食糧難を防ぐために
暴れサボテンが全滅した。それにより、夜中だというのにお祭り騒ぎだった。特に突如として現れサボテンたちを食い散らかしたリベルテと、いつの間にかリベルテの主人扱いとなったノーチェは英雄扱いされ、僕だけは酷く疎外感を抱くことになった。
でも、そんな疎外感は一日でなくなった。
村の備蓄を使って開かれたささやかなパーティの料理のほとんどをリベルテが食べてしまったのだ。リベルテの宝石吐きというスキルはON/OFFの切り替えができるようで、僕が宝石を出すなって命令したら宝石を吐き出すことはなかった。
村人が懇願し、俺とノーチェが必死に止めた結果、リベルテは暴食を止めてくれた。
そして翌日。
僕とノーチェとリベルテはズバリエ村の雑貨屋にいってリベルテが吐き出した宝石二十粒を五十歳くらいの商人のおじさんに見てもらった。
この町の近くには昔、宝石の原石が採れる鉱山があったそうだ。今は廃坑となっているそうだが、店主はその時とった杵柄というか、宝石を見る目があるそうだ。
「これは見事な宝石ですね。加工はしていないようですが、純度が高い」
どうやら、リベルテが吐き出した宝石は、本物の宝石だったようだ。もしかしたらイミテーションかもと思っていたけれど、僕の鑑定スキルでもこれはルビー原石とはっきり表記されていたから、今日調べて貰ったのは念のためなんだけどね。
「どうでしょう? ひとつ銀貨五枚で買い取りますが……ただ、私どもの商店では十粒までの買い取りが限度ですが」
「銀貨五枚ですか。あの、これよかったら村の復興にお使いください」
「そんな――ノーチェさんは村の英雄です。お礼をすることこそあっても、頂くことなど」
「あの……昨日のパーティでリベルテさんが食べ過ぎたせいで冬を越すために村の馬を三頭ほど売らないといけないと風の噂で聞いたんですが」
それを聞いたのはノーチェじゃなくて僕なんだけどね。
『お前の相棒のスライム、よく食ったよな。お陰で馬を三頭程売らないと冬を越せないよ』
僕に愚痴を零していた。魔物だから人間の言葉はわからないと思ったのだろう。
まぁ、実際にリベルテが食べ過ぎなくても、馬の二頭は売らないといけなかったそうだが。
そんなこと聞いて、はいそうですかと言って引き下がれる程、僕は人を見捨てられる人間じゃないし、なによりノーチェがあとからそのことを知ったら絶対に落ち込むに決まっているからな。
「あの、商人さん。お願いがあるんです。この宝石をお譲りいたしますが、このことは内緒にしてください」
「内緒、どうして――」
「商人さんの仰る通り、私がこの宝石を渡したら恩を感じる人がいるでしょう。でも、それだけではありません。もしかしたら、普通の旅人がこんな親切にしてくれるわけがない。何か裏があるんじゃないかと私を疑う人がいるかもしれません」
「そんな、ノーチェさんを疑うだなんて――」
商人はそんなことないと言おうとしたが、しかし彼は言葉を続けることができなかった。
商人という仕事をしていると、いろいろな人と接することがある。人の嫌な面も見てきたのだろう。
「わかってくださいましたね。それで、この宝石は商人さんがこっそりと食糧に変えてください。えっと、私はウソを考えるのが苦手なので、言い訳は商人さんが考えてください」
ノーチェはそう言って宝石を残して去ろうとする。
商人の男がそのノーチェを呼び止める。
「あの、ノーチェさんはこの宝石を私が持ち逃げするとは考えないのですか?」
すると、ノーチェは困ったような笑顔で答えた。
「すみません、考えていませんでした」
※※※
そして、僕たちは逃げるように村を出た。
できることならば、大きな町に行きたいんだけれども、この様子だとどこも食糧難かもしれない。
「すみません、ヴィンデさん。私のせいで――」
「ううん、ノーチェのせいじゃなくて、リベルテが食べ過ぎなんだよ。というわけで、ノーチェ。僕たちはこれから早急にしないといけないことがあるんだけど、わかるかな?」
「はい、急いでメイベルの手紙を届けるんですね」
「違うんだ。魔物を探して狩らないといけない。できることなら飛び切り大きな魔物を――」
「え? どうしてです?」
「さて、問題です。食料はアイテムバッグのなかに十分入っていますが、それでも一ヶ月分くらいです」
「え……はい」
「リベルテは僕たちの十倍のご飯を食べます。さて、何日食料が持つでしょう?」
そう言われ、ノーチェは考えた。
単純な算数だ。
「四日ですか?」
「そう、四日なんだよ」
正確には三日弱なんだけど、そのくらいは誤差の範囲だ。
僕はテストの教官じゃないから、ノーチェが四日と言えば四日で正解だ。
「この時期、どこもかしこも食糧難が予測される。だから、まずは魔物を見つけて狩って、リベルテの食料を確保したい。リベルテもそれでいいな?」
僕が尋ねると、リベルテは自分がご飯を食べられる話だとわかり元気よく飛び跳ねた。
さて、久しぶりに外での狩りの時間だ。




