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舞い降りた勇者

 婚約式前日。

 ノーチェは婚約式の打ち合わせがあるということで、メイベルのところに行った。


 ちなみに、メイベルとは僕も何度か会っていて、脱皮した僕の鱗の売却も済ませている。

 その価格、金貨830枚と銀貨50枚。本当に、僕の苦労は何だったんだというくらい高値で売れた。

 僕の鱗の硬さも含め、体調は大分戻ってきていて、少しの時間なら飛べるようにもなった。

 といっても、本調子に戻るにはあと数日必要のようだ。

 たぶん、リバースを使ってもらえば鱗の再生も早まるんだろうけど、フリーマーケットの元オーナーさんから貰った、例の杖の説明を聞いて、僕はあの杖の封印を決意した。


……………………………………………………

吸魔の魔杖(強化版)【魔法杖】 レア:★×9


己の力以上の魔法を使うことができる杖。

代償として使用した魔法のMPと同等のMPを吸いとられる。

……………………………………………………


 これを読んでわかったのは、恐らくノーチェは蘇生リザレクションを使うだけのMPはあったのだろうが、杖に吸いとられる分のMPは足らなかったのだろう。

 そして、杖に吸いとられる分のMPは、現在MPに関係なくMPを吸う。

 その結果、MPがマイナスという異常な結果を引き起こしたのだろう。

 と、元オーナーさんからメイベル経由で説明を受けた。

 その元オーナーさんが、この杖を金貨2000枚で売ってくれないかとメイベル経由で頼まれたけど、それも丁重にお断りした。

 いや、本当にどれだけお金を持っているんだろうか、その元オーナーさん。

 金貨2000枚って、一生遊んで暮らせるお金だし、僕は売ってもいいと思ったんだけど、ノーチェが、


「今は売らないでください」


 と頼んできたので、アイテムBOXに保存してある。

 杖の話は脇におき、さて、今日の本題に移るとしますか。

 ずばり、婚約指輪の購入。


 どうせあいつのことだ。僕の行動は監視しているんだろうが、出て来い!

 僕が買い物スキルを発動しようとした……その時だった。


「ヴィンデさん、いますか!?」


 部屋をノックし、聞こえてきたのはメイベルの声だった。

 おかしいな、ノーチェと一緒にいるはずなのに。


「鍵開いてるよ。どうしたの?」


 僕が言うと、メイベルが扉を開けた。息遣いが荒い。全力で走って来たのだろう。


「ノーチェさん、いますか?」

「ノーチェはメイベルのところに行くって1時間くらい前に出ていったけど……どうかしたの?」

「ノーチェさんらしき人が男の人と一緒に迷宮10階層への転移陣の中に入っていくのを見たっていう人がいるんです」

「え!?」


 ノーチェが男と迷宮に!?

 それって……


「男のひとは剣を抜き身で持っていて、ちょっとおかしな空気だったから、ノーチェさんと同じエルフである私に連絡が来たんですけど……」

「男の特徴、もう少し詳しくわかる!?」

「はい、えっとですね――」


 メイベルは焦りながらもきっちり話を聞いてくれていた。

 その情報を纏めると――


「……間違いない、あの時のスパイダーハンターたちだ」

「スパイダーハンターって、ノーチェさんが9階層で助けたという?」

「うん……」

「でも、どうしてノーチェさんを連れて迷宮の中へ。お金が目当てなら――」

「十階層に魔蜘蛛が出入りしている謎の迷宮をあの日発見したんだ。スパイダーハンターはそこの蜘蛛を一掃しようとしているんだと思う。でも、魔蜘蛛の糸の毒は強力だから、回復魔法を使えるノーチェが必要だった……とか」


 わからない。けれど。


「ありがとう、早速行ってくる!」

「待ってください! 迷宮の十階層より先は立ち入り禁止です。スパイダーハンターの人たちがどうやって迷宮に入ったのかはわかりませんが、ヴィンデさんだけ行っても入れません」

「大丈夫、僕には認識阻害があるから、こっそり入ればみつからない」


 そう言って、僕は二階の窓から飛び出し――滑空して迷宮の入り口へと向かった。


   ※※※


 迷宮への転移陣を潜ると、十階層にたどり着いた。

 本来なら目の前の階段を登らないといけないんだけど、認識阻害のスキルを使い、十階層を調べる。

 九階層のマップと照らし合わせ、目的となる場所を見つけなければいけない。


 足音で気付かれてはいけないので、空を飛んで進む。

 真っ直ぐ辿りつけるかと思ったのだけれど、意外と十階層も入り組んでいてなかなかたどり着けない。

 それに、ギルド職員の巡回も厄介だ。


 今も真正面からギルド職員が歩いてきている。いくら認識阻害があるとはいえ、目の前を横切ると気付かれる恐れもあるから、僕は引き返そうとし――


 ――翼が止まった。


(しまっ――)


 全てが手遅れだった。

 軟着陸を使って受け身を取ったけれど、小さいとはいえ僕が地面に落ちる音は、認識阻害のスキルを打ち破るのには十分だった。


「ドラゴン!? いったいどこから!?」


 驚き警戒するギルド職員の男だったが、僕が首輪をしているのを見て、少し安堵したようだ。


「おーい、みんな、大変だ! 十階層に魔物が現れた! 首輪をしているから従魔だ」


 その男の言葉で何人かの職員が集まってきた。


「……いったい誰の従魔だ?」

「近くに主人がいるのかもしれん。誰か見たか?」

「とりあえずこの竜は連れていくか。従魔で子供とはいえドラゴンだ。誰か、捕獲網持ってこい」


 僕を遠巻きに囲む職員たち。

 翼が動かないか確認するが、痺れているように動かない。


 走り抜ける――いや、まずはスモークを出してから。

 ここから逃げ出す算段をしていたときだった。


「申し訳ありません。その竜は私の従魔です」


 突如現れたその女性は、そんな嘘を言った。

 金色の長い髪、白く光る鎧、凛とした佇まいの女性。

 年齢はノーチェとそう変わらないと思うのに、傍にいるだけで、圧倒的な力を感じる。


 ギルド職員は彼女を見ると、敬礼し、


「そうですか、貴女様の竜でしたか」

「迷宮の中ですから強くは言いませんが、従魔とはできるだけ一緒にいらしてください――」


 そう注意を促すギルド職員は、彼女の名前を告げた。


「勇者クリスティーナ様」

謎の新キャラ登場。

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