ギルド受け付けの脱皮術
「脱皮? 脱皮って……抜け殻」
「あの、抜け殻に綿を詰めたらヴィンデさんのぬいぐるみができたりするんですかね?」
ノーチェがわくわくした感じで言う。
脱皮をしないといけないだけと知り、緊張の糸が切れたのだろう。
ノーチェがそんなことを言ってくれた。
それって、僕の姿のぬいぐるみを抱きしめたいってことかな。それなら嬉しいんだけど、抱きしめるのならいつでも僕を抱きしめてくれたらいいのにね。
そして、僕たちは個室へと案内される。
「……えっと、僕、蛇の抜け殻とか知識としてあるけど、あれって表面の部分が取れるだけで、ぬいぐるみはできないんじゃないかな?」
受け付けのお姉さんは僕に対して念話で語りかけて来たので、もう喋ることができることを隠すつもりはない。
「そうですね、竜の脱皮は抜け殻といっても蛇や蟹みたいな綺麗なものではありません。表面の鱗が一度にボロボロと落ちるだけですから」
受け付けのお姉さんが説明をした。
「……えっと、それで脱皮ってどうやればいいんでしょうか? 自分でもどうやればいいのか……」
「鱗の内側の皮膚がまだ死んでいないので癒着が強いです。このままだと脱皮は無理ですね。このままだと確実に脱皮不全で死にます」
「うっ……そういえば飼ってるザリガニも脱皮の時に死ぬことが多かった記憶が……あったりなかったり」
記憶喪失なのでそのあたりは曖昧だ。僕がザリガニを飼っていたのか、それとも本で読んだだけなのかはわからないが。
「竜がザリガニを飼うというのも妙な話ですね。まぁ、脱皮だけならなんとかなります。ノーチェさん、後ろを向いてください」
「わかりました」
ノーチェが後ろを向く。
「ヴィンデさんは目を閉じてください」
僕は言われた通りに目を閉じた。
「私がいいと言うまで目を開いたらダメですよ。動いてもダメです。動いたら死ぬと思ってください」
「……え?」
「あ、もういいですよ。ノーチェさんもこちらを見て下さって構いません」
僕はそう言われ、目を開けた。
そして、僕が見たのは、
「そ……それ」
「見たことがありませんか?」
「いや、見たことはあるけれど、剣ですよね」
そう、お姉さんは剣を抜き身で持っていた。
「その剣で何をするんですか?」
「何もしません。もう済みました」
「……え?」
そう言われ、僕は気付いた。先ほどまでの痛みが完全に消え失せている。
そして、足元には僕の鱗が大量に落ちていた。
もしかして、僕が目をつぶっている一瞬のうちに、鱗と皮膚を切り落としたのか?
そして、僕の体には小さな鱗がすでに生えていた。しかし、先ほどまでと違って大分と柔らかい。プニプニしていて防御力も低そうだ。
「手足にまだ残っていますが、ここまでばらしてしまえば、あと数日で全て剥がれ落ちるでしょう。脱皮後は体力が落ちるので戦闘は控えてください。流石は子供とはいえブラックドラゴンの鱗ですね。少し刃こぼれしてしまいました。修理代として、鱗を3枚ほどいただきますね」
「あ、鱗なら別に……これって高いんですか?」
「そうですね。ブラックドラゴンの鱗、しかもこの強度なら、3枚でも十分な剣の修繕費になります。落ちている残りの鱗を集めれば、金貨500枚にはなるのではないでしょうか?」
「……本当に?」
「ドラゴンの素材というものは貴重ですからね」
うわぁ、凄いな。所持金金貨500枚、そしてこの鱗で金貨500枚、合わせて金貨1000枚で目標達成じゃないか。
「ありがとうございます、お姉さん。助かりました」
「いえ、ギルド員の方のフォローが私たちの仕事ですから」
彼女は頭を下げ、僕たちを見送ってくれた。
怖いけどいい人だな。
でも、あの一瞬で僕の体の表面だけを切り裂く技術と力。絶対に敵に回したらいけない人だと、僕は再認識したのだった。
※※※
脱皮の結果、僕にはふたつの変化が起きていた。
まず、防御力。なんと半分以下にまで下がってしまった。日に1割ほど回復しているので、10日もすれば完全に防御は元に戻るだろう。
それと、上手に飛べなくなっていた。翼が上手に動かない。これも日に日に動くようになっているので、同じく10日後には飛べるように戻っていると思う。
そして、翌日には、足の先に残っていた鱗も綺麗に落ちた。その結果、
【称号:脱皮の体を予約取得した】
【スキル:柔らかい体】
と、称号とスキルを手に入れた。
柔らかい体は、普通に間接がよく曲がるようになるスキル。ヨガとかしやすくなるね。
とにかく、こんな体のため、迷宮探索は行わないことにした。
まずはこの鱗を全部売ってお金に換えて、ゲノムから指輪を買わないとね。




