移り、するすると谷の底へと降りていく。それはまるで空を飛んでいるかのようだった。
緑色の服を着ているせいか、その姿はまるで空想上の風の精霊シルフのようで。
そうか、ノーチェは精霊だったのか。可愛くて当然じゃないか。
と思うと、今度はリベルテが飛び降りた。
大きく空気を吸い込み、風船のように膨らむとフワフワと降りていった。
その姿は、とあるゲームに出てくるピンク色の妖精、カー○ィのようだ。
そうか、リベルテはカー○ィだったのか。あの食欲も当然じゃないか。
……リベルテの非常識さは今更なので、僕はもう気にせずに自分の翼を使ってゆっくり歩いていく。
空を飛んでいる僕が地味な存在みたいだな。
谷の底には光もあまり届いていない。暗いんだよな。
そして、そこに洞窟があった。
「確かに迷宮じゃないみたいだ」
僕はこれまで真迷宮と呼ばれるラビスシティーの迷宮と、あと他に二カ所の迷宮に行ったが、それらはどちらも明るかった。
だが、この洞窟は真っ暗で中の様子はわからない。
「明かり」
僕は魔法を唱えた。光る玉が浮かび上がる。
バイモンには一切効果がなかったこの魔法だけれども、明かりとしては十分に使える。
最初はただの洞窟だと思ったが、よく見ると入り口のところに何か文字のようなものが書いてある。
んー、共通言語ではないらしく、なんて書いてあるのかはまったくわからない。
索敵スキルには反応がないようだ。
「んー、ちょっと気になるね」
僕はそう呟くと、マッピングスキルを使用した。
すると、周辺の地形がわかった。
これは凄い。迷路になっている。天然の迷路じゃない、人を迷わせる目的で作っている迷路だ。
やはり、自然の洞窟じゃなく、これは遺跡のようだ。
そして、洞窟の名前も明らかになった。
「古の宝物庫か」」
「どうします?」
「……危険だと思う。宝物庫ってことは罠があるかもしれないし、第一、既に誰かが入ってお宝はないかもしれない。んー」
と僕は考え、そしてもう一つ、あれを使った。
「魂探知」
魔法を唱えると……あぁ、あったよ、反応が。
しかも三つも。
つまり、少なくとも宝はまだ残っているということだ。
「リベルテはここで見張りを頼んでいいか? 遺跡の中だとさすがに食べ物はないだろうからな」
僕がそう言うと、リベルテは大きく跳ねた。
「ノーチェも留守番を――」
「私も行きます」
「でも、何があるかわからないし――」
「ヴィンデさん。大丈夫ですよ。私だって自分の身は自分で守れます」
はぁ、こういう時のノーチェは言う事を聞いてくれないんだよね。
「わかったよ。うん、一緒に行こう」
こうして、僕たちはふたりで遺跡を探検することになった。
遺跡の中は特に罠もなく、お宝のようなものも見つからない。
魂探知の魔法でももっと奥の方で反応があったから仕方がないよね。
「こういう洞窟って、なんだかドキドキしますよね」
「だね。でも、不思議な感じだよね。こういう洞窟なら蝙蝠くらいいてもいいはずなのに」
「そうですね――それに通路も埃がひとつも落ちていません。もしかしたら誰かが住んでいるのかもしれませんね」
「いやいや、誰かいたら僕の索敵スキルに――ん」
何か嫌な予感がする。
索敵スキルに頼ってはいけない、そんなことを思ったことがあった。
そのことをあるやつに教わって、痛い目に遭った。
あれは一体――
そう思った時だ。
足音が近付いてくる。
そんなバカな、索敵スキルには反応は全くなかったのに。
いったい、どういうことだっ!?
そう思ったら、そいつは現れた。
「ん、妙なところに妙な組み合わせだな。エルフにドラゴンか。これはまた面白い」
黒いコートを着て不吉をその身にまとっているかのような男――二度と会いたく、いや、遭いたくないと思っていた。
なんで、こいつがこんなところにいるんだ――サイモンっ!
更新遅くなってすみません。
この物語の本編である『異世界でアイテムコレクター5巻(最終巻)』が12月22日に発売します。




